第十一回

タミーと謎の男との出会い.そして悲しい別れ.
ヤミの談合ナマ中継

脚本:鴨井達比古 監督:小西通雄

ある夜.男が通りを歩いていると,車が追いかけてくる気配がした. 慌てて男は車を巻いて,esquire club にいる男に電話した.だが電話した男, 中本は突如現れた二人組の男に鉄パイプで滅多打ちにされてしまった. esquire club に来た客がその事件のことを話していた.客の話を聞いて, 電話を受けた男は顔面蒼白になった.そこへ別の男(宮内洋)がやってきた. その男はきざな仕草でタバコに火をつけると電話を受けた男を睨みつけた. タミーは電話を受けた男に声をかけた.
タミー「お連れ様,遅いですわねえ.」
電話を受けた男「あのう,トイレへ.」
タミーは電話を受けた男をトイレへ案内した.
電話を受けた男「お嬢さん,これ明日まで預かってください.お願いします.」
電話を受けた男はタミーに手帳を預けた.
電話を受けた男「明日,必ず取りにきます.失礼だけど,お願いします.」
その様子をあのきざな男も見ていた.そして電話を受けた男は吊るされて, 二人組の男に拷問を受けていた.だが男は何も吐かずに死んでしまった.

今週のよね子

次の日.寝ているタミーのところへ電話がかかってきた.
タミー「もしもし.」
オショウ「タミーか.いつまで寝てんだよ.もう昼だぞ.」
タミー「なあんだ,オショウか.いい夢見てたのにー.」
オショウ「なーにを言ってるんだ. 俺なんか毎朝6時に起きて朝の勤行だぞ.」
オショウはチーンと鐘を鳴らした.
タミー「何よ.色気のない音させないでよ.」
オショウは大笑い.
オショウ「ありがたい響きがしただろう.おい,タミー.今夜夜中0時.集合だ. あいよ.」
オショウは電話を切った.オショウがお供えの饅頭を口に入れた途端に
よね子「和尚様.おはようございます.」
オショウはのどを詰まらせてしまった.
よね子「お待ちどう様.さ,参りましょう.」
よね子はあの年で花柄のミニスカートをはき,半袖のピンクのブラウスを着て, 白いキャップをかぶっていた.
オショウ「参りましょうって,どこへ?」
よね子「あらあ,何ですの,その顔. ゴルフに行こうって約束したじゃありませんの.」
オショウは怪訝な顔.
オショウ「約束しましたかねえ.」
よね子「ねえ,和尚様.ホテルもちゃんととってありますのよ.」
それを聞いてオショウは驚いた.
オショウ「ホテルって,泊まるんですか?」
よね子「当たり前じゃありませんのー.」
オショウ「いや,今日はねえ,夜ねえ,約束があるんです.」
それを聞いたよね子は逆上した.
よね子「悔しい.」
よね子はオショウの頬をつねった.

その他のメンバー

マイトがテニスをしていると,野球のボールが飛んできた. マイトがボールを拾うと,ボールには「今夜0時集合」と書かれていた. すると,ボールとって,という子供達の声が聞こえてきた. ボールは子供達と野球をしていたデジコンが投げ込んできたものだった.

タミーは昨日手帳を預けた男,すなわち赤坂の料亭後楽の従業員安原君雄60歳が 死んだことをテレビのニュースで知った.タミーは昨日のことを思い出し, 手帳を見た.手帳にはどの部屋に誰がいつ何時に来たのかが書かれていた. 早速タミーは路上で瞑想しているヨガのところへやってきた. タミーは瞑想しているヨガの前を通り過ぎただけだったが
ヨガ「ミモザの香.」
ヨガはタミーが来たことを知った.
タミー「あ,行き過ぎるところだった.ゴッドの部屋,今夜0時集合.」
ヨガは目を開け
ヨガ「Ok!」

そしてタミーはその足で安原の家に向かい,線香をあげた. 安原の家を出たタミーにあのきざな男が声をかけてきた. 男は黒と白の縞のスーツを着てサングラスをかけていた.
男「お嬢さん.以前,お会いしましたね.どなたでしたっけ?」
タミー「桑野と言います.」
男「桑野さん.」
タミーはうなずいた.
男「人違いか.失礼.」
タミーは立ち去ろうとしたが…
男「あ,あの.」
タミーは振り返った.
男「あなた,さっきタクシーを返しちゃったでしょう.」
タミー「ええ.」
男「この辺りは拾えないんですよ.空車が.」
タミー「そうなんですか?」
男「よろしかったら,乗っていきませんか.都心のほうへ向かいます.」
タミーはしばらく考えて
タミー「それじゃあ,お願いしようかなあ.」
車の中で
タミー「安原さんに借金を?」
男「ああ.借りたのが若い頃だったから金額は大したことないがね. 結局,返さずじまいさ.俺の親父は安原さんとは戦友だった.」
タミー「戦友?」
男「そう.ガダルカナルの生き残りさ.俺の親父は終戦10年目で死んじまったが, 安原さんは一時商売に成功してね.俺が金を借りた頃は大変な羽振りだったよ.」
タミー「だったらどうして料亭の下足番なんかに?」
男「ま,商売は成功したんだが,友達に騙されて倒産したらしい.」

その晩.男は電話で誰かと話していた.男の名前は矢沢だった. 電話の相手は手帳のことを確認した.矢沢は相手が安原を殺したことをなじり, 今度北島や村田が勝手なことをしたら降りると言っていた.

仕事開始

オショウがゴッドの指令を説明する.
オショウ「東南アジアへ出張中のゴッドから指令が出た.」
デジコンがコンピュータの画面を読み上げた.
デジコン「指令1.安原メモの抹殺計画を阻止し,メモの公表を図れ.指令2. そのためにまずターゲットを突き止め,その正体を暴け.以上.」
マイト「安原メモ?」
以下,デジコンがスライドを映しながら,オショウが説明した.
オショウ「これは赤坂の高級料亭後楽だ.政界財界の大物が多く利用する. この男は安原君雄60歳.この後楽で過去10年間下足番をやってた. ところがこの安原は今朝早く他殺死体で発見された.」
デジコン「安原メモって言うのは?」
オショウ「ああ. この安原は下足番をやりながら店へ出る人と客の名前を克明にメモしていた. このメモを中本三郎と言うジャーナリストを通して, 最近公開しようとしていた.これが中本三郎.なかなか腕扱きのトップ屋だ. デジコン,サンキュー.この中本も安原が殺される数時間前, 何者かに襲われて大怪我をして病院へ運ばれた.意識はまだ回復していない. タミー,お前さん,安原のお通夜に顔を出したそうだなあ.どういうわけなんだ? 説明してもらおうか.」
タミーが答えた.
タミー「これが安原メモよ.」
タミーは安原から預かったメモ帳,すなわち安原メモをテーブルに置いた. 全員がタミーを見た.
タミー「昨夜,妙なことから私の手に渡されたの.安原本人から. まさかゴッドの仕事につながるなんて思わなかったわ.」
マイト「安原は何か不安に襲われ,タミーに手帳を預けた.」
全員,タミーの元に集まった.
タミー「中本さんはね,うちの店にも何度か来た事がある人なの.」
ヨガが安原メモを取り,デジコンに投げ渡した. デジコンは安原メモをめくってみた.
マイト「つまり二人はタミーの店で会う約束をしてたってわけだ.」
タミー「多分.」
デジコン「しかし,こいつは凄いな.政治家,財界人,高級官僚,有名女優. あっと驚くような名前が一杯だ.」
オショウ「だからこそ,この中の誰かが安原を殺しても, この手帳を手に入れたかった.しかし失敗した.」
マイト「犯人達は今頃,この手帳を必死になって探してるだろなあ.」
デジコン「しかしターゲットを突き止めるといっても, この膨大な登場人物のなかからどうやって?」
オショウ「いや,それに関しては近いうちにゴッドから, もうちょっと具体的な資料が届くことになっている.」
そのとき,タミーがデジコンに一枚の写真を渡した.
タミー「この男を調べて欲しいの.」
デジコン「矢沢?」

次の日,安原の告別式が行なわれた.ヨガにタミーは, 安原の娘を見張って安原メモを狙う連中から守って欲しい, と頼んでいた.その頃,オショウは京都の大僧正に化けて後楽へやってきた.
仲居「お連れ様がお見えになりました.」
オショウ「ああ,左様か.どうぞ.」
やってきたのはマイトだった.
オショウ「ああ,日下部はん,えろうおそうおましたなあ.」
マイト「どうさい先生,遠いところをわざわざお運びいただきまして…」
オショウ「いやいや.坊主もたまには息抜きが必要やさけえ.」
仲居が襖を閉めた.
マイト「さすがはオショウ,役者じゃのう.その衣装着たら, 本物の大僧正に見えるぜ.」
オショウは大喜び.
オショウ「変装はまかしといてよ.ところで,ゴッドの新しい資料持ってきたか?」
マイト「うん.これだよ.」
マイトは写真を何枚か出した.
マイト「安原メモが公表されると絶対に困ると言う人物達だ.まずはねえ, これだよ.」
オショウは写真を見た.
マイト「与党の影の幹事長と言われる宮下代議士と労働界の大立者吉鶴ふみお. 今年の春闘,スト無しで終結させた立役者だ. 次は東和デパートチェーンの若御曹司津村せいじと浅川千春. 週刊誌とテレビのレポーターが泣いて喜ぶ組み合わせだ. そしてこれは一年前クーデターで政権を握った, 東南アジア某国の副首相とアジア通商社長の海藤隆三(菅貫太郎).次がー, 日本最大のフィクサーと呼ばれる森村かんじとアメリカの自動車産業の大ボス, フィリップ・ハーロー.ハーローが来日してるなんてどの新聞にも出てない. さすがは安原メモ.詳しく書いてある.」
突然,襖が開いて外国人が入ってきた.
外国人「Oh, I am sorry. I made a mistake.」
外国人は襖を閉めて去って行った.
マイト「今の男,ハーローだ.」
マイトとオショウはハーローを覗きこんだ.
オショウ「なるほど,日米貿易の摩擦にも裏がありそうだなあ.」
この頃はアメリカが日本車の輸出攻勢に悩んでいた頃で, アメリカ政府が日本にいろいろと要求していた. オショウとマイトは自室に戻った.
オショウ「まったく驚いたぜ.事実は小説よりも奇なりだよ.」
マイト「この料亭はさしずめ鬼の棲家ってわけだなあ.」
そこへ女将(上月佐知子)が「おじゃま致します.」と言ってやってきた. 慌ててオショウとマイトは元の位置に戻った.
オショウ「どうぞ.」
女将「いらっしゃいませ.ようこそ, お運びくださいましてありがとうございます.当家の主人, 松本菊江でございます.お見知りおきを.」
オショウ「ああ,さようか.」
マイト「これはどうも,ご丁寧に. 産業省の島田さんから是非お宅を使ってくれと言われましてねえ.」
女将「恐れ入ります.島田様には随分お世話になっているのですよ.」
マイト「ご紹介いたしましょう. 京都大本山りゅうしょう寺館長辻野りょうさい先生でございます.」
女将は深々と頭を下げた.
オショウ「よろしゅうに.」
女将「ありがとうございます.これを御縁にどうぞ御贔屓に. 赤坂で一番の売れっ妓というご注文でございましたから, 雪路さんを呼んでございますのよ.雪路さん.」
マイトもパンパンと手を叩いた.
雪路「雪路でございます.」
芸者さんの登場にオショウは(任務を忘れて?)大喜び.
オショウ「これはまた別嬪さんや.こっちきなはれ,こっちきなはれ.」
マイト「どうぞ,こちらへ.」
雪路「失礼致します.」
雪路はオショウの横に座った.
オショウ「いやあ,こりゃ別嬪さんや.」
雪路「ま,お一つ.」
オショウは雪路の酌で酒を飲んだ.
オショウ「これはおおきに,おおきに.」
思わずオショウは雪路の手を握ってしまった.
オショウ「たまんないな,うち.たまんないな,うち.」

esquire club でデジコンはタミーに矢沢に関する調査の結果を報告した. これといっておかしな点はない.ただ探偵事務所をやっているが, 開店休業の状態で何をやっているのか不思議と言えば不思議だった. 安原と矢沢に接点はみつからなかった.そこへ矢沢がやってきた.
矢沢「やあ.」
タミー「いらっしゃいませ.お見えになるような気がしましたわ.」

その頃,海藤は後楽の女将からマイト達の話を聞いて怪訝な顔. 産業省の島田は10日前からアメリカへ行っていたのだ. 局長秘書の国友から電話があったと女将が言うと, 海藤は国友も一緒にアメリカへ行っていると応えた. マイトは関東重工の日下部と名乗って後楽へ現れたのだ. 海藤の秘書は早速調べてみることにした.その頃, マイトとオショウは雪路から女将と海藤のことを聞いていた. 女将の今の旦那は海藤なのだ. マイトがお金を雪路に握らせたところへ女将が登場. マイト達が偽者だとばれてしまったのだ.

安原の娘は位牌に手を合わせていた.
安原の娘「父さん,もう少し待ってて. 北海道の母さんのお墓へ連れてってあげるからね.」
安原の娘は感極まって泣き出してしまった.そこへ二人組の暴漢が現れ, 安原の娘を気絶させた.暴漢は安原の家を家捜しするが, 安原メモは見つからない.そこへヨガが登場.暴漢を叩きのめしてしまった.

さて雪路が近藤昌彦の「ギンギラギンにさりげなく」を歌いながら 自宅のマンションに帰ってくるとベッドにマイトが横たわっていた.
マイト「疲れてないねえ.でもお疲れよ.愛を確かめ合うために.」
雪路は口をあんぐりしてしまった.
雪路「あんた,どうして.どうして入ったのよ.何しに来たの. 110番するからあ.」
マイトは開き直った.
マイト「頼むから110番してくれ.警察の銃弾に撃たれたい.」
マイトは雪路に迫った.
マイト「天国に行かせて貰うぜ.」

その頃,タミーは矢沢の車の中にいた.
矢沢「働いてお金を貯めるって言ってたね.」
タミー「うん.」
矢沢「もしも,もしもだよ.今,1千万手に入ったらどうする?」
タミー「1千万? どうしてそんなこと言うの?」
矢沢「いやいあ.君に1千万払ってもいいって言う奴がいるかもしれない.」
タミー「あたしの何に1千万? この魅力的な体?」
二人は笑った. 「暴れん坊将軍」のお庭番時代のことを思い出したかどうかは定かではない.

さてマイトは雪路をまんまとたらしこんでしまった. ベッドの中で雪路はマイトにもたれていた.
マイト「愛することは難しい.愛されることも難しい.ショパン.」
雪路「抱いて頂戴,抱かれたい.時には娼婦のようにいたい.」
雪路はどこかで聞いたことのあるような一節を呟いた.
雪路「ねえ,あなた本当は何屋さん? トップ屋さん? それとも詐欺師?」
マイト「洒落は好きだが騙すのは嫌いだ.さっきの話,本当か?」
雪路「なあに?」
マイト「海藤社長が安原を首にしろって言ったのは.」
雪路「ホントよ.私,ばっちり聞いたんだからあ.」
マイト「ホントかい?」
雪路「うん.」

ついにタミーは矢沢の車の中で一夜を明かしてしまった. 矢沢の車は岸壁に止まっていた.
タミー「朝の海っていいわねえ.何年ぶりだろう.ここへ来たの.」
矢沢「昔,恋人と来たのかい?」
タミーは答えなかった.二人はしばらく無言だった. 矢沢がキスしようとするとタミーが制止した.
タミー「話の続きをしない?」
矢沢「話?」
タミー「1千万の話.」
二人は自動車のドアを開けて外へ出た.
タミー「1億なら考えてもいいわ.」
矢沢「どういうことだ.」
タミー「それくらいの値段をつけても買う人がいるんじゃない.あの手帳.」
矢沢「手帳?」
タミー「あら,その話をしてたんじゃないの? 安原さんのお通夜の時,あなた, あんな風に声をかけてきたけど,その前の晩に来たじゃない,お店に.」
矢沢「何を言いたいんだ.」
タミー「安原さんの戦友に矢沢って人間はいないそうよ.」
矢沢「ほう.よく調べたな.君はいったい何者なんだ.」
タミー「ただのバニーガールよ.あなたこそ,いったい何者なの?」
矢沢「ただの探偵さ.」
タミー「一つだけ本当のこと言って.安原さんを殺したのは,あなた?」
矢沢「違う.これは本当だ.」
タミー「じゃあ,安原さんの娘さんを襲ったのは?」
矢沢「俺じゃない.ちっきしょう,勝手な真似しやがって.」
タミー「でも無駄だったようね.」

アジア通商本社前で海藤が記者の質問攻めにあっていた. ゴッドのオフィスでオショウが話す.
オショウ「実はゴッドがなあ,我々の中間報告を受けて, 敵に揺さぶりをかけるらしいんだ.」
デジコン「揺さぶり?」
オショウ「ああ.よくはわからんが, 野党側の資料流して国会で一騒ぎ起こすらしいんだ.」
デジコン「なあるほど.ターゲットの反応を見ようってわけか.」
ヨガが朝日新聞を読んだ.
ヨガ「イスメニア共和国の地下鉄建設計画は, 一年前に同国でクーデターによる新政府が発足した直後に発表され,以来, 日本の大手商社はその工事受注を巡って暗闘を繰り返している. 最後まで争ってきたのが東和物産とアジア通商の二社だと言われている. イスメニア政府高官に対して激しい抱き込み工作が行なわれた, と言う噂が一部にあるが,最終的な結論はまだ発表されていない.」
デジコン「総工費5千億以上の大工事となれば, 受注のために何が行なわれようと不思議じゃないなあ.」
マイト「安原メモは裏工作の一端に触れてしまったわけだ.」
オショウ「ちょっと,これ見てもらおう.北島豊35歳.村田英二30歳. 安原のうちへ手帳探しに行った二人組だ.二人とも前科者で解散した 暴力団東名会の元幹部だ.今ではアジア通商のお抱え総会屋.」
デジコン「安原メモに,アジア通商の海藤社長が, イスメニア共和国副首相のヌルデカ将軍と会ったと言う記録が3回ある.」
マイト「よーし,ターゲットは決まったなあ.」
デジコン「イスメニア大使館では副首相が来日したことは一度もないと 言っている.つまり,アジア通商の招待でお忍びで来日したってことだ.」
マイト「東南アジアの高官がよく使う手だ.」
オショウ「ますますターゲットは絞れてきたなあ.」
デジコン「さてタミー,君のボーイフレンドの矢沢孝太郎だけどねえ, いくら調べてもそういう名前の人間はこの日本には存在しないんだ.」
驚くタミー.
デジコン「ただこういう記録がある. 約1年前,成田空港の入管が偽造パスポートを使って入国したと見られる 自称矢沢孝太郎なる人物を入国管理法違反容疑で手配している.」
タミー「ヨガ,安原さんの娘さんは大丈夫だったの?」
ヨガ「いや.元々弱かった心臓にかなりこたえたらしくてね,入院してるよ.」
タミー「そう.」
ヨガ「彼女,警察には何も言ってないが,薄々感づいてるようだ. 自分を襲ったのがただの押し込み強盗じゃないってことにね.」
マイト「メモのことは知ってるのか?」
ヨガ「いや.だが安原は酒を飲んだとき言ってたそうだ. 金と権力を握っている連中はみんな裏で汚いことをやっている. いつか必ず全国民に報せてやるってね.」
マイト「どうします,矢沢って男を.」
タミー「どう転ぶか,少しだけ待ってくれる. もしかしたら,海藤の尻尾を一気につかむきっかけができるかもしれないわ.」

海藤は矢沢から1億のことを聞いて驚いた.矢沢は安原を殺したことと 安原の娘をたてに矢沢のやり方を通してもらおうとねじこんでいた. そして矢沢の車の中で
矢沢「なあ,タミー.」
タミー「何?」
矢沢「金が手に入ったら,俺と出かけないか.」
タミー「どこへ?」
矢沢「どこでもいい.海の向こうさ.」
タミー「パスポートは持ってるの?」
矢沢「そんなものはいくらでもあるさ.」
タミー「いいわねえ.どこへ行こうか.」
矢沢「とりあえずパリまでの切符ならある.あとは向こうで考えるさ.」
タミーはタバコを吸う矢沢を見つめた.
矢沢「時間だ.」
タミーは矢沢に安原メモを渡した.
矢沢「1億か.」
タミー「なぜ私の話に乗ったの?」
矢沢「さあな.」
その時,車が近づいてきた. 北島と村田が乗った車だ.車が合図を送ったので矢沢は車を降りた. そして降りてきた北島にちかづいた.
北島「手帳は?」
矢沢「金は?」
北島「持って来た.」
矢沢「投げろ.」
矢沢はタミーの乗る車を指差した.だが北島は投げなかった. 村田が矢沢を拳銃で撃った.そして矢沢は北島と村田に撃ち殺されてしまった. 北島達が安原メモを取ろうとした瞬間にバイクに乗ったヨガが登場. ヨガはバイクを操り,北島達を撃退した.タミーは倒れている矢沢に近づいた.
タミー「矢沢さん.」
矢沢は目を開けた.
矢沢「一緒に向こうへ行きたかったぜ.」
矢沢はそう言って事切れた.タミーは安原メモを握り締めた.

安原の娘恵子が入院する病院に花束が届けられた. 看護婦が恵子の元に花束を届け,明日は退院していいと告げた. その花束のなかにはメッセージが入っていた.それは桃色の封筒に入っていて, 赤いキスマークがされた黄色い紙が壁に留められた様子が描かれたシールで, 封をされた手紙,すなわち,タミーからのハンギングパーティの案内状だった. 恵子は案内状を読んだ.
タミーの声「恵子さん.お父さんが亡くなって,いろいろ大変だったでしょうね. でも,あなたは強く生きて欲しいのです.その為にも, あなたにプレゼントを贈ります.今日午後3時,下記の場所へ来て下さい. お父さんを殺した犯人達をお見せします.」
ハンギングパーティの場所は東京都新宿区新宿3丁目4-1 東口広場.

デジコンはテレックスを作っていた. そしてハングマンは表の仮面を脱ぎ捨ててハンギングに出動した.

ハンギング

アジア通商にテレックスが入った.イスメニア共和国で政変があったらしく, ヌルデカ副首相とその側近が憲兵隊に逮捕されたと言うのだ.海藤は驚いた. そこへイスメニア大使館の一等書記官から電話が入った. 今すぐ会いたいと言うのだ.さてイスメニア大使館(実は迎賓館)の前で, 軍服に身を固めたマイトとヨガが仰々しく行進して, 海藤と秘書(中村孝雄)を出迎えた.
マイト「エヘー,ヘビデ.」
マイトは適当なイスメニア語(?)を叫んで大袈裟に敬礼した. マイトはサングラスをしている.
海藤「海藤です.」
海藤とマイトは握手を交わした.
マイト「本国で重大事態が発生しました.」
海藤「その話ならたった今聞きました.副首相が失脚したと言うのは本当ですか?」
マイト「昨年のクーデターで外国に亡命したアミル将軍が現在東京に滞在中です. 今夜帰国し,新しい政府に入閣することになっておりますが, その前にあなたに是非,お目にかかりたいと申し上げております. いかがなさいます?」
海藤「会う.会わして下さい.」
マイト「将軍の所在地は極秘でございます.くれぐれもよろしく. あちらでございます.」
マイトは東都観光の観光バスを指差した.
マイト「将軍がお待ちです.どうぞ.」
マイトとヨガは大袈裟に行進.海藤達をバスに乗り込ませた.バスの中で, アミル将軍ことオショウがテレビニュースを見ていた.マイトが大袈裟に叫ぶ.
マイト「ハイヤー,ジェネラール,アミール,イエッサー.」
マイトの敬礼が終わるとオショウが振り返った. オショウはつけひげをつけており,無茶苦茶胡散臭い顔立ちだ. にも関わらず海藤はオショウに近づいた.
海藤「ジェネラル,アミール.アイム・グラッド・シー・ユー.」
海藤は「I'm glad to see you.」と言いたかったのだ.海藤は右手を出した.
オショウ「オウ,ドント,ウォーリー,ミスター,カイドウ. (外国語訛りで)ワッタシー,ワカイトキ,ニホンニリュウガクシマシタ. だから日本語,大丈夫.」
海藤「アー,ハー.」
オショウ「どうぞ.」
海藤は椅子に座った.
海藤「ところで将軍,私に何か?」
オショウ「あなたは私のクーデター,ご存知ですか?」
海藤「先程知りました.」
オショウ「実はヌルデカ副首相が逮捕されました.あなた,彼と, いろいろ約束ありましたね.」
海藤は秘書と顔を見合った.
オショウ「地下鉄の件です.」
オショウは笑った.
オショウ「心配いりません.私達もあなたの会社に地下鉄の建設, お願いしたいです.」
海藤「本当ですか.」
オショウ「ただし,政治的基盤を強化するために,あなたの会社, 私達に3千万ドル寄付してください.」
海藤「3千万ドル.いやあ,それは.」
オショウ「駄目ですか.駄目ならば駄目です. 地下鉄のことは他の会社に頼みます.」
オショウは立ち去ろうとしたが
海藤「待ってください.それは酷い.わが社はすでに一年以上前から, お宅のヌルデカ副首相に1千万ドル以上の政治献金をしてるんですよ. その金は大統領にも陸軍の幹部のあなた方にも渡ってるはずだ.」
オショウ「よく考えてください.」
オショウは運転席へ出てしまった.実はバスには隠しカメラが仕掛けられていた. そしてバスはどこかへと走っていた.
海藤「だから,だからイスメニアの地下鉄工事は, 我がアジア通商に発注すると言う約束…. それをたかが副首相が失脚したぐらいのことで約束….だからこの仕事のために, 1千万ドル以上の秘密工作資金をつぎ込んできてるんだよう.人には,知られた, 知られたくないようなことまでやってきた.」
秘書「社長.安原も矢沢も殺しました.これがわかったら, 我々は刑務所行きですよ.」
海藤「よし.わかった.あと1千万ドル用意しよう.1千万ドル.それで手を打つ. 出してみせる.打てるはずだ.」
バスは走る.
マイトの声「皆様.この男は財界の悪徳社長アジア通商社長海藤隆三. もう一人の男は秘書室長の浜田ひでおです.」
驚いた浜田がカーテンを開けると新宿アルタのスクリーンに海藤が叫んでいる シーンが大映しになっているのが見えた.バスは新宿駅東口に止まっていたのだ. バスを降りた二人の周りに野次馬が群がった.その様子を恵子も見た. 手錠につながれた北島と村田もやってきた.
海藤「どうしたんだ.」
北島「もうおしまいだ.何もかも喋らされてしまった.」
村田「何もかも,安原殺しも,矢沢殺しも.」
北島「社長,もうおしまいだ.何もかもおしまいだ,もう.」
北島と浜田は絶句した.野次馬が詰め寄り,パトカーもやってきた. それを見た恵子は涙を流した.

そして…

esquire club でデジコンがタミーに話していた.
デジコン「ゴッドから国際電話が入ってね. アジア通商と組んで私服を肥やしてた例の副首相, 軍事法廷で銃殺刑の宣告を受けたそうだ.」
タミー「そう.」
デジコン「それからもう一つ.矢沢のこと,あれから調べてみたんだが, 結局何一つわからなかった.きっと, 我々と似たような生活をしていた男なんだろうな.」
タミーは無言で立ち去り,別の客の相手を始めた.そして店が終わった後, 街を歩くタミーは, 横浜港で射殺死体が見つかったと言う記事の載った新聞が落ちているのを見た. そして目を別の方向へ向けると,矢沢が看板に寄りかかるのが見えた.だが, 近づくとそれは別の男だった. タミーは寂しさを振り払うために夜の街を歩きつづけるのだった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp