第三十七回

横領のからくりを暴く
悪のカゲに浮気妻あり

脚本:石松愛弘 監督:小西通雄

とあるホテルで男(清川新吾)と女(風間舞子)が情事にふけっていた. そこへ女ちか子の夫が現れた.男は夫が勤める商社の副社長. また男は会社の社長の息子でもあった. 副社長は夫が病気で休職中であることをたてに開き直った. そこへ別の男がやってきて夫をたたき出してしまった. 夫は激怒し,副社長が行なっている土地転がしなどの悪事を公表してやる, と叫んで帰った.だが夫は「焼身自殺」により黒焦げの死体になってしまった.

調査開始

団地のアジトでパンが指令を説明した. 事件は長年の病気を苦にした吉井の自殺と片付けられたが, 実際は邪魔になった吉井を抹殺するため, 吉井の妻ちか子と関係のあった日東総合の副社長黒沼が仕組んだもので, 手を下したのは元暴力団京浜会会長戸倉一平(五味龍太郎)配下の者と考えられた. 吉井の死後,ちか子は黒沼の資本で, 中高年用の健康維持を目的にした会員制健康クラブ京神クリニックジムを設立. 自分がジムの事務長におさまった. ゴッドの指令は黒沼とちか子と戸倉の仮面を引っ剥がして葬り去ること.

ある晩.マイトは京浜会の息のかかったクラブにいた.
マイト「あー,さすがミスナイトクラブだなあ.おい.」
マイトはその店の No. 1 夢子ちゃんと No. 2 月子ちゃんを両脇に抱えていた.
マイト「さすがだねえ.」
オーナー(堀礼文)「まあ,せいぜい楽しみなよ.」
マイト「ありがとう.」
オーナー「俺はこれから出入り行って来るからよ.」
マイト「兄貴,出入り.」
オーナー「そう.はばかりよ.」
マイトは網走帰りと称して店に潜り込んでいた. オーナーは戸倉にマイトを紹介したのだ.

翌日. オーナーはマイトに, 日東総合ビルから出てきた初老の男(村田正雄)を殺すよう指示した.
オーナー「あの男だ.」
マイト「年寄りじゃないですか.なにやらかしたんです?」
オーナー「余計なこと聞かなくていい.」
マイト「いつやるんですか?」
オーナー「おめえ次第だ.」
マイト「腕がむずむずしてくる.手っ取り早くやりましょうや.」
マイトとオーナーの乗る車の後ろには, タミーとドラゴンの乗る車がぴたりとつけていた.またパンが変装していた. 男を追いかけてマイトとオーナーの車が発進すると同時にタミーの車も発進した.

その夜.男をはねるためにオーナーの合図でマイトの車が発進. ドラゴンと変装したパンも準備 Ok だ. マイトの車が突っ込むと同時にパンが男を跳ね飛ばし,ドラゴンが宙返り. マイトとオーナーが駆けつけると変装したパンが倒れていた.
オーナー「やったなあ.」
オーナーは見事に騙された.
マイト「まだ仕事はすんじゃいねえ.兄貴,手貸してくれ.」
オーナー「そうだなあ.」
マイトとオーナーは車を走らせた.
マイト「兄貴,やりますか.」
オーナー「よーし.」
オーナーはトランクを開けた. トランクにはパンが寝かされていた.
マイト「兄貴,俺が足の方を持ちましょう.」
オーナー「御苦労.」
オーナーとマイトはパンをドラム缶のところへ運んだ.
オーナー「おい,頭から入れるか?」
マイト「足からでしょう.」
オーナー「なるほどな.」
オーナーとマイトはパンを足からドラム缶に入れた.
オーナー「おーお,コンクリート詰とは考えたなあ,おめえ.」
マイト「死体が見つかっちゃあ,まずいでしょう.」
オーナー「おう.」
マイト「兄貴,エンジンを.」
オーナー「キーは?」
マイト「俺にやることだ.抜かりはねえですよ.」
オーナー「おいしょ.」
オーナーはミキサー者の方へ走っていった. 運転席に座ったオーナーは恐がっていた.
オーナー「あの野郎,顔に似合わねえおっかねえ野郎だな. おら,おっかねえよー.」
オーナーはエンジンを入れ,ミキサー車をドラム缶に近づけた.
マイト「兄貴,こっちは俺に任せてくれ.Ok!」
ミキサー車からドラム缶にコンクリートが入れられた.
マイト「天にまします我らの神よ.アーメン.」
ドラム缶がコンクリートでいっぱいになった. オーナーが運転席から顔を出すとマイトは高笑いしてみせた. なおパンは一足先にドラム缶から出ていた. マイトはドラム缶を海岸へトラックで運ばせ, ドラム缶を海の中に捨ててしまった.

団地のアジトには命を狙われた男とパンがいた. 男の名は西山.パン,デジコン,タミー, ドラゴンは消されようとした理由を西山に聞いた. 西山は副社長かもしれないと答えた. 黒沼は無理をしていて会社の運転資金を各方面にばら撒いていた. 西山は経理部長で黒沼に協力していたが, それも限度を越えようとしていてどうしようか悩んでいたのだ.

翌日.戸倉とちか子にマイトが紹介されていた. マイトはちか子に声をかけた.
マイト「おお.フランスの車にフランスの洋服. 持ってまいりましたフランスの香水.パリ,モンマルトル,エトワール, シャンゼリゼ.♪オー,シャンゼリーゼ.マダム.」
マイトは車の戸を開けた. マイトの暴走ぶりを見かねた戸倉の部下がやめんかと駆け寄ったが, ちか子はマイトを気に入り,車のキーを投げた.
マイト「メルシー.サンキュー.」
マイトの運転でちか子は去って行った.
戸倉の部下「あの男.」
戸倉「只者じゃあ,なさそうだな.気をつけろよ.」

車の中でちか子は演歌をかけた.
マイト「姐さん,演歌好きなんすか?」
ちか子「好きよ.」
マイト「案外古風なんですねえ.」
ちか子「ちょっと口数が多いんじゃないの?」
マイト「あっしの場合,クラッシックが好きですねえ. ベントーベンとかシャンパンとかねえ.」
なおもマイトは車を走らせ,ちか子を高級マンションまで送った.
マイト「マドモアゼール.」
ちか子は車から降りた.そこへ男が登場した.
男「結構な車だねえ.お住まいもご立派.兄貴といた団地とは大違いだな.」
男は吉井の弟だったのだ.
ちか子「そんなことをわざわざ言いに来たの?」
吉井の弟「死んだ兄貴に代わってやってきたのさ.」
吉井の弟はナイフを取り出した.マイトはちか子をかばい,弟を捕まえた.
マイト「下手な真似すると兄貴の二の舞になるぜ.」
マイトはオーナーの監視がついていることを示唆した.
マイト「こんだあ生かしちゃおかねえからなあ,この野郎.」
マイトはわざと弟をたたき出してマンションの中に入った.

ちか子の部屋でマイトは治療を受けていた.
マイト「痛いーん! 僕ちゃん,怪我するとねえ, 子供みたいになっちゃうんだもん.」
ちか子「案外弱虫なのね.」
マイト「チューしてくれると治るかもしれないんだけどな.」
マイトはチューしようとしたが,ちか子にビンタされた.
マイト「それが好き!」
ちか子は上着を脱いだ.
マイト「お脱ぎになるんですか? それが一番好き.お手伝いしましょう.」
そこへ黒沼がやってきた.
黒沼「なにをしてるんだね?」
ちか子「今,襲われたのよ.吉井の弟に. この人がいなかったら,あたしが殺されてたわ.」
すかさずマイトが自分を売り込む.
マイト「俺を運転手にどうです? 用心棒でも. 役に立ちますぜ.マダム,ジュテーム,エトワール.」
ちか子「ウィー.運転手で我慢しなさい.」
マイト「シャンゼリゼ!」
黒沼「出て行け!」
マイト「アディオス,サルマターノ.
マイトは出て行った.

新聞では西山が失踪したと報じられていた.使途不明金は一億八千万円. 西山の妻に戸倉が立ち退きを強要しにやってきた. 戸倉の部下(堀田真三)は, 西山が明るみに出ているだけでも二億三千万円も使い込みをしている,と言い, 弁償を強要した.そこへ西山の娘(竹井みどり)がお茶を持って入ってきた.
オーナー「気をつけろ,アマ.」
だがオーナーはぶつかったのが西山の娘だとわかると態度が一変.
オーナー「ああ,ここんちのお嬢さん.気をつけないと駄目よ. ああ,きれいなお嬢さん.」
戸倉が権利書を見せろと要求したところへデジコン登場. デジコンはオーナーを撃退. さらにデジコンは西山の使い込みが濡れ衣だという証拠, すなわち帳簿の写しを持ってきていた.

戸倉から帳簿の写しを見せられた黒沼はビックリ. これは裏帳簿の写しだったのだ. その頃,デジコンに西山の娘は西山の行方を聞いていた. デジコンは何も知らないと白を切った. 西山の娘は尚も西山が生きているかどうか食い下がったが, デジコンは答えなかった.

その日の晩.戸倉達は金庫を出して裏帳簿を始末しに来た. その時,社屋の配電盤をそこへデジコンが操作. ドラゴンが戸倉達から,裏帳簿を奪って逃げた. そのことを聞いた黒沼は怒り狂った. 戸倉は帳簿を取り返すことを誓うのであった.

その直度.ちか子のマンションを訪れた黒沼は, エレベーターで吉井の弟に脅された.その後, マイトがちか子を乗せてやってきた.
マイト「姐さん,部屋までお送りしましょう.」
ちか子「結構.」
マイト「近頃,エレベータも物騒ですから.」
ちか子「あなたと一緒のほうがよっぽど物騒だわ.」
マイト「姐さん,あっしに気があるんですか? カトリーヌ・ドヌーブに似てますねえ.」
ちか子とマイトが部屋を見上げると明かりがついている.
マイト「副社長がお待ちかねですか.あっしも少し妬けますねえ.」
ちか子「Be silent.」
ちか子は投げキッスした.
ちか子「Again, tommorrow.」
マイトはちか子を見送った後,舌を出した.

部屋に入ったちか子は縛られている黒沼と吉井の弟を見かけた.
ちか子「英二さん.」
英二「あんたは兄貴を殺して男をこいつに乗り換えただけじゃないか. 墓の下で兄貴がどんな思いをしてることだか.」
ちか子「英二さん,まだそんなことを言ってるの? あたしが吉井を殺しただなんて.あたし達がどんなに愛し合って結婚したのか, あなたが一番良く知ってるんでしょう?」
ちか子はいけしゃあしゃあと言い放った. だが英二にはこの言い訳は通用しなかった.
英二「ああ,よーく知ってるよ.あんたは贅沢好きの女で, 安サラリーマンの暮らしにはすぐに飽きちまったってことはなあ.」
ちか子は開き直った.そして服を脱いで自分から先に殺せと言った. そのとき,英二に隙ができた. その隙をつかれて逆に英二はちか子に刺されてしまった.

その頃,マイトがマンションの通路を歩いていると, 走ってきたオーナーにぶつかってしまった.
マイト「あにさんも呼ばれたの?」
オーナー「おお,お前もか?」
マイト「あっしの場合,頼りにされてるんでさ.」
オーナー「うーん,そうだなあ.」
マイトは呼び鈴を押した.
マイト「シャベルのマサです.」
オーナー「スコップの鉄です.」
マイト達は通された.ちか子が立って待っていた.
マイト「オイエトワール.」
オーナー「エトワール.」
ちか子「ボンソワール.」
ちか子はマイトとオーナーに英二の始末を命じた.
マイト「まだ息がありますよ.」
早速マイトとオーナーは英二の「死体」を抱えて非常階段を降りた.
オーナー「なんだか未だあったけえなあ.」
マイト「息の根止めたんだ.もうじき冷たくなるさあ.」
オーナー「こんなお前,生ぐせえもん.おめえよく平気で.ウッ.」
オーナーは吐きそうな様子だ.
オーナー「いい度胸してるよ.」
マイト「おらあよう,網走にいるときにはよう, シャベルのマサって呼ばれてたんだ.女事務長さんほどじゃねえけどよう.」
オーナー「ホント.」
マイト「やべえからなあ.早く行こう.」
マイトとオーナーは英二の「死体」を車のトランクに入れた.
マイト「さあて,後始末はどうするか.良かったら兄貴,俺一人でやるぜ.」
オーナー「おおそうか.すまねえなあ.」
度胸のないオーナーは大喜び.
マイト「兄貴のおかげでこの職にありつけたんだい. みずくせえこというなあ.」
マイトは泣きながらオーナーをビンタした. そしてマイトは一人で車を病院へ走らせた. 降りた途端,戸倉の部下に拳銃を突きつけられた.
戸倉の部下「なにしてるんだ.」
マイトは周りを取り囲まれていた.
マイト「これはこれは皆様おそろいで.どうもよろしくお願いします.」
戸倉の部下「野郎,病院に連れ込むはらだったなあ.」
マイト「病院,病院なんか…あった!」
この冗談は通用しなかった.
戸倉の部下「ふざけるな.」
マイトはおもいっきりぶん殴られた.

マイトは車で連れ去られた.そして, 前の晩に日東総合で裏帳簿を取っていた奴らの仲間だな, と戸倉の部下に脅されたが,マイトはだんまりを決め込み, モールス信号を送った. デジコンとドラゴンの車がマイトのモールス信号を受信し, 後を追いかけた.マイトの車は甲州街道を日野の方へ運ばれた. そしてスクラップ場でスクラップにされようとしていた. だが無線の不調でデジコンの車は信号を受信できなかった. マイトの車がついにスクラップにされようとしていた. 間一髪というところでマイトは配電盤を破壊.車から脱出し, 駆けつけたデジコンとドラゴンとともに戸倉の部下を倒した.

団地のアジトでハングマンは裏帳簿を西山に確認した. タミーは西山の娘さなえをマーク.予想通り,オーナー達が手を伸ばしてきた. タミーはタクシーを拾うが,タクシーの運転手も西山の部下だった. 西山の部下は裏帳簿を要求した.マイトの怒りが爆発した. 裏帳簿を持って出ようとした西山を一生懸命パンは止めた.

ハンギング

指定された時間.西山は指定された場所に現れた. 西山が戸倉の部下と会っている頃, デジコンは消防署のものと称して指定されたホテルに潜入し, 配管を細工した.部屋には黒沼,ちか子,戸倉もいた. 西山は娘のことを聞くが,部屋には西山の娘はいなかった. 西山は戸倉の部下に気絶させられた.黒沼は裏帳簿を取り返して一安心したが, 直後に黒沼,ちか子,戸倉,戸倉の部下は, デジコンが配管から流したガスで全員眠らされてしまった.

気がつくと黒沼,ちか子,戸倉,戸倉の部下は体育着に着替えさせられ, 縛られて体育館で寝そべっていた.
黒沼「何だ,お前達は?」
ハングマンは無言だ.
ちか子「どういうことよ,これ.何とかおっしゃいよ.」
マイト「その節はどうも.」
マイトの挨拶にちか子は激怒した.
ちか子「いったいなにが欲しいのよ,あんた達. お金? いくら出せって言うの?」
答えの代わりに黒沼達はヘッドホンをさせられた.
マイト「これから皆さんが大変お喜びになるものをお見せしよう. あれを見ろ.」
銅像にヘッドホンがされていた. デジコンがリモコンのスイッチを押すと銅像の頭が爆発した. 黒沼達はびびりまくった.
デジコン「正直に質問に答えないと今のように爆発してあんた達の頭は粉々だ.」
マイト「じゃあ,テストしよう. 第一問.西山さんの娘さんはどこにいる?」
答える者は誰もいなかった.
マイト「みなさん,どうしました.不機嫌な顔して. 答えは待ったなし.スイッチ.」
デジコンがスイッチを押そうとした瞬間,
ちか子「待って.地下室よ.」
マイト「そう,それでいい.」
マイトはリモコンをデジコンから受け取り, デジコンは西山と一緒に地下室へと向かった.親子は抱き合って喜んだ.その頃, 上では
マイト「皆さん,お若いのに体の線がかなり崩れているようだ. 少し運動して,刑務所へ行っても困らないようにやってもらいたい. それでは,トレーニングを始める前に注意を与える. まず,止まったらヘッドホンが爆発するよ.それから,掛け声を出してやること. チチパッパ,チチパッパ.よーい,スタート.」
マイトの掛け声で戸倉は重量挙げ,戸倉の部下は分銅あげ, 黒沼は背筋の運動,そしてちか子は腰の運動を開始した.
マイト「どうしました? チチパッパが聞こえませんよ.」
黒沼達はチーチッパッパと声を出し始めた.物凄く間抜けな光景だ.
マイト「そうそう.ちか子!」
小声だったちか子は大声で叫び始めた.ふと気づくとハングマンの姿がない. 黒沼達は手を止めたが…
マイト「そうか.スイッチを入れよう.」
ヘッドホンからマイトの声が聞こえたので運動を再開した. そこへ日東総合の社員達がやってきた.
黒沼「何だ,何だ,何だ,何しに来た.」
専務「副社長のお話があるから,ここへ集まれと伺いました.」
びっくりした黒沼は思わず手を止めたが…
マイト「やめると爆発するぞ!」
黒沼はチチパッパと言って運動を再開した.
デジコン「じゃあ始めようか. まず西山さんに命じた裏帳簿作成の経緯から正直に.」
黒沼「ああ,言う.私は西山に裏金作りを命じた.とりあえず二億円. その二億円はこのちか子の事業のためでそもそもこの女が」
ちか子「なに言ってるのよ.一緒にやろうといったのはあんたじゃない.」
黒沼「そのからくりを知った西山を殺せといったのはお前じゃないか!」
ちか子「それに失敗して裏帳簿を取られ,西山の娘を誘拐させたのは誰なのよ.」
黒沼「うるさい! 駄目だ.助けてくれえ.もう,もう駄目だ.」
黒沼達を社員達は見つめていた.そしてパトカーが駆けつけるのであった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp