第七回

金闇取引の罪を着せられて死人になった男とブラックの交流
亡者を呼ぶ金相場

脚本:田上雄 監督:真船禎

ここは財団法人日本貴金属産業振興会のオフィス. 加納理事長(平田昭彦)が業務部長の平野を呼び出した. そこへ加納宛の電話がかかってきた.電話はある男(八名信夫)からのもので, テレビをつけて10チャンネルを見ろ,とだけ言って切ってしまった. そこで加納が平野にテレビをつけさせ, 10チャンネルにチャンネルを合わせさせた. 10チャンネルでは「朝のワイドショー」で心霊写真の特集をやっていた. 差出人不明でお便りなしの写真が送られていた. 写真は黒川ダムを写したもので,一人の男(井上孝雄)がボーっと浮き出ていた. それを見た平野は顔が青ざめるが,加納は悪質ないたずらだよ,と取り合わない. そこへまたさっきの男から電話がかかってきた. 男は加納がある特定の金取引業者に便宜を計らっているのを知っていて, さらにその見返りに多額のリベートを受け取っていることも知っていると言った. 加納は白を切ったが,男は一千万円を要求した.

妻子の営むパン屋をパンが訪れ,娘が塾に通っていることを知った. さらに親戚のものが再婚を勧めていると知り, 「そんなことはいけませんよ!」と怒鳴ってしまった. 妻には再婚の意思はなかったが.

バイクが走っているところへパンが声をかけてきた.またパンの配給だった.
バイク「パンさん,おかしいですよ.俺達はねえ,死人なんですよ. 今更,昔の女房子供に会ってどうするんです? 自分が苦しむだけじゃないですか.」
パン「独りもんのお前に俺の気持ちがわかってたまるか!」
そこへ一人の男が通り過ぎていった.
パン「西沢りゅうじ!」
その男,つまり,加納に電話をかけてきた男は一匹狼の総会屋で, 会社の弱みに付け込んで食い込むダニみたいな奴だった. その西沢は車に轢かれて大怪我を負ってしまった. 駆けつけたパンとバイクに西沢は「畜生め.奴ら, 罠仕掛けやがった.」と言った. 人が集まってきたのでパンとバイクは退散した.

その晩,一人の男(井上孝雄)がバーにいた. 男はピアノ弾きに船頭小唄をリクエストしたが, ピアノ弾きは断って帰ってしまった. そこでちょうど居合わせたブラックがピアノを弾いてやった. ブラックの調べに合わせて男が歌った.その後,ブラックに男が礼を言っていた.
男「あの曲はねえ,私のテーマみたいなものなんですよ.私は, 枯れススキみたいな人間なんですよ.この世の中じゃあ決して花の咲かない, 哀れな枯れススキ.」
そう言って男は立ち去った.そのブラックにベニーが声をかけた. ゴッドから指令が出たのだ.

調査開始

アジトにハングマンが集合した.ベニーがゴッドからの指令を説明した. ゴッドの指令はパンとバイクが見かけた西沢の自動車事故を調査することだった. 警察はひき逃げ事故と見ていたが,パンの見立ては殺人事件. 西沢はかなりのゆすり屋だったからだ. マイトはなぜか泣きながら「そうするとゆすられていた奴が, 口をふさいだ可能性があるわけだ.」と言った. それに応えてバイクは「西沢は罠を仕掛けられたと言い残して, 死んだんですよ.」と言った. (「そんなこと言ってなかったぞ.」と書きましたが,しっかり, 言ってました (_O_)) とりあえず,パンが西沢の妻に会うことになった.

パンは辻本と名乗り,西沢の妻に会いに行った. パンのあらゆる質問に西沢の妻は何も知らないと応え,あの娘に聞いてみな, と言うばかりだった.とりあえずわかったことは, 西沢がある女と組んで何かをしようとしていることだけだった. 女の名前は三谷明美.フリーのファッションカメラマンだった. ブラックはマイトに明美のことを知らせた.

明美のマンションに男達(成瀬正ら)がやってきて, 心霊写真はどこかと聞いていた.だが明美は知らないと答えるばかりだった. そこで男達は明美の服を破り,どこにあるんだ,と聞いた.観念した明美は, 隣りの部屋よ,と答えた.そこで男達がカーテンを開けると, 中からマイトとドラゴンが登場した.
マイト「聞いちゃった,聞いちゃった.おかげで西沢の手口がよくわかったぜ.」
誰なんだ,と聞かれたマイトは,
マイト「西沢の同業者さ.奴のやりのこした仕事を引き継がしてもらうぜ.」
と答え,ドラゴンと一緒に男達を撃退した.マイトは男達の一人を捕まえ, 誰なんだと尋ねたが,男は金で雇われただけで何も知らなかった. マイトは無線で外にいるバイクに知らせ,男達を尾行させた. 男達は財団法人日本貴金属産業振興会の事務所に入っていった.

マイトからベニー達は報告を受けた.とりあえず,心霊写真をでっち上げ, テレビ局に送り,西沢がゆすりをかけていたことまではわかったが, それより先は明美も知らなかった. 心霊写真の元になった写真に写っている男を見て, ブラックはバーで船頭小唄を歌った男であることに気づいた. さらにその写真をパンが見て,見覚えがあると言ったが, 誰かまでは思い出せなかった.そこへバイクからの電話があり, 男達が財団法人日本貴金属産業振興会の事務所に入っていったことがわかった. その頃,事務所では平野と加納と一緒にいた阿久津が男に,馬鹿もん, と言っていた.男が去った後,加納はあと二ヶ月,つまり, 任期満了まで波風立たないところにいさせてくれと阿久津に頼み込んでいた. 二ヶ月経って無事に任期を満了して退職できれば, 次の天下り先へ移ることができるのだ.

ベニーが財団法人日本貴金属産業振興会のことについて報告していた. その話を聞いてパンは, 写真の男が半年前に黒川ダムに車ごと突っ込んで死んだはずの, 情報担当係長であることを思い出した.

翌朝,ジョギングするブラックにタミーが穂積のことを報告した. 情報担当係長の名前は穂積ジュンイチ.あるとき,国際金相場の極秘情報が漏れ, 特定の金取引業者が違法な先物取引で儲けているという噂が流れた. 警察が内偵を始めた矢先に責任者の穂積が失踪. 結局うやむやに終わってしまった.黒川ダムの事件は遺体が上がらなかったため, 自殺か事故か結論が出なかった. 調書には人造湖の底にある木に引っかかっているのだろうと書いてあった. ブラックとベニーはテレビの記者と称して穂積の家を訪れた. ブラックは心霊写真を見せ,穂積の妻(岩本多代)にいろいろ質問した. 妻は理事長は悪い人ではないと繰り返した.課長にも取り立ててもらったし, 退職金もちゃんと出たからだ.だが,ブラックの, 穂積は本当は生きているのではないか,穂積に良く似た人に会ったんだ, という質問には向きになって否定した.半年も音信がないのはおかしいと.

ブラック達が帰った後,穂積の妻は穂積の潜伏先を訪れ, 穂積の死を疑っている人がいると伝えた.
穂積「どんな男だ.」
と穂積が言った瞬間に
ブラック「こんな男だ.」
ブラックが現れた.
穂積「あんた!」
ブラック「亭主が死体がみつからなければ,生きてるのを望むのが妻の心理だ. 死んだことにしてたのは夫婦の共謀だったってわけだ.」
穂積は逃げるがブラックに捕まってしまった.穂積は死のうとしたが, ブラックは自分が振興会の人間ではないことを伝えた. それを聞いて穂積は安心し,真実を話した. 穂積は加納に因果を含まれてダムに飛び込んだ. 穂積は本気で死ぬ気だったが,いつのまにか水面に浮かんでしまった. そうなると今度は死ぬのが怖くなり, 助かりたい一心で必死になって岸にたどり着き,東京に戻ってきた.しかし, 車が見つかったことで穂積は死んだことにされてしまった. 穂積は途方にくれてしまい, 結局このまま死んだことにされてしまうのが一番いいと考えたのだ. そこまでして課長にこだわるのかというブラックに穂積は言う. エリート官僚が支配する振興会でノンキャリア組が出世するのが, どんなに大変なことかブラックにはわからないだろうと. 自殺することはないだろう,というブラックに穂積は, あの時自分が失踪していなければいずれ加納に警察の手がのびていただろう, そうしたら加納は失脚し,加納の引きで出世した自分も首にされ, 家族を抱えて路頭に迷ったに違いない,といった.大学へ進んだ息子のためにも, 穂積は死ななければならなかったという. エリートでないために苦労した自分と同じ苦しみを味合わせたくない. ブラックは穂積を穂積の住む団地の前に連れて行き, 息子のよういちに電話をかけた.ブラックは穂積が生きていることを伝えた. さあ,というブラックに穂積は受話器を取ろうとしなかったが, 必死に呼びかけるよういちの声を聞き,ついに受話器を取り上げた. 穂積はよういちに心配をかけて済まなかったとわびた. ブラックはよういちに,穂積が団地の前にいることを伝えた. 窓から下を見たよういちは穂積を見つけ,穂積のもとへ駆けつけた. 穂積達は三人で抱き合うのであった.それを見届けたブラックは去って行った.

ブラックはベニー達に穂積から聞き込んだことを話した. 金相場の情報を漏らしていたのは加納本人だった.直接の取引は平野が行ない, 相手は阿久津という金取引業者.阿久津はこれで一億円近く儲けていた.
マイト「エリートは労せずして濡れ手に粟. ノンキャリアは命を捨ててはした金の退職金か.」
ハングマンの怒りが爆発する.ハンギング開始だ.

ハンギング

ある晩,平野が自宅へ帰ると全身ずぶぬれの穂積の姿が. 平野は泡食って加納のいる料亭へ駆け込んだ. 加納は馬鹿なと言って取り合わなかった.一方, 阿久津が自宅へ帰ってくると,やはり穂積の姿が. 穂積はマイトの車に乗って去って行った. 阿久津と阿久津の部下も加納のいる料亭へやってきた. たたりが現れたんだと平野はびびった.加納は酒だ酒だと人を呼んだ. そこへベニーがお銚子を何本も持ってやってきた. お銚子には睡眠薬が入っていた.浴びるほど飲んだ加納達は眠ってしまった. 加納たちはバイクとドラゴンによって連れて行かれた.

次の日.加納達は目隠しされ,縄で縛られ, 水の流れる音がするある場所にさらされていた.
ベニー「おはよう,皆さん.」
ブラック「気分はどうだい.」
加納「誰だ,お前達は?」
阿久津「ここはどこなんだ?」
マイト「俺達はハングマン. お前達の口車に乗せられた穂積課長が自殺したダムの上だよ.」
平野「するとここは,黒川ダム?」
パン「そういうこと.お前達が眠っている間にそうっとお連れしたってわけだ. このガーって言ってる音な,ダムの音だよ.」
阿久津の部下(成瀬正)「俺達をどうするつもりだい.」
ブラック「穂積課長と同じ運命をたどってもらおう.」
ベニー「早い話が湖の底で眠ってもらうのよ.」
パン「金の闇取引の罪も一緒に償ってもらおうか.」
バイク「それと,ゆすり屋を殺した罪もね.」
バイクとドラゴンは悪党たちの足におもりのついたベルトを巻かせた. ついに平野が自供を始めた.
平野「やめろ,やめてくれ.俺は何もやっていない. 穂積課長を自殺に追い込んだのは理事長だ.」
加納「よせ.下らんことは言うな.我々を脅かして自白させようとしてるんだ. 証拠になるようなことは喋っちゃいかん.」
だが阿久津も喋り始めた.
阿久津「助けてくれ,ハングマン.見逃してくれえ. 悪いのはこの加納理事長なんだよ.こいつが張本人なんだよ.」
加納「何を言う.最初に話を持ってきたのは,お前なんだろう. それにゆすりの男を殺したのもお前の考えだろう.」
阿久津「いや,やったのは俺じゃない.あの男がやったんだよ.」
阿久津の部下「何を言ってんだよ.殺すように命じたのは, あんたじゃないか.こいつが命令したんですよ.」
平野「嘘だ.私達は何もやってない.命令された通りにやっただけだ. 私達は責任ないんですよ.」
加納「平野君.君は,君は私一人に罪をなすりつけるつもりかね. 薄情だな,君は.」
野次馬達が集まってきた. 実は加納達がいたのは日本貴金属産業振興会のビルの前.水の音はテープだった. 目隠しされていた加納達は見事にだまされたのだ.ハンギング終了後, ブラックは国会議事堂をじっと見つめた.そして,去って行った.

解説

この回の見処は,死人にならざるをえなくなった男を, 同じく死人にならざるをえなくなったハングマン達が救う事です. 学歴のない下っ端が汚職事件の責任をとらされると言う構図は, 様々な刑事ドラマで見られた状況ですが, 現実の事件でも未だに起こっているというのは嘆かわしい事です.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp