第十三回

ベニー死す
女ハングマン暁に死す

脚本:田上雄 監督:井上梅次

ホテルのベッドで, 華道平岡流の二代目家元平岡雅彦(石濱朗)の愛人宇津木涼子(岩井友見)は平岡に, 子供ができたと伝えていた.スキャンダルの種になり, 奴らにいいようにされるから堕ろせ,と平岡は涼子に告げたが, 涼子は産むと言って出て行ってしまった.慌てて涼子を追いかける平岡に, 妹尾かんじ(浜田晃)とその部下(きくち英一ら)が声をかけてきた.
妹尾「お楽しみですなあ,家元.」
平岡「君達,こんなところまで追いかけてくるのかね.」
妹尾「大金が絡んでますからねえ.」
平岡「あのギャンブルは君達に陥れられたんだ.」
妹尾は,今週中に支払え,支払わないときは命をもらう,と告げた.

その頃,雨が降る中,涼子は傘もささずに歩いていた. ゴッドを乗せた車を運転していたベニーがそれに気がつき, 車をとめて声をかけた.涼子は,すぐ治りますから,と断った. なおも近くの病院まで送りますかというベニーに向かって,涼子はこう言った.
涼子「令子さん.あなた,浅見令子さんじゃあありませんの?」
ベニーは人違いだとごまかし,車を走らせてその場を立ち去った.
ゴッド「知り合いらしいねえ.ほっといていいのかね.」
ベニー「下手に関わりあうとハングマンとしての立場が危うくなります.」

次の日.古流平岡流本部にて. 平岡に理事長の安原(西沢利明)が平岡の姉夢子(中原早苗)の来訪を告げた. 平岡は部屋で夢子と会うことにした.夢子は2千万円の小切手を出し, さらに3千万円融資する用意があるという. そして一昨日の土曜日に平岡が本部の運営金5千万円に手をつけたこと,さらに, 闇賭博の清算に使われたことを夢子は指摘した.この話を聞き, 平岡はからくりに気がついた. 夢子は安原を使って平岡を妹尾が経営する暴力バーへ行かせ, 罠に落として金に手をつけざるを得ない状況に陥れたのだ. 夢子の目的は平岡流を乗っ取ることだった.平岡は小切手を破り捨てた.

自宅に戻った平岡のところに刑事がやってきた.平岡は妻と別居していた. 刑事は警察に公金横領の件が投書されたためにやってきたのだ. 平岡は体面を盾に即答を避けた.とりあえず刑事は帰った. そこへ安原から電話がかかってきた.安原は警察への投書の件を知っていた. 平岡は宣言した.どんなことがあっても平岡流の看板は渡さないと.

調査開始

翌日,この件を調査するようゴッドはブラックに指令した. 華道界でも5本の指に入る名門の平岡流は十年前に二つに分裂していた. 夢子は創作華道夢幻流を起こしていたのだ. ゴッドは夢子の狙いは平岡流の本流になることだといい, 密告したのは夢子の差し金だと睨んでいた.

一方,宇津木涼子が開く生け花教室で涼子が生徒達にお花を教えていた. 涼子は平岡についで二番目にお花がうまいと弟子達の評判が高かったのだ. そこへ平岡から電話がかかってきた. 涼子は平岡の言う通り堕ろすことにしますと言ったが,平岡はそれを制止し, 生んでほしい,と告げた.涼子は喜んだが,なぜ,と聞いた. しかし平岡はそのうちわかると応えて理由を述べなかった. が涼子は涙を流して喜んだ. そして平岡は「涼子,愛してるよ.」と言って電話を切った. 平岡は何事か決意していた.

平岡は平岡流の看板をじっと見つめた後,車に乗って出て行った. その様子をマイトが見届けた.早速マイトは平岡を尾行したが, 平岡はマイトの目の前でトラックを無理に追い越そうとし, ハンドルを切りそこねてトラックと接触.「事故」で死んでしまった.
マイト「これは事故じゃねえ.事故に見せかけた自殺だ.」

夢幻流の本部で平岡の死を知り,夢子は喜んでいた.安原と妹尾も来ていた. 平岡流本部を乗っ取る手筈は,と聞く妹尾に, 安原は緊急幹部会を利用すると応えた.役員を買収していたのだ.

ベニーは打ちっ放しでゴッドとゴルフに興じていた. 腕をあげたねえとゴッドはベニーを誉め,また,明るくなった,と付け加えた. そんなゴッドにベニーは感謝し,プレゼントを渡していた. プレゼントはカトレアの花がデザインされたライターだった. ゴッドは若くて美しいベニーに人生を捨てさせたことを悔やんでいたが, ベニーはそのことは言わないでというのであった.

そして緊急幹部会が開かれた.パンが京都の久保田と称して現れた. 安原は三代目を継ぐのは夢子が適切だと提案したが, 幹部の一人が夢子が初代家元に破門されたことを理由に挙げ,反対した. さらに山田という幹部が, 弟子の一人で平岡がもっとも信頼していた人物がいると言った. 安原は,例の女性だろうがスキャンダルを持ち出してもいいのかね, と反論したが,パンは安原と夢子のことを持ち出してかき混ぜた. そこへ顧問弁護士の坂本(庄司永建)が平岡の遺言状を持ってきた. 平岡が亡くなる直前に坂本に送ってきたもので法的に有効なものだった. 坂本は遺言状を開封し,読み上げた.三代目家元は準幹部宇津木涼子とすること, ただし, その任期は現在涼子が懐妊している平岡の子供が成人するまでとすること, そして最後に平岡の子供は成人と同時に四代目家元となる権利を有すること.

パン「もう喧喧囂囂,蜂の巣をつついたような騒ぎだよ.」
アジトでパンがその後の様子を報告した.
パン「一週間後に宇津木涼子という女性を招いてやり直すつもりらしいよ.」
いったいどんな女なんだい,と聞くマイトに,ベニーが割って入った.
ベニー「初代家元の妹の子供. つまり,自殺した平岡雅彦とはいとこ同士にあたる女よ.」
ブラック「ベニー,どうしてそんなこと知ってんだ.」
ベニー「私,警官だった頃,その人にお花習ってたことがあるの.」
すかざずマイトが,こう言った.
マイト「ふーん,僕ちゃんも.」
それを聞いた植木等さんは吹き出してしまった. 黒沢さんのアドリブだったらしい.
ベニー「これでもいいお嫁さんになるつもりだったのよ.」
パン「今からでも遅く…いや,ちょっと遅いかな.」
なおも黒沢さんのアドリブは続く.
マイト「とっつぁん,いくら俺でも怒るぜ.」
そこへゴッドから電話が入った.ゴッドは, 死んだ平岡に妹尾かんじというクラブのオーナーが付きまとっていたことを, ブラックに伝えた.関東巴会の幹部ですよ,と応えるブラックに, 妹尾がクラブの奥で開いているカジノで平岡が5千万円をすった事も, ゴッドは伝えた.そしてゴッドはさらに何か指令した. 不思議に思うブラックにゴッドはその理由を説明した. そしてゴッドの指令を受け,ブラックはマイトにカジノに潜入するように言った. ベニーは一緒に潜ろうかと言ったが,ブラックは駄目だと言った.
ブラック「この事件から手を引けというゴッドの命令だ.」
ベニー「私が家元の好きな人を知ってるから?」
ブラック「そうだよ,ベニー.今回だけは絶対に手を引けとさ.」
バイク「まあ,俺達に任せて頂戴よ.」
ブラック「なあベニー,ゴッドの命令は絶対だぜ.」
ベニー「わかりました.この事件には一切関与いたしません.」

だが,ベニーは雑誌記者の小山紅子と称して涼子の元を訪れた. ベニーの「取材」に涼子は平岡のために家元就任の話を受けると言った.
涼子「あの人,いつも平岡流の伝統を守ろうとしていました.わたくし, その意思を継ぎたいんです.」
ベニーは危険だと忠告したが,
涼子「小山さんとおっしゃいましたねえ.昔, あなたにそっくりのお弟子さんがいらしたんだけど,あなた変わった方ね. だって取材よりも忠告にいらしたみたい.」
ベニーはごまかした. そんなベニーに涼子はどんなことがあっても平岡流を守って見せる, それが唯一の愛情の証だから,と言うのであった.

ベニーが涼子の家を出ようとするところへブラックが現れた.
ブラック「宇津木涼子のことがそんなに心配か? 正体ばれたらどうするんだい.」
ベニー「その心配は無いわ.あの人,疑ってないもん.ゴッドに黙ってて. お願い.」
ブラック「はあ.まあいいだろう. 見ざる言わざる聞かざるの猿にでもなってるさ.気をつけろよ.」
ベニーは礼を言うのであった.

その晩,マイトは妹尾のクラブに潜り込んでいた. カジノで勝負したいんだよというマイトに部下(きくち英一)は会員証はと聞いた. マイトは,忘れちゃった,ナンバーはフィフティーン,15よ, と適当に答えて強引にカジノへ入っていた. しばらく賭けに興じるマイトだったが, 15は女性の会員番号だったことに気づいた部下が戻ってきて, マイトをぶん殴った.マイトはさらに,妹尾の兄弟分なんだ, とはったりをかました.その頃,安原と妹尾が会っていた. そこへ部下がマイトをつれてきた.そんな奴は知らないという妹尾にマイトは, 妹尾のことと安原のことを知っている,と言い, さらに,どんな奴が揃っているか見たかった,と言った. マイトは部下達を撃退し,逃げていった.

ベニー暁に死す

安原の手の者が涼子を連れ出した.その車をベニーが尾行した. 涼子は夢幻流の本部に連れ込まれた. ベニーは夢幻流の本部に忍び込もうとしたが, 妹尾の部下に捕まってしまい,そのまま監禁されてしまった.

安原は家元推薦の辞退書を涼子に見せ,サインするよう迫った. だが涼子は拒絶した.夢子は5千万円を上げると言ったが, それでも涼子は拒絶した.それを聞いた夢子は漆の樹液を涼子に塗りたくった.

夜が明ける頃,ベニーが気がつくと漆にかぶれた涼子がいた. それでも涼子は辞退書にサインしなかった. ベニーはヘアピンを使ってドアの鍵を開けて逃げたが, すぐに部下が追いかけてきた.ベニーは背中をナイフで刺されてしまったが, 妹尾の部下から奪った拳銃を手に威嚇し,涼子を乗せて車を走らせた. だが妹尾の部下も追ってきた. ベニーは意識が朦朧となりながらも途中で涼子を車から降ろした. さらに引き返して妹尾の部下の車に正面衝突した.ベニーも, 妹尾の部下達(きくち英一ら)も死んでしまった.

ゴッドはベニーから贈られたライターを見つめていた. そしてブラック達にベニーが死んだことを伝えた.驚く一同. 直接の死因は事故による脳内出血だったが,その前に, 背中をナイフで刺されていた.事故現場近くの路上には宇津木涼子が倒れていた. 涼子は全身に漆の樹液を塗られ,かぶれていた. 涼子は記憶を失っていたが命に別状はなく, 医者は胎児を守ろうと必死に手当てを続けていた. このことからハングマンは全てを知った.
ゴッド「あれほどこの事件には手を出すなと言っておいたのに.自業自得だ.」
バイク「自業自得? そんな言い方ってありますか. ベニーもやはり心優しい人間だった.な〜んでこう言ってやらないんですか.」
バイクは興奮のあまり,感極まってしまった.
ゴッド「泣くな,バイク.お前はもう死んだ人間じゃあなかったのか.」
バイク「だって.」
ゴッド「感情は捨てろ.涙を流す代わりにやるべきことがあるはずだ.」
パン「ベニー.仇は必ずとってやるぞ.」
ゴッド「パン.お前までがなんだ.あくまでも冷静に仕事をする. それがハングマンだ.」
ブラックとマイトが立ち上がった.
ブラック「仕事だ.」
マイト「目一杯やるぜ.」
バイクもジャガーもパンも立ち上がった. それを見届けたゴッドはベニーから贈られたライターを握り締めながら, 一筋の涙をこぼしていた.

ハンギング

その頃,夢幻流の本部で悪党どもが全員揃って大喜びしていた.
安原「これで平岡流も君のものだなあ.」
そこへハングマンが乗り込んだ.
マイト「ところが,そうはうまく行かないんだなあ.」
ブラック「雁首そろえたなあ.」
妹尾「(マイトを見て)貴様はこないだの!」
妹尾の手の者はジャガー達に倒された.
夢子「なんなの,あんた達は?」
ブラック「お前達のような悪党達を制裁する死刑執行人.ハングマンだ.」
安原「警察を呼ぶぞ!」
だが夢子達はあっさり倒され,眠らされて連れ出されてしまった.

夢子達が気がつくと,彼らは上半身を下着だけの姿にされていた. ブラックは事件を洗いざらい喋ってもらおうかといったが, 夢子は何も喋っちゃ駄目よと叫んだ. そこでハングマンはポリバケツに入った白い液体をいくつも持ってきた.
ブラック「さあ,これ,なんだかわかるかい?」
安原「漆か?」
マイト「その通りだよ.お前達の体にたっぷり塗りつけてやるぜ.」
夢子「そんな,酷い.」
パン「酷い? よくそんなことが言えるね.人には平気でやっといて. Ok! Let's go!」
ハングマンは悪党どもの全身に白い液体を塗りたくった.
安原「やめろ!」
マイト「なんだ,この腹は? 俺はこの腹とひげが…」
パン「どうだ.だんだん痒くなってきただろう.」
ブラック「かゆいなんてもんじゃないぞ.時間がたてばどうなるかなあ.」
バイク「体中がかぶれて二度と見られない姿になるんだよ.」
マイト「よーし,白状しろ.」
だがそれでも
夢子「嫌よ.誰が吐くもんですか.」
妹尾「喋るもんか.」
そこで
マイト「僕ちゃん,本当に怒ったぜい.」
マイトは懐からダイナマイトを取り出した.
部下「ダ,ダイナマイト!」
マイト「(凄く興奮して)黙ってろ,このひげ腹! このビルと一緒にお前らをぶっ飛ばしてやる.」
ブラック「(やたら芝居がかった口調で)おいおい,兄弟. それは少しやりすぎじゃねえのかい.」
マイト「ベニーはこいつらに殺されたんだ.」
バイク「(凄く興奮して)そうとも! ベニーの仇討ちだ.」
パン「やらなきゃベニーが浮かばれねえ.」
ブラック「よーし.責任は俺が取る.やれ.」
なぜかブラックはマイト達の暴走を許可した.
マイト「よし,みんな出てけ.」
マイト以外のハングマンは退散した.
マイト「さあ,みんな.悪いことをしたことを神に祈れ. お前のひげ腹も見なくて済む.」
びびりまくる悪党ども.マイトは導火線に火をつけた.
マイト「さようなら.」
そう言い残してマイトは出て行った. そして悪党どもは互いに罪をなすりあいながら罪を自白した. 実は夢子達は夢幻流本部の前に仮設されたバラックの中にいた. そして夢子達の喋る内容はスピーカーで外に流されていた. 夢子達は全てを白状した.
夢子「何もかも喋ったからいいでしょう.」
が,ダイナマイトの火は消されなかった.そして爆発…すると思ったら, それは例によって花火だった. そしてバラックの壁が倒されて悪党どもはそのまま夢幻流本部の前にさらされた. その様子をハングマンはブラックのワゴンの中から覗いていた.
パン「だけど本物のダイナマイトだと思ったぜ.」
マイト「あれは俺の演技力.演技力.しかしこいつも効き目があったぜ.」
マイトは山芋をバイクに渡した.
ブラック「しかし骨だったろう.これだけのトロロを摩り下ろすのは.」
夢子達に塗られたのは漆の樹液ではなくてトロロだったのだ.

その日の夕方. 夕日をみつめながらハングマンはベニーのことを思い出していた.
ブラック「ベニー.」
マイト「俺より先に行っちまって.馬鹿.」
バイク「忘れないぜ.」
ジャガー「So long, ベニー」
パン「ベニー,ゆっくりお休み.」
ハングマンは花を投げてベニーを見送った.同じ頃, オフィスでゴッドはベニーから贈られたライターでタバコに火をつけていた.

感想文

この回でベニーが殉職します. かつての知り合いを救おうとして生身の人間になってしまったために, 死んでしまったのです.なおゴッドが感情を見せるのは,この回のみです.

「ザ・ハングマン 燃える事件簿」へ 「全話のあらすじ」へ 「全話のキャスト」へ 「緊急指令トラトラトラ」へ 「私の好きなテレビ番組」へ 「touheiのホームページ」へ戻る.


東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp