2002年6月29日

「太陽にほえろ!」第84話「人質」

脚本は永原秀一と峯尾基三.監督は竹林進.主役はゴリさん. シンコの登場はなし.クレジットされていますが,久美ちゃんも登場しません.

開店直後の東名信用金庫に三人組(原口剛,高峰圭二,中山克巳)が入り込んだ. 三人はライフルを持っていた. リーダー格の男(原口剛)は爆弾入りのトランクで支店長(森山周一郎)を脅し, 金庫室の中に入り込んだ.そして革鞄に金を詰めさせた. そしてリーダー格の男がのぼる(高峰圭二)に外の様子を見に行かせた隙を突き, 銀行員が非常ベルのボタンを押そうとした.慌ててリーダー格の男は, その銀行員に発砲.だが外へ出た瞬間,パトカーが駆けつけ, 三人組は後戻りする羽目になった.一人(中山克巳)は怪我を負っていた. そして三人組は女子行員二名を人質にし,銀行室の中に立て篭もった.

早速七曲署に通報が入り,ボス達が東名信用金庫に駆けつけた. 金庫室は扉を閉めると自動的に鍵が掛かってしまうので,中からは出られない. その代わり,犯人達が頑張っている限り,外から中に入るわけにはいかない. 壁の厚さは30cm.どんな高感度のワイヤレスマイクを取り付けても, 盗聴できない.さて中ではのぼるが焦っていた.だがリーダー格の男は平気な顔. 人質がいるし,そのうちサツから連絡があるさ.早速内線電話がかかってきた. 電話はボスからの物.リーダー格の男が電話に出た. ボスは交渉には自分が当たると言い,何かあったら電話をするように言った. リーダー格の男はそこまで聞くと電話を切ってしまった.
ゴリさん「どっかで聞いた声なんですがねえ.」
ボス「思い出すんだ.」
ゴリさん「誰だったかなあ.」
そこへジーパンがやって来た.鑑識の結果,犯人が使っていた銃は, 22口径のライフルで,銃身と銃床をぶった切ったものらしいと判った. 銃身が短ければ命中率が落ちるが,殺傷力は変わらず持ち運びには便利だ. 撃たれた事務員と警備員の容態は予断を許さない.
ゴリさん「何とか打つ手はないですかねえ.」
ボス「あとどのぐらい保つかだな.」
ゴリさん「は?」
ボス「金庫室は厚い壁と扉に囲まれた完全な密室だ.換気扇もなければ, 通気口もない.その中に五人もの人間が閉じこもってるんだから, 酸素がなくなるのは時間の問題だ.」
ゴリさん「つまり呼吸が出来なくなるわけですか.」
ボス「ああ.その上,一人は足に弾を食らってる.そういつまでも頑張れんな. 必ず向こうから何か連絡をしてくる.」

ボスの予測通り,被弾していた男は苦しんでいた.女子工員は, こんなこと馬鹿げてます,自首すべきだと思います,と言い出した. リーダー格の男はのぼるに命じて女子工員達を黙らせた. ボス達は電話を待っていた.その頃, 三人組は息苦しくなって来た事に気がついた.
女子行員「酸素がなくなってきたんだわ.」
リーダー格の男は周りを見回し,空気が外と通わない事に気がついた. そして電話に手をやった.ボスはわざと電話に出なかった. 焦るリーダー格の男.今度はボスが電話を掛けた. リーダー格の男は慌てて受話器をとった.
ボス「どうした? 何か用があるのか?」
リーダー「用があるから掛けたんだ! 何ですぐ出ないんだ!」
ボス「よーし,すぐ聞こうじゃないか.」
リーダー「これに風通しの穴を開けろ! すぐにだ!」
ボスはわざと応えなかった.
リーダー「わかったのかい.もしこっちの言う事をきかなけりゃ, 人質の女は一人ずつぶっ殺す.いいな.」
ボス「わかった.」
リーダー「それからもう一つ.医者を呼べ.」
ボス「医者? 傷の具合が悪いのか?」
リーダー「そんな事はどうだっていい.黙って呼べばいいんだ.」
ボス「おい.」
リーダー「何だ?」
ボス「壁に穴を開けろとか医者を送れとか少し虫が良すぎやしないか?」
リーダー「何?」
ボス「もし壁に穴を開けないと言ったら,どうするつもりだ?」
リーダー「馬鹿野郎.こっちには人質がいるんだ.そいつを忘れるな.」
ボス「いようといまいとそんな事は構わん.」
リーダー「窒息してもかまわねえって言うのかい.」
ボス「その時はお前達も死ぬんだ.」
リーダー「何?」
沈黙が流れた.
リーダー「おい.」
ボス「よし.壁に穴を開けよう.医者も送ろう.ただし条件がある.」
リーダー「何だ?」
ボス「人質を釈放しろ.」
リーダー「しょうがねえ.一人だけ返してやろう.」
ボス「駄目だ.二人だ.」
リーダー「冗談言うな.そっちからは医者が一人来て,こっちは二人を返す. それじゃあ,数があわねえ.」
ボス「医者と一緒に俺が行く.医者と刑事が人質になるんだ. それなら文句はあるまい.」
リーダー「ふ,ふ,ふ,ふ,ふ.デカが人質とは面白い.良かろう.」
ボス「これからすぐ扉を開ける.新しい空気が入るから,しばらくは保つだろう. 人質の交換が終わったら,壁に穴を開ける.」
リーダー「早くしろ.」
電話は切れてしまった.ゴリさんは気がついた.
ゴリさんの声「この声は,霧島だ.」
ボスはゴリさんに命じた.
ボス「事情を説明して外で待機している警察病院の先生を呼んできてくれ.」
だが
ゴリさん「おい,ジーパン.お前,行ってくれないか.俺, ちょっとボスに話があるんだ.」
怪訝に思いながらもジーパンは出て行った.
ゴリさん「ボス,俺にやらしてください.」
ボス「こういう場合,責任上,当然俺が行かなきゃな.」
ゴリさん「行かせてください.」
ボス「駄目だ.」
ゴリさん「なぜですか?」
ボス「兎に角駄目だ.」
ゴリさん「俺はチョンガーだし,少しぐらい痛めつけられても, 持ち堪える体力はあります.」
ボス「心配するな.チョンガーなのは俺だって一緒だ.」
ちなみに「チョンガー」の部分はファミリー劇場放送時にカットされた.
ゴリさん「どうにもならんと思います.中に入れば, どうせ手かせ足かせで身動きが取れなくなるでしょう. 犯人を逮捕するのもこっちからうまく攻めるしかありません. ボスが身代わりで入ってしまったら,誰が指揮を執るんですか? ボスはここにいて指揮を執ってください.」
しばらくボスは考え込んだ.
ゴリさん「ボス.」
ボスは決断した.
ボス「頼む.」
ゴリさん「ついでと言っちゃ,なんですが,お願いがあるんです.」
ボス「何だ?」
ゴリさん「犯人を逮捕して無事に出てきたらビフテキを奢って下さい.」
ボス「いいだろう.」

霧島達は穴が開くのを待ちかねていた.ボスは七曲署に電話して指示を出した.
ボス「あ,そう.コンクリの破片と転がっていても見分けがつかないように, ワイヤレスマイクを石膏に包んでカモフラージュしてくれ.あ, 至急用意してくれ.あ,それから山さん. モンタージュ写真による割り出しの方は,そっちに任せて,殿下と長さん, こっちに寄越してくれないか.うん.よし,頼む.」
ボスはゴリさんに時計を合わさせた.
ボス「一時間後の三時に決行だ.壁の穴から催涙ガスを投げ込み, 灯りを消して飛び込む.穴を開ける時にワイヤレスマイクを放り込むから, 中の状況を見て,OKだったら連絡をしてくれ.言葉でもなんでもいい.頼む.」
ゴリさん「は.」
そこへジーパンが医者(中村雅俊)を連れてきた.
ボス「お願いできますか,先生.」
医者「ええ.ただ一つだけお願いがあります.」
ボス「何でしょう.」
医者「私が行く事をマスコミには発表しないで下さい. 母に余計な心配をさせたくないんです.」
ボス「わかりました.」
実はこのシーン,本来松田優作さんが出るはずだった, 学園物ドラマの中村雅俊さんのカメラテストです. 松田優作さんが麻雀で負けたので,中村さんを岡田さんに紹介したと言う訳です.

金庫室に向かいながら
ゴリさん「約束を忘れないで下さいよ.」
ボス「ビフテキだろう.」
ゴリさん「分厚くて皿からはみ出そうな奴.ニンニクのたっぷり効いた奴ね.」
ボス「わかった.」
まず金庫室の扉が少し開けられた.
霧島「そこで止めろ.」
仕方なく,ボスは扉を開け放すのをやめた.
霧島「下手な真似はするな.さあ入って来い.」
ボス「二人を出してもらおうか.」
霧島「そっちが先だ.入って来い.」
仕方なく,ゴリさんと医者が先に中に入った.ゴリさんの予想通り
ゴリさんの声「やっぱり霧島.」
ゴリさん「放せ.」
のぼる「人質が多い方がいいさ.」
ゴリさん「放せと言ってるんだ.」
霧島「のぼる.その二人を放してやれ.」
こうして人質は解放された.
霧島「さっさと扉を閉めろ.すぐに穴を開けるんだ.でないとデカを殺すぞ. 早くしろ.」
仕方なくボスは扉を閉めた.
霧島「久し振りだな,石塚!」
ゴリさん「また会ったな,霧島.」
霧島「身代わりにお前が飛び込んでくるとは夢にも思わなかったぜ.」
ゴリさん「俺もこんな風にお前に会えるとは思わなかったよ. また根競べが始まるな.」
霧島とのぼるはゴリさんと医者の身体検査をした.そして
霧島「よーし.先生は早えとここいつの足の治療をしてくれ.」
ゴリさん「先生,これから何が起ころうと私の事は心配しないで下さい.」
医者は肯いた.
霧島「いい覚悟だ.たっぷり楽しましてもらうぜ.」
霧島はゴリさんを思いっきり殴りつけ,楽しんだ.
霧島「石塚,俺は忘れないぜ.死んだって忘れるもんか!」
霧島は昔ゴリさんに殺人事件の取調べを受けた事があった. その口惜しさをこの時とばかりにゴリさんに叩きつけた.
霧島「お前のお蔭で俺はたっぷり臭い飯食わされたんだ. この野郎.今度はこの俺がたっぷり痛みつける番だぜ.」
霧島はゴリさんを何度も何度も殴りつけた.グロッキーになったゴリさんを見て, 医者はゴリさんのところへ行こうとしたが,止められた.

ボスは削岩機で穴を開けさせていた.山さんはモンタージュ写真ができた事を, ボスに報告.長さんと殿下が犯人の割り出しを行なっていた. ジーパンはコンクリートの破片に見せかけたマイクが出来た事をボスに報告. そして穴が開く時の破片と一緒にマイクが入れられた. さすがの霧島もマイクを見破ることは出来なかったが,穴が大きい事を気にした.
霧島「やめろ!」
霧島は作業員に向けて発砲.何と防弾チョッキも貫通していた.

盗聴していたボス達はゴリさんの声らしき物が聞こえない事に気づき, ゴリさんの様子を心配した.仕方なくボスは計画の延期を決めた. 山さんは穴から食事を差し入れ,ついでに中を覗こうとしたが, ライフルで狙われたので断念.霧島達三人組は食事をしたが, ゴリさんと医者には食事が与えられなかった.霧島達の会話から, ボス達は次の事を知った.ゴリさんが気を失っている事. のぼるの父親が国会議員である事.霧島がその事を切り札に使おうとしている事. 山さんはのぼるの身元を調べに行く事にした.西山署長がやってきて, 解決を急ぐようにボスを促した.面子を気にしたのだ. だがボスはゴリさんが倒れている事を理由に渋った.そこへ山さんがやってきた. のぼるの本名は白石のぼるで21歳.父親は国会議員の白石こうじろう. のぼるは三人兄弟の末っ子だが,三年程前から銃に凝り出し, ライフルを二丁購入していた.最初は鳥や獣を撃っていたが, それではあきたらなくなって銃口を人間に向けたくなったらしい. かなり偏執狂らしい.西山は国会議員の息子が犯人の一人だと知り, 一変して強硬手段をやめるように命じて去って行った. 入れ替わりに長さんと殿下がやって来た.残りの二人の身元が判ったのだ. リーダー格の男は霧島修司.城南署時代にゴリさんが逮捕していた. ちなみに住所は東京都世田谷区原田町3-4-5で生年月日は昭和15年2月24日. 窃盗により数ヶ月の実刑を受け,七ヶ月で仮釈放となったが, 強盗傷害によりゴリさんに再逮捕され,7年5ヶ月の実刑を受け, 城南刑務所に服役していた.そして被弾した男は中野英夫. 昭和17年8月14日生まれ.強盗傷害により5年6ヶ月の実刑を受け, 城南刑務所に服役.
ボス「馬鹿な奴だ.ゴリの奴,はじめから霧島と知っていて入り込んだんだ.」

白石は飛行機を用意させようと言い出していた. すぐ捕まるよという中野に白石はこう言っていた. どうせ捕まるなら捕まるまでスカッと楽しみたい.その頃, ゴリさんが目を覚ましていた.医者はそれを見て一安心.
ゴリさんの声「マイク.マイクはどこだ.」
ゴリさんは後ろ手に縛られていた.その頃,白石は羽田にセスナを用意させ, 自分が操縦すると言っていた.無免許だが, 白石はセスナを飛ばすことはできるるのだ. そして銀座でお札をばら撒くと言う.霧島はその案に乗り,電話をした. ボスは用意出来次第,連絡すると言った.その時, ゴリさんが大声で童謡の「七つの子」を歌いだした. 霧島達に殴られながらもゴリさんは歌いつづけた.ボスに無事を報せる為だ.
ボス「ゴリ…」
ボスは強硬手段をとる事を決断した.セスナには4人しか乗ることが出来ない. 犯人達の他に乗る事ができるのはたった一人. そうなるとゴリさんの命が危ない.長さんは電源を切る事になった. 殿下は催涙ガスを用意.ジーパンは突入部隊.
ボス「問題はゴリと先生にこの事をどうやって連絡するかだ. 二人に知っといてもらえば,危険は最小限で済む.」
その時,盗聴器からラジオのD.J.(志賀正浩)の声が聞こえた.
ボス「よっぽどラジオが好きらしいなあ.」
山さんはある作戦を発案した.

山さんはラジオ局へ急行.D.J.はこう言った.
D.J.「えーっと今夜もいっぱいお便りが来ているんですけどねえ, まず最初のお便りはですね,通称ボスより親友のゴリラ君へ. いくらニックネームだとは言え,ボスだのゴリラ.ゴリラねえ, 随分思い切った名前してるけど,顔も思い切ってるのかなあ.」
ゴリさんはラジオを聞き,これがボスからの通信だという事に気がついた.
D.J.「えー,まあいいや.兎に角,葉書を読みましょう. えーと,何,その後も変わりなく元気良くやってるかい.ところが, 小生の方は元気じゃない.なんか武士みたいだねえ,小生なんてのは.」
霧島達はラジオがゴリさんへの通信である事に全く気づいていなかった.
D.J.「というのは,お袋にラジオを取り上げられちゃったんだ.突然か. 勉強しないで深夜放送を聞いてるくらいなら,早く寝ろと言うんだなあ. 12時ジャストになると部屋の電気が消されちゃうんだ.部屋は真っ暗. 小生は眠れない.悔し涙があふれてくる.わかってくれるかい, 午前0時と小生の涙.参ったよ.それでは, ボスからゴリラ君へのバッハ名曲集よりお送りしましょう.」
ボスは黙ってラジオを聞いていた.
ゴリさんの声「12時になると真っ暗.涙が出る.そうか.12時に決行か.」
ゴリさんは今何時かと訊いた.不審に思う霧島にゴリさんは, 腹が減った,そろそろ夜食の時間だとごまかした.時刻は12時20分前. それを聞き
ボス「どうやら通じたらしい.みんな,スタンバイ.」
そこへやって来た西山は強硬手段はやめろと言い出した. その頃,ゴリさんは霧島にタバコを吸わせてくれと言った. 霧島はタバコに火をつけてやったがラジオの上に置いた. 這いつくばってゴリさんはタバコをくわえ,そして隙を見て床に落とした. タバコの火でゴリさんはハンカチを燃やそうとしていた.

そして12時頃になった.ゴリさんはハンカチを燃やすのに成功していた.
霧島「おい,何か臭わないか?」
白石「そういえば…」
ラジオの声「間もなく,午前0時の時報です.」
と同時にゴリさんは立ち上がり,金庫室は真っ暗になり, 山さんが催涙弾を投げ込み,ジーパンと殿下が突入. 霧島はジーパンに思いっきりぶん殴られ,逮捕された. ボスは霧島を突き飛ばした.そして医者に言った.
山さん「大丈夫ですか?」
ボス「辛い思いをさせてしまいました.申し訳ございません.」
医者「いいえ.これが役目ですから.」
そして長さんに肩を借りて出てきたゴリさんにボスが言った.
ボス「ご苦労さん.」
ゴリさん「そんなことどうでもいいんですけどね,あの約束の, 約束のビーフステーキを…」
ゴリさんは倒れこんでしまった.
ボス「ゴリ,ゴリ.日本で一番うまいビフテキ,食わしてやるからな.」

次回はジーパン主役編.ゲストは有島一郎さんです.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp