第五十回

管理職養成学校塾長による催眠術による殺人を暴く
女催眠術師のウラを探れ

脚本:田上雄 監督:小西通雄

深夜.と管理職養成学校の塾長室に男が忍び込み,金庫からメモを取り出し, 写真撮影した.だがその様子は防犯カメラで撮影されていた. その翌日,会社の中間管理職の人達が講師の指導でスローガンを読まされていた. その晩,塾生が3人集められていた.塾長は危険分子がいると言い, 名乗り出るように言ったが,誰も名乗り出なかった. そこで塾長(田中明夫)は久保を指差し,君だ,と言った.久保は否定したが, 防犯カメラの撮影した映像によりぐうの音も出なくなった. しばらくして,他の塾生(西田健ら)は女(戸部夕子)によって催眠術をかけられ, 久保を剃刀で自殺にみせかかけて殺すように指示された. 久保は塾生達によって手首を切られてしまった.

調査開始

久保の死体は調布の多摩川の川原で腐乱死体となって発見された. 死後5日から1週間経っていて,警察は自殺と断定していた. そのニュースを録画したものをゴッドのオフィスでハングマンが見ていた. この事件を調べるのが今回の使命だった.ゴッドは偽装だと見ていたのだ. 久保健一郎は40歳で神田にある管理職養成学校の職員だった. この学校は設立以来赤字だった. そこで今一番はやっている学校へ久保を送り込み, 黒字経営の秘訣を探ろうとした. たかが経営術のノウハウを盗み出しただけで殺されるとは思えない. 久保はもっと重大な秘密を探り出してしまったので消されたに違いない. 久保が潜り込んだのは社団法人成蹊塾. 塾長は有名な経済評論家の北村聖一郎(田中明夫).

その頃, 成蹊塾では北村が「世界の情勢と日本経済の成長講座」の授業を行なった. 授業終了後,続けて「経営心理学の講座」を修学院大学助教授中畑栄子, すなわち催眠術を行なった女が行なった. 北村が授業を終えて秘書に予定を聞いているところへ, タミーが毎朝新聞経済部の桑島と称して登場.会見を申し込んだと称した. 会見終了間際,タミーは最後に多摩川の腐乱死体のことを聞いた. 久保は第三期研修生で合宿終了間際に逃げ出したと秘書は答えた. 続けてタミーは事務室に忍び込み, 第三期研修生の名簿から中光商事営業部次長安井秀夫に目をつけた.

安井にはマイトが生命保険の調査員と称して接触し,久保のことを聞いた. 久保は家電関係に勤めていると聞いていた.久保が死んだと聞いて安井は驚いた. そして合宿終了間際に久保の姿が消えて以来, 久保には会っていないと安井は答えた.去り際にマイトは安井に握手を求め, オーバーなジェスチャーで「サンキュー」と叫び,背中をはたいた. マイトは外資系の保険会社に勤めていて外人ばかり相手にしているので, とごまかした.だがマイトが握手をしたのには理由があった. マイトの手には丸い銀紙が貼ってあった.

坂田工業の同期生にはパンが訪れた.パンがいろいろ聞いても収穫はなかった. パンは握手をして去った.パンの手にも丸い銀紙が.

デジコンはマイトの手に貼ってあった銀紙と, パンの手に貼ってあった銀紙を化学分析した.
デジコン「人間は精神状態が不安定になると発汗作用が促進される. 同時に血液中のアドレナリンを増加させる. このカードは特殊な薬品でその反応をキャッチするように作られている.」
二人とも嘘は言ってないようだ.少なくとも本人達は自覚してないようだ. パンは研修生として成蹊塾に潜り込むことを提案した.

成蹊塾の事務長がある会社を訪れた.
事務長「常務の近藤さんに呼ばれてきたんだが.」
受付嬢「近藤常務ですか? 少々お待ちくださいませ.」
受付嬢が内線電話をかけようとするところへ,マイトが現れ,制止した.
マイト「君,私が直接案内しよう.」
受付嬢「はい.」
マイト「どうも.成蹊塾の方ですね.」
事務長「はい.」
マイト「常務がお待ちです.どうぞこちらへ.」
マイトが事務長をつれて去った後で
受付嬢「ねえ,あんな人うちの会社にいたかしら?」
その頃,パンは屋上でゴルフの練習をしていた.
パン「お,いい当たりだ.当たった!」
マイト「は,は,は.さすが常務ですな. ドライバーも飛ぶけど,パターも飛びますなあ.」
パンは大笑い.
マイト「ご紹介しましょう,成蹊塾の事務長さんです, わが社の常務です.」
事務長「牧野です.」
パン「あ,そ.いやあ,ご苦労さん,ご苦労さん. 願書は持ってきてくれたかしら.」
牧野「は,持ってきております.」
パン「あ,これ.研修料は何ぼこそ?」
牧野「二週間分の資格料とお食事代を含めまして55万8千円となっております.」
マイトは大きくうなずいた.
パン「55万…何,55万8千円!」
牧野「当塾は講師陣に一流の先生をお呼びしておりますので, 決してお高いと思いませんが.」

その晩,北村は料亭で奥田工業について密談している, ライバル会社の席に乗り込んだ. 奥田工業は多額の政治資金をばら撒いてライバル会社の地位を脅かしていた. これを阻止する手は奥田工業の奥田社長を取り除くことだけだった. 北村はいい手があるといい,1億5千万円で手を打つと言った. その頃,坂田工業の専務のところへ電話が入った. 電話からピアノの音が聞こえると専務は暗示にかかり, 中畑が喋る指示を聞いていた.専務は中畑から奥田社長を殺すように指示された. そして奥田は自宅に帰ったところを専務に猟銃で撃ち殺されてしまった.

ゴッドからの情報を団地のアジトでデジコンがマイト達に伝えた. 坂田工業の専務が奥田社長を殺したのだ.専務と実際に会ったパンは, 紳士的な専務が人を殺したのは信じられない,と言った. 動機は不明で本人にもわからないらしい. 専務は犯行時は強度の心神喪失状態だった. 目撃者の話によると専務は奥田工業に坂田工業が乗っ取られると思ったらしい. だが奥田工業が坂田工業を乗っ取ることはありえないとゴッドは言っていた. 専務は被害妄想か何者かに操られていたのかもしれない.その頃, 安井の家では寝ていた安井が久保を殺したときのことを思い出し, 悪夢にうなされていた.安井は居間で酒を飲んだ. それを見て安井の妻(高林由紀子)は心配していた.

さて成蹊塾に潜り込んだパンは授業が難しすぎてチンプンカンプン. パンは,隣りの人にあなたわかりますとか隣りの席を覗き込み, 注意されてしまった.今回の仕事は楽じゃないわと廊下で一服しようとすると, 塾長室から声が聞こえてきた. 塾長室には安井が来ていて坂田工業の専務の件や夢の話をしていた. 安井は毎晩北村の指示で久保を殺す夢を見ると言った. 立ち聞きしていたパンは牧野にとがめられた. パンはトイレ行こうと思ったら塾長室の前まで来ちゃったとごまかすのであった.

早速タミーが安井の部下と称して安井の妻に接触した. タミーは夢の話とショパンのノクターンが幻聴として聞こえる話を聞きだした.

その晩,安井がタクシーから降りるとマイトが現れた.
マイト「待ってたよ.」
安井「ああ.あんた,昨日の.」
マイト「だいぶ飲んでるらしいが,酒で悩みは洗い流せないぜ.」
安井「余計なお世話ですよ. 僕が飲もうが飲むまいが保険会社の調査員には何の関係もない.」
マイト「俺は保険会社の調査員なんかじゃない.」
安井「ああ,するとあなたいったい.」
マイト「俺の素性など,どうでもいい.これだけは言っとこう. 俺はあんたの味方だ.」
安井は笑った.
安井「よしてくださいよ.うるさくつきまとってなにが味方です. さっさと帰ってください.でないと警察を呼びます.」
マイト「呼びたけりゃ勝手に呼ぶがいい. こっちは君の夢の中身を打ち明けるだけだ.」
安井は驚いた.
安井「そんなこと,あんたが知ってるはずないじゃないか.」
マイト「ところがこっちは知ってるんだな.あんたと坂田が久保さんを…」
安井「あれは妄想ですよ.疲労が原因のね.自虐作用にすぎないんですよ.」
安井は門を開けて家の中に入ったが,
マイト「果たしてそれだけかな.」
その言葉を聞いて安井は立ち止まった.
マイト「無意識のうちに殺人を犯したということが考えられる.」
安井「無意識のうちに?」
家の中から安井の妻(高林由紀子)が出てきた.
安井の妻「あなた.それは本当なの?」
安井「馬鹿な.私が人殺しなんかするはずがないじゃないか. この男の言ってることはみな出鱈目だ.おい,帰ってくれ. 帰れって言ってるのがわからんのか.」
安井は家の中に入っていった.安井の妻が居間で言う.
安井の妻「あなた.」
マイトは強引に家の中に入った.安井はしばらく無言で立っていたが, やがて座って酒を飲み始めた.するとショパンのノクターンが聞こえてきた. それは中に入ってきたタミーがもつテープから流れたものだった. たちまち暗示にかかる安井.
安井の妻「これはいったい.」
マイト「催眠術ですよ.」
安井の妻「催眠術?」
マイトはうなずいた.そしてマイトはタミーにテープを止めさせた. 安井は我に返って椅子に座り,また酒を飲み始めた.

その頃,パンは合宿所で酒を飲んでいた.同室の二人は勉強にいそしんでいた. パンはタバコを買いに行くと称して合宿所を抜け出して事務室へ. 警備員を巻いて事務室へ潜入しようとすると中畑が通るのが見えた. 早速パンは中畑の後を追い,中畑が催眠術をかけている様子を目撃した. 中畑はショパンのノクターンをテープで流しながら暗示をかけ, この曲を聞くと催眠術がかかるようになっていたのだ. だが部屋から出てきたパンは北村と牧野に捕まってしまった.

マイトとタミーは催眠術の治療を申し出ていた.マイトは剃刀を出し, 安井に安井の妻やす子の手首を切るように言っていた.安井は渋ったが, やす子はやろうと言い出した.
安井「やす子,お前,恐くないのか?」
やす子「恐いわ.あなたを信じてます.」
安井「やす子…」
安井は承諾した.音楽が流された.安井は催眠状態になった.
マイト「殺せ.これでこの女を殺すんだ.」
マイトは剃刀を渡した.安井は剃刀を握り,やす子に近づいた.
タミー「意思を強く持つのよ.無意識の誘惑に負けちゃ駄目.」
なおも安井は剃刀を持って近づいた.
マイト「殺せ,殺せ,殺すんだ!」
安井は剃刀を振り上げた.
やす子「あなた.」
ついに安井は催眠状態を抜け出した.やす子は安井に抱きついた. そこへデジコンから電話がかかってきた.パンからの連絡が途絶えたのだ. もしかしたら捕まったのかもしれない.

ハンギング

その頃,パンは牧野に殴られていたが,パンは吐こうとしなかった. マイト,タミー,デジコンが成蹊塾に乗り込んだ.警備員を殴り倒し, 廊下を進むマイト達.一方,北村はパンの始末を指示した.
北村,中畑,牧野がパンを連れて部屋の中に入ると男が三人立っていた.
北村「諸君.」
北村の声を聞いて三人の男は回れ右をして北村のほうを向いた.
北村「この男は君たちの会社に害を成す総会屋の手先だ. 会社の将来のために君たちの手で処分するがいい.」
パン「え?」
中畑がナイフを持たせながら言う.
中畑「さあ,殺すのよ.殺しなさい.殺すのよ.」
牧野がパンを羽交い絞めにした.
パン「やめろ.君達は催眠術にかけられてるんだ. 目を覚ませ.目を覚ますんだ! やめろ!」
だがパンの言うことを聞いていないのか, 男達はナイフを持ってパンにゆっくり近づいた. 男の持つナイフがパンの手首に当てられた.
パン「やめてくれ.」
男達が近づく.
パン「目を覚ますんだ.」
男達が近づく.
パン「目を覚ませえ.いい,やめろ.やめてくれえ.」
男がパンの手首を握った.
パン「何をする.やめろ.やめてくれえ.やめろ.」
北村と中畑はじっとパンをみつめた.パンは一巻の終わり…と思ったら, 男達は向きを変え,北村と中畑に近づいた.
北村「な,なにをするんだ.」
中畑「いったいどうしたの?」
マイト「俺達が先に指令を出しておいたのさ.」
北村と中畑が振り向くと白衣を着たマイトとデジコンの姿が見えた.
マイト「あんた達三人を殺せとね.」
北村と中畑は恐怖で顔が引きつっていた. その隙にタミーが牧野を突き飛ばし,パンを助け出した. パンは安心して腰が抜けそうになってしまった.デジコンは音楽を止めた.
デジコン「もういい.ナイフを捨てて部屋に帰りたまえ.」
北村「貴様ら,いったい何者なんだ.」
タミー「あたし達はハングマン. あんた達のような悪党を制裁する死刑執行人よ.」
中畑「あたし達をどうするつもり?」
牧野は中畑のところに寄った.
マイト「研修生の前で何もかも白状してもらおうか.」
牧野「誰が話すもんか.」
デジコン「いや,話すさ.」
マイト「話してもらおう.」
マイトが白衣を開けると腰にダイナマイトが.北村達の顔が凍りついた.

左から中畑,北村,牧野の順に椅子に座らされ縛られていた. タミーが注射器を見せた.
北村「やめろ.そんなことは許さんぞう.人権侵害だあ.」
パンの怒りが爆発する.
パン「ハ,ハ,ハ,ハ,ハ,ハ.笑わしちゃいけないよ. 人には散々やったくせに自分だけはやだって言う.冗談じゃねえ.」
タミー「さあ,おとなしくしてえ.」

ショパンのノクターンとメトロノームの音に合わせ, 北村達はパラ催眠状態に入った.
マイト「お前達はもう自分の意思で自分をコントロールすることができない. この音楽が聞こえている間は我々の操り人形だ.」

翌日.スピーカーからタミーの声が響く中,北村達が教室に入ってきた.
タミー「お待たせしました.これより塾長の北村聖一郎,および, 講師の中畑栄子,ならびに牧野純一による特別講義を行ないます.」
三人は無表情で教壇に立った.
タミー「テーマはいかにして殺人者を養成し,悪銭を集めるかについて.」
生徒達が三人をじっとみつめた.
マイト「北村聖一郎.講義を始めなさい.」
北村「私はこの経営塾の研修生の中から将来有望なものを選び, 殺人者に仕立て上げた.その一例は,過日奥田工業の社長を射殺した, 坂田工業の専務である.私はその謝礼として,奥田工業の競争会社三社から, 1億5千万円を受け取りました.」
驚いた生徒達は一斉に立ち上がった.
マイト「次は中畑栄子.講義を始めなさい.」
中畑「実際に殺人者を仕立て上げたのは私です. 私は専門分野の臨床心理学を応用して十人以上の研修生に催眠術をかけました. 動機はお金です.私は貧乏な研究者で一生を終わりたくなかった. 才能をお金に買えて贅沢な暮らしをしたかったんです.」
それを聞いて生徒達は怒り狂い,教壇に詰め寄った.怒号が飛び交う中, 牧野が話し始めた.
牧野「私もお金が欲しかった.だからこそ北村先生に協力して, この経営塾の経営を,鴨を集めていたんです.」
生徒「貴様,それでも人間か!」
生徒「警察だ.」
生徒「我々を何だと思ってるんだ.」
出て行く生徒達と入れ替わりにパトカーが駆けつけた. そしてハングマンは新宿の地下道を行進するのであった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp