第三十五回

「偽ハングマン」と対決する
にせハングマン壊滅作戦

脚本:長野洋 監督:帯盛迪彦

暴走族が町を闊歩していた. あまりにうるさいのでマイトが文句を言いながら外を覗いた. が暴走族の連中はショットガンで全員射殺されてしまった. 新聞は「暴走族 射殺さる」「射殺」と報じた. マイトは翌朝,射殺事件をテレビのニュースで知った. テレビのインタビューで
女の人「殺されたのはとてもかわいそうだと思うんですけれど, これで少しはおとなしくなるんじゃないんですか.」
それを見て,偉そうにマイトが言う.
マイト「しかし大人も彼らのエネルギーを違う方法で発散させてやることを, 考えてやらにゃあいかんぞ.」

ゲームセンターではドラゴンが遊んでいた. そこへパンが無邪気に遊んでいるなあとやってきた. パンとドラゴンは愚連隊三人組が女を無理矢理連れ出すのを見かけ,後をつけた. だがいつのまにか愚連隊は襲われ,カンフーで殺されてしまった.
パン「凄い使い手だなあ.」
新聞は「愚連隊三人組 襲われる」「襲われる」と報じた. テレビのインタビューでは
男の人「はっきり言って胸がスーっとしましたね. 警察じゃ,あの程度のことじゃなかなか取り締まってくれませんからね.」

デジコンとタミーが車を運転していると, 乱診乱療で噂になっている病院が火事で燃えているのに出くわした.
タミー「大変.病院だったら入院患者がいるじゃない.」
タミーの懸念どおり,この放火によって三名焼死した.

調査開始

一連の事件についてラジオが特集を組んでいた.
評論家「これは要するに天誅ですな.」
司会者「天誅と?」
団地のアジトでハングマン達もそのラジオを聞いていた.
評論家「あんたら若いもんにはなじみのないかもしれんけど, 天に代わりて不義を討つ.ようひかえていえば,警察がようやってくれんことを, 何者かが代わりにやったるってことやねえ.その証拠にほれ, やられたんは皆世間の嫌われ者ばっかりやないけ.」
司会者「しかしですねえ,死んだ人の中には何の関係もない, 入院患者も含まれているんですよ.」
評論家「いや,だから,私は何もこの者のやっとることを認めるとは言うとらん. けど一般市民の胸の内は,はっきり言うて,ざまあみろって, いうことやないかねえ.まあ言うならば,この者は,そうですな, 英語でしゃれて言うとハングマン.」
司会者「ハングマン?」
評論家「ま,早い話が民間の死刑執行人や.」
マイトはラジオを消した.
マイト「あいた.名前を取られちまったよ.」
パンは憤慨した.
パン「冗談じゃねえよ. 俺たちはむやみやたらと人を殺したりなんかしねえからなあ.」
タミー「もちろんそうだけど,それにしても気味が悪いわ.」
デジコン「そう.まるで我々と同じようなことを. それも情け無用でやった上,世間の喝采を浴びる奴が現れたんだからな.」
マイトが呑気に言った.
マイト「これからはハードボイルドが受ける時代になってきたのよ.」
パン「ハードボイルド?」
マイト「そのうちに俺達の人気をこの連中に, 取って代わられちまうんじゃないの.」
タミーは憂慮した.
タミー「もしこれがきっかけでハングマンっていう言葉がはやるようになったら, やっぱりまずいんじゃないの?」
怒ったドラゴンが中国語でなんか言った.
パン「そう.絶対に許せん.俺達の存在は秘密だからなあ. ゴッドはいったい,この事態をどう考えているのかなあ.」
そこへ電話がかかってきた.
マイト「ほうらおいでなすった.」

午後二時.ゴッドのオフィスにマイトがやってきた. ゴッドは先ほどのラジオを録音したものをマイトに聞かせた.
マイト「聞きました.さっきラジオで.」
ゴッドは怒っていた.
ゴッド「そうか.じゃあ話ははやい. 早速,この偽ハングマンの正体を暴いてもらいたい.」
マイトはうなずいた.
ゴッド「もちろん,複数の人間による行動だろうが, 彼らのやってることは一見正義の味方風に見えて, 実は何の関係もない人々を平気で巻き込む無差別殺人だ. なにがハングマンだ! こんな連中はただの薄汚いリンチマンに過ぎん!」
よせばいいのにマイトはゴッドをおだてた.
マイト「近頃ゴッドも品格というか尊厳というか,ますますご立派になられて. 洒落の方もかなりお上手になられました.」
ゴッド「冗談を言ってる場合じゃない!」
ゴッドの一喝を受けてマイトの顔が引きつった.
ゴッド「このまま放っておけばますます増長して, 方々で無益な血が流されることになるんだぞ! しかも,我々ハングマンの名においてだ.」
マイト「わかりました.必ず偽ハングマンの化けの皮をはいでやりましょう.」
ここでやめとけばいいのにマイトは余計なことを言った.
マイト「ところでゴッド. 最近の我々の仕事ぶり,もちろん承知してると思いますが, この仕事は特殊でございますからして,なんていいますか, 私の場合によりますと,みんな凄いなあ,やってるなあ,素敵だなあって, 声がかなり聞こえます.もちろん,皆さんも一生懸命やっております. 私の場合でよりますと,そのなんていうんですか, 情報提供者には物品を与えたり,見出したり, いろいろ特殊な方法でやっております.ですからして特殊な,あー, なんていうんですか,あー, 言いにくいんでございますが…私はこういうことはストレートで言うのは, とても嫌いな性格でございますからして,えー…」
ゴッド「報酬値上げの話なら当分お預けだ.」
マイト「決して私を軽蔑しないで下さい.失礼します.」
マイトはゴッドのオフィスを去った.

マイトは団地のアジトに電話を入れ,パンに指令の件を伝えた. 餌を与えろとマイトは言って電話を切ってしまった.
パン「餌だとさ.」
デジコン「餌?」
パン「あの男あれで結構なあ,気持ち優しいとこがあるんだよ.」
デジコン「しかしあれかなあ,小鳥でも飼うんじゃないかなあ. ピヨピヨ.ピヨピヨピヨピヨピヨピヨって奴ですよ.」
デジコンは小鳥の振りつきで去って行った.デジコンを見て ドラゴン,パン,タミーは呆れてバイバイと指を折り曲げて上下させていた.

偽ハングマンの餌として, チンピラに扮したマイトがカップルに扮したタミーとデジコンに絡んだ. さらにチンピラの仲間に扮したドラゴンがデジコンを蹴り倒し, マイトがデジコンの財布を抜き取り,
マイト「こいつはもらってくぜえ.」
デジコンは大慌て.
デジコン「そいつは打ち合わせにはないじゃないですか!」
マイト「シャラップよ.(小声で)芝居はリアルにやるもんなの.」
マイトとドラゴンは引き上げていった.その後, マイトとドラゴンはオープンカーを暴走させた.陽気にはしゃぐドラゴン. そして新宿駅西口の切符売り場. 列の最後尾にパンが並んでいるところにマイトとドラゴンが現れ, 一番前に強引に割り込んだ.パンがマイトを注意すると, パンはしこたまドラゴンに殴られてしまった.

だが結局この芝居は空振りに終わった. 団地のアジトでパンとデジコンがタミーの治療を受けているところへ, マイトとドラゴンが帰ってきた.
マイト「二人とも,おい,どうしたの?」
デジコン「どうしたのはないでしょう,全く.」
パン「おいドラゴン,ちょっと手加減できなかったのかよ.」
ドラゴン「シーゴト,シーゴト.」
デジコン「ねえ,それよりはやく財布返して,財布.」
マイト「恵まれない人に愛の手を.」
デジコンがさらに財布を要求すると,
マイト「寄付してしまったよ.」
獲物は食いつかなかった.
パン「冗談じゃないよ,こんな酷い目にあっているのに!」
マイト「まあ焦らずに.明日も頑張ろう!」
タミー「まだやる気?」
タミーは呆れてしまった.
マイト「当然.」
パン「俺は降りたよ.」
デジコン「俺も降りた.」
それを聞いたマイトが白々しく言った.
マイト「どうしてそんなに性格が弱いんだ.我々の仕事は世のため人のため. 恥ずかしいと思わないのか!」
パン「役,交代しようか?」
デジコン「あ,それだったら俺も賛成.」
パン「な.」
気まずい雰囲気になったのでタミーが別の作戦を提案した.

新聞記者に扮装したマイトとデジコンは, 悪徳政治家平岡の家に乗り込んでお金を要求した. 政治家は脅迫する気かと拒否したが,
マイト「先生,我々は脅迫しようとしてるのではありません. 先生の世間に対する誤解を解いておこうと.」
マイトはデジコンの方を向いた.
マイト「あ,君.今,街で話題になってるナウい言葉は?」
デジコン「ハングマン,ハングマン.」
マイト「そう.ハングマンが狙ってるかもしれませんよ.」
そこへ「地元の後援会の方」から小包が届いた. マイトが「中身はお菓子の底にいっぱいつまった札束かなあ.」と, 冗談を言っていると,時計の音が聞こえた.時限爆弾だ. デジコンが庭へ小包を捨てると小包は爆発した.すかさずマイトは外へ飛び出し, 待機していたドラゴンとともに車で郵便屋を追った. だが途中でトラックが妨害に入った. ドラゴンは宙返りしてトラックに飛び乗った.
マイト「嘘みたい.」
と言ったくせに
マイト「俺もやれば,あのぐらいできるんだけどなあ.まあいいか.」
だがマイトは足を打ってしまった.

団地のアジトでタミーの治療を受けた.
タミー「なによ,この手は.」
マイト「痛いからしっかり握ってて.」
パン「この野郎!」
パンがマイトの怪我した部分を触った.
デジコン「親父さん,これじゃ,やりすぎですよ.大丈夫ですか,先輩.」
ここぞとばかりにデジコンはマイトの怪我した部分を踏んづけた. そこへドラゴンから電話が入った.トラックで妨害した奴の居所がわかったのだ. 早速マイトはドラゴンと一緒に乗り込み,妨害を頼んだ奴を聞き出そうとした. しかし,喋る前にトラックの運転手は狙撃されてしまった. マイトとドラゴンは車で狙撃手を追いかけたが, パトカーがやってきたので追跡を諦めた.

団地のアジトへ戻ってきたマイトとドラゴンにパンはあるバッヂを見せた.
パン「あ,このバッヂなんだかわかるか?」
それは菊の紋章と水の流れを組み合わせたものだった.
マイト「パン・アメリカン.」
パン「なあにをいってるんだ,菊流会だよ,菊流会.」
菊流会会長流山一平は悪徳総会屋の一人. 法律が厳しくなったので政治結社に衣替えしたが,実態は変わらなかった. マイトは流山があの政治家を殺そうとしている理由がわからないと言った. パンも同感だった.流山にとって,政治家は飯の種の筈だからだ.

マイトは車を降りた途端に「ゴリラ野郎」に襲われた. 丸太をも頭でへし折り,コンクリートのブロックを投げられてもびくともしない.
マイト「俺を誰だか知ってるか?」
なおもマイトは丸太を投げたが全然効かなかった.
マイト「もう,やめた.」
なぜか余裕でマイトはゆっくり歩いて物陰に隠れた. 「ゴリラ野郎」はゆっくりちかづいたが, マイトの角材による不意打ち急所攻撃を受けて苦しんだ. マイトは鉄パイプで攻撃を加えた.
マイト「普通のゴリラじゃねえなあ.」

翌日,パンが新宿の安宿へマイトを迎えに行った.
パン「あ,いた,いた.按配はどうかね?」
マイト「僕ちゃんのキャラクターにはこういうところ合わない.」
パンはマイトを外へ連れ出して菊流会について説明した. 菊流会の流は流山一平から取られたもの. 菊は流山一平の親玉の菊川大造(神田隆)から取られたものだった. 菊川は十年前に引退した政治家で大変な正義感だった. だが菊川は自分の考えることが正義で反対するものは容赦なく叩いていた. それで敵が多くて十年前の選挙に落選してぷっつり消息を絶っていたが 最近出入りするものが多くなってきた.偽ハングマンの親玉は菊川に違いない. 菊川の真の狙いは政治の表舞台へのカムバック. それも非合法な手段,クーデターによるカムバックだ. マイトは菊川の家へ行こうと言い出した.

不忍池を菊川が散歩しているのを, マイトとタミーとデジコンが遠巻きにしてみていた. ボディーガードが何人も固め,犬もいた.
マイト「まあ,まかしとけ.僕ちゃんには強い味方がついてるぜ.」
マイトは一匹の犬を抱いた.
タミー「まあかわいい.」
デジコン「まさかマイト,こんな犬で…」
マイト「まあ任しといてくれ.頼むぜ,ベイビー.」
マイトは犬を放した.犬は菊川のボディーガード犬に近づいた. 菊川のボディーガードが,しっしっと追い返そうとしているところへ, 飼主のマイトが登場.マイトは新聞記者と称し,さらに
マイト「どうも,わたくしどもの犬が先生の折角のご散歩をお邪魔致しまして, 大変申し訳ございません.わたくしとしましては先生の独占インタビューを, どうしても取りたかったものでございまして,大変に失礼しました.」
と言った.菊川は謙遜したが,
マイト「なにをおっしゃいますか,先生. 先生はこの世の中から埋もれてしまうようなお方では決してありません.」
菊川「どういうわけだ?」
マイト「今の世の中,先生のようなお方の登場をみんなが待っておるんです. 先生,最近マスコミで騒がれているハングマンのことをご存知でしょうか?」
ボディーガード達の顔に緊張が走った.
菊川「ハングマン?」
マイト「はい.庶民を苦しめる悪人どもを成敗してくれるグループのことです.」
菊川はとぼけて自分とどういう関係があるんだと言ったが,
マイト「はい.彼らはかつて先生が述べておられた, 悪人撲滅世直し論を実践してると思うんです.」
ついにボディーガードの一人がマイトをとがめた.
ボディーガード「君,うちの先生が彼らの黒幕だというのか!」
マイト「とんでもない.君はなんていうことをおっしゃるんだ. 先生がそんなけちなことをするはずがないじゃないか!」
マイトの誉め殺しにボディガードは絶句した.
マイト「はしたない声を出して申し訳ございませんでした. そういう連中が世の中の喝采を浴びているということは, とりもなおさず世間の人々は, 先生のような大物の再登場を熱望してるに違いありません.」
なおマイトと菊川達の模様は盗聴マイクを通してデジコンとタミーも聞いていた.
マイト「私は信じて疑いません.」
デジコン「よくやるよ.コンピュータより正確だぜ.」

帰りの車の中でマイトが言う.
マイト「ちょろいもんだよ.ちょっとおだてりゃ上機嫌になってよ, 今度は直接遊びに来いだとよ.」
だが尾行がついていた. 尾行の車を運転するのはあの時マイトを襲った「ボケゴリラ」だ. マイトと「ボケゴリラ」は多摩川の川原で激しいカーチェイスを繰り広げた後, マイトがデジコンに投げさせたダイナマイト(の偽物)によってけりがついた. マイトはしっかり「ボケゴリラ」の車を尾行し, 流山の事務所に入り込むのを見届けた.そこへパトカーがやってきて, 流山達は捕まってしまった.

ゴッドのオフィスでマイトは, 警察が流山のところまで手をのばしていたことを聞いた. だが菊川までには手がのびなかった. ゴッドは菊川までは手が出せないと睨んでいた. クーデター計画も明るみには出ないだろう. マイトは流山が喋ったとしたらといったが
ゴッド「だが,果たして喋るかな?」
ゴッドの睨んだとおり,警察で流山は黙秘を続け,何も喋らなかった. そして面会した弁護士が差し入れた弁当を食べた流山は死んでしまった.

流山が死んだことをハングマンも知った. マイトは今度は菊川を血祭りに上げる番だといい,テレビのアンテナを見上げた. そしてマイトはちり紙交換屋に扮し,「毎度おなじみ,ちり紙交換です! 古新聞,古雑誌,ぼろきれなどございましたら,多少に関わらず! トイレットペーパーと交換します! どうぞ.」と, 独特の節回しで吹き込んだテープを流しながら菊川の屋敷の周りを徘徊. 防犯カメラの位置を探るために隠しカメラで撮影した. その頃デジコンは電波ジャックの装置を作っていた. パンがデジコンの元を訪れるとちょうど装置ができたところだった.

ハンギング

マイトとドラゴンは菊川の屋敷の防犯カメラを全て破壊してから, テレビカメラなどの中継道具一式を抱えて菊川の屋敷に忍び込んだ. 庭をうろついていると犬がやってきた.犬がしつこいので
マイト「ワンちゃん,ごめんね.僕ちゃん,怒ったよ.」
マイトは小型の催涙弾を投げた.犬は眠ってしまった.
マイト「少しおねんねしてなさい.まーた来やがった.やってくれるか.」
爆発音を聞いてボディーガード達が集まったのでドラゴンに撃退させた.
マイト「時間がない.眠っててもらおう.」
またマイトは小型催涙弾を投げ,ボディーガード達を眠らせた. ドラゴンは防犯カメラのモニター室に乗り込み, カメラの故障を知って慌てたボディーガード達を撃退.その頃, パンとタミーは鉄塔の下でマイト達の中継電波を受信する装置を組み立てていた.

その頃,菊川大造はナチスの旗が飾られた自室で日本刀を吟味していた. そこへマイトが障子を開けて登場した.
マイト「覚えてるかい,この顔を?」
部下「貴様は,こないだ新聞記者と偽って…」
マイト「インタビューの続きをやらせてもらおうと思ってね.」
ドラゴンが外から中を撮影する.
部下「ふざけるな! 黙ってのこのこ入って来やがって. おーい誰かいないか?」
マイト「馬鹿.呼んでも無駄だよ.皆さん,お休み中だ!」
部下「なに?」
マイト「さあ,インタビューの続きを始めましょうか.」
部下「いいかげんにしろ.出て行け.」
だが菊川は部下を制した.
菊川「出て行かせることはない.」
部下が驚いて振り向いた.菊川は立ち上がってマイトのほうに近づいた.
菊川「ちょうどいい機会だ.あたしの信念を聞かせよう.」
別室でドラゴンの撮影している映像を見てデジコンがほくそ笑んだ. そしてパンに準備はできてるかどうか確認した. その頃,マイトはにやりと笑った.
マイト「ゆっくり伺いましょう.」
ドラゴンがカメラを操作する手に力が入る. ちなみにドラゴンは左手の薬指に指輪をしていた.
マイト「その前に一つ聞きたいことがある. 偽ハングマンの元締めは貴様だろう?
菊川「偽ハングマン?」
マイト「そのとおり! 本物のハングマンはこの俺だ!」
菊川と部下は怪訝な顔でお互いの顔を見合った.マイトは菊川を指差した.
マイト「菊川! お前の本当の狙いはクーデターで世の中をひっくり返すことだ. そうだな.」
菊川「うん.狙いはまさにクーデター.」
マイトの挑発にまんまと乗った菊川はしっかりと喋ってしまった. デジコンがスイッチを切り替えると同時に, 全国のテレビに菊川の顔が大写しになった.
菊川「私は今の堕落しきった世の中がどうにも我慢がならなくなった. だから密かに流山一平に命じて殺人専門の部隊を作らせたんだ. そして彼らにはどんな悪でも構わんから,容赦なく叩き潰せと命じた. これによって世の悪人どもは縮み上がり,人々はこれに喝采を送るに違いない. その機を狙ってクーデターを起こすのだ! クーデターを起こせば,愚民達はこれに熱烈なる支持を与え, やがては優れた指導者の下にひれ伏すことになるのだ!」
マイト「その指導者とは貴様自身のことか?」
菊川「もちろん.この私をおいて他に誰がいる? 政治家も駄目,官僚も駄目だ! この間違ってる世の中を立て直すことができるのはこのわしの他にはおらん.」
マイト「貴様はヒットラーになりたいのか?」
菊川「そうだ,ヒットラーだ.この菊川大造は現代のヒットラーだ.」
マイトはにやりと笑った.
マイト「ちょっと待った,菊川さん. 今あんたが喋ったことは全国のテレビに流れている.」
菊川「テレビ?」
マイト「そうとも.全国ネットワークでね.」
さすがの菊川も狼狽してしまい,二の句が告げなくなった.
部下「そんな馬鹿な.出鱈目を言うな.」
マイト「嘘だと思うなら,テレビつけてみな.」
菊川達がテレビをつけると菊川がビックリしている顔が映っていた.
菊川「くっそー.」
菊川は日本刀で切りかかったがマイトとドラゴンに軽くあしらわれ, 部下と一緒に縛られてしまった.
菊川「わしはヒットラーだ.現代のヒットラーだ.」
マイト「わかった,わかった.」
マイトが菊川達を座らせると電話がかかってきた.
マイト「ほうら,視聴者から早速反応があったい.」
マイトは電話に出た.
マイト「もしもし,菊川です.はい.わたくし秘書の権藤と申します. 今のテレビをご覧になった.はい.間違いございません. はい.あれは先生のご意見でございます.先生がですね, 世の中に自分の意思を発表したいとそう仰ってます.」
菊川「そうだ,そのとおりだ.わしは現代の指導者だぞ!」
マイト「聞こえましたでしょうか? よろしくお願いいたします.」
マイトは電話をうやうやしく切った.
マイト「警察がすぐ来るそうだ.」
菊川と部下はびっくりしてお互いの顔を見合った.
マイト「せいぜい観念してもらおう.仕事は終わった.」
マイトとドラゴンは菊川達を置いて帰っていった. マイトの報告にゴッドも御満悦だった.

解説

良くある偽者ネタと思いきや, この事件の犯人はハングマンの存在を全然知らないのが, この作品のポイントです.ハングマンの存在意義が問われるのは冒頭だけ. あとはいつもの通りに悪党を見つけ出し,暴露するという展開に終始します. なお,この回で使用されたテレビの電波ジャックは, 後に「新ハングマン」第2話で使用された後, 「ザ・ハングマンV」で大々的に使用される事になるのです.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp