第六回

フィリピン出身の歌手を運び屋に仕立てる麻薬密売組織に制裁を加える.
オオカミ達の変奏曲

脚本:中村勝行 監督:松尾昭典

ある晩.とあるバーでブラックがピアノを弾いていた. バーの女主人が名前を聞いたがブラックは答えずに帰ってしまった.その帰り道, ブラックは誰かの手から逃げるルーシーウォンと名乗る女と出会った. ルーシーウォンはブラックに助けを求めたが, 酔っ払った実母の春代もやってきた.
春代「お待ちよ.お前,生きてたのかい?」
と春代がブラックに声をかけている間にルーシーウォンは立ち去ってしまった. そして春代の連れは「ママさん,およしよ. あんたの息子さんはとうに死んじまったじゃないか.」と言って, 春代をブラックから引き離そうとした.が,春代はなおも食い下がった.
春代「この男そっくりだよ.俊也に瓜二つ.」
他人の空似,という連れを振り放し
春代「あ,そうか.お前,俊也の幽霊だ.そうだろう. そうなんだね.この親不孝もんめが.今頃化けて出てきたって, あたしの財産はびた一文もやんないからねえだ.」
見かねた連れは春代を連れ去った. それを見届けたブラックはルーシーウォンを追ったが,時既に遅く, ルーシーウォンはビルの非常階段から転落してしまった.

翌朝.ホテルでマイトは女を抱いていた.私と結婚してと言う女にマイトは 「そりゃ無理だ.」と答えることしかできなかった. マイトには戸籍がないからだ.そこへ電話がかかってきた. ゴッドから指令が出たのだ.

ブラック「ルーシーウォン.フィリピン国籍の中国人歌手. いわゆる出稼ぎの外タレって奴だ.」
マイト「外タレ.」
バイク「テレビの歌番組なんかで一,二度来たことがありますよ.」
マイト「俺が見るテレビ番組は外国語会話勉強教室だけだよ.
パンはマイトの言葉を無視してルーシーウォンの新聞記事を探して見つけた.
マイト「悪くねえなあ.けど俺の趣味じゃねえ.」
マイトは新聞記事を放り投げた.パンは苦笑い.
パン「お前さんの好み聞いてるわけじゃねえんだよ.」
真面目なバイクは
バイク「とにかく本題に入りましょうよ.」
ブラックが指令を説明した.夕べブラックの目の前で自殺したのは, ルーシーウォンだった.ブラックはルーシーウォンが助けを求め,さらに, あっという間に非常階段を駆け上がり,4階から飛び降りたことを説明した. マイトは,なぜ助けなかったんだ,とブラックに聞いたが,ブラックは, 何かの事件に巻き込まれちゃまずいからなあ,と言葉を濁した.
マイト「話を外らすなよ.何か隠してるな.」
図星だったからか,ブラックは無言だ.
マイト「あんた,俺達に何かを隠してるな.」
ブラックはマイトから目を外らした.
マイト「女が助けを求めて来た.そしてビルの非常階段から飛び降りた. どう考えても話の筋が飛びすぎる.その間に, もう一つ突発的な事件が起きたんじゃないのか?」
ブラック「余計な詮索は止めろ.今,俺は仕事の説明をしてるんだ. それ以外のことは,あんた達には一切関係ない.」
マイト「それじゃあ,この仕事は俺たちには関係ねえ. あんたが個人的に関わった事件なんだろう.」
見かねてパンが説明した.
パン「いやいや.そうじゃねえんだ.これはゴッドからの指令だ.」
マイト「ゴッドから?」
パン「ああ.ルーシーウォンの自殺の原因を暴け.これが今度の仕事だ. たまたま今度の事件にブラックが関わってた.これだけの話だよ.」
丁度その頃,ブラックが資料をとってきた.

ルーシーウォンが所属していた, オリエンタルプロダクションという外タレ専門の芸能事務所で, 社長(渥美国泰)がフィリピン人の歌手(ナンシー・チェニー)に, フィリピン行きのチケットを渡していた.その帰り, マイトとバイクが週刊誌の記者と称してその歌手に近づいた. ちなみにマイトは酒井と名乗っていた.
マイト「自殺したルーシーウォンはあなたと同じフィリピン国籍でしたね.」
歌手「ルーシーは私のベストフレンドでした.」
マイト「うん.(なぜか外国語訛りで)自殺した原因について〜, あなた何か思い当たる節はありませんか?」
歌手「No, nothing.」
マイト「(なぜか外国語訛りで)ほんとに? ホントですか?」
歌手「I don't know anything about it. What should I know something about it? I don't know!」
マイトはお手上げのジェスチャーをするしかなかった.

一方,パンはガスの検針員と称してルーシーウォンの部屋を調べていた. パンは点検に時間がかかると称して管理人から鍵を預かり, ゆっくりと家捜しした.パンは鏡台で浜崎明彦という人物の名刺を見つけた.

ブラック達にマイトとバイクが報告していた. マイトとバイクはあの歌手が何かを知っていると似合っていると睨んでいた. マイトとバイクは念のためにオリエンタルプロダクションを洗ってみた. 事務所自体は正式な認可を受けていて違法性はなかった. 経営者はバンドマン上がりの広田.外人タレントはあの歌手のほかに20人. ほとんどが東南アジアの出身でワーキングビザで入国していた. そこへパンがやってきて浜崎明彦の名刺を見つけたと言った. 浜崎明彦は有名な作曲家.彼はブラックとは学生時代同級だった. 浜崎は昔ブラックとバンドを組んでいた仲間だった.
マイト「一方は売れっ子の作曲家.一方は戸籍抹消のはぐれもん. 人間の運命なんてわからないもんさ.」
パンは笑った.
パン「そういうお前はどうなんだよ.」
マイト「やだやだ,俺のことちっともわかってねえんだから. 俺だってまともにいきゃアイドルよ.
それを聞いてパンは大笑いした.
マイト「とにかく顔見知りが相手じゃやりにくいだろう. 浜崎の身辺は俺が洗う.」

浜崎(岡崎二郎)のマンションでは浜崎がスランプに悩んでいた. やってきた広田に浜崎は,俺を駄目にしたのはおまえだ,と八つ当たりする始末. 広田は浜崎をなだめ,さらに,浜崎に頼まれてこの仕事に手を染めたんだ, と言って開き直った.そして,明朝フィニーがマニラへ向かって発つので, その前にフィニーに会ってくれ,と頼んでいた.駄々をこねると面倒なので, 飴をしゃぶらせるためにだ.広田は今晩クラブで会おうと言って去った. 浜崎のマンションから出てきた広田をマイトとバイクが追跡した.
マイト「なるほど.外タレプロダクションのボスと作曲家か.」

その晩,クラブ女王蜂でフィニー(ナンシー・チェニー)が歌っていた. そこへブラックとドラゴンがやってきた.ブラックはブランデーを頼み, ドラゴンは「Scotch and rock」を頼んだ.そこへベニーがやってきて, 聞き込んだ情報を報告した.ルーシーはあの晩,最後の舞台で穴をあけたのだ. ルーシーは仕事を嫌がり,フィリピンへ帰りたいと言い出した. 広田はなだめたが,ルーシーは嫌になったと叫んで出て行ったのだ. 歌手が嫌になったわけではなく, ルーシーは広田から何かを強要されていたのが嫌になったらしい.

楽屋で広田はフィニーに浜崎を紹介した.浜崎はフィニーを気に入った. 店に出た浜崎はブラックを見かけて驚いた.浜崎は従業員に耳打ちした. そしてバニーガールが都築さんと声をかけてブラックの写真をとり, 従業員はブラックが酒を飲んだグラスをハンカチで持っていった. その様子をベニーが見ていた. クラブの外へ出たブラックとドラゴンは暴漢に追いかけられたが, 暴漢を返り討ちに遭わせるのであった.

ハングマンはブラックが写真をとられ,指紋を取るためにグラスを取られ, そして襲われたことから浜崎がクラブにいたことを知った. そしてバイクとマイトが浜崎と広田の関係を報告した. 一年前にアメリカのロックグループグライシスフォーが, 入国寸前に麻薬不法所持で逮捕され,日本公演を中止すると言う事件があった. その連中を日本に呼んだのがオリエンタルプロダクション,つまり広田だった. 浜崎はその公演でショーの構成と演出を担当することになっていた.また浜崎は, 以前アメリカへ新人歌手を連れてレコーディングをしたことがあったが, そのときにグライシスフォーと知り合った.一説によると, それ以来浜崎は麻薬に狂いだしたらしい. あのときグライシスフォーが持っていた麻薬は, 浜崎への土産だったと言う噂も立った. さらに広田が抱えている外タレのほとんどが月に一回帰国していた. ルーシーもそうだった.広田は外タレを運び屋に使っているに違いない. 仮に一人が100gのヘロインを持ち込んだとすると, 月に2Kgのヘロインが手に入ることになる. 今の相場は末端価格400gで1億2千万円だから3億円の稼ぎになると言うわけだ.

翌朝,フィニーが成田からマニラへ出発した.そして警視庁では刑事が, 都築俊也が生きているらしいと上司(川合伸旺)に報告していた. そんな馬鹿なという上司に刑事は例のクラブでの写真を見せた. 上司も確かにそっくりだとうなずいたが,刑事は尚も食い下がり, グラスを調べるように上司に頼んでいた. だがグラスからは台帳にある都築俊也の指紋が出なかった.

一方,広田は例のクラブの従業員石田から, 浜崎が警察へ写真とグラスを引き渡したと聞き,薮蛇だと怒っていた. そして広田は浜崎と手を切る頃だなと言った.

都築の上司は例の写真を持って春代の経営する紅花スタジオを訪れた. 春代は例の写真を見たが,俊也と良く似ているが別人だ,と答えた. 上司は,さらに他人を身代わりに自分を抹殺したケースもあるんだ, と食い下がったが,春代は一笑にふした. エリートコースを歩いていた俊也が蒸発するはずがないと.

石田はやくざに麻薬を売り込んでいた.その様子をパンが盗聴した. その頃,浜崎は熱川へ立とうとしていた.そこへ広田がやってきて, 手を切りたいと言い出した.浜崎は怒ったが広田は取り付くしまもない. 麻薬をくれと懇願する浜崎に広田は「最後の薬」を渡して帰っていった.

パンはブラックに明日の午後二時にヘロインを1Kg売る取引が, セントラルホテル825号室で行なわれることを報告した. フィニーも明日帰ってくる.これで麻薬密売の手口, ルーシーウォンの死の真相が明らかになった.ハンギングだ, と意気込むバイクをパンがなだめた.

帰国したフィニーをパンとバイクがホテル御苑へ連れ去った. ハングマンはフィニーに薬を出してと言うがフィニーは何も知らなかった. パンは荷物を調べたが麻薬は出てこなかった. マイトはフィニーの服を脱がせようとするが, フィニーは自分で脱ぐと言って別室へ向かった. そしてフィニーが出したブラジャーをマイトが破ると, 中からヘロインの包みがたくさん出てきた.

ホテルを去るブラックのワゴンの中で.
ブラック「あれじゃあ,税関もフリーパスだ.」
ベニー「Cカップなら100gのヘロインを隠すぐらい簡単だわ.」
マイト「ところでベニー.」
ベニー「なあに?」
マイト「あんたのサイズは?
ベニー「関係ないでしょ.」

ハンギング

石田はフィニーの帰りを待ちかねていたが, ドラゴンの不意打ちを食らって倒されてしまった. バイクはフィニーに電話をかけさせ,広田を御苑へ呼び出した. のこのこ現れた広田はバイクの不意打ちを食らって倒されてしまった.

一方,ブラックのワゴンは浜崎のいる熱川温泉のホテル大東館へ向かった. 仲居に扮したベニーが広田の使いが現れたと浜崎に伝え, 大事なものを渡したいので駐車場まで来てほしいと言った.珍しいお薬とか, というベニーの言葉に目の色を変えた浜崎は駐車場へのこのこ現れた.
マイト「浜崎様.こちらでございます.」
浜崎はブラックのワゴンに乗ろうとしたところでブラックに麻酔をかけられた. そしてブラックのワゴンで運び去られてしまった.

浜崎「これは誘拐だぞ.俺をいったいどうする気なんだ.答えてくれ. どうするんだ.言ってくれ.貴様達はいったい何者なんだ. 俺をどうしようって言うんだ.」
浜崎は縛られていた.そしてブラックがサングラスを取った.
浜崎「あ,都築.やっぱり都築だったんだな.ほら,俺だよ. 学生時代に一緒にバンドを組んでいた浜崎だよ.都築,忘れたのか.」
パン「違うんだよ.バンドマンじゃなくてハングマン.」
浜崎「冗談はやめてくれ.声に聞き覚えがあるし.そうだ,都築だったら, 確か右腕に火傷の傷があったはずだ.君,右腕見してくれないか.」
ブラックは無言で右腕を見せたが火傷の傷などなかった.
マイト「よーし,戸籍調べはその辺にして.バイク.」
バイク「は.」
バイクは犬のおもちゃを取り出して歩かせた.
パン「これはリモートコントロールのスイッチだ.よく見てろ.」
パンがスイッチを操作すると犬のおもちゃは木っ端微塵に吹っ飛んだ. 思わずのけぞる浜崎.
マイト「この仕掛けを大型にしたのがこれだ.」
マイトは浜崎にぶっといベルトを見せた.
マイト「これからお前さん,これをしょって歩くことになる.」
マイトはやめてくれと言う浜崎にこのベルトを巻いた. そしてパンが無線のイヤホンを耳に刺し,小型無線機を懐に入れさせた.
ブラック「俺がこの無線機で指示をする.」
パン「逆らったら,これを押す.さっき見たなあ.犬とおんなじだ.お前さん, どーんだ.」
浜崎「いったい,俺にどうしろって言うんだ.」

新宿でバイクは浜崎を降ろした. そして指示を与えるまでここに立ってろと言って去ってしまった. ビルの屋上からブラックが指示を出す.
ブラック「浜崎,聞こえるか.聞こえたら右手を挙げろ.」
浜崎は右手を挙げた.
ブラック「よーし,そしたら,三幸町の交差点の方をむくんだ.」
浜崎がその方向を向いた.
ブラック「20m先にコンテナトラックが止まっている. そのコンテナのそばまで行くんだ.」
浜崎はコンテナへ向かって歩いた.
ブラック「よーし,そこで止まれ.」
浜崎はコンテナの前で止まった.
ブラック「そのコンテナの扉を開けるんだ.」
浜崎はコンテナの扉を開けた. すると中には広田と石田が縛られていて浜崎に助けを求めた.
ブラック「そこで麻薬密輸のからくりを洗いざらい喋るんだ.」
だが浜崎は無言だ.
ブラック「どうした.ベルトの爆弾が爆発してもいいのか.」
浜崎は耳を押さえた.
浜崎「わかった,喋る.何でも喋るから命だけは助けてくれえ.」
石田「先生.何言ってんですか.助けてもらいたいのはこっちですよ.」
野次馬が集まり始めた.
浜崎「こいつら,麻薬密輸の犯人だ!」
広田「嘘だ!」
浜崎「外人のタレントプロダクションを隠れ蓑に, 大量のヘロインを密輸してたのはこの連中だ!」
広田「やめろ!」
浜崎「麻薬密輸の張本人はこいつらだあ!」
広田「やめんか,浜崎.みんな,こいつの言うことは嘘っぱちだ.」
ブラック「いいか,浜崎.目の前の荷台にアタッシュケースが置いてある. それを開けて囚人達のまなこに見せてやれ.」
浜崎は言われたとおりにアタッシュケースを取った.
ブラック「ケースを開けろ.」
浜崎はケースを開けた.中からヘロインの包みが出てきた.
浜崎「よく見ろ.これが証拠だ.」
浜崎がヘロインの包みをつかんで叫んだ. 石田と広田は呆然とその様子を見るしかなかった. 浜崎は「ヘロインだ,ヘロインだ」と叫びつづけるのであった. かけつけるパトカーの音を聞きながら, ブラックは妹の由紀からもらったハーモニカを取り出し, ハーモニカを吹きながら去って行った.

解説

ブラックの過去編ですが,マイトやパン, そしてベニーとは違って熱くならずにクールに対処しています. ゴッドがリーダーにしただけのことはあります. そのブラックが熱くなってしまうのは妹に対することで, 最後の場面でそれが暗示されています.

余談ですが,あべさんのスケジュールの都合がつかなかったのか, ベニーの登場シーンが少なくなっており, この話ではクラブへの潜入シーンが初登場になります.つまり, 初めにブラックがゴッドからの指令を説明する場面では, ベニーは登場していないのです.また脚本担当が中村勝行さんであるためか, マイトのギャグが大幅に増加しています.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp