第四十六回

マイト,若い頃を思い出す.
熱血スッポン刑事

脚本:杉村のぼる 監督:小澤啓一

国鉄渋谷駅前でマイトは麻薬捜査のために覚醒剤の売人に接触した.だが運悪く, 同じ売人をマークしていた城西署の若い刑事(坂東正之助)に, 追いかけられてしまった.
マイト「落ち着け.俺は薬の売人じゃねえんだよ.」
刑事「とぼけるな.薬の受け渡ししてたのをちゃんとこの目で見たんだ.」
マイトは順平を突き飛ばした.そしてその隙に売人から買った覚醒剤を隠した.
刑事「やったな.公務執行妨害,暴行現行犯で逮捕する.」
マイト「わかった,わかった,わかった.逮捕されるよ.」
マイトは刑事に捕まってしまった.

団地のアジトでマイトが捕まったことをタミーから聞かされた パンは弱ってしまった.パンはとりあえず様子を見ることにした. その頃,刑事はマイトを売人の仲間だと見て取調室で尋問を行なっていた. 刑事は1週間あの売人をマークして, 彼が覚醒剤の売人であることを突き止めたのだ.
刑事「とにかく調書だ.住所氏名年齢.」
マイト「名前はくー,草山コウジ,年齢は35歳. それで住んでる所は渋谷のホテルオーゼットだ.」
刑事「ホテルオーゼット?」
マイト「そう.ホテル住まいなの.」
これが刑事の心象を悪くした.
刑事「生意気だなあ.どうせ覚醒剤で儲けたんだろうが.本籍は?」
マイト「忘れちゃった.」
刑事「忘れた?」
マイトはうなずいた.するといきなり順平はマイトの右手を取り上げた.
マイト「何すんだよ.」
刑事「指紋を取るんだ.」
マイト「指紋?」
さすがのマイトも大慌て.
マイト「駄目,駄目,駄目だ.それだけは駄目だ.」
マイトは慌てるが,そこへ先輩の刑事がやってきて刑事を呼び出した.
マイト「あー,あぶねえ,あぶねえ.指紋がないなんてわかったら, ますます疑われるところだ.」
若い刑事栗田順平は単独行動が目立っていた. 先輩刑事は覚醒剤は所持しているところを押さえないと駄目だと言った. そして捜査課長の横山(早川保)が泳がせて見てはどうかと示唆したため, マイトはすんでのところで釈放された.

団地のアジトに戻ってきたマイトは城西署での件を話した. パンは大笑いだ.
マイト「冗談じゃねえよ. 若いってのはやり方が無茶苦茶なんだから融通がききゃしねえ.」
タミー「でもなんとなくわかるなあ. その坊やがムキになって怒るところはマイトそっくりだもん.」
そこへ売人を追いかけていたデジコンとドラゴンが戻ってきた. 売人は安井てつおのところへ逃げ込んだのだ. 安井てつおは二年前に牛尾組を解散し, 今は安井不動産と言う不動産屋を営んでいた. だが覚醒剤の卸元であることは間違いなかった. 密売組織の黒幕は安井じゃないかとタミーが言うと, マイトはゴッドの指令書を読むように言った.
タミー「この密売組織で扱っている覚醒剤は, 今までの覚醒剤よりはるかに安く純度も高い. おそらく国内のどこかに大がかりな密造工場があるからに違いない. また警察が必死に探索しても組織の実態がつかめない. 背後の黒幕が相当の情報網と組織力を持っていると考えられる.」
だとしたら安井が黒幕であるはずがない.
マイト「まあとにかく卸元はわかったんだ. ゴッドの指令は大至急黒幕を暴き出し, 密造工場を発見してそれを叩き潰すことだ.親父さん,次の作戦は?」
パンはマイトに大至急覚醒剤を取ってきてくれと頼んでいた.

マイトは覚醒剤を取りに来たが,そこには順平がいた.
順平「待て.」
マイト「いやあ,刑事さん.どうも.」
順平「今,取ろうとしたものを取ったらどうなんだ. こんなことだろうと思って先に来て見つけておいたんだ. やっぱりお前は薬の売人だったんだなあ.」
マイト「何かの間違いじゃないの.俺は通りすがりでね, 俺のうち,あっちなんだよ.」
マイトはごまかして立ち去ろうとしたが,
順平「とぼけるな.昼間はうまく逃げられたが,今度はそうはいかないぞ. とことんお前に食らいついて密売組織の全貌を暴いてやる.」
マイト「何かの間違いじゃないの.」
順平「黙れ!」

マイトは団地のアジトに電話して覚醒剤を順平に取られたことを報告した.
マイト「例の坊やだよ.いい気になっちまって俺から全然離れねえんだ. まるで金魚の糞だぜ.」
そういうマイトのすぐ近くに順平がいた.
パン「明日っから作戦開始だって言うのにどうするつもりだよ.」
パンが大声で叫んだので思わずマイトは受話器を耳から放した.
マイト「巻けばいいんでしょ,まけば.」
パン「お前さんの出番は明日午後一時だ. それまでに坊やを巻いて例の場所に来るんだ.遅刻は絶対許さんぞ.」
マイト「わかったよ.明日の午後一時ね.わかった,わかった.」
マイトは電話を切った.
マイト「さあ皆さん,あそこに立っている男性は私の大事なお客様だから, うーんとサービスして.さあさあ,お金はいくらでも払うよ.」
マイトは順平のところへどんどんホステスを送り込んだ.
順平「女で釣ろうったってそうはいかないぞ.」
順平が接待攻めにあっている隙に
マイト「それじゃあね,バイバイ.」
マイトは逃げ去ってしまった.

次の日.相変わらずマイトは順平に尾行されていた.
マイト「たいしたもんだぜ,あの執念深さ. よーし,どれくらいびびるか,試してみるか.」
マイトは新宿東口の路地を走り回った.順平はマイトを見失い,大慌て. 地下街を走り回って階段を上がってきた順平にマイトは声をかけた.
マイト「お貸ししましょう,1万3800円のハンカチ.」
順平「持ってるよ.」
順平は憮然としてハンカチを取り出し,顔を拭いた.この時点で11時5分前.

一方,タミー,ドラゴン, デジコンは香港から来た覚醒剤の売人達を捕まえてすり替わった.その頃, パンは安井てつおのところに覚醒剤の原料エフェドリンを持ち込み, 探りを入れた.案の定,安井の手下(沖田駿一ら)がパンを尾行してきた.

その頃,マイトはまだ順平に追いかけられていた.
マイト「そう硬くならなくてもいいよ. しかしお前さんもしつこいっていうのか,真面目って言うのか. ま,根性はある.見直したぜ,刑事さん.しかしなあ,お前さん, 手柄を立ててそんなに出世がしたいのか?」
順平「出世? そんなんじゃない.お前,覚醒剤売っていてなんとも思わないのか?」
マイト「大きな声で.」
順平「僕は…こっちへ来い.お前に見せたいものがあるんだ.」
マイト「何すんだよ.」
順平「いいから,ついて来い.」
マイト「また取り調べかい.」
順平「来るんだ.」
マイト「やだよ.やだよ.」
マイトは強引に順平に連れ出された. 連れて行かれた先は病院だった.病室には廃人になった娘がいた.
順平「彼女は僕と同い年で高校二年のとき覚醒剤に侵され, それからずっとここにいるんだ.彼女は騙されたんだ. 製薬会社のセールスマンに化けたやくざが, 受験勉強の疲れに効くからって言って無理矢理. 気がついた時には,もう手遅れだった.」
順平は思い出していた.
順平「ゆかりちゃん,君はどうして…」
順平はやくざにぶん殴られた.
やくざ「おい坊や,帰んなよ.女はてめえのことなんか知らねえってよ.」
だが順平はゆかりに言う.
順平「ゆかりちゃん,頼むから帰って来てくれ. お父さんもお母さんも君のことを心配…」
順平はまたぶん殴られた.
マイト「あの娘はお前さんの恋人だったんだな.」
順平「ちきしょう.覚醒剤を売る奴は人殺しとおんなじだ.人殺しと.」
マイトは時計を見た.1時15分前だった.
順平「これでわかっただろう.僕がどうして覚醒剤を憎むか.これで…」
順平が振り返ると,マイトがいない.マイトは順平を巻くことに成功した.

マイトはパンと合流し, エフェドリン欲しさにパンを追ってきた安井の手下を撃退した.
マイト「帰って安井に伝えろ.エフェドリン欲しけりゃ1億円持って来いとな.」
安井のところに香港からの売人に化けたタミーが接触し, 3日で10Kgの覚醒剤を売るよう依頼した.タミー達は手付金で1億円渡すという. 安井はボスに連絡を取り,身元を確認した. デジコンとドラゴンは製造を手伝うと申し出た. 安井はパンとマイトからエフェドリンを買った. マイトは途中経過をゴッドに報告してホテルで待機することにした.

その頃,順平はマイトが供述したホテルオーゼットのことを思い出していた. 一方,デジコンとドラゴンは安井達に連れられて覚醒剤の密造工場へ向かった. デジコンが発信する電波を受信し,一味を追うパンとタミー. さてマイトがホテルで待機していると順平の姿が窓の外に見えた.
マイト「あの野郎.」
デジコンとドラゴンは覚醒剤密造工場に到着. パンとタミーも密造工場の位置を突き止めた. パンは中の様子を伺ってそこが確かに密造工場だと確認した.

パンから密造工場を突き止めたと連絡を受けたマイトは窓の外を見た. 順平はまだねばっていた.
順平の声「ちきしょう.覚醒剤を売る奴は人殺しとおんなじだ.」
マイトが車に乗り込もうとすると順平が現れた.
マイト「よう,刑事さん.名前は確か順平とか言ったなあ.」
順平「栗田順平だ.それがどうした. いいか,今度こそ絶対に逃がさないからな.」
マイト「栗田順平か.いい名前だ.いいか,絶対に自分の信念は変えるな. それじゃあな.」
マイトは車に乗り込み,出て行った.順平はタクシーを拾った. マイトはわざと順平の尾行が突いたまま密造工場へ向かった. マイトは順平に昔の自分の姿を重ねて見ていたのだ. 密造工場にマイトが到着した.順平も到着した. マイトはパンとタミーと合流した. パンはマイトに作戦を説明したが,順平の姿を見かけた.
パン「なんだ,あの若いの?」
タミー「マイト,あれ,例の坊やじゃない.」
マイトはとぼけて
マイト「ホントだよ.どうしてあの野郎,ここがわかったのかなあ.」
だがパンはお見通しだった.
パン「マイト.お前さん,わざと後つけさせたな.」
マイト「馬鹿なこと言うなよ.俺はサツが嫌いなんだから.」
タミーとパンは大弱り.順平は中を探った.
順平「密造工場だ.ここだ.ここが密造工場だったんだ.」
パン「野郎,出てきやがったらとっつかまえてやる. 下手に動かれたんじゃ,作戦はパーだからなあ.」
マイト「ちょっと待ってくれよ.」
パン「なんだよ.」
マイト「奴もどうせここまで来たんだから手柄を立たせてやろうじゃないか.」
のん気なマイトにパンの怒りが爆発した.
パン「何を言ってるんだ.今警察に踏み込まれたらなあ, 工場はつぶせても黒幕はわからずじまいになるんだぞ.」
マイト「安井が捕まれば,その口から割れるさ.」
順平は外へ出た.
マイト「あら,走ってる.」
パン「勝手にしろ.」

密造工場を発見した順平は横川に電話で報告した. 報告を受けた横川はどこかへ電話した.一方,パンはぼやいていた.
パン「くそう,警察が来たらデジコン達も捕まっちまうぞ. どうする気なんだよ.」
マイト「いざというときには俺がやるよ.」
パンは呆れてしまった.
パン「頼りにしてますよ.」
順平は組織のものに殴り倒され,工場に連れ込まれてしまった.
マイト「順平.」
マイトは中に入ろうとしたが,そこへ横川が現れた.
マイト「あの野郎.」
横川は工場の中に入ると安井が横川をボスと呼んだ. 実は横川が麻薬密造組織のボスだったのだ.
横川「若造はどうした.」
安井「ご命令どおり,そこでおねんねしてますよ.」
横川は組織の解散を宣言し,順平の懐から拳銃を取り出した. そして横川は安井ら7人を撃ち殺した.デジコンとドラゴンは逃げた. 横川達はエフェドリンや覚醒剤を地下室に隠して密造工場を爆破してしまった. そして倒れていた順平に拳銃を握らせて殺人の罪をかぶせた.

順平に罪が着せられたことをハングマンは新聞で知った.
マイト「罠だ.捜査課長の罠だ.」
パン「マイト,落ち着くんだ.この事件はまだ終わったわけじゃない.」
マイト「俺のせいだ.俺があの時奴を密造工場へ連れて行かなければ, あんなことには.」
タミー「マイト.」
パン「くっそう.市民の生命と財産を守るべき警察が, それもそこの捜査課長が黒幕だなんて,絶対に許せん!」
そこへデジコンとドラゴンが情報を持って現れた. 爆破された工場跡から覚醒剤もエフェドリンもほとんどみつからなかった. あの廃工場に隠してあるに違いない.
マイト「それだけわかれば十分だ.これで順平の無実も晴らせる. よーし,横川捜査課長をハンギングだ!」

ハンギング

タミーは香港からの売人に扮し,安井から聞いたと称して GROAVAL HOTELのロビーへ来るようにと横川に電話した. タミー,デジコン,ドラゴンは現れた横川に金を返せと言った. 横川は金の代わりにエフェドリンで払う, という話をしているところへマイトから電話が.
マイト「横川さんかい.あんたが爆破した例の工場だが, 今どうなってるか知ってるかい.」
横川「何? 貴様何もんだ.」
マイト「まあいいから.こいつを聞いてみな.」
そばにはパンもいた.パンは工事現場の騒音が入ったテープを再生した.
マイト「ブルドーザーの音だよ. 廃工場を取り壊して新しいビルを建てるらしいぜ. それで今朝からブルドーザーが入って土を掘り起こしてるんだ.」
横川「何? いい加減なことを言うな.」
マイト「疑うなら行ってみるんだな.早くしねえと,あんた達が隠したもんまで, コンクリートの下敷きになっちまうぞ.ドゥワァハァハァハァハァハァハァ.」
マイトは電話を切った.横川は部下を呼び寄せ,マイトから聞いた話を伝えた. 横川は工場へ向かうことにした.

廃工場には「神山ビル建設予定地」という看板が立てられ, ブルドーザーが置かれていた.これにまんまと騙された横川達は地下室に入り, 地下室からエフェドリンを運び出そうとした.そこへ
順平「課長,黒幕は課長だったんですね.」
順平がやってきたのだ.驚く横川.
横川「順平.」
横川の部下達も地下室から出てきた.
部下「お前,どういうことだ.留置場に入ってたんじゃないのか?」
だが順平は部下の問いには答えなかった.
順平「課長,そこにエフェドリンとシャブが隠してあるのは, 組織の黒幕しか知らないはずです.違いますか?」
横川「順平.」
順平「違うなら,違うって言って下さい. 課長が黒幕だなんて僕は信じたくないんです.」
横川は無言だ.
順平「課長.答えてください.7人を殺したのも課長なんですか.」
横川は笑った.
横川「そのとおりだ.順平,お前はまだ若いなあ. 刑事で一生を終えてどうなる.世の中金だ.金が全てだ.」
そう言って横川は笑った.
順平「課長.」
横川「順平.」
横川は拳銃を順平に向けた.
横川「死んでもらうぞ.」
順平は悲しそうな顔で応えた.
順平「課長.僕を殺してももう逃げ切れはしません.周りを見てください.」
横川達は周りを見た.横川達の周りを警官隊が取り囲んでいた!
横川「順平.」
横川は拳銃を下ろした.そして連行されていく横川達を黙って順平は見送った. その様子を盗み見ていたタミーとパンとマイトは言う.
タミー「マイト,あの坊や刑事を辞めるんじゃないかしら.」
パン「かもしれん.尊敬していた課長が黒幕だったんだからなあ.」
マイト「野郎は絶対に刑事を辞めねえ.辞めやしねえよ.」

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp