第四十四回

男性避妊薬の人体実験を暴く
人狩り村に潜入せよ

脚本:田上雄 監督:帯盛迪彦

とある化学研究所.またも人体実験が失敗. 化学者は死体を解剖して原因を探ることにした.

さて,ここは田沢村のハイキングコース. よういちとよういちの彼女は二人でハイキングをしていた. 湖が見えるなど景色はきれいだ.それを農夫が見ていた. 農夫が無線機を取り出した.
農夫「こちらE地点からB地点.こちらE地点からB地点.返事しろ.」
「この先土砂崩れの為通行止 田沢村役場」の看板のそばに, 男(イッセー尾形)がいた.
男「はい,こちら田沢村役場農林課係長…じゃない,B地点.感度良好ですよ, どうぞ.」
農夫「条件にピッタリのカップルが,今そっちへ向かったぞ.急げ.」
男「了解,了解.早速作戦開始します.以上.」
男は看板を「ロマンチックプロムナード」と書かれた看板に取り替えた. そこへカップルがやってきた. 看板をみたカップルは「ロマンチックプロムナード」の方へ歩いていった. するときれいな庭が.カップルは抱き合った. そこへ男達が現れ,カップルを袋に詰めて抱えていった.

調査開始

ある晩,ゴッドのオフィスにパンがやってきた.
パン「相変わらず陰気な部屋だ.」
パンが鐘を鳴らしてお経を唱えると部屋が暗くなり,映写機が作動した.
ゴッドの声「田沢高原.東京から車で三時間. 昔からハイキングに適した観光地として名を売っている.」
パン「知っております.生前娘を連れて行ったことがありますから.」
ゴッドの声「ところが最近ここで奇妙な事件が続発した. ハイキングに出かけた五組の若い男女が次々に行方不明になったのだ. 無論警察が捜査をしたが手がかりは皆無. 現地では神隠しの噂さえ飛んでいると言う.」
パン「神隠し?」

団地のアジトにハングマンが集合した. パンは若いカップルを仕立てることを発案した.
タミー「カップルったって女は私一人.」
パン「どうする?」
マイト「僕ちゃんは駄目.」
タミー「あたしとペアーを組むのはお嫌?」
マイト「山の中を女の子とてくてく歩くのは俺に似合うわけないだろう!」
ドラゴン「ボクモダメ.No, thank you.」
パン「決まったな.」
デジコンは大慌て.
デジコン「ぼ,僕は駄目ですよ.ちょっと待って.」
マイト「ゴッドの命令だ!」

ある部屋の中でよういちが誰もいないのかと扉を叩いていた. だが女の方は諦めていて,やめなさいよといった.扉には鍵がかかっているし, 窓もない.閉じ込められてからまる一日が経っていた. そこへ機械によって食事が運ばれてきた.

一方,デジコンとタミーは田沢村に向かっていた. 失踪した5組のカップルに特別な共通点はなかった. 失踪する理由もなかったし,失踪してから身代金を要求された事実もなかった. よういちと女は一ヵ月後に結婚を控えていた.

その頃,よういちと女はテレビで情事を見せられていた. よういちは女との情事を嫌がっていた.いつもよういちの方から求めてくるのに, よういちはセックスが嫌になったと叫んでいた. その様子は隠しカメラで撮影され, 冒頭の化学研究所のモニターで映し出されていた. 突然,よういちは苦しみだした.女が戸を叩くと化学者達が入ってきた. そしてよういちは死んでしまった. 化学者達は女に毒薬を注射して殺してしまった.また人体実験は失敗したのだ.

田沢村役場の係長に村長から電話が入った. また人体実験用のカップルを調達しろというのだ. 係長の正夫は渋ったが,首を持ち出されたので承諾した. 正夫は女子職員とのデートを断る羽目になった.

デジコンとタミーは田沢村ハイキングコースの入り口に到着した.
デジコン「警察の調査によるとこの辺が失踪の現場らしい.」
タミー「それじゃあ,あたし達もせいぜい仲のいいカップルに見せなくちゃ.」
この期に及んでもデジコンは乗り気ではない.
デジコン「ああ.」
タミーはデジコンの腕に捕まった.
タミー「仕事,仕事.」
デジコンとタミーはハイキングコースを進んだ.それを農夫が見つけ, また係長の正夫が看板を取り替えた. 取り替えた直後にタミーとデジコンが到着した.
タミー「あら,ロマンチックプロムナード?」
デジコン「なんですか,これは?」
正夫「書いてあるとおりですよ. お宅たちのように仲の良いカップルにはピッタリのコースですよ.」
タミー「何か特別な趣向でも?」
正夫「それはもうムード満点.ABCでE気持ち.」
本放送当時,今は亡き沖田浩之さんが「ABCでE気持ち」という歌を歌っており, はやっていた.デジコンとタミーはコースを進んだ. そしてあのきれいな場所に到着した. デジコンは茂みの中に恋人がいるのを気配で察した. デジコンとタミーはわざと抱き合った.そこへ男達が襲ってきたが, タミーとデジコンに撃退されてしまった. タミーは正夫の姿を見つけて後を追いかけたが,逃げられてしまった. だが正夫が落とした身分証明書を拾い, 彼が田沢村役場農林課係長武田正夫であることを知った.村長の名前は田所陽一. 一方,デジコンは男達がペンションりんどうに入り込むのを目撃した. そして男達が社長(入川保則)と村長の田所に報告している様子を外から覗いた. 社長は車で立ち去った.

デジコンはマイトに連絡し,社長の車のナンバーを調べてもらうよう手配. そしてデジコンとタミーは問題のペンションに泊まることにした. マイトから武田正夫の名前を聞いたパンは何か知っている様子だ. だが,マイトの問いには応えずにパンは出て行ってしまった. 一方,デジコンとタミーはペンションに泊めてくれと頼んでいたが, ペンションの従業員は予約がないことを盾にし,渋っていた. そこへ田所が現れ,身分を証明するものはないかと聞いた. デジコンとタミーは偽造した城西デパート社員証を出し, 加藤良一と桑島富子と名乗った.田所は宿泊を許可した. デジコンとタミーを部屋に通した後,田所は身分証明書の真偽を確かめ, 偽者だったら始末するよう部下に命じていた.

車の調査結果が出た. マイトがゴッドのオフィスでテープと映写機による説明を聞いた.
ゴッドの声「問い合わせの件,調査結果を伝えよう. まず品川33や-5316の車は東京目黒に本社を持つ, 香月生薬株式会社の社長香月浩一郎の専用車だ. 香月生薬はもともと生薬の製造を通信販売を専門とする小規模な会社だったが, 最近は新しい薬の研究開発にも着手.その勢力を伸ばしてきた. 噂によれば近く画期的な男性避妊薬を発表するそうだ.」
マイト「男性避妊薬か.僕ちゃんはカットしてあるから関係ないけど.」
ゴッドの声「次にもう一つの問い合わせだが, 田沢村役場に勤務する武田正夫なる人物の素性を調査した結果, 意外な事実が判明した.」
マイト「意外な事実?」

マイトはドラゴンと一緒にパンの住むアパートを訪れたがパンはいなかった. パンは田沢村へ行ったに違いない. 正夫はパンの妹の息子でジャーナリストの夢を諦めて田沢村の職員になった. 田沢村へ向かう車の中でパンは回想する.
正夫「だけどねえ,希望には燃えてんだ.」
パン「希望に燃えてるって,役場の仕事にか?」
正夫「田沢村ってのはさ,過疎で貧乏でどうしようもない田舎なんだけど, 中央からの工場誘致が成功すればさあ,もっともっと発展すると思うんだよね. そうすればさあ,農家の人が出稼ぎなんかしなくても済むようにさあ, 俺せいいっぱい頑張るつもりだからさあ.」
パン「はあ,びっくりしたなあ.正夫,お前,たまにはいいこと言うんだなあ. おじさん,見直したよ.」
正夫「またそうやっておだてる.」
パン「いやいや本当だよう. いやなあ,気の弱い子で先々どうなることかと案じてたが 今の言葉聞いておじさん本当びっくりした.良かった,良かった. これでさぞかし亡くなった母さんも喜んでいることだろう.」

その晩,ペンションりんどうの中をデジコンとタミーが調べていた. デジコンとタミーは隠し扉を発見. タミーがフロント係から掏り取った鍵で扉を開け,中に入った. そこは化学研究所だった.なにやら蒸留し,実験用の猫や犬がいる. 別室はよういち達が死んだ高級ラブホテルのような部屋だった. デジコンは隠しカメラのレンズを発見. そして別室を覗くとそこは解剖室で陽一と女の死体が寝かされていた. デジコンとタミーが外から戻ると田所が現れ,身分証明書を調べたと言った. 加藤良一と桑島富子は確かに城西デパートの社員だったが, 二人とも東京の自宅にいた.デジコンとタミーは逃走した. 二人はライフルで狙われた.

次の日. 香月生薬をマイトとドラゴンがマラレシア大使館のものと称して訪れた. マイトは通訳,ドラゴンは一等書記官と称して香月と会った.
香月「どういうご用件で?」
以下,ドラゴンが何か喋るのをマイトが「通訳」した.
マイト「ご承知のように,わが国では人口増加に悩んでおります. 国家としては国民に産児制限の教育を施してはおりますが, 植民地時代に根付いた宗教が災いして効果があがらないのが現状でございます.」
香月「ほう,なるほど.それで?」
マイト「そこで政府としては人口爆発を抑制するために, 国家予算を5%つぎ込むことに大決定いたしました.シェイシェイ,サイツェン. つまり社長のご意見を参考にしたい,そう一等書記官は申し上げております.」
香月「あの国家予算の5%と申しますと,どのくらいになるのでしょう.」
マイト「つかみでざっと300億になります.」
香月「300億! それは是非とも私どもに協力させていただきたいものですなあ.」
マイト「ほう,と言いますと何かいい方法が?」
香月「実はですね,現在わが社で極秘裏に開発しております新薬がございます. これは元々性犯罪の予防および性的異常者の治療に用いるものなんですが, たった一度服用するだけで生涯男性の性衝動を, つまりその気をなくさせる,こういうもんでございます. しかもですね,薬の方は無色透明無味無臭. ですから食べ物や飲み物に混入しても気がつきません. ま,しかし今のところ多少の副作用があるようですが, ま,まもなくこの難点も解消されまして大量生産に踏み切れるものと, 私どもは確信いたしております. 新薬の名前はダメニナールとまあ考えております.」

さて正夫は女子職員に帰りにいつものモーテルで待つように言っていた. その直後,パンが正夫の肩を叩いた.
正夫「おじさん!」
パン「おじさん? 僕は君と初対面だよ.」
正夫「あ,そうか.おじさん,死んじゃったんだっけ. しかしよく似てるなあ.」
パン「は,は,そんなに似てるかね.」
パンは興信所の岸本米三と称して正夫を食堂に連れ出した. なぜ自分に目をつけたのか不審に思った正夫に, パンは正夫の身分証明書が現場近くに落ちていたことを伝えた. 正夫は無関係だと否認したが,本当かねというパンから目をそらした. そして正夫は帰ろうとしたが,パンに制止された.
パン「君はねえ,悪い人間じゃないということはよーくわかってるよ. 人間って言うものは時には悪い奴の言いなりになることもある. 今からでも遅くない.奴らと手を切るんだ. 亡くなられたおじさんだって,きっとそれを願ってるよ.」
パンは勘定を支払って去って行った.

正夫は田所に身分証明書の件を報告した.田所は正夫に身を隠すことを指示した. 田所は例のペンションへ行くことを指示.正夫はペンションへ向かった. その頃,デジコンとタミーは農家に逃げ込んでいた. デジコンとタミーは農婦に水をもらい,ハイキングコースへの道を聞いた. だが農婦は田所の仲間だった. デジコンとタミーがハイキングコースの入口へ出た瞬間に村人達から狙撃された. そこへマイトとドラゴンが到着.マイト達は村人を撃退した.

その頃,ペンションの例の隠し部屋に正夫がいた.正夫は食事をとっていた. そこへ正夫の恋人のよし子がやってきた. よし子はベッドに寝て正夫に情事を促したが, 正夫は急にその気がなくなったのだ. 実は正夫は知らないうちに人体実験の実験台にされていた. よし子は怒って帰ってしまった.不審に思った正夫は出されていた食事を見て 「ダメニナール」のことを思い出した.怒った正夫は研究室へやってきた. 正夫は田所につかみかかったが化学者は冷静に時間を計っていた. 二分経っていたが正夫は全く苦しまなかったのだ.
化学者「実験は成功だ.」
その言葉を聞いた正夫は逆上し,警察で何もかも話すと言って外へ向かった. 正夫の後を田所達が追った.正夫は田所の部下に撃たれてしまった. 怪我を負って自転車に乗っている正夫をパンが発見した. パンの目の前で正夫は倒れてしまった.
パン「武田君,武田君,しっかりしたまえ.武田君,しっかりするんだ.」
正夫「畜生.ひでえ.」
パン「誰にやられた.」
正夫「村長の田所.あいつは俺を生体実験に使いやがった.」
パン「なんだって?」
正夫「俺農家の人のために働こうと思ったのに,ああ, これじゃあ,あの世行ってもおじさんに会わす顔ないや.」
パン「何を言うんだ.おじさんはいつも君のことかわいいと思ってるよ.」
正夫「俺,やっぱり弱かったんだよな.」
そう言って正夫は事切れた.パンは怒りに燃えていた.

ハンギング

研究所では香月が化学者から実験成功の報告を受けていた. 後は量産体制に入るだけ. 村長は村に工場を作ってもらうために香月に協力していたのだ.一同は大喜び.
マイト「ところが世の中,そうはうまくいかねえんだよ.」
香月「誰だ?」
マイトとドラゴンが入ってきた.
香月「あなた達はマラレシア大使館の…」
マイト「というのは真っ赤な嘘.あれはお前さんに口を割らせる芝居さ.」
タミー,デジコン,パンも入ってきた.
香月「なんだと?」
田所「いったい何者だ,お前達は?」
デジコン「俺達はハングマン.」
タミー「あんた達のような悪人を制裁する死刑執行人よ.」
香月「ふざけるな.おい,やれ.」
香月は部下にハングマンを襲わせたが,全員捕まってしまった.

次の日.高原の道路で香月達は腰に白い筒をつけさせられていた.
香月「俺達をどうしようっていうんだ.」
マイト「これから皆さんにハイキングをしてもらう.」
田所「ハイキング?」
タミー「ただし駆け足でね.」
マイト「歩いたり休んだりしたら,おなかのこれがこのとおりだよ.」
マイトが白い筒を放り投げると白い筒はデジコンのリモコンスイッチにより, 爆発した.香月達はびびりまくった.
マイト「わかったなあ.さあ.」
ハングマンは車に乗った.
パン「さあ行くんだ.死ぬまで走りつづけるんだ.」
横一列に並んだ3台の車に追いかけられ,香月達は走り始めた. しばらく香月達は走っていたが,ついに倒れこんでしまった.
マイト「誰が休んでいいと言った!」
デジコン「どうした,走らんのか?」
ドラゴンがなんか言った.
パン「ダイナマイトでぶっとばされたいかって言ってるんだよ.」
だが香月達は息が上がってしまい,立ち上がることさえできなかった.
香月「頼む.水,水をくれえ.」
化学者「水を,水を.」
マイト「だらしがねえ奴らだ.タミー,飲ましてやれ.」
タミーが水筒を見せると香月達が近寄ってきた. そして水筒の水を先を争って飲み始めた.それを見てから
パン「断るの忘れてたけどなあ,その水の中に例の薬が入ってるんだよ.」
それを聞いた香月達の表情が凍りついた.
化学者「例の薬って…」
香月達は水筒を捨てた.
タミー「そう.あなた達が開発した新薬,無色透明無味無臭. だから気がつかなかったでしょ.」
香月達は口をあんぐりするだけだ.
マイト「これでお前さん達は永久にセックスの楽しみを失ったわけだ.」
香月達は一生懸命水を吐き始めた. パトカーの音を聞きながら,ハングマンは車で去って行った.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp