第八回

ドラゴン,一時帰国.ジャガー登場.
血染めのブランド

脚本:中村勝行 監督:小澤啓一

株式会社亜里亜の社長(増田順司)が今村久雄企画部長を詰問していた. ラシーヌ(RACINE)のブランド販売権獲得は100%確実だと思われていたのに, 契約する際に初歩的なミスを犯したために獲得に失敗したのだ. 社長は今村に出てけと言って怒った.

車の中で今村は朱鷺という女のことを思い出していたが, 暴漢に眠らされてしまった. そしてとある場所で「排気ガスを引き込んで自殺」したことにされてしまった.

ゴッドがベニーにブラックを呼び出させた. ゴッドは今村の自殺事件の新聞記事を見せ,この事件を調べるように言った. 資料はというブラックに, ゴッドは「君はラシーヌというブランドを知っているかね?」と聞いた. ブラックが知らないと答えるとベニーがラシーヌのスカーフを持ってきた. ラシーヌはフランスで最も格式の高い高級ブランドで, 世界中の女性やファッション関係者の憧れの的だった. ラシーヌはかたくなにブランド輸出を拒んできた.それは経営戦略だったが, 数年前よりその経営戦略に破綻をきたし,世界市場で大きく遅れをとっていた. そしてついにラシーヌはブランド輸出に踏み切った. 一ヶ月前にデモンストレーションを兼ねた商品発表会が日本でも開かれた. たちまちファッション業界で商品獲得競争が起こった. 最有力と見られていたのが老舗の株式会社亜里亜と新興勢力のハヤセ商事だった. 事実上,この二社の争いに絞られていた. とある場所で声をかけてきたハヤセ商事の社長早瀬隆次(石橋蓮司)に対して, 今村は100%勝利を確信していると告げた.が, 早瀬は1%でも可能性があるならそれに賭け,何が何でも逆転してみせる, と予言した.そして一ヵ月後,その予言が現実のものとなった. ラシーヌのブランド販売権はハヤセ商事に渡り, 亜里亜の今村企画部長は「自殺」したのだ.

株式会社亜里亜の社長にパンが刑事と称して会っていた. パンは今村が契約の初歩的ミスを起こしたこと, つまり契約で一番重要な条項である販売ネットワークの数(小売店の数)を, 実際の半分の数で書いてしまったのが原因で, 亜里亜がラシーヌのブランド獲得に失敗したことを社長から聞き出した.

そのことをパンから聞いたマイトは意識的にやったんじゃないかと言った. マイトの調べによると今村の家は資産家だった. だから今村が金で買収されるわけがなかった.今村は離婚訴訟を起こしていた. 女に狂っていたに違いない.

ここは「BLモデルクラブ」.マイトがあるモデルに取材と称して近づいた.

一方,ブラック,バイク,ドラゴンは早瀬を見張っていた. バイクとドラゴンは早瀬を迎えに来た男達, すなわち冒頭で今村を襲った暴漢矢沢達の車を追った. 早瀬がとあるマンションに入るのを見届けたバイクとドラゴンに, マイトが声をかけてきた. マイトはさっきのモデルからここのことを聞き出していたのだ. そして早瀬は中河原朱鷺というファッションモデルの元を訪れていたのだ. 早瀬が出てきたのでマイトは車から離れた.早瀬の後をバイクたちが追い, マイトは朱鷺の部屋を訪れた.「あなただあれ?」という朱鷺にマイトは 「興信所のものですが?」と言って入った. マイトは今村の妻から今村の浮気調査を頼まれたと言い
マイト「今村さんが自殺したのはあなたのせいじゃないんですか. ネタはちゃんとあがってるんですよ.」
マイトは朱鷺の耳に息を吹きかけながら
マイト「僕ちゃんの質問に素直に答えてもらいましょうか.」
朱鷺はマイトの服を脱がせた.
朱鷺「これがあたしの答え.」
マイト「これじゃあ,今村が狂うのも無理ないなあ.いただきます.」

マイトが去ったのを見届けてから, 朱鷺は早瀬に興信所の者が来たと電話を入れた. 早瀬は矢沢達にそのことを伝えた.矢沢達は朱鷺を始末するかと言ったが, 早瀬は第三者にやらせましょう,と矢沢達を押さえた.

アジトではマイトが朱鷺のことを報告していた. 今村は朱鷺にのめりこんでいた事も報告した.
マイト「一度知っちゃったら,まーず駄目だなあ.」
ブラックは,早瀬の事業が大きくなるたびに関係者が不信な死に方をすること, そして,いずれの殺しも早瀬が直接手を下した証拠がないことを付け加えた.

その晩,ハヤセ商事の事務所にバイクとドラゴンが忍び込んだ. だがそこへ矢沢達がやってきた. ドラゴンは矢沢達を引き付けてバイクを逃がしたが, 自分は矢沢達に捕まってしまった.

バイクからそのことを聞いたブラック達は驚いた. マイトはドラゴンを助けに行こうとしたが, ブラックはゴッドの指示を待てと止めた.
マイト「これは仕事じゃねえんだ」
パン「落ち着くんだ.ここで下手に動いたら, かえってドラゴンの身に危険が及ぶ.落ち着け. お前さんの気持ちはよーくわかるけれども,冷静になってくれ.」
ブラックはバイクに「仕事は.収穫はあったのか.」とたずねた. バイクは書類を写してきたフィルムを出した.ベニーはフィルムを現像し, ゴッドに見せた. バイクが写した書類はハヤセ商事香港商事からのテレックスのコピーだった. 文面の内容は「明日の午後三時に Mr. J が成田につく」だった.

その頃,ドラゴンは矢沢達に拷問されていた.ドラゴンは何も吐かなかった. 早瀬はドラゴンの手に指紋がないのを見て,ただの人じゃないねえ,と言った.

次の日,ブラックはゴッドにドラゴン救出の指令を出してくれと頼んでいたが
ゴッド「その必要はない.ドラゴンはハングマンとして二つのミスを犯した. その一つはバイクを助けようとして自らが囮になったこと.」
ブラック「しかしあの場合は…」
ゴッド「ブラック! ハングマンは常にパーフェクトでなくちゃならない. 一人だけ助かりゃいいってもんじゃない. 二人が同時に助かる方法を咄嗟に判断すべきだったのだ. もう一つは敵につかまったこと.ドラゴンはこの二つのミスで任務は終わった.」
ブラック「見殺しにしろって言うんですか.」
この問いにゴッドは応えなかった.

その日の午後三時.成田に Mr. J がやってきた.バイクは彼の写真を撮影した.

一方,マイトは皮ジャンにダイナマイトを仕込み, アジトを出ようとして車に乗った.だが, 一足先にブラックが助手席に座っていた.
ブラック「マイト,ドラゴンのことは忘れろ.ゴッドの命令なんだ. 俺達にはまだまだ重要な仕事も残っていることだしなあ.」
マイト「ドラゴンちゃんの命は重要じゃねえって言うのか. 確かに俺達は金で命を売った人間だ.だからと言って虫けら同然に殺されちゃあ, かなわねえよ.俺は行くぜ.」
ブラックはマイトに拳銃を向けた.じっと睨み合う二人. マイトは車のキーを抜き,ブラックにキーを渡した.

一方,ドラゴンは矢沢達に連れ出された.山の中でドラゴンは放されたが, 矢沢の銃がドラゴンを狙った.とっさにドラゴンは崖から飛び降りて逃げた.

バイクの撮影してきた写真を見たゴッドは,この男が豹李進, 通称ジャガーという男であることを伝えた. 元は香港警察の狙撃隊員だったが暴力団との撃ち合いで誤って市民を射殺し, 罷免になった.その後は香港暗黒街で用心棒まがいの仕事をして生活していた. なぜ早瀬がジャガーを呼んだのかというパンの疑問に, 誰かを消すためだろう,とゴッドが答えた.それを受けて, マイトは朱鷺を消すためだろうと言った. 朱鷺はラシーヌのブランド獲得のからくりを知っている. 彼女を消せば早瀬達は安全圏へ逃げられる.

矢沢の部下相崎がホテルから去った後, ジャガーの元へゴッドから電話がかかってきた.ジャガーは Ok と答えていた.

早瀬はラシーヌ獲得披露のためのファッションショーで話す内容を練習していた. そこへ矢沢がやって来て,ジャガーの件を報告した.

ハンギング

相崎立会いの元,ジャガーは朱鷺のマンションの部屋をライフルで狙っていた. その頃,マイトが朱鷺の部屋を訪れて, 今度の外出は見合わせた方が良さそうだぜ,と言ったが, 朱鷺は部屋を出て行ってしまった. マンションから出てきた「朱鷺」をジャガーは狙撃.相崎はその腕前に感心し, ジャガーと別れた.

さてゴッドのオフィス. ジャガーに撃たれた女は防弾チョッキを着て朱鷺に変装したベニーだった. ジャガーの撃った弾は心臓の位置に命中していた. ゴッドは頼もしい男が加わったと御満悦だった. オフィスにはジャガーも来ており,酒を飲んでいた.

ここはハヤセ商事が行なった記者会見場. メルシーと喜ぶ早瀬は相崎のVサイン(中河原朱鷺狙撃成功)を見て, さらにメルシーと叫んだ.いよいよファッションショーが始まるぞ, と喜ぶ矢沢と相崎に
ブラック「そうはいかないみたいよ」
ブラックはバイクと一緒に二人を捕まえた. そしてファッションショーのモデルの控え室は, パンによって外から開かないように細工が施されていた.

ファッションショーが始まった.会場はテレビ中継され,来賓として, ダヴェンヌ駐日仏国大使夫人,西田外務大臣夫人, ドワネル・フランソワーズ社長夫妻,デザイナー美山由紀夫氏, そして服飾評論家星野純子さんが招かれていた.舞台に登場したのは朱鷺. 早瀬は驚いた.
朱鷺「皆さん,そこにいる早瀬社長は亜里亜の今村企画部長を殺して, この契約を獲ったのです.」
早瀬「君,何を言い出すんだ.」
朱鷺「それだけではありません. 今夜,私も早瀬社長に頼まれて危うく殺されそうになりました.」
早瀬「この女,頭おかしいんだ.誰かつまみ出しなさい.」
早瀬はごまかすが早瀬の周りに人が集まってきた.
朱鷺「皆さん,私の言っていることが間違っているかどうか, 二人の証人をご紹介しましょう.」
舞台に手錠につながれた矢沢と相崎が登場した.さすがに早瀬の顔色が変わった.
朱鷺「さあ,証言してください.」
矢沢達は「社長」と言ったきり話そうとしない. そこでブラックは手錠に電流を流した.ついに矢沢と相崎は今村殺しを自白した. それでも白を切る早瀬に対して矢沢はてめえがやれと言ったじゃないか, と罪をなすりあった.早瀬達はついに警察に捕まった.

とあるホテルの一室.ベッドの中で早瀬逮捕を告げる新聞記事を読むマイトに, 女が文句を言っていた.
女「ねえ,どうしたのよ.夕べから全然駄目じゃない.」
マイト「僕チン,まだおねんねしてるの.
そこへ電話がかかってきた.
マイト「もしもし.」
ドラゴン「Bye, マイト」
マイト「もしもし.もしもし.生きてたのか,ドラゴンちゃん.」
女「誰から?」
マイト「来た来た.僕チン,元気になってきたよ.

成田空港脇の公衆電話から電話をかけ終わったドラゴンは, ブラックと別れの挨拶を交わした.ドラゴンは空港の中へ, ブラックは空港の外へと歩いていった.

解説

ドラゴンとジャガーの交代が行なわれた回です. ドラゴン救出をめぐってマイトとブラックが対立し, ゴッドが改めてハングマンの掟を語ります.実はゴッドの台詞は, #25でのブラックが捕らわれた際に出される, ゴッドの指令の伏線にもなっています.

ちなみにこの交代劇は, ドラゴンを演じていたディオン・ラムさんのビザが切れたために取られた, 苦肉の策だったそうです.その後, ドラゴン復活を願う手紙がテレビ局に殺到したため, #22でドラゴンが復帰することになりました.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp