2002年7月17日

「太陽にほえろ!」第248話「ウェディングドレス」

脚本は小川英と四十物光男.監督は斎藤光正.主役は長さん.

長さんの娘良子と市村進の結婚式が間近になっていた.来賓にはボスの名も. 長さんの妻康江はボスにスピーチをお願いしているかどうかを長さんに尋ねた. その時,物音がした.良子が食器を落として割ってしまったのだ.
長さん「気をつけなさい.結婚したら食器も財産の一つなんだから.」
良子「心配ない,心配ない.お皿を洗うのは進さんの役だもん. 進さん,とっても上手なのよ.」
長さん「馬鹿を言いなさい.男子厨房に入るべからずといってなあ…」
その時,良子は時計を見て進との約束を思い出し,出て行ってしまった.

事件は結婚式の前日に起こった.白昼の街中で主婦が男と遭遇した. 主婦は男を見て一瞬とまどったが,すぐに曲がって行ってしまった. だが男は主婦を追いかけ,話をしようとした.そして主婦は, 歩道橋の上で男にナイフを突きつけられた.なぜか主婦は逃げもせず, 男の刺されるがままにしてしまった.

通報が七曲署にあった.事件の現場は矢追町の歩道橋.幸い, 主婦は命に別状はなかった.長さんは病院へ行く事になり, 山さん達は現場へ直行した.山さんは歩道橋の上で財布を拾った. 財布の中にはかなりの現金が入っていた.殿下が被害者の身元を聞き込んできた. 名前は石田光子.近くに住む主婦で買い物帰りのところを襲われたらしい. また近所の人が二人が言い争いをしているところを目撃していた. となると顔見知りの犯行という事になる.

一方,長さんは光子に犯人の事などを尋ねていた.だが, 光子は一言も喋ろうとしなかった.まるで口が利けないかのようだった. その時,夫の石田が病室に入ってきた.光子の顔色が変わった. だが光子は石田にも何も喋ろうとしなかった.病室を出た長さんと石田. 石田は光子が隠し事をするような女ではないと力説していた. 長さんは石田と光子が一緒になる前の事を訊いたが, 石田は気分を害してしまった. まるで光子が共犯者として扱われているように思えたからだ.

長さんはボスに光子が何も喋らなかった事を報告した.
長さん「最初はショックで口が利けなくなったのかと思ったのですが…」
ボス「どうした,長さん.」
長さん「はあ.それが…あたしには脅されてるというより, 何かを必死になって隠そうとしているように見えるんです.」
ゴリさん「何かを?」
長さん「うん.」
山さん「犯人が逮捕されれば秘密も一緒に暴かれる.それを恐れて黙秘.」
長さん「夫の石田とおるの話によりますと, 石田光子は静岡県の沼津で一人っ子として生まれました.十歳の時, 父親を失くし,母親も四年前に失くした後,東京に出てきた.」
山さん「そして結婚か.」
長さん「ああ.二年前に社内結婚で結ばれている.」
殿下「近所の評判だと日曜には連れ立って買い物にでかけたり,仲睦まじく, 新婚ほやほやとしか見えないそうです.」
長さんも肯いた.
長さん「まさに相思相愛という仲らしい.」
ボン「秘密があるとしたら結婚する前だ.」
長さん「ボス.私を沼津へ行かして頂けないでしょうか.お願いします.」

こうして長さんは沼津へ行った.喫茶店で進と会っていた良子は, 七曲署へ電話してみてそれを知った.
良子「式大丈夫かしら?」
良子は仕事の鬼の長さんが式に出ないのではないかと考えたのだ.
進「大丈夫ですよ.沼津なら今なら新幹線で一時間ちょっと.あ,ほら, 三島って駅で乗り換えて一つ目の駅.」
二人は笑ったが,良子の顔はそれでも曇ったままだった.

さて沼津では
長さんの声「石田光子.旧姓筧光子.」
長さんは聞き込みを続けていた.菩提寺,出身校,知人などを訪ね歩いた. そして光子があるドライブインでレジ係をしていた事を突き止めた. そこで長さんは光子が隠そうとした,二年前の事件を知った. レジの集計が合わないのでマネージャーが光子に使い込みの嫌疑をかけた. 非常階段でマネージャーは光子を問い詰めた.その時, そこへ古川という男がやってきた.古川はマネージャーと揉み合いになり, 誤ってマネージャーを突き落としてしまった.古川はドライブインのボーイで, 光子と婚約していた.マネージャーは首の骨を折って即死していた.

その晩.長さんは調査の結果を報告した.古川は十日前に出所. 実家で光子の事を聞き,その翌日,東京へ行くと言い残して出て行った. 山さんが目撃者に顔写真を見せ,犯人が古川に間違いない事が判明した.
ゴリさん「彼女のために人まで殺したんですからねえ.それが, やっと刑期を終えて出て来たら,外の男と結婚して古川の事は知らん振り. わかりますよね,頭にくる気持ちは.」
ボン「そうか.だから黙ってるんですね,彼女は. 自分の裏切りを誰にも知られたくないんだ.」
皆,黙り込んでしまった.
長さん「理由は兎に角,古川はナイフで人を刺した凶悪犯だ. これ以上罪を重ねさせない為には一刻も速く逮捕するしかない.」
ゴリさんは肯いた.ボスは長さんに言った.
ボス「その通りだ.ただし,長さん.後は俺達に.」
長さん「え?」
ボス「明日の準備もある事だろうし,今日はもう帰ってもいい.」
長さんは「しかし…」と言ったが,ゴリさんにうながされて帰って行った. だが
長さん「ちょっと帰り道,病院へよってきます.」
と言い残して出て行った.ボンにゴリさんが言った.
ゴリさん「長さんはなあ,確かめたいんだよ. 石田光子がどういう気持ちで結婚したか,確かめたいんだよ.」

長さんは古川の写真を光子に見せた.病室には殿下が警護のためについていた.
長さん「奥さんを刺したのは,この男に間違いないんですね?」
だが光子は何も言おうとはしなかった.
長さん「奥さん.」
長さんは言った.
長さん「奥さんが証言しない限り,古川を逮捕する事は出来ない. 逮捕しない限り,古川を救う事も出来ないんですよ,奥さん. それでも証言してはもらえんのですか?」
それでも光子は黙っていた.
長さん「われわれはですねえ,古川健をマークしました. あなたがなぜ狙われたのかもわかっております. それなのになぜ黙っているんですか? 奥さん,それは,そうやって黙ってるのは,古川への愛情が未だあるからですか? ご主人にその事を知られたくないからですか? どっちなんですか,奥さん. いや,いったいあなたはどういう気持ちで古川健を捨てたんですか? 今になってそんなに苦しむぐらいなら,どうして結婚なんか!」

団地に戻った長さんは考え込んでいた.そして長さんは良子を起こして訊いた.
長さん「良子,お前なあ,市村君と結婚しても一生後悔しないだろうなあ.」
あまりのもとっぴな質問だったので康江は長さんを咎めた.だが
長さん「お前は黙っていなさい.良子の口からはっきり聞きたい.」
良子「やだなあ,そんなこと,今更.後悔なんかしません.」
長さん「良子.市村君と交際する前に, 結婚を前提に付き合っていた人がいたなあ.」
康江「あなた.」
長さん「喧嘩別れでもしたのか?」
良子は首を振った.
長さん「今でも時々手紙が来ているようだが,良子の結婚の事を知っているのか?」
良子は首を振った.
長さん「嫌いになったのか?」
良子「別に嫌いになったわけでは…彼,北海道支社に転勤になって, それからなんとなくしっくり行かなくなって.」
長さん「何となく? 良子,お前,そんないい加減なことでいいのか? その人との気持ちの整理もつかないまま結婚するなんて,お前, 市村君に済まないと思わないのか?」
良子「お父さん,そんなんじゃないんだけどな.そんなんじゃないのよ. 北海道の彼だって同じ気持ちだと思うの. そうやってだんだん離れて行く人もいるし, 昨日知り合ったばかりでもすごく気持ちの通じ合う人もいるわ. そういうものでしょう,人間って.」
良子はそう言いながらお茶を飲んだ.
良子「私は私なりに自分の気持ちを確かめて進さんと結婚する事にしたの. 心配しないで,お父さん.その事で私,誰にも迷惑はかけないし, お父さんにも娘として恥かしい事はしてないつもりよ.」
長さん「そうか.わかった.」
良子は長さんにお酌をし,寝るのであった.

長さんは二時だというのに眠れなかった.康江もその事に気がついた.
長さん「起こしちゃったか.すまん.しかし,あの娘も立派に大人になったなあ. 教えられたよ.良子はここまで育っているのも,母さんのお蔭だ. 俺は何もしてやれなかった.」
康江「それは違うわ.良子も俊一もいつも文句を言ってるけど, 本当は誰よりもお父さんを一番信じてるのよ.奇麗だわ. ウェディングドレスのあの娘.本当に奇麗.」
長さん「そうか.」
長さんは呟いた.
長さん「昨日知り合ったばかりですごく通じ合う人ねえ.」

翌日の朝刊で事件が報じられたが
古川「なぜだ.光子は何故.何故光子は犯人は俺だって言わないんだ.」
長さんも新聞を読んでいた.それを見てから,良子は「長い間, 御世話になりました.」と挨拶をした.良子は俊一に長さんと康江の事を頼む, と言って泣いてしまった.康江は式は二時からだからと長さんに釘を刺した. 康江と良子が出て行くのを見て,俊一は「姉さんが泣くなんて.」とふざけた. それを聞き
長さん「馬鹿な事言いなさい.お前にはわからんだろうな. (笑って)親父にならんとな.」
長さんは支度をしながら昨日の良子の言葉を思い出していた.
良子の声「昨日知り合ったばかりでもすごく気持ちの通じ合う人もいるわ. そういうものでしょう,人間って.」
長さんは式の前にやっておきたい事があると言って出て行った.

交番の前を通りかかった古川は警官に声をかけられたが, 古川は警官を殴り倒し,拳銃を奪って逃走した.その頃, 長さんは病室に来ていた.殿下は結婚式を控えているのにと言ったが, その時,殿下のポケットベルが鳴った.長さんは半ば強引に病室に入り込んだ. その時の会話で長さんの娘が結婚すると知った光子はやっと口を開き, 長さんに「おめでとうございます」と言った.そして
光子「どうぞ,お嬢さんの傍にいてあげてください. あたしの事はもう…」
長さん「そうは行かんのですよ.奥さん,あたしにも一つだけわかった事がある. あなたが御主人と結婚した理由です.」
山さんが警官が襲われた現場を検分していた頃
光子「ええ.おっしゃる通りです.特別に変わった理由なんて何にもないんです. あたし,圭ちゃんの面会日には必ず行きました.でも, 四年前にたった一人の肉親の母に死なれて, 知り合いの人の紹介で東京の会社に勤めるようになって.」
長さん「その時,今の御主人と.」
光子「はい.それからはだんだん刑務所にも行かなくなったんです. だって圭ちゃんの顔,まともに見られなくて. 結婚してから一度も行きませんでした.」
光子は古川の事を結婚する前に何もかも話していた. だが肝腎の古川には言えなかった. 言っても納得してもらえる自信がなかったからだ.
長さん「だから,ナイフで刺されても逃げなかったのかね? その事を言って彼を傷つけるよりも,殺される方がまだ楽だったのかね?」
光子「わかりません.でも,あたしには言えない.どうしても言えないんです. 刑事さん,何て言っていいのだかわからないんです.」
長さんは言葉を失ってしまった.その時,殿下が戻ってきた. 殿下はボスが様子を聞きたかっただけだと答えた.殿下はカーテンを閉めさせた. とりあえず長さんは病室から出て行ったが…

病院の入口で長さんはボン,ゴリさん,そして山さんと出くわした. その事から長さんは異変を察した.山さんはボンとゴリさんを先に病院へ入れ, 言った.
山さん「長さん,我々に任せてくれんかね.」
だが長さんは納得せず,こう言った.
長さん「ほんの少しの不運が古川を凶悪犯にしてしまった. その古川の人生を何とか立て直してやりたい. 今の俺ならそれが出来ると思うのだが.そんな気がするんだよ.」
そういわれて山さんは返す言葉がなかった.山さんはその事をボスに電話で報告. ボスは承諾.ボスは光子がもう退院できる事を知っていたが, 大事をとってそのまま入院させる事,そして念のために病室を変える事を命じた.

良子がウェディングドレスに着替えていた.そこへ俊一がやってきた. そして俊一は父の長さんが未だ式場に来ていない事を知った.

一係の面々は病院を手分けして見張っていた. ボンは光子の元の病室の前を見張っていた.

その頃,進も長さんが来ていない事を知った.進は良子に言った.
進「僕も残念ですけど,余程の事だと思いますよ.」
良子「お母さん,心配しないで.こんな事もあると思って,覚悟してた.」
皆,二の句が告げなかった.そして長さん欠席のまま式が始まった. 結婚式の写真も長さん不在のまま撮影された.

その頃,古川は製薬会社の車を盗み,病院に潜入していた. 一方,式場ではボスが祝辞を述べていた.
ボス「七曲署の藤堂です.市村君,良子さん,本当におめでとう. 祝辞を述べる前に一言,お詫びをさせていただきます.新婦のお父さん, 野崎刑事がこの席にお見えにならない事は全て私の責任です. 野崎さんは立派な刑事です.有能ということだけで, あるいは野崎刑事よりも優れた刑事はいるかもしれません. しかし,他のどんな刑事よりも真似のできない物を野崎さんは持っています. それは優しさです.立派な家庭を築き,良子さんのような聡明なお嬢様を, 育て上げた事でも証明されてます.しかし野崎刑事が優しいのは, 家族や仲間だけではありません.」
長さんは光子の病室にいた.
ボス「野崎刑事は事件の被害者,被害者のお父さん,犯人の父でもあります. そういう気持ちで刑事を続ける事がどんなに苦しく難しい事か. そしてそれがどんなに素晴らしい事か.わかっていただくために, 私はやってきました.」
会場は拍手でいっぱいになり,良子は涙を流していた.

古川が元の病室の前までやってきた. だが看護婦の会話で古川は病室が変わった事を聞きつけた. ボンからは箱が邪魔になって古川の顔は見えなかった. その頃,殿下はゴリさんに,薬品会社の車が盗まれた事を報告していた. 慌てて殿下とゴリさんはボンと山さんにその事を連絡しようとした. だが遅かった.古川が病室に乗り込んできた. 古川は光子の本心を訊きたかったのだ. 意を決して光子は話すことにした.
光子「圭ちゃん,あたし,変わったの.気持ちが変わってしまって, もうどうする事もできない.」
古川「そうだったのか.前科者にはもう用はねえって言うのか!」
光子は首を左右に振った.長さんは古川に飛びついた. だが古川はそのまま屋上へ逃げてしまった.拳銃を構える古川. 長さんは近づこうとしたがゴリさんと山さんに止められた.だが
長さん「奴は本気だ.山さん,俺に話をさせてくれ.頼む. それができないなら,いったい何のために俺はここにいたんだ.」
それを聞いた山さんとゴリさんは長さんの言う事に従った. 来るなあ,と叫び,拳銃を構える古川に近づきながら,長さんは言った.
長さん「古川.お前の気持ちはわかる.裏切られたと思うのももっともだ. だがなあ,だからと言って,彼女を責めてはいかんのだ.」
古川「うるせえ! デカなんかに何がわかる.」
長さん「それは違う.デカにだってわかるんだよ,古川. 彼女の気持ちの中に汚い物があるかどうかぐらいはねえ. ちゃあんとわかるんだよ.」
古川の手が止まった.
長さん「何も変わった事があったわけではない. 裏切りがあったわけでもないんだ.ただなあ,ただ,彼女が一人ぼっちで, 一番辛い時に彼女を労わってくれたのは夫の石田とおるさんだったんだよ.」
長さんは古川に背を向けていた.古川は拳銃を構える手をおろそうとしていた.
長さん「お前じゃなかったんだよ,古川.ただそれだけの事だ.」
長さんは振り返って言った.古川はまた拳銃を構えた.
長さん「ただそれだけの事なんだよ.古川.あの時,光子さんはお前に対して, 何の弁解も救いも求めなかった.いや,かえって自ら身をさらし, 正直に告白してわかってもらおうとした. あの時の目にはどんなやましさもなかった筈だ. 古川.まだわからないのか.光子さんはなあ, お前に撃たれてもいいと思っていたんだ.もし心の中にやましさがあれば, あんな行動は出来無かった筈だ.」
古川は光子の言葉を思い出していた.そしてあの時の事も.
長さん「そうだ.歩道橋の時も.きっと,お前のナイフを見た途端, 光子さんはもう殺されてもいいと思ったんだ.それはなあ, 光子さんが弁解すればするほど,嘘になると思ったからだよ.」
古川はうずくまってこう言った.
古川「わかりたくねえよ,そんな話.わかりたくねえよ.わからねえよ.」
長さんは古川の手から拳銃を取った.
長さん「だがな,古川,お互いそれをわかりあわない限り, 本当に立ち直る事はできないんだよ.石田光子さんも,お前もなあ.」
古川は泣き出してしまった.こうして事件は解決した.

古川と光子は別れて行った.古川の目にも,光子の目にも悲しみが走っていた. 光子の夫石田も辛そうな顔をしていた.山さんは長さんに東京駅へ急げと言った. 良子と進が新婚旅行に旅立つ新幹線が出る時刻が迫っていたからだ. だが長さんの乗ったタクシーは渋滞に巻き込まれてしまった. 仕方無く長さんは有楽町の辺りのガードを走る新幹線を見送った.
長さんの声「幸せにな,良子.」
長さんはそのまま七曲署へ向かった.

七曲署についた長さんを出迎えたのは,なんと良子と進だった.
長さん「良子.」
良子「お父さん.」
おめでとうという七曲署の面々.こうして結婚式の二次会が始まった. 二人は長さんのために翌日に延ばしたのだ. ホテル代は七曲署の面々が折半する事になっていた.
ボス「ただしだ.二次会の方は長さんのおごりだぞ.いいな.」
長さんは頭をかくのであった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp