第二回

「動機なき殺人」の裏に潜む贈賄事件を暴く
その命五千万

脚本:中村勝行 監督:井上梅次

元城南精機製作所経理係長の竹内良雄,47歳が, 丸菱商事の政治部長とも呼ばれた郷田ひろしを, ライフルで撃ち殺す事件が発生した.竹内は前日に辞表を提出していた. そして郷田に天誅を下すために犯行を行なったと自供. その後,竹内は中央拘置所の中で自殺した. 竹内と郷田との間には付き合いが全くなかったため,動機が全く不明だった.

仕事開始

この事件は新聞でも大々的に報じられた. ワゴンの中で新聞を読んでいたブラックのところへ電話がかかってきた.
ブラック「ああ,ゴッド.今朝の朝刊の自殺でしょう. かかってくると思ってました.元デカの直感って奴ですよ.」

ゴッドのオフィスにブラックがやってきていた. ゴッドはオフィスの一室で毛筆をしていた.
ゴッド「馬鹿げた話だ. 働き盛りの実直なサラリーマンが社会正義の為に一命を投げ出すなんて, 誰が信じるかね?」
ブラックも同意見だった.
ブラック「裏がありますね.」
ゴッド「そう.警察では精神鑑定をしようとしていたらしいね.」
ブラック「捜査当局の常套手段ですよ.理屈で割り切れないことは, 全て精神の問題として片付ける.その方が容易だからです.」
ゴッドはうなずいた.
ゴッド「しかし,そのために真相が闇に葬られた例はいくらでもある. 今度の事件もその一つだ.闇に閉ざされた部分にむしろ犯罪の実態が潜んでいる. これは何かあるぞ,必ず.」
そこへバイクがドアを開けて入ってきた.
バイク「みんなが集まりました.」

ゴッド「いやあ,諸君,御苦労.死んだ人間にしては顔色がいいなあ.」
パンがそれに応えた.
パン「へ,へ,へ,へ.お陰様で.でも退屈してます.暇で暇で.」
ベニー「何しろ友達も作っちゃいけない商売だから.」
葉巻をくわえながらマイトが言う.
マイト「大金もらってますからねえ.(葉巻を手に持ち)仕事頂戴.」
ゴッド「は,は,は,は.おい,ドラゴン.あんまり女に深入りするなよ. 身元がばれるからな.」
ドラゴンは右手の親指と人差し指で丸を作った.
パン「また,これか.こいつ,わかってんのかな?」
これを聞いたゴッドは笑ってこう言った.
ゴッド「よーし.いよいよ,働いてもらうぞ. 資料はバイクとベニーに集めさせた.」
バイク「おい,ドラゴン,スクリーン,出してくれ.」
というわけで説明が開始された.殺された男は郷田ひろし,45歳. 貿易部勤務で政界に顔が広く,丸菱商事の政治部長と呼ばれて, とかく黒い噂がつきまとう男だった.犯人の竹内良雄は, ある精密機械メーカーの下請け会社に勤める経理マンだった. 勤続20年で温厚実直なサラリーマンで過去にトラブルを起こしたことは全くなし. 被害者との個人的関係も一切無く,会社と丸菱商事との利害関係もなし. 竹内の妻しずえ(野口ふみえ)は42歳. 娘のまゆみ(横田智美)は17歳で現在高校2年生. 竹内の生活は中流で15年前に会社から退職金を前借し, それを頭金にローンで小さな建売住宅を購入した.
ブラック「金で仕事を請け負った.」
パン「金で? まさか.いくら大金積まれたって命までは売らねえだろうよ.」
すかさずマイトが反論した.
マイト「俺達だって金で命を売った口じゃねえか.」
パン「俺達とこの男とは別さ.この男はなんつったって, 勤続20年の真面目男だからなあ.バイク,この男の家庭はどんな塩梅だ?」
バイク「全くよき夫,よき父親だそうです.」
ブラック「ごく平均的なサラリーマンか.」
ベニー「お金に困っていた様子も全く無いの.」
パン「(舌打ちして)そんな男が金で殺しを請け負うなんてとても思えんなあ.」
マイト「(舌打ちして)それにしても,中年のサラリーマンが突然, ライフルをぶっぱなして人殺しをするなんて.は,は,は. 正に劇画チックだなあ.」
笑うマイトをゴッドが一喝した.
ゴッド「面白がってる場合じゃないぞ! いいか.この動機なき殺人の裏には, 何か大きな犯罪が隠されている気がする.これが私とブラックの意見だ. これをみんなに徹底的に洗ってもらう.ただし,いつもの通り, 殺しは絶対に行かんぞ.いいか,マイト.」
マイト「やだなあ,ゴッド.なんで俺だけよ.」
ゴッド「脱線するなら,お前だ.」
これを聞いたマイトは苦い顔をした.
マイト「ちぇ.とにかく, サラリーマンがライフルを持っていたこと自体がおかしい. 問題はここだ.」

マイトは竹内が通っていたライフル練習場へ行き,聞き込み開始. 竹内は2ヶ月ほど前からライフル練習場で練習をしていた. ついでに百発百中のクレー射撃の腕を披露した. パンは出入りの業者と称して竹内の遺族の家に入り込んだ. パンは竹内の妻しずえから, 2ヶ月ほど前に突然竹内が墓参りに行ったことを聞き込んだ. バイクは竹内の娘まゆみを誘って自分のバイクに乗せた. そして竹内が天野総合病院の診察券(日付は9月20日, つまり2ヶ月前)を持っていたことを聞き込んだ.ここ20年間, 竹内は病院へ行った事がなかった.以上のことからハングマンは, 竹内が自分は不治の病にかかっていると考え込んでいたことを知った.

一方,しずえとまゆみは竹内の遺書と隠し銀行口座の預金通帳, そして癌に関する本を見つけた.口座には5千万円振り込まれていた. 遺書にはこう書かれていた.
竹内の声「この金は決して不正な金ではない. お父さんがある人物と取引をして得た金だ.二人の将来のために使ってくれ. 但しこの事は一切他言しないように.良雄」
このときの会話をブラックとバイクが盗聴していた.

ブラックは母親の使いと称して妹の由紀を見舞った. 相変わらず由紀の意識は戻らない.そして母親は見舞いにも来なかった. ブラックは由紀が買ってきたハーモニカを吹くと,助産婦の人が, その日の朝,由紀が「ハーモニカ」と呟いたことを思い出した. 病室から出たブラックをベニーが呼び止め,ゴッドが呼んでいることを伝えた. ゴッドは意識が戻るまで会うことを特別に許すことを伝え, ついでに竹内の観察医務医から得た解剖調書の結果を伝えた. 竹内は胃の内壁にわずかな潰瘍が見られるだけで癌の様子は全くなく, しかも竹内はすこぶる健康体だったのだ. 竹内を癌だと思い込ませることができるのは医者しかいない. 天野総合病院の院長天野(江見俊太郎)と, 総会屋の大ボス権藤正二郎(野口元夫)は,刎頚の友で, しかも郷田の直接の上司である丸菱商事の本間常務(成瀬昌彦)は, 権藤とは十年来の知己だった.つまり, 権藤を介して加害者と被害者の線がつながったというわけだ. ゴッドはさらに2ヶ月前,高木ジャーナルという赤新聞に, 丸菱商事の政界との癒着を暴露する記事が載っていたことを,ブラックに伝えた.

ブラックは高木にマイトを差し向けた. マイトは高木の口にダイナマイトをくわえさせて脅し, 高木が郷田からプラント輸出献金リストをネタとしてもらっていたことを, 聞き込んだ.そしてプラント輸出献金リストを手に入れた. そこから事件のからくりが明らかになった. 本間はフィクサーである権藤を介して郷田に政財界に金をばら撒かせた. 罪を全て着せられることを恐れた郷田は指令書を高木に預けたが, 金欲しさに高木は記事にし始めた. 驚いた本間は知りすぎた男郷田を消すために権藤を介して天野に殺人を依頼し, 回りまわって竹内が郷田を殺すことになったというわけだ.

ハングマンはこのリストの存在を逆手にとることにした. 高木に扮したマイトが本間に近づき,リストの存在をほのめかした. マイトと別れた本間をバイクが追跡すると本間は権藤のところに駆け込んだ. 権藤は天野に連絡を取り,また患者に高木(マイト)を殺させようとした. 天野は藤原という男に目をつけた.その様子をブラックは待合室で見届けた. そしてブラックは藤原をつけ,藤原が権藤の事務所に入り込むところを目撃する. 藤原は報酬5000万円で高木(マイト)を殺す依頼を受けた.藤原はお金を受け取り, 高木(マイト)の事務所に乗り込んだが,ブラックとマイトに止められるた. そして藤原にブラックとマイトは健康体であることを伝えた. さあ物証はそろった.

ハンギング

権藤の事務所にマイトとドラゴンが乗り込み,権藤の手下を捕まえ, 権藤を呼び出させた.そしてのこのこ現れた権藤を捕まえた. 看護婦に扮したベニーと清掃員に扮したパン, そして医者に扮したバイクは天野を捕まえた. 本間のところにはブラックが権藤の使いと称して乗り込み,拉致した. ハングマンは権藤,本間,天野の三人に目隠しをさせ, 新宿の東口に設置されたトラックの中に置かれた椅子に座らせた.
マイト「コレステロールのつきすぎだよ.」
これは権藤に対して言った台詞.
権藤「貴様ら,一体俺達をどうするつもりなんだ!」
マイト「どうもしやしねえよ.一部始終素直に吐けばな.」
権藤「何? 何の事かさっぱりわからん!」
ブラック「わかるようにしてやるさ.」
バイクが時計とマイクを置いた.
パン「はい,ちょっと静かにしてこの音聞いて.」
チッチッチッチッチッチッチッと時計の音が響いていた.
マイト「何の音だかわかる? これはねえ,時限爆弾(口調を変えて)だあ!」
権藤達三人は驚いた.
天野「時限爆弾?」
パン「そうよ.」
本間は呻き声をあげた.
マイト「ここに無線マイクが置いてある.命が惜しかったら, 素直に洗いざらいぶちまけるんだ.正直に吐いたら,時限装置を止めてやる.」
本間は首を右往左往させた.
マイト「わかったな.」
ブラック「さあ,行こうか.」
ハングマンは全員立ち去った.待ってくれと叫ぶ天野と本間. チッチッチッチッチッチッチッと時計の音だけが響いていた.びびる天野.
天野「権藤さん.」
権藤「こいつは罠だ.吐くな.一言も喋るんじゃないぞ.」
本間「し,しかし.」
権藤「喋るな!」
チッチッチッチッチッチッチッと時計の音だけが響いていた.ついに
天野「助けてくれえ.何もかも話すから時限装置を止めてくれえ.」
権藤「言うな.院長.」
天野「いや,言います. 郷田を殺したのは権藤さんと本間さんの差金だったんだあ.」
と同時に荷台のカーテンが開かれ,野次馬達に権藤達三人の姿がさらされた.
本間「何を言う.私は何も知らん.権藤が全てやったんだあ.」
権藤「馬鹿言え!」
本間「いえ,黙りません.」
権藤「何を言うか.俺の命令だ.二人とも何を言うか. 今まで散々面倒をみていたではないか.」
本間「その都度,礼をしこたまとられたじゃないかあ.」
権藤「それは当たり前だ.」
本間「何が当たり前だ.」
権藤「無礼者.貴様,俺にそんな事が言えた義理か.」
本間「義理も糞もあるか.そんな事言ってる場合か.」
喋っている内容は全て大音量のスピーカーで外へ筒抜けで, 壁には例の贈賄リストが貼られていた.
天野「あんたが悪いんだ.私はあんたの巻き添えを食ったんだ.」
権藤「いい加減なこと言うな.」
天野「何もかもあんたが悪いんだ. 何もかも話したから時限装置を止めてくれえ.」
とまあ,ずっと天野と権藤と本間はお互いに罪をなすり合いながら罪を告白した. そして目隠しを外した天野が見た物は群がる野次馬達だった. 立ち去るハングマンに森山周一郎のナレーションがかぶる. 「町は今日もネオンの花が咲き,人々は歓楽に酔っていた. しかしハングマンたちの行き着く所は過去の忘却だった. あるものは酒にひたり,あるものは女を抱いて,あるものは深い眠りの中で.」

解説

この回で話のフォーマットが固まります. ただやはり6人という人数は多過ぎたようでドラゴンの登場シーンが, 冒頭の集合シーンと後半の権藤拉致シーン以降のみになっています.

ブラックと妹由紀の関係は今後の伏線になっていきます. クールなブラックも妹由紀が絡んだことでは熱くなってしまいます. それが#25での爆死につながっていくのです.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp