第四十九回

強盗犯との頭脳戦
強奪一億円召し上げ作戦

脚本:中村勝行 監督:小西通雄

現金輸送車がダンプに乗った三人組(平泉成ら)に襲われ, 現金輸送車に乗った警備員は全員射殺されてしまった. そこへ男(小松方正)が登場.早速4人で現金の詰まったトランクの中身を見た. だが実行犯のうち二人は男(平泉成)に射殺され,現金は残りの二人が山分けした.

襲われた現金輸送車は東亜機械工業が運ばせていた現金を積んだものだった. 現金輸送車は工場の従業員に支払う給料と, 資材費の一部として1億2千万円を運んでいたのだ. 刑事が現金輸送車のコースを知るものを社長に聞いていた. 現金輸送車のコースは2種類あり, コースを知っているのは社長と経理課長の向井(小松方正)だけだった. 向井は刑事に頼み込んでいた.
向井「刑事さん,一刻も早く犯人を捕まえてほしいんです. あの金は銀行から借りたばかりでまだ保険に入ってないんです. もしあの金が戻らないとなると私は…お願いします.」

調査開始

この事件を調べるように指令が下った. ゴッドのオフィスでタミーがゴッドからの指令を読み上げる.
タミー「犯行に使われたダンプカーは都内の工事現場で盗まれたものと判明. なお現金輸送車は犯行現場から10キロほど離れた雑木林の中で発見され, さらにその付近で犯人一味と見られる二人の男の射殺死体が見つかった. 捜査当局では奪った金の分配をめぐって犯人同士のトラブルがあったとみて, 死んだ男の交友関係を捜査している.」
殺されたのは宮本健二と田川義夫だ.パンは,犯人を捕まえるなんて, 警察の片棒担ぐような真似させるんじゃないだろうな,と言うと, デジコンは今回の仕事は犯人から盗まれた金を取り返すことだと説明した. 工場と言っても大手機械メーカーの下請け会社で, その経営内容は決して楽ではない. もし奪った金が戻って来なければ会社はもとより, 40人の従業員とその家族の死活問題となる. デジコンは警察の捜査資料が入った封筒をみんなに見せた.
マイト「よーし,まずは現場検証だ.」

マイトとパンは襲撃地点を訪れた.人気はないので襲撃にはもってこいの場所だ. 犯人は綿密に下調べをしたに違いない.次に射殺死体が見つかった地点を訪れた.
マイト「なあ親父さん, 犯行計画は綿密だが手口は荒っぽすぎると思わねえかい.」
パン「おそらく奴らはただの実行部隊だったってわけよ.」
マイト「これはきっと,影で糸をひいている奴がいるなあ.」

その頃,向井は女子社員の佐倉に郵便を出してくるよう頼んだ. 外へ出た佐倉にパンが城南署の刑事と称して近づいた. パンは現金の輸送コースを知っていたのが, 社長の村井と経理課長の向井の二人だけだったことを知った. さらに事件当日向井が欠勤し,次の日は出社していたことも知った. その会話をマイトも車の中で盗聴していた.マイトとパンが, タミーとデジコンに向井の交友関係を洗わせよう, と言っているところへ捜査担当の刑事が通りかかった. 刑事の会話から,刑事も向井の交友関係に注目して洗ってみたが, 射殺された二人と向井は何の面識もなかったことがわかった. 刑事は向井を白と断定しても良さそうだと話していた.

その頃,実行犯の男(平泉成)は自宅で札束を積んでいた. だが折半という分け方が不満で向井に電話をかけていた.男は四分六を主張した.

団地のアジトでタミーは向井辰夫の素性について報告していた. 向井は48歳で勤続20年のベテラン経理マン.そして向井には前科がなかった. マイトが向井の交友関係を聞くと,デジコンは, 会社の同僚や学生時代の友人ばかりで常識的なものだ,と答えた.
マイト「そういう男に限って裏があるはずだ.」
タミーとデジコンが調べた範囲ではそういうものはなく, ギャンブルもやらなかった.だが,向井は週に1,2回新宿辺りで飲んでいた.
マイト「一人でか?」
パンがコーヒーに入れる黒砂糖を手にとり,口に入れようとしながら言った.
パン「一人で新宿でねえ.」
マイト「よしなよ.」
パンは黒砂糖を元に戻した.
パン「よし.じゃ,そこいらあたりからほじくり出してみるか.」

夜の新宿.マイトは向井が10日に1回訪れる店を見つけた. そして向井がバーテンを相手に話していることをママから聞き出した. さらにバーテンは10日前にやめていたことも聞き出した.バーテンの名前は石崎. 年齢は35,6歳.あまりにしつこく聞くのでママはマイトを刑事だと疑ったが, マイトは興信所のものと名乗り,向井の妻から浮気調査を頼まれたと答えた.

その頃,向井は石崎(平泉成)のアパートを訪れていた. 石崎はさらに一千万円を要求した.向井は要求を飲むふりをして, 石崎を油断させ,隙ができた石崎を刺し殺してしまった. 石崎のアパートは線路の脇にあったので, 石崎の叫び声は列車の通過音に紛れ込んでしまった. 向井は石崎のアパートから残りの6千万円を持ち逃げした.

翌日,マイトとパンは新聞記事で石崎が死んだことを知り, 向井の犯行と睨んだ.
マイト「問題は向井からどうやってあの金を取り戻すかだなあ.」
パン「欲の皮の突っ張った奴は欲で釣るしかないなあ.」
マイト「あっそ.」
すると向井が歩いてくるのが見えた.早速マイトとパンは向井を尾行した. 向井はワリシンなどの広告を見ていた.
マイト「あの金を投資してさらに増やそうって魂胆か.」
パン「ああ.あれだけの大金寝かしとくって手はねえだろなあ.」
向井は不動産屋の広告にも目を向けていた.
マイト「今度は不動産屋か.さすが経理マンだ.」
パン「こいつは餌まきゃあ,簡単に食いついてくんじゃないかなあ.」
マイト「何の餌まくかなあ.」

団地のアジトでデジコンは投資に不動産か株はどうかと言った. マイトは株がいいなあと言った. マイトは2,3日で5割以上上がる株をコンピュータで弾き出せないか, とデジコンに言った.デジコンは何とかやってみると答えたが, 問題はその後だと懸念した.
マイト「僕ちゃんにいい考えがある.タミー,一緒について来い.」

小田急の代々木八幡駅を降りた向井は踏切を渡って歩いていた. そこへタミーの車がやってきて,向井をはねてしまった. タミーは向井を車で自宅まで送った. 向井は3年前に妻と別れていて向井は一人で暮らしていた. タミーは治療費は全額自動車保険で支払うと言うと, 向井は当分会社を休まなければならないという理由でさらに休業補償を要求した.

一方,デジコンは二部上場している食料品関係の国際フーズという銘柄に, 目をつけた.買占めグループが株価の操作をしているらしく, 株価の動きがきなくさかったからだ.やってきたパンにデジコンは言う.
デジコン「コンピュータの答えは三日間で七割上がると出ている. しかも確率80%.」

マイトが自動車保険の保険員に化け,向井の自宅を訪れた. マイトは最高ランクの1日2万円支払うといい, 全治1週間なので向井に14万円を渡した. これが一時金かどうかを向井が確認したので,マイトはそうだと答え, 治療が長引くようなら相談に応じると付け加えた.さらにマイトは電話を借りた.
マイト「あ,もしもし.加納証券ですか? 営業の神島さん,お願いします. 神島さんですか.草野でございます.いつもどうも. 今日はいかがですか.上がり気配! はあ,そんなに! じゃあ恐れ入りますが5千株ほど追加できますかね? できる! よろしくお願いします.どうも失礼いたしました.」
マイトの電話を向井は興味深々で聞いていた.
向井「君,株やってるのかね?」
マイト「やってると言っても素人でございます. 実はお客さんから極秘情報を手に入れましたんで.」
向井は目を丸くした.
向井「極秘情報?」
マイト「はい.ちょっと失礼します.」
マイトはテーブルに置いてあった新聞を取り上げた.
マイト「実はですねえ,これは何分にも内緒にしておいてくださいよ.」
向井は身を乗り出した.
マイト「この国際フーズって銘柄なんですがねえ, 買占めグループが株価操作をしてるとか.」
この時点で国際フーズは一株130円.
マイト「何しろですねえ,向井さん,3日間で7割上がるとか.そういう情報, 手に入れましたんで,私も一万株ちょっと.今ちょっと手放しても, 180万ちょっとの儲けになります.一口乗ってみませんか?」
向井「いやあ,君みたいにうまくいくかなあ.」
マイト「なんでしたら立て替えても結構ですよ.」
向井「立て替える?」
マイト「もし,もしですよ. 向井さんが損をする場合でも私どもの方で処理いたしましょう.」
向井「そりゃまあ,あんたがそこまで言うなら…」
なおも向井は念を押す.
向井「しかし,あんた馬鹿に熱心だねえ.」
マイト「そりゃ向井さん,これは儲かったものでないとわかりませんよ.」
これに向井は騙された. その頃,パンは共立観光開発常務の田島(天草四郎)の家を見つけ出していた. 田島は妻と老人同士の二人暮し.
マイト「後は計算どおり株が上がってくれれば,ば〜んじ Ok!」

ところがそうは問屋が,いや中村勝行さんが卸さない.その日, 国際フーズの株は20円下がり,114円になった.夕刊を見た向井は
向井「け.あの野郎調子のいいこと言いやがって.」
団地のアジトでハングマンも株価値下がりを知った.
マイト「やべえ.昨日より20円安だ.」
パン「なんてこったい.わりい予感が当たっちまったよ.」
タミー「デジコンのコンピュータって当てになんないのね.」
デジコンは大弱り.
デジコン「大体ねえ.コンピュータで株価操作をしろってのがどだい無理なんだ!」
デジコンは開き直った.マイトはある作戦を思いついた.
マイト「親父さん,明日の朝刊ならまだ間に合うぜ.」
パン「明日の朝刊,何?」
マイト「株式市況欄を変えるんだよ.」
これにはパンも苦笑した.
パン「悪知恵はたらくな.お前さん,本当に元警察官か?」
マイト「一応皆さんからエリートって呼ばれてた.」

翌朝早く.パンは4階の向井と名乗り, 向井の住むマンションの入口で新聞配達員を捕まえ,マイト発案の作戦を実行. 朝刊を読んだ向井は「国際フーズ五割増」の記事を見てビックリし, ほくそえんだ.早速やってきたマイトを向井は喜んで出迎えた. マイトは40万円投資したので20万円の儲けになったと向井に報告した. 向井はマイトを信用し,国際フーズの株を300万円ほど買って欲しいと頼んだ. だがマイトはこの辺が潮時だといって株取引を止めた.
マイト「それよりも向井さん,金儲けの話なら確実に儲かる話があるんですが… これはやめたほうがいいなあ.」
向井「なんだよ.言ってご覧よ.」
マイト「少々元手がいるんですよ.」
向井「いくらぐらい?」
マイト「一億.」
向井「一億?」
マイト「しかし一億が最低三億にもなるんですよ.」
向井「ホントかね.」
マイト「はい.これは土地の買収なんですがね, 共立観光開発って会社をご存知でしょう.」
向井「あの会社が?」
マイト「あの有名な田島常務が一枚かんでるんですよ.」
向井「田島常務が?」

その頃,デジコンとパンは消防署のものと称して田島(天草四郎)の屋敷を訪れた. 直下型地震を想定して避難訓練を行なうというのだ. 個別指導で今日は田島の番だと言い,デジコンは田島夫婦を連れ出した. 外ではタミーが救急車を止めて待っていた.パンは中で着替えた. そこへマイトが向井を連れてやってきた. マイト達を田島に化けたパンが出迎えた.パンは秘密の話と称し, 東洋一のレジャーランドを神奈川県の伊勢原辺りに作る計画があると言った. 広さは二十万坪.マイトは現在坪当たり一万円程度だが, 着工と同時に20倍にははね上がるだろうと言った. マイトは土地の買収は田島常務が担当していると言い, パンはほとんど買収が済んでいるが一部残っている個所があると言った. 向井は第三者が買収を行なえば問題がないと言い出した. それを受けてマイトは他にも3人出資したい人物がいると言った. パンはできれば人数を絞れば率はいいですよと言った. マイトは庭に隠れていたデジコンに目配せ. デジコンはタミーのところへ駆け寄って時間稼ぎを頼んだ. 時間が過ぎていく.パンは苛立った.そしてついに
向井「田島さん.もしよろしかったら私だけに出資させていただけませんか?」
マイト「あなたお一人でご出資なさる? 常務.」
パン「ん? うーん.」
パンは腕組みした.
向井「二億三億というのは無理ですが,1億2千万程度ならあ.」
マイト「1億2千万? いかがいたしましょう,常務.」
パン「そうねえ.」
パンは渋い顔(の演技)
向井「金はすぐ用意できますが.」
マイト「常務.」
パン「よし.この件は君に一任しよう.」
マイト「わかりました. それでは明日12時にセントラルホテルのロビーでお会いしましょう.」
向井「はい.結構です.ただ,名義は私のものになるんでしょうか?」
マイト「当たり前じゃございませんか.間違いありません,絶対に.」
向井「そうですか.わかりました.」
マイト「幸運なお方ですなあ.」
それを見たデジコンはタミーのところに駆け寄り,
デジコン「お待たせしました.訓練は終了です.」
田島は激怒していた.一方,マイトは向井を車に乗せて去り, パンは車を見送った後,消防署の所員の服に着替えて本物の田島夫妻を出迎えた.

団地のアジトで作戦成功だと喜ぶタミー. だがデジコンは向井が現場へ確かめに向かうのではないかと懸念した. パンはデジコンの意見に同意した.マイトは何か考えていた. デジコンの予想は的中し,向井はタクシーを拾って現場に向かっていた. そして向井は農夫に声をかけた.
向井「あのう,ちょっとお伺いしますが…」
農夫「は?」
向井「草野さんと仰る方がこの辺の土地を買い占められたというのは, 本当ですか?」
農夫「ああ.私も200坪ほど売ろうと思ってね. 草野さんから手付金をもらいましたよ.」
向井「そのう草野さんですがねえ,目のギョロッとした色の黒い方?」
農夫「ええ,そうですよ.髪のモジャモジャした.」
向井「そうですか.じゃあどうも,失礼しました.」
向井が去るのを農夫のわきに止まっていたワゴンの中からマイトが覗いた. 農夫は俳優でマイトに金で雇われたのだ.

ハンギング

次の日の十二時.向井はセントラルホテルへやってきて, パンとデジコンに1億2千万円を渡した. デジコンは東和不動産の加村と名乗っていた. デジコンは預り証に判を押して向井に渡した. 向井はすっかり騙されて帰って行った.

その翌日.向井は登記簿が届かないことを不審に思っていた. 早速タクシーで田島の家を訪れたが,本物の田島を見てビックリした. そして騙されたことに気づいた.呆然と街を歩く向井. すると歩道橋にマイトがたたずんでいるのが見えた.
向井「貴様,おい,お前,騙したな.俺の金,どうしたんだよ. え,貴様らグルだったんだな.おい,金返してくれ.」
マイト「ど,ど,どうもすいません.」
向井「金,どこにある,金は?」
マイト「あ,あそこです.あ,あすこです.」
マイトは向井をトラックへ案内した.
マイト「け,け,警察に言わないでくれますか?」
向井「この中に本当にあるのか?」
マイト「あります.お,お願いしますよ.」
マイトは荷台の戸を開けた.荷台の床は札束で敷き詰められていた. 向井は中に飛び込んだ.そして札束を拾い上げ,懐に閉まった. それを見たマイトは戸を閉め,運転台の助手席に座った.
マイト「Ok!」
運転席に座っていたデジコンがトラックを走らせた.中で向井は札束を数えた. トラックはなおも走る.そしてトラックが止まり,戸が開けられた. 向井が外を見るとたくさんの人達が中を覗いている. そしてその人達は中へ近づいた.向井は隅にうずくまった.
村井社長「向井君.これはいったいどういうことなんだ?」
向井は立ち上がって不敵な笑みをうかべた.
村井「向井君!」
向井「俺の金だ.俺の金だ!」
社員が二人,中に入って向井を外へ引きずり出した.向井が俺の金だと叫び, 社員達は返してよと叫んだ.
村井「向井,これを見ろ,これを!」
村井が荷台の側面を指差した. 荷台の側面には「この男(向井辰男)現金輸送襲撃事件の主犯」 と書かれている幕が貼られていた.
村井「向井,お前のためにみんながどれだけ苦労したのかわかってるのか!」
社員達は向井をなじった.そして駆けつけた刑事が向井を連行していった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp