第三十一回

産業スパイをゆする売れない役者とパンとの交流
サギ師野郎 危ない綱渡り

脚本:中村勝行 監督:小西通雄

ここは映画の撮影所. 火野正平にそっくりな男(火野正平)は時代劇で捕り方のエキストラをしていた. 撮影終了後, 火野正平と間違えられてサインを求められた彼は色紙に「あかんべえ」と書いた.

火野正平にそっくりな男は原宿や渋谷の町を歩き回っていた. そして渋谷駅前の歩道橋である男(沼田曝)からお金を騙し取ることに成功した. ほくそ笑む彼は,怖そうな男(八名信夫)が, 別の男とアタッシュケースを交換しているのを目撃した. 早速彼は,ターゲットをその男に絞り,追いかけるのであった.なお, 男とアタッシュケースと交換した男は首吊り自殺体で発見された.

調査開始

ここはゴッドのオフィス.パンは自分の位牌の前に線香が立ててあるのを発見. 今日は6月15日.パンの「命日」だ.パンは鐘を叩いてお経を唱えるが, ゴッドからの指令書を見つけたのでお経をやめた.

団地のアジトでパンがゴッドからの指令を説明.スライドを使うため, 部屋は真っ暗. 「自殺した」男は三村たけしという港北鋳造工業の技術部長だった. 港北鋳造工業は資本金1億円に満たない中小企業だったが, 技術スタッフは業界一と言われるほど優秀な人材が揃っていた. 彼は産業スパイを働いていた.
マイト「よくある話だ.だからエリートってのは信用できねえんだよ.」
とマイトが言った途端に呼び鈴がなった.ドラゴンがカーテンを開け, パンが応対しに入り口へ行った. やってきたのは1階の梨田で回覧板を持ってきたのだ. いつもお留守だからという梨田に, パンは教材のセールスをしてるので地方出張が多いとごまかした. 戻ってきたパンは
パン「殺虫剤の大安売りだってさ.」
といって回覧板を置いた.
マイト「なんだ.千円か.じゃあ俺買ってくるわ.」
マイトは出て行こうとするが,
パン「行かなくていいよ.話の続きがあるんだよ.」
と押しとどめた.
マイト「聞いてても全然難しくてわからねえ.」
パンは説明を再開した.三村が売り渡したのは, 港北鋳造工業が社運をかけて開発した特殊軽合金の鋳造ノウハウだった. その特殊軽合金は今までの軽合金よりも強さで6倍,耐熱性で2倍, しかも重量は二分の一.三村は自殺じゃなく殺されたに違いない. そこで今回の使命は産業スパイを暴き出し,企業秘密を取り戻すこと.

その頃,亜細亜金属株式会社の常務(渥美国泰)に, 渋谷で取引していた男が電話を入れていた. 社長は三村の「自殺」をニュースで知り,やりすぎじゃないかと言うが, 男は安心するように言った.そしてその日の九時に軽金属の情報を引き渡す, と伝えた.電話を切った後,男は部下(高峰圭二と成川哲夫)に, 三村から取り返したアタッシュケースはどれかと確認していた. そして玄関先でその日の九時にイースタンホテルで常務と会うことを話した. その内容を火野正平にそっくりな男も聞いていた.

火野正平にそっくりな男は,撮影所でホテルのポーターの役をもらった, と称してホテルのポーター衣装を調達.衣装係の女の子に, 今度の仕事が成功したらアメリカの西海岸へ行こうと言っていた. そしてレストランで食事しようと誘った.その頃,パンは三村の家を訪れ, 三村の未亡人に接触.未亡人は「自殺」の原因について心当たりはなかった. そこでパンは書斎を見せてもらった.パンは「10.2.5に行く」というメモを発見. そして「Royal Pub 10ポンド2シリング5ペンス」のマッチを発見した.

その晩.Royal Pub 10ポンド2シリング5ペンスをパンは訪れた.パンは, 三村がKBC(Kurosaki Business Consultant)の黒崎と一緒に, このパブに来ていたことをバーテンから聞き込んだ.その頃, イースタンホテルでは黒崎(八名信夫)が, ポーターに化けた火野正平にそっくりな男とぶつかってしまった. 黒崎はアタッシュケースを落としてしまい, 火野正平にそっくりな男も(わざと)荷物を落としてしまった. 火野正平にそっくりな男は別のアタッシュケースを黒崎に渡した. 黒崎はすり替えに気がつかずに常務の元を訪れた. 黒崎がアタッシュケースを開けると中から週刊少年ジャンプが出てきた. 黒崎はポーターとぶつかったときのことを思い出した.
黒崎「あの野郎.」
その頃,火野正平にそっくりな男はトイレでアタッシュケースを開けていた. 出てきたのは六法全書.火野正平にそっくりな男はがっかりしたが, 六法全書に暗号があるんじゃないかと思い直した. 火野正平にそっくりな男は衣装係の女の子に屋台のラーメンをご馳走. 女の子はがっかりするが,火野正平にそっくりな男は大金が入るんだといい, その保証にアタッシュケースを預けた.自分は六法全書を持って帰った.

翌日.火野正平にそっくりな男は黒崎の事務所を覗いていた. そこへパンも現れた.火野正平にそっくりな男はパンにも興味を持った. 道を歩いていたパンは火野正平にそっくりな男に尾行されているのに気がついた. パンは火野正平を巻こうとしたが,歩道橋で
火野正平にそっくりな男「俺になんか用か?」
パン「お前こそ,俺に何の用だい.」
結局パンは火野正平にそっくりな男と手を組むことにした.

その頃,黒崎はアタッシュケースを盗んだ男を調べさせていた. だが部下がホテルを当たったところ, そんな男はポーターやベルボーイにはいなかった. 黒崎はさらに電話で指示した.
黒崎「特徴? 特徴は年は27,8.顔? どっかで見たような顔だ. 役者だ.おお,役者だ,そいつは.」
部下「は? 火野正平にそっくりな男?」

火野正平にそっくりな男は KBC の電話番号が書かれたメモをパンからもらった. 早速,火野正平にそっくりな男は黒崎に電話した. 火野正平にそっくりな男は2千万円を要求.電話を切った後, 火野正平にそっくりな男は取引に立ち会ってくれと頼んでいた. そして火野正平にそっくりな男の家で, パンと火野正平にそっくりな男はお互いの身の上を語り合った. パンは妻と娘がいるがわけあって別居していること, そして時々送金していることを語った. 火野正平にそっくりな男はお金ができたら恋人と西海岸へ行くといった. そして火野正平にそっくりな男はパンに六法全書を渡し, 取引に出かけてくれと言った. パンはただの六法全書を渡されたので怪訝な顔だったが,結局承知した.

その頃,黒崎はテレビドラマを見ていた. 警官に扮した火野正平に扮した男が強盗に撃たれて死ぬシーンを見て, あの時のポーターの素性を知った. そこで部下の田沢(高峰圭二)に火野正平に扮した男の素性を調べさせた.その後, 取引現場で黒崎は別の部下山室(成川哲夫)を連れてパンと会った. だが六法全書を渡され,怒り狂った.パンは山室に脅され, 火野正平にそっくりな男はパンを置いて逃げ出してしまった.
黒崎「このやろう! アタッシュケースはどうした?」
パン「アタッシュケース? 自分で持ってるじゃないの.」
黒崎は怒り狂ったがパンは訳がさっぱりわからない. パンは黒崎と山室に殴られたが訳がさっぱりわからない.黒崎は山室を制止し, パンを置いて帰ってしまった.

一方,火野正平にそっくりな男は家で田沢に襲われていた. 火野正平にそっくりな男は田沢にしこたま殴られた後, 田沢はアタッシュケースの場所を聞き,火野正平にそっくりな男を刺殺. やっとのことで戻ってきたパンは, 火野正平にそっくりな男が刺されて倒れているのを見つけた. 火野正平にそっくりな男は, パンにアタッシュケースを衣装係に渡してあることを伝え, 「行きたかったなあ,西海岸.」と言って事切れた.

パンは衣装係の女の子からアタッシュケースを受け取った. 団地のアジトでマイト達はアタッシュケースを調べるが何も出てこなかった. だがドラゴンがチョップをすると取っ手からマイクロフィルムが出てきた. そしてデジコンが, この事件の黒幕が亜細亜金属会社の常務森島(渥美国泰)であることを報告した.
マイト「よーし,全員吊るし首だ.」

ハンギング

黒崎の事務所にパンが現れた.パンは取っ手を見せ, 火野正平にそっくりな男の遺品だから5万円で買ってくれと持ちかけた. 役者仲間から聞いたというのだ.黒崎は役者仲間がどこにいるか聞いていた.

撮影所ではドラゴンとデジコンが役者に,タミーが記録係, そしてマイトが映画監督に扮していた.
マイト「キャット! いいカットだったなあ.どう,キャメラさん? どう? どう, 君は? いい感じ? 駄目だ,君は.良っかったよ,良かった.」
と大袈裟にマイトが叫んだ後,
マイト「さあ次はどこへ行くのかなあ.」
タミー「先生,今度は警官の制服を着ていただけますか?」
マイト「まあ制作費は高いからしょうがないだろう.」
タミー「お願いします.」
デジコン「あ,監督.」
マイト「星空君,君,良かったよー,君,スターになれるよ.」
デジコン「あ,どうも.」
マイト「君も警官になってくれたまえ.」
デジコン「警官?」
マイト「そう.」
パン「おーい,お連れしたよー.」
パンが黒崎,田沢,山室の三人を連れて撮影現場に現れた.
マイト「はい,ご苦労さん.」
パンはロケバスに黒崎達を通した.マイトとデジコンが警官に扮して待っていた.
マイト「あんたかね,こいつを欲しがっているのは?」
マイトはマイクロフィルムを見せた.
黒崎「そのマイクロフィルムは貴様の仲間に盗まれたんだ.返してくれ.」
マイト「これを取り返そうとして,火野正平そっくりの若い男を殺した.」
黒崎「ああ,そのとおりだ.貴様らもあいつの二の舞を踏みたくなかったら, おとなしくそいつを渡すんだなあ.」
黒崎はマイトの誘導尋問に引っかかってしまった.
マイト「これ以上騒ぎを大きくするより, 金でけりをつけた方があんた達も安全だろう.」
無言で対峙するマイト,デジコン,黒崎の三人. そこへ拳銃を持ったドラゴンも登場.
マイト「どうなんだ?」
黒崎「よーし,わかった.二千万で手を打とう.」
マイト「いや,五千万.」
黒崎「何?」
マイト「金は森島常務に持たせてくれ.」
黒崎「森島常務に? 貴様,何で常務の名前を.」
マイト「どうする?」
デジコンが立ち上がり,ドラゴンの拳銃が黒崎を狙う.
黒崎「負けたよ.俺達と同業とはなあ.ま,その方が話は簡単だ. 取引の場所と時間を決めてくれ.」
マイト「時間は今夜九時.場所は東洋撮影所スタジオNo2だ.」
黒崎「撮影所?」
マイト「心配ご無用.ちょうど休憩時間なんでねえ. セットには俺達の仲間しかいない.衣装はこの洋服(警官の制服)で待ってるぜ.」
黒崎「わかった.」
タミーが入ってきた.
タミー「本番行きます.支度してください.」
黒崎「じゃ.」
黒崎は去って行った.デジコンはこの会話の録音に成功した.

その晩.スタジオの外には警官服を着た連中がたくさんいた.森島,黒崎, 田沢,山室がスタジオの中に入った途端,スポットライトが当てられた. そして警官服を着た男がたくさん入ってきた.
警官服を着た男「黒崎たつおさんは?」
黒崎「ああ,俺だ.」
警官服を着た男「森島さんというのは?」
森島「私だ.」
警官服を着た男「よし!」
警官服を着た男達がたくさん入って森島達を取り囲んだ.
黒崎「なーんの真似だ.冗談やめてくれよ.俺達忙しいんだよ.おい.」
黒崎は金の入ったアタッシュケースを指し示した.
黒崎「約束どおり銭は持ってきた.マイクロフィルムを渡してくれ.」
警官服を着た男「窃盗教唆ならびに殺人容疑で逮捕する.」
警官服を着た男は逮捕状を黒崎達に見せた.
田沢「社長,こいつら本物です.」
黒崎はまだ信じられない.
黒崎「冗談だろう?」
だが
警官「署の方に匿名の通報があってなあ,お前達が来るのを待ってたんだ.」
黒崎「証拠は?」
別の警官「証拠はそこにマイクロカセットが置いてあった.」
その警官は机の引出しからマイクロカセットを取り出し,再生した. マイクロカセットには昼間の会話が録音されていた.
森島「黒崎,これはいったいどういうことなんだ.黒崎! 黒崎!」
黒崎は呆然として声も出ない.
警官「逮捕しろ!」
森島達は警官に逮捕された.その様子をセットの上からハングマンは眺めていた.

解説

火野正平にそっくりな男(ややこしい役名だ)とパンを中心にドラマが進むため, ドタバタ喜劇の様相を見せます.地下でブラックはどう思っているのでしょうか? でも僕ちゃん,この話大好きです.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp