第三回

計画倒産のからくりを暴く
罠に落ちた逃亡者

脚本:長野洋 監督:松尾昭典

ある晩.一人の中年の男(山田吾一)が駅のホームから突き落とされそうになった. そして帰宅して,今まさに門を開けようとし, 「あきこ」と呼びながら家のドアを見ると半開きになっていた. 危ない気配を察して逃げる男.中から暴漢達が男を追って出てきた. 家の一室では娘のあきこ(土屋かおり)がぬいぐるみを抱きしめて, 呆然と座りこんでいた.

さてハングマンのアジトがあるマンションの一室. パンが昼間から酒を飲んでいた. パンの娘が母親と喧嘩して家出してしまったからだ.
マイト「どうしたんだい.え? 元気出せよ.どうしようもねえだろう. おれたちゃ死人なんだ.死人は黙ってるしかねえんだよ. あんたまだいいさ.家族が生きているんだから.
マイトは妻と子供が殺されたときのことを思い出していた.
マイト「なにがあろうと,生きていることはいいことさ.」
マイトは愛犬を可愛がった.妻と子供の代わりなのだ.その様子を見ながら, ブラックは由紀のことを思い出して複雑な気分になった.

その頃,雨が降る中バイクがオートバイを乗り回していると,あきこが口を開け, ぬいぐるみを抱きながら呆然と座っているのを目撃した.バイクは声をかけ, あきこをオートバイに乗せてやった.バイクは,うちはどこだ,とか,高校生か, とあきこにいろいろ聞く.その言葉にあきこは怒り,「あんたおまわりさん? 止めてよ.」と降りてしまった. そして「さよなら,おじさん.」と言ってあきこは去ってしまった.

アジトに戻ったバイクは,この俺をつかまえておじさんといいやがったんですよ, と言って憤慨した.高校生から見れば立派なおじさんだ, とマイトはバイクをからかった.そこへベニーが戻ってきて, パンの娘が帰ってきて店を手伝っていた,とパンに教えてやった. 大喜びするパンは,つづけて,ゴッドからの指令は,と聞いた. その言葉を合図にベニーがゴッドからの指令を伝えた.

調査開始

ベニーは冒頭の男(山田吾一)の写真を皆に見せた.
ベニー「松井隆夫,47歳.亜細亜重工経理部課長補佐.」
亜細亜重工はつい最近倒産したばかりだった.負債総額は約50億. もっとも倒産した原因は前の月末に3億の手形が落とせなかったためで, その3億を持ち逃げしたのが松井隆夫と言うことになっていた. だが松井は3億の金を持ち逃げできるような男ではなかった. つまり会社は松井に罪を着せて計画倒産した疑いがあるのだ. 帳簿上は松井が持ち逃げしたことになっているため,警察は手が出せなかった. また債権者はほとんどが亜細亜重工の下請けの中小企業がほとんど. 関連倒産した業者もあり,自殺者が二人出ていた. 松井は死んだんじゃないかと言うマイトとパンに, ベニーは生きている証拠を述べた. 松井の家には総会屋である梅川(幸田宗丸)の手下の監視がついていた. 松井は梅川の目を恐れて逃げ回っていたのだ. 梅川と亜細亜重工社長の大西詮造(田島義文)は戦前からの友人だった. 大西は二回も計画倒産を繰り返して何度もよみがえってきた. 梅川達に松井が捕まえられる前に松井を見つけ出し, 計画倒産のからくりを暴き出すのが今回の使命だ. 家族は,と聞くパンにベニーは答えた.松井の妻は二年前に病死しており, 今年十五歳になる娘あきこがいた.あきこは家を出たきり, 行方がわからなかった.

そのころ,あきこはナオミと名乗って暴走族のオートバイに二人乗りしていたが, そのオートバイは転倒事故を起こしてしまい,あきこは頭を打って死んでしまった. バイクはその事故を報じた新聞記事を見て, 自分をおじさんよばわりしたのはこの娘だと言った. あの時自分が無理に身元を聞き出し,家に送り届けていたら, こんなことにならなかったに違いない. 娘が死んだのに家族が名乗り出ないことにバイクは憤慨していた. バイクにマイトは,いちいち熱くなってたら身がもたないよ,と忠告していた.

一方,新聞記事を見た松井は交番の前まで来たが,思いとどまった.その後, 公衆電話から110番して「その子の名前は松井…」と言ったところで, ダンプが突っ込んできた.間一髪,松井は逃げることに成功するが, 電話ボックスは粉々に砕け散ってしまった.

次の日,オートバイに乗ったバイクと車に乗ったマイトが話していた. マイトは電話の話をバイクに教え,女は松井の娘だ,と言った.バイクは, お先に,と言ってオートバイを駆って去ってしまった.そして, 寺にあきこの遺骨を届けて墓を作ってやった.

その頃,松井を襲ったダンプを運転していた男が無理矢理酒を飲まされていた. そして男は海辺で男は死体となってあがっていた. 現場に笹島刑事(菅貫太郎)が駆けつけた.笹島刑事の調べにより, 男は「泥酔して岸壁から足を踏み外して水死した」ことになった.

ベニーからその話を聞いて,殺されたんだ,と憤慨するバイク.ブラックは, 証拠は何もない,とバイクをたしなめた.さらにバイクは,松井も馬鹿だ, なぜ警察に駆け込まないんだ,と憤慨した.ベニーの調べでは, 大西は倒産する寸前に成田からヨーロッパへ向かっていた. その頃大西はパリから梅川経済研究所に国際電話をかけ, 新会社設立も近いから早く松井をみつけろ, と督促していた.梅川は大西に手は打ってあるから安心しろと言っていた. その傍らで笹島が金を受け取りながら「俺はこれで降りるわ.」と言っていた. 梅川には松井が横領したことになっている3億と合わせて, 裏帳簿を操作して10億が入ることになっていた. それなのに百万円しか入らないことを笹島は不満に思っていたのだ. 梅川はサラ金の借金で首が回らなかったのを助けてやったことをたてに取り, 開き直った.梅川の事務所から出てきた笹島をマイトが尾行. 笹島が警察署に入るのを見届けてから, マイトはブラック達に笹島のことを報告した. こうなったら誰よりも先に松井を見つけなくてはならない.

一方,バイクは松井の家へやってきた. バイクにちかづく梅川の手下はドラゴンに倒された.バイクは郵便受けをあさり, 差出人のない封書を発見.消印から, その封書は清川東局管内のポストに投函されたものであることがわかった. その管内の安宿をくまなく探したバイクは, 第五相模屋という宿につい最近まで松井が止まっていたことを突き止めた. そして宿の主人から, 誰かの葬式か墓参りへ行く様子で松井が出て行ったことを聞き出した. バイクはあきこの遺骨を届けた寺へ行き, 松井が菩提寺へ埋葬しなおすために遺骨を引き取ったことを聞き出した.一方, 笹島のところへ松井から自首したいと電話がかかっていた.

菩提寺へ急行したバイクは松井をみつけた.松井さんですね, というバイクに松井は「警察の方ですね.」と全てを話した. そして娘のことが気になったので危険を承知で東京に舞い戻ったことを話した. 松井は一度だけ,ディスコで会っていた.あきこは乱暴されたことを松井に言い, 松井をなじって去って行ったのだ.バイクはなぜ早く自首しなかったのかと聞く. 松井は,申し開きがとおるかどうかわからなったこと, 娘の姿を見てどうでもよくなったこと,を理由にあげた.だが, 松井は逃げるのに疲れていた.松井はバイクに,早く警察へ連れて行ってくれ, と頼むが,バイクは,自分は警察の人間ではない,と応えた. それを聞いた松井は驚いた.そこへ, 笹島から連絡を受けた梅川の一味の連中がやってきた. バイクは肩を撃たれて竹薮を転げ落ちてしまい,松井は殺されてしまった. 笹島の調べで松井は「首をつって自殺」したことになってしまった.

新聞記事を読んで苦虫を噛み潰すブラック. そこへ電話がかかってきた.マイトが受話器を取った.
マイト「はい.おお,ドラゴンちゃんか. 何? ちょっと待て.(ブラックの方を向いて)おい. 松井が死んでた寺の前にバイクのバイクが乗り捨ててあったそうだ.」

寺をドラゴンとパンが探索した. そして近くの水路にバイクが落ちてうめき声をあげているのをパンが発見. バイクは「淀橋診療所」へ運び込まれた. そこはパン達が整形手術されたところでもあった. 何とか一命を取り留めるバイク. 医者(近藤宏)は「第一なあ,お前さんたちは一度は死んだ人間だ. 二度死ぬなんて贅沢なもんだぞ.」と大笑いしながら言った.さらに,
医者「ところでお前さん達,ほほがひきつるということだが.」
パン「そうなんですよ.ここがぴくぴく,ぴくぴくっと.」
医者「おお,そいつはいかんのう. なんだったらもう一度,やり直してやってもいいぞ.」
パン「え?」
医者「は,は,は,は,は.あのなあ,お前さん. 近頃面白い仕事がなくて腕がなっとるんだよ.」
パン「冗談じゃありませんよ.本当にこの人名医なのかなあ.」

ハンギング その1

ブラックは梅川と笹島をハンギングすることにした. 一番の大悪の大西は未だパリだぞ,と言うマイトに
ブラック「なあに,構わんさ. 梅川とデカの笹島が喋れば,黙っていても大西は破滅だよ.」
まずブラックとパンが笹島を拉致した. そして料亭で梅川の手下をドラゴンが倒し,ベニーとマイトが梅川を拉致した. 梅川と笹島はとある遊園地の大マジックショーの会場へ連れ込まれた. ブラックは梅川と笹島に, 亜細亜重工倒産のからくりと課長補佐の松井隆夫殺しの件を喋るように言うが, 梅川は白を切り,笹島はだんまりを決め込んだ.ブラックはドラゴンに合図し, 奇術で使う美女切断マジック用大型回転のこぎりを取り出させた. まず角棒を切ってのこぎり自体の切れ味を見せつけた. その後で笹島の顔を回転のこぎりに近づけた. 最初は「そんなこけおどしで人がびくつくと思ってるのかい.」 と強がる笹島だったが,「悪い冗談はよせ.」とびびりまくり, 事件のからくりを話し始めた.笹島が喋り,梅川が黙れ, と言っている様子が外へスピーカーで流された.そこへ警官が駆けつけた.だが…

マイト「駄目? 駄目とはどういうことだ?」
松井殺しの件は確かに明るみになったが, 梅川は計画倒産のからくりがわかっていなかった. それに松井が殺されたときは未だ大西はパリにいて, 大西は松井殺しなど頼んでいないと言い張っていたのだ. さらに松井殺しの件など大西は問題にせず,計画倒産を進めていた. 「殺しちゃおう.そんな奴はぶっ殺そう.」というマイトに, ブラックは「ちょっと待てくれ.」

ハンギング その2

その翌日.大西が日本に帰ってきた. 成田空港に駆けつけた記者達の質問にも大西は白を切りとおし, 屋敷に帰ってきた.そんな大西をブラックとマイトは警察から来たと称して, 勝手口から連れ出し,淀橋診療所へ運び込んだ. そして大西の新会社亜細亜興業発足の日. 大西は新会社の社屋の前に連れ出された. そして新社屋の前に止められた車の中に大西は寝かせられた.
社員(うえだ峻)「すいません.ここに車置かれると困るんですが.」
大西は気がつき,起き上がった.だが大西の顔は別人のように整形されていた. 角刈りの頭ははげ頭にされ,ひげは薄くされていた. だから社員は大西が大西であることに気がつかなかったのだ. 大西はそのことには気がつかず,建物を見て驚いた.
大西「わしの会社だ.(社員を呼んで)君.」
社員「何でしょうか?」
大西「君は,この会社の社員かね?」
社員「はいそうですが.」
大西「今日は幾日だね?」
社員「十一月二十八日ですが.」
大西「十一月二十八日.するとわしはいったい…」
社員「どうかなさったんですか?」
大西「君,高田ますみを呼んでくれ.」
社員「高田?」
大西「専務の高田だ.」
社員「失礼ですが,いったいあんた誰なんですか?」
大西「ばかもん.わしゃ社長の大西だ.」
社員「は? 社長?」
社員は怪訝な顔をし,この人は何を言ってるんだろう,という顔をしている. 大西は激怒した.
大西「何をしてるんだ!」
社員「あんた,少しおかしいんじゃないの?」
別の社員がでてきた.
別の社員「どうしたんですか.」
社員「この人が,自分が大西社長だと言ってるんだ.」
別の社員「え? 冗談はよしたまえ!」
大西「何を言うか.お前達は自分の社長の顔も知らんのか!
社員「知ってるから言ってるんですよ.
社員は大西に大西の肖像画を見せ,さらに別の社員が大西に鏡を見せた. 驚く大西.大西の肖像画は髪の毛ふさふさでひげも生やしていた. しかし大西の頭ははげ頭でひげも生えていなかった. 大西は社員達に叩き出されながらも「放せ.わしは大西だ.この会社はわしのもんだ.わしは大西詮造だ. 放せ.この会社はわしの会社だ.放せ.わしは大西だ. 大西詮造はわしだ.」と叫ぶが誰も聞き入れなかった.

ブラックのワゴンの中からハングマンはその様子を見ていた.
パン「へ,へ,へ.やっぱりあの先生の腕はたいしたもんだ.は,は,は,は, は,は,は.」
ハングマンは去っていくのであった.

解説

この回の見物はハンギングが二度も見られると言う事です. 一度目のハンギングでは黒幕までは手が届かず, 二度目のハンギングで決着が着くと言う趣向です. 顔を変えられた大西は正に社会的に抹殺されました. 悪事の報酬を得る事ができなくなったからです.

ちなみにこの回でハングマンを整形手術した医者が登場します. 彼は第23話にも登場するのですが,なぜか病院の名前が変わっていました.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp