第五回

保険金詐欺のからくりを暴く
結婚殺人の甘い汁

脚本:大野武雄 監督:帯盛迪彦

ダイナにて

ダイナに二人組の客(酒井くにお・とおる)が来ていた. マイトは二人組の一人とポーカーをしていた. 男の相棒はマイトの後ろにいてマイトのカードを 盗み見ており,ブロックサインでマイトの手札を男に報せていた. そして勝負.男はKのスリーカード. マイトは2のワンペア…と思ったらスペードの2から6までのストレートフラッシュ.
男の相棒「嘘や.」
マイト「ほんまや.ブロックサインが盗まれてましたよ,お客さん.」
そこへ電話がかかってきた.

デジコンの店

デジコンの店ではデジコンがコンピュータを相手にオセロをしていた. そこへタミーから電話がかかってきた.
デジコン「仕事だ.」
コンピュータ「(抑揚のない無機質な声で)アナタッテホントウニオツヨイノネ. ワタシダッテジシンガナカッタッテワケデハナカッタノヨ. アナタニカカッタラダメ.(女性の色っぽい声で)もう,メロメローン.」
デジコン「俺もあんたにメロメロだったよ.じゃ,またね.」
デジコンは投げキッスを送ってからコンピュータの電源を切った.

今週のよね子

オショウが写経をしていると
よね子「おじゃま致します.」
オショウ「どなた.」
よね子が障子を開け,湯飲みをお盆に載せて入ってきた.
オショウ「ああ,これはこれは奥様.」
よね子「和尚様,私が心を込めてたてたお茶をお持ちいたしました.」
オショウ「ああ,それは,それは.頂戴しましょう.はい,はい,はい.」
オショウは一口飲んだ途端,物凄い味がしたので吹いてしまった.
オショウ「ちょっと奥さん,これなんっすか?」
よね子「強精漢方薬です.」
オショウ「強精!」
よね子「男の人が強くなるお薬です.」
オショウ「え!」
よね子「それを全部飲んで頂いて,その後はお灸を致します.」
オショウ「お灸! なんであたしがお灸をすえられなきゃ…」
オショウは逃げようとするがよね子に捕まってしまった.
よね子「和尚様.先生のお話ですと漢方薬を全部飲んで頂いて お灸をいたします,その後に『いたしましょう』」
オショウ「いやあ,その後は結構です.」
オショウは逃げ出した.
よね子「和尚様のお子が私のおなかに宿ることになっているんです.」
オショウがやっとの思いで障子を開けると,ヨガが立っていた.
オショウ「ああ.これは,これは,ヨーガ様.お出迎え,ご苦労様です. さ,出かけましょう.」
これ幸いとオショウはよね子をおいて,障子を閉めて出てしまった.

調査開始

ゴッドのオフィスに全員集合した.
マイト「タミー,ゴッドからの指令は?」
タミー「ある男の犯罪を立証し,身柄を警察に引き渡すこと.十年前, 長野県下で親子とその愛人である男が近くの山に登山に行き, 足を滑らせて落ちると言う事故があった. 母親の石本明子と子供のよしおは全身打撲で即死. 長女のりかと母親の愛人あらいつねおは傷を負いながらも助かった. ところが,このあらいが石本明子に3千万の三倍保険をかけていることが判明した. しかも3ヶ月前に保険に加入したばかりだった. その上,晴天続きで山道は滑るような状態ではなかった.」
デジコン「しかも4人一緒に落ちると言うのも不自然だなあ.」
オショウ「保険金目当てに突き落としたってわけかあ.」
タミー「もちろん,あらいは警察の調べに対し身に覚えがないと言い張った. あらいがやったという証拠もなく,3千万の3倍9千万を支払った.」
デジコン「女の子が一人生き残ってたんじゃないのか.」
タミー「事故のショックで一切の記憶を失って何ら証言することができなかった. ゴッドの調べではフィリピンマニラでの日本人水死事件, 八丈島で釣り人が波にさらわれて死んだ事件,全てきな臭い, 背後に何かありそうだ.」
オショウ「プロか.保険金詐欺の.」
タミー「そして,そのあらいが東京に居を構え,喫茶店を経営. 近々結婚すると言う噂があるそうよ.」
デジコン「また一人毒牙にかけようってわけか.」
タミー「二度と甘い汁を吸わせてはならない.合わせて, 前の事故が殺人事件であることを立証すること.これがゴッドの指令.」
デジコン「それで,記憶喪失になった子供は今どこに?」
タミー「地元の学校を卒業後,単身上京.原宿のカフェテラスで働いている.」
デジコン「よーし.女の子は俺があたろう.」
オショウ「じゃあ,俺はちょっくら遠いが,長野に飛ぼう.」
マイト「タミー,ヨガ,手を貸してくれ.」
タミー「了解.」

マイトとタミーはあらいを見張った.マイトはタミーに近所の聞き込みをさせ, マイトはあらいを尾行した.あらいは指輪を物色していた. そして喫茶店に帰り,「奥多摩・秩父」のガイドブックを見ていた. ヨガは喫茶店の中であらいを見張り,タミーとマイトは外の車で待機.
タミー「結婚指輪を?」
マイト「一番安物を値切って買いやがった.」
タミー「近所の評判も悪くないわ.つましい生活をしてるって. きっと猫かぶってるんだわ.」
ヨガが出てきた.
ヨガ「奥多摩方面の地図を見てるぜ.」
マイト「奥多摩?」
タミー「新婚旅行へでも行くつもりかしら.」

デジコンは十年前に生き残った娘(高沢順子)に会った. デジコンは母親の友人と称し,十年前のことを聞いた.途端に娘は頭を押さえた.
デジコン「どうした?」
娘「頭が,頭が痛くなるんです.何にも覚えてないんです. 思い出そうとすると頭が痛くなるんです.」
そのとき,二人の男がピッケルの音をさせて立ち上がった. それを見た娘はお盆を落とし,叫び声をあげた.
デジコン「おい,しっかりしろ.」
娘「ピッケルが.ピッケルが.」

デジコンは娘を医者にみせ,娘の脳波を計ってもらい, 頭蓋骨のレントゲン写真も撮ってもらった.
マイト「逆向性健忘症?」
デジコン「ああ.自分の住所も名前も過去も全て忘れてしまうそうだ.」
タミー「滑り落ちたときの打ち所が悪いから?」
デジコン「いや.医者の話では異常な恐怖体験が元らしい. つまり,苦しいこと嫌なことは全て忘れてしまいたい, その気持ちがこうじて記憶喪失になるそうだ.」
マイト「一種の防衛本能だな.」
タミー「もう二度と治らないのかしら?」
デジコン「3,4ヶ月で治る人もいれば,10年,30年かかる人もいるそうだ.」
タミー「記憶が戻れば事故の状況がはっきりするのになあ.」
そこへオショウが帰ってきた.収穫はなかった.だが,10年前, あらいは無収入の状態で毎月1万6千円の保険料を払っていた. 3回,つまり4万8千円払ってあの事故が起きたというわけだ. マイトはデジコンに里加という娘を押してくれと命じた.

デジコンは里加を暗い部屋に入れ,椅子に座らせた. そして小鳥のさえずる音(もしかして水野信一郎が録音したものか?)を流した.
デジコン「心を落ち着けてえ.さあ,君は山に行った.」
里加が目を開けると里加の目の前に, ピッケルがいくつもいくつもぶら下がっていた.里加は恐怖のあまり, 叫び声を上げた.
デジコン「見るんだ.逃げるな.逃げるじゃない.目をそらすな.」
里加「いやあ.」
デジコン「見るんだ.しっかり見るんだ.」
ついに里加は何もかも思い出した. あらいが母親をピッケルで襲って突き落としたのだ.
里加「おかあさーん,おかあさーん.」
あらいは里加の弟を谷底へ放り投げた. そしてあらいは里加をピッケルで襲ったが,対岸から人が声をかけてきた.
あらい「すいません.女房が崖からすべり落ちたんです.助けてください. お願いします.」
対岸にいた人物は慌てて橋の方へ向かった. そしてあらいは自分の足元の岩をピッケルで砕き始めた. それを見て里加は気を失ってしまったのだ.
デジコン「よく思い出してくれたね.」
里加「母と弟を殺したのはあらいなんです. 父を亡くして寂しかった母の気持ちにつけこんで殺したんです. あたし,殺したのはあらいだって警察へ行って言います.」
デジコン「残念だがね,警察は新しい決め手がないと動くことができないんだ.」
里加「そんな.それじゃあ死んだ母や弟はどうなるんですか.あの人が生きてて, 何の罪もない人が死んで,そんな馬鹿な話がどこにあるんですか.」
デジコン,そして物陰から覗いていたオショウ,ヨガ,タミー, マイトは泣く里加を黙ってみることしかできなかった.

あらいの喫茶店へ里加がやってきた.里加はあらいに自分が石本里加だと 名乗ったが,あらいはとぼけた.里加は石本あきこがあらいに殺されたこと, そして記憶が戻ったことを告げたが,あらいはとぼけた. なおも里加は警察へ行くと言ったが,あらいは証拠があるのかと開き直った. そして居場所を言って里加は去った. あらいはアイスピックを持って追いかけようとしたが, 入れ替わりにヨガが入ってきたので諦めた.そしてヨガが出た後, あらいは女と連れ立って外へ出た.あらいと女をヨガのバイクが追う. あらいは女をキャバレーニッポンの前で降ろした.その後, 黒川総業という会社に入った.黒川総業の取締役社長は黒川健太郎55歳. 黒川総業の業務内容は日本各地の作業現場に作業員を派遣すること. 昔風に言うと口入屋だ. この10年間に黒川総業から派遣された人間が8人事故死.
マイト「10年間で3回.偶然とは思えねえなあ.」

黒川総業ではあらいと黒川が善後策を協議していた. 黒川は証拠がなければいくら騒ごうが負け犬の遠吠えだとうそぶき, さらに部下の力石に何か命じていた.その頃, オショウは黒川総業のことを聞き込んでいた. 金は高いが身寄りのないものしか口をきかないというのだ. 高いところへ登ったりダイナマイトを爆破したりする仕事しか斡旋しないからだ. 一方,タミーはキャバレーニッポンに潜入し, あらいが車で送った女よしこに接近していた.よしこは近々足を洗うと言うのだ. そして結婚式は挙げずに次の土曜日に写真撮影して籍を入れると言う. タミーはよし子の家で生命保険の証書などを見つけ,写真撮影した.

ゴッドのオフィスで黒川総業の件をオショウが報告. 身寄りのない人間を集めて保険に加入させ, 挙句の果てに事故を起こさせて保険金をせしめる. もちろん,保険の受取人は黒川だ. そしてタミーがよし子にかけられている保険の件を報告した.総額1億5千万円. 保険料の支払いは3回終わっている.しかもよし子は貯金が2千万円もあった. よし子が死ねばその2千万円もあらいに渡る. 何も知らないよし子はタミーに婚姻届の保証人になってくれと頼んでいた. 心配したタミーはデジコンに婚姻届を無効にする方法はないかと聞いた. そこでデジコンは特殊なインクを開発. そのインクを入れた万年筆をタミーに渡した.

次の土曜日.婚姻届はタミーが持ってきた万年筆で記入された. 去って行くあらいとよし子をタミーが尾行した.その頃, 戸籍係は婚姻届を見て驚いた.あらいの欄が空欄になっていたのだ.一方, ヨガは里加を見張っていた. 里加に長野県警の刑事と称して力石が電話を入れて呼び出した. 里加は呼び出しに応じて廃工場へやって来た.力石は里加を拳銃で狙うが, 現れたヨガに撃退された.そしてあらいは尾行に気がつき, 赤信号のところでタミーを巻いた.

さてマイトはヨガと一緒に力石を脅していた.
マイト「これはダイナマイトだ.この導火線は30秒しかもたねえからな.」
マイトはダイナマイトを万力で固定した.
力石「知らねえものは知らねえやい.」
マイト「ヨガ.」
ヨガは力石を滑車で吊るした.
力石「何するんでえ.てめえら,後悔するなよ.」
マイト「そうかい.それじゃあ,地獄まで行ってもらおうかい.」
マイトは導火線を外まで伸ばした. そしてヨガは外へ出て行き,マイトは導火線に火をつけた.
マイト「あばよ.」
マイトは戸を閉めて外へ出た.導火線はどんどん燃えていく. 力石は最初は強がっていたが,導火線が燃えるにしたがって恐がっていった.
力石「助けてくれ.言うから助けてくれ.言うよ.」
マイトが戸を開けた.
マイト「どこだ.」
力石「相模湖だ.」
マイト「間違いねえな.」
力石「間違いない.」
マイトはにやりと笑った.
マイト「ありがとよ.」
マイトは戸を閉めて出て行ってしまった.
力石「おい,おい,俺をどうする気なんだ.殺す気か.駄目だ.駄目だあ.」
導火線が燃え尽きた. ダイナマイトは爆発する…と思ったら花火がパンと鳴っただけだった.
力石「ああ.」

相模湖ではあらいがよし子を殺すためにボートを揺らしていた. そしてよし子は湖に落ちてしまった.あらいがよし子の頭を押さえつけた. そしてよし子は沈んだ.あらいも湖に飛び込んだ. 白々しくあらいは交番に駆け込み,よしこの捜索を頼んだ.

黒川総業の事務所で黒川とあらいはほくそ笑んでいた. そこへ警官に化けたヨガが登場.
ヨガ「失礼します.あらいつねおさんはいらっしゃいますか?」
あらい「私ですが.」
ヨガ「奥様のあらいよし子さんが水死体で発見されました.」
あらいは沈痛な表情を(作って)見せた.
あらい「見つかりましたかあ.どうも,お手数をおかけしました.」
ヨガ「ご足労ですが,遺体の確認に出向いてもらえませんか.」
あらい「はい.」
ヨガ「津久井の常楽寺に安置されております.」
あらい「わかりました.」
常楽寺に来たあらいと黒川をオショウが出迎えた.
オショウ「こちらでございます.」
ヨガ「ご確認ねがいます.」
棺桶の蓋を開けるとよし子の水死体が.
あらい「よし子.」
オショウが手を合わせた.
ヨガ「奥さんに間違いありませんね.」
あらい「はい.よし子.こんな姿になっちまって. 二人で幸せになろうって言ったばかりだったのに.よしこ. なぜ死んじまったんだよう.よし子.よし子.何とかしてくれ.頼むから, もう一度愛してるって言ってくれよ.よし子.よし子.よし子. なんか言ってくれよう.」
その時,よし子の手が伸びてあらいの顔をなでた.あらいは驚いた. よし子が起き上がったからだ.
あらい「お前は…」
あまりの事態にあらいは二の句が告げない.
黒川「あらい,これはどういうことなんだ.え.」
だが錯乱したあらいは叫び声をあげるばかり. 逃げようとしたあらいと黒川の前にタミー,マイト,デジコンが登場.
黒川「な,なんだ,お前ら.」
タミー「湖に落ちたよし子さんは,あたしが助けたわ.」
マイト「黒川,いよいよ年貢の納め時だな.」
黒川とあらいは麻酔薬を染み込ませたハンカチを口に当てられ,眠らされた. よし子をタミーが慰めた. タミーはよし子に婚姻届に細工をしたので無効になっていることを告げた. よし子は,また遊びに来てね,と言って去って行った.

里加のところに青い封筒に入っていて蜘蛛が描かれたシールで封をされた手紙, すなわち,デジコンからのハンギングパーティの案内状が届いていた. 里加は案内状を読んだ.
デジコンの声「石本里加様.今日午後三時,相模湖のダムへ来てください. あなたのお母さんと弟さんを殺したあらいに10年振りの審判が下されます.」
そしてハングマンは表の仮面を脱ぎ捨ててハンギングに出動した.

ハンギング

相模湖のダムにトラックが止められていた.そこへ里加がやって来た. あらいと黒川はおもりを足につけられ,トラックの荷台に乗せられていた. そしてあらいと黒川は壁に手錠でつながれていた. そこへデジコンとマイトがデジコンの車に乗ってやってきた. デジコンがリモコンを操作すると荷台が揺れた.あらいと黒川は目を覚ました. 荷台には電話機が取り付けられ,メモが貼られていた.あらいはメモを読んだ.
あらい「『110番に電話して真相を告げろ.拒否したらダムの中へ放り出す.』 黒川さん.」
振り返るとダムの底が見えた.湖とは反対側なのでダムの底は深い.
あらい「電話したら今までのことがばれてしまう.」
デジコンがリモコンを操作すると荷台がダムの底のほうへと傾いた. 荷台に置いてあった鉄パイプがどんどんダムの底へと落ちていく. あらいと黒川はあまりの恐さに叫び声をあげた.どんどん,傾きが増していく. あらいが叫び声をあげた.そしてついにあらいは受話器を取った.
黒川「あらい!」
あらい「助けてくれ.何でも言うから助けてくれ. 10年前の殺しは俺がやったんだ.死にたくねえよ.止めてくれえ. マニラも八丈島の殺しも黒川に命令されて俺がやったんだ.」
黒川「あらい!」
あらい「降ろしてくれえ.」
黒川「あらい!」
あらい「止めてくれえ.降ろしてくれえ.」
デジコンはリモコンを操作し,荷台を元に戻した. そしてパトカーと入れ替わりにデジコンとマイト,そして里加は去って行った.

「ザ・ハングマンII」へ 「全話のあらすじ」へ 「全話のキャスト」へ 「緊急指令トラトラトラ」へ 「私の好きなテレビ番組」へ 「touheiのホームページ」へ戻る.


東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp