2002年6月19日

「太陽にほえろ!」第244話「さらばスコッチ!」

脚本は桃井章.監督は小澤啓一.主役はスコッチ.

競馬場でスコッチと殿下が犯人を追いかけていた. 男は走り回り,路地に入った.そして柵の前で男は拳銃を取り出した. すかさずスコッチは発砲した.犯人は無事に捕まったが…

西山署長はスコッチをなじった.相手が発砲する前にスコッチが発砲したからだ.
スコッチ「相手が発砲していたら自分がやられていたかもしれない.」
西山はボスに意見を求めた.
ボス「私も同じ意見です.一緒にいた島刑事の話から判断しても, 滝のとった行動はやもえなかったと思います.」
西山「正当防衛だということだな.」
ボス「ええ.」
相手が助かったので,とりあえず西山は不問に付す事にした. だがスコッチの拳銃の使用回数が多い事は本庁で問題になっていた.西山は, 七曲署から山田署へ刑事を回して欲しいという話が来ている事を話した.

スコッチが帰ったと聞き,ゴリさんは憤った.こっちが心配しているのに, いい気なもんだ,何でスコッチはあんなに発砲するのだ.
山さん「傷痕だよ.三年前にスコッチは目の前で先輩刑事を射殺された. その記憶がまだ消えていないんだ.だから相手が銃を向けると, 反射的に撃ってしまう.」
皆,沈痛な面持ちになった.
長さん「傷痕か.一生治らんのかねえ,奴の傷痕は.」
ボスもその事件を思い出していた.3年前, スコッチが発砲を躊躇したために先輩刑事の倉田が死んだあの事件だ.

寝ていたスコッチはあの事件の悪夢を見て目を覚ました. 自室でスコッチはサボテンを眺めていた.サボテンの花が咲いていたが, スコッチの顔に笑みはなかった.

そんなある夜.男(池田秀一)が男達にリンチされていた. そしてリンチされていた男が拳銃で狙われた.逆上した男は相手に飛び掛った. そして気がついた時,相手は拳銃で撃たれて死亡.男は拳銃を奪って逃走した.

現場に七曲署の面々が到着した.死んだのは戸川組の関本つとむ. 傷害,恐喝等で前科四犯.鑑識の話では凶器は口径9ミリのブローニング. 弾は未だ7発あると思われる.ボンが目撃者の証言を得ていた. 事件が起こる少し前に戸川組のやくざ数人が若い男をここに引き込んでいたのだ. それを聞いたスコッチは独りで出かけていった.慌ててボンが追いかけた. スコッチはスナックでチンピラを締め上げ,証言を得た.

翌朝.スコッチは犯人が宮下則夫と判明したと報告した. 戸川組系のエルムという店のバーテンだ.喧嘩の原因は, そのバーのホステス磯村恵子と宮下が仲良くなった事だった. 山さんは宮下が自暴自棄になって第2,第3の犯行を起こさないとも限らない, と憂慮.ボスもその意見に同意し,宮下の行方を探すように命じた. スコッチは恵子のアパートへ行き,事件の事を話した. 女は事件の事は知らないと言っていたがなぜかおびえていた.

スコッチは宮下が恵子に連絡を取っていない事を報告. ボスはそのまま張りこむ事をスコッチに命じた. 宮下の実家は多摩の原町署の管内.ボスは, 宮下が実家に現れた時はスコッチに行ってもらう,と長さんに言った. スコッチは城北署に来る前は原町署にいたのだ. とそこへ原町署防犯少年係の刑事北島としこ(夏純子)がやって来た.

張り込み先でスコッチは北島を見て驚いた. 事情を知らない長さんは北島をスコッチに紹介しようとした. スコッチと北島のただならぬ様子を察し,長さんは,どうした, とスコッチに尋ねた.だがスコッチは別にとお茶を濁した. 北島は三年前から宮下を数回補導していた.その関係で, 原町署は北島を派遣したと言うわけだ.北島とスコッチはよそよそしく挨拶した.

車の中で二人は目線を外しながら話した.
スコッチ「宮下則夫について教えてくれないか.」
北島「気の弱い優しい子です.」
スコッチ「しかし彼は人を殺した.そして逃げてる.」
北島「事故です.」
スコッチは北島の方を向いて言った.
スコッチ「事故?」
だが北島はスコッチから目線を外したままだった.
北島「ええ.殺意があったとは思えません.話せば必ず判ってくれる筈です.」
スコッチはまた北島から目線をそらして言った.
スコッチ「彼が現れたら説得するつもりかい?」
北島がスコッチの方を少し見た.
北島「いけません?」
スコッチ「いや.だが,説得に応じなかったら?」
北島「そんな事はありません.」
思わずスコッチは北島の方を向いた.
北島「彼は必ず…」
スコッチ「甘いな.」
北島はスコッチの方を向いた.
スコッチ「人は追い詰められたら何をするか判らない.」
スコッチは北島から目をそらしていった.
スコッチ「例え事件前は気の優しい青年だったとしても,今の彼は一匹の獣だ.」
北島はしばらく黙ってスコッチの方を見た.そしてこう言った.
北島「あの頃のあなたは人間を信じていた. 少なくとも人を獣扱いするような人ではなかった.」
北島とスコッチは恋人同士だったのだ. 北島はスコッチと公園で遊んだ日々を思い出し, スコッチから目をそらしてこう言った.
北島「変わったのね,隆一さん.」

一係室に戻った山さんは四係の高沢刑事が出てくるところとすれ違った. 高沢は四係の戸川組の資金ルートを内偵中なので戸川組の周りをうろつくな, と言いに来たのだ.山さんは高沢が内通しているという噂を聞き込んでいた. そこへスコッチから無線が.磯村恵子が外へ出てきたというのだ. スコッチは恵子を尾行することにした. 恵子は宮下のいる公衆電話ボックスへ行った. スコッチが拳銃を構えるのを見て,北島は素早く外へ駆け出した. 慌ててスコッチも後を追った.
恵子「則夫,逃げて.刑事よ.」
宮下はスコッチと北島の姿に気がついた.
スコッチ「宮下!」
北島「則夫君!」
宮下は拳銃を構えた.スコッチは歩道橋を上がりながら叫んだ.
スコッチ「拳銃を捨てろ.」
だが宮下は発砲.宮下を追いかけるスコッチ.スコッチを追いかける北島. 茫然として立ったままの恵子.そしてスコッチは拳銃を構えた.
スコッチ「止まれ.」
北島「やめて!」
北島が飛び掛ったために狙いが狂い,トラックに当たってしまった.
北島「やめて,お願い.」
スコッチ「どけ.」
その隙に宮下は逃げてしまった.
スコッチ「宮下!」
北島「撃たないで! 殺さないで!」
スコッチ「いいかげんにしろ.」
スコッチは北島をはねとばして追いかけたが,後の祭りだった.

この件が新聞で大々的に報道された.西山は怒り狂い,スコッチの処分を示唆. ボスは必死に西山をなだめた.
ボス「滝は私の部下です.部下の仕事に責任を持つのは, 上司の仕事の一つだと思ってます.」

それからもスコッチは車の中で磯村恵子の見張りを続けていた. スコッチは思い出していた.それはある晴れた日の事だった.
北島「みんな,あたしのこと,トコって呼ぶの.」
スコッチ「トコ?」
北島「そう.としこだから略してトコ.」
北島は笑って言った.
北島「何だか子供っぽいでしょう.」
スコッチ「はーん,トコか.」
そこへゴリさんがやって来た.北島は恵子の部屋にいた. ゴリさんは,北島とスコッチがどういう関係か,と尋ねた. スコッチは昔の同僚だと答えた.ゴリさんは長さんから, 北島とスコッチが一言も口を利かなかった,と聞き, 捜査に影響する事を心配していた.
スコッチ「大丈夫です.捜査にプライベートの事は持ち込まないのは, 私の信条です.」

その頃,恵子は震えていた.そしてトイレに入り込んでしまった. 外にスコッチとゴリさんがいるのを見て北島は思い出していた. それは雪の降る日の事だった.
北島「結婚式を延期?」
スコッチは肯いた.
北島「なぜ?」
スコッチは黙っていた.
北島「あたしが嫌いになったの?」
スコッチ「いや.」
北島「じゃあ,どうして? どうしてなの.答えてください,隆一さん.」
スコッチも思い出していた.
スコッチの声「嫌いになったんじゃないんだ,トコ.」
スコッチは倉田が殉職した事件の事を思い出した.
スコッチの声「判ってくれと言う方が無理かもしれないが, 俺はどうしても…」
北島は恵子がトイレからなかなか出てこないのを不審に思い, トイレのドアを開けた.すると恵子が麻薬を打っているのが見えた. 恵子は北島に何もかも話した.恵子は関本に騙されて麻薬中毒になってしまった. のりおは恵子の麻薬中毒を止めさせようとしていたのだ.そして関本の耳に入り, あんな事になったのだ.号泣する恵子.
恵子「則夫って悪い奴じゃないんです.判ってください.」
北島「判ってるわ,私には.」
恵子「刑事さん.」
北島「でもねえ,このまま逃げていたら,またどんな間違いを起こすか, 判らないと思うの.だからそれはあなたにも判るでしょう?」
恵子は肯いた.そこへ電話が掛かってきた.二人とも直感した.
北島「彼だったら今いる場所を聞き出して頂戴.」

翌朝.
ゴリさん「やれやれ.何の変化もなかったよなあ.」
だがスコッチは部屋の電気がつけっぱなしである事に気がつき, 部屋に乗り込んだ.部屋には誰もいなかった.スコッチはメモを発見.
北島の声「原町東中学校の体育館で宮下則夫と会って来ます」

そして原町東中学校の体育館では北島の姿を見た宮下が逆上していた.
宮下「畜生,裏切ったな.」
北島「落ち着いて,則夫君.恵子さんはあなたの為を思って.うーうん. 恵子さんだけではないわ.あたしだって.」
宮下「黙れ.お前はサツじゃないか.俺はサツなんか信じないぜ. 奴は,奴は俺を売ったんだ.」
北島「奴って誰の事?」
宮下「七曲署の高沢刑事だ.恵子の事で奴のところへ相談しに行ったのに, 奴は関本に俺の事を密告しやがったんだ.」
ゴリさんが無線で通報し,スコッチは車を走らせていたが
宮下「来るな.」
北島は宮下に一歩一歩近づいていった.
北島「関本を撃ったのは事故だったのよ.君には人は殺せないわ.そうでしょう?」
宮下「うるさい.説経は沢山だ.来るな.来ると本当に撃つぞ.」
宮下は両手で拳銃を構えた.
北島「さあ,銃をちょうだい.」
それでも北島は手を出した.
恵子「則夫.」
そのとき,パトカーのサイレンが聞こえた.逆上した宮下は発砲. 弾は北島の胸にに命中し,北島は倒れてしまった.
北島「則夫君…」
宮下は恵子を連れて逃走.
北島「則夫君.駄目.行っちゃ駄目,則夫君.帰ってきなさい…」

スコッチとゴリさんが着いた時は既に救急車が着いた後.
スコッチ「トコ.トコ.(救急隊員に)うるさい.トコ.おい.」
北島は苦しみながら言った.
北島「隆一さん.」
スコッチ「トコ.しっかりしろ.」
北島「彼は,いい子よ.お願い,信じてあげて.あの子騙されてたの. 七曲署の高沢って刑事に.」
スコッチ「高沢?」
北島「その刑事,戸川組に内通して.」
ゴリさんもそれを聞いた.
北島「だから則夫君を.お願い.彼を信じてあげて.」
苦しむ北島を見てスコッチは叫んだ.
スコッチ「早く!」
救急隊員によって運ばれる北島.スコッチは叫んだ.
スコッチ「トコ.しっかりしろ.」

手術中,スコッチは思い出していた.レストランでサボテンをもらった事. 北島が結婚の話を父親にしたら,父親が喜び,ビールを10本も呑んだ, と北島から聞いた事.新居を見に行った時, 北島が色々な家具を置く夢を話した事.楽しい思い出だった.
ボス「スコッチ.」
スコッチ「ボス.」
ボス「どうだ.」
スコッチ「未だです.ボス,実は…」
ボス「婚約者…だったんだって?」
スコッチ「どうしてご存知なんですか?」
ボス「原町署の署長に聞いた.署長が仲人をやる事になっていたらしい.」
スコッチ「はい.」
ボス「どうして結婚しなかった? 三年前の事件か?」
スコッチはボスの方を黙ってみていた.その目は哀しそうだった.
ボス「辛かったろうな,彼女.」

その頃,宮下達の車が非常線を突破していた.ボンは病院に駆けつけ, ボスに報告した.出ようとするスコッチをボスが止めた.
ボス「お前はここに残れ.そばにいてやるんだ.」
スコッチ「しかし…」
ボス「これは命令だ.」
スコッチ「ボス.」
ボス「判ったな,スコッチ.」
ボスはボンと一緒に出て行った.だが…

宮下は逃走を続けていた.スコッチは手術が失敗に終わった事を聞いた. 出血が酷かったからだ.衝撃を受けるスコッチ. スコッチは病室で寝ている北島に語りかけた.
スコッチ「トコ.死なないでくれ.トコ.トコ.」
そのとき,北島が手を出した.スコッチは北島の手を握ってやった. 北島が口を動かした.
スコッチ「何.何か言いたいのか?」
北島「本当に…悪い人間はいないって…あたし…今でもそう信じてる. お願い.あの子を許して.許して.」
それが最後の言葉だった.スコッチは何度も何度も「トコ」と呼びかけた. そして何度も何度も「起きてくれ」と言った. スコッチは物言わぬ北島の顔に顔をつけた.

遂に宮下は廃ビルに追い込まれた.周りを警官が取り囲み, 殿下と長さんが乗り込んでいた. ボスはゴリさんにマンションから宮下を狙うよう指示した. 万が一の場合,射殺するつもりだったのだ.だが
スコッチ「待ってください.」
スコッチが現れた.
ボス「スコッチ.」
スコッチ「撃つのはちょっと待ってください.私が話をします.」
ゴリさん「話すって,奴を説得しようって言うのか?」
スコッチ「ええ.お願いします.」
ボスは訊いた.
ボス「としこさんはどうした?」
スコッチは答えた.
スコッチ「命令は守りました.最後まで.」
ボス「最後まで?」
山さんもゴリさんも事情を察した.スコッチはボスに拳銃を渡して言った.
スコッチ「お願いします.」
そう言ってスコッチは中に入っていった.

スコッチは丸腰で宮下と対峙した.
スコッチ「やめろ.俺は拳銃を持っていない.」
宮下「うるさい.帰れ.この女がどうなっても構わないのか?」
スコッチ「やめろ.俺の話を聞け.」
宮下「話なんか聞きたくない.」
スコッチ「彼女は死んだ.」
恵子は驚いた.恵子に拳銃を向けていた宮下も驚いた.
スコッチ「彼女は死ぬ直前までお前を信じていた.」
宮下「信じてた?」
スコッチ「そうだ.お前は悪い奴じゃない.信じてあげてくれ. それが彼女の最後の言葉だ.」
宮下「嘘だ.いいかげんな事を言うな.」
ゴリさんはライフルの用意を済ませていた.スコッチはあの時の北島と同様, 宮下に一歩一歩近づいていった.
スコッチ「俺もお前を信じる.お前が本当は人を殺せる人間じゃないと. そう信じる.」
宮下「来るな.こいつを殺すぞ.」
だがスコッチは近づくのをやめなかった.
スコッチ「則夫.」
宮下はスコッチに向けて撃った.銃声を聞き,ボスに,ゴリさんに, そして殿下と長さんに緊張が走った.だがスコッチは近寄っていく.
宮下「来るな.」
また宮下が撃った.今度はスコッチの右腕に当たった.スコッチは倒れた. 遂に殿下と長さんは拳銃を構えた.だがスコッチは殿下と長さんに言った.
スコッチ「撃たないでくれ.」
そしてスコッチは立ち上がり,近寄った.ボス達が突入した. またスコッチが撃たれた.今度は足に当たった.
スコッチ「則夫.」
スコッチは立ち上がっていった.
スコッチ「俺は彼女の代わりにここにいる.お前を信じて死んだ, 彼女の代わりにここにいるんだ.」
スコッチの思いが則夫に,そしてボスに通じた.
スコッチ「本当に悪い人間はいない.彼女にそう教えたのは俺だ. 彼女はそれを最後の最後まで信じて死んでいった.」
拳銃を握る則夫の右手は震えていた.
スコッチ「だから俺は,お前を信じる.さあ,拳銃,よこせ.よこせ.」
宮下の拳銃を握る手は震えていた.右手を伸ばし,近づくスコッチ. そして遂に宮下は膝まづいた.
宮下「許してくれ.許してくれ.」
宮下は泣いた.こうして宮下は逮捕された.これを見てボスはある事を決断した.

山さんからスコッチの山田署転勤を聞き,皆憤った. 長さんは西山の真意を見抜いていた. スコッチは色々問題を起こしたからだ. あれほどスコッチを嫌っていたゴリさんがこう言った.
ゴリさん「だが奴はもう立ち直りました.七曲署の立派な一員ですよ.」
ボンの怒りはボスに向けられていた.
ボン「そうですよ.信じられないなあ. ボスがこんな人事をあっさり受け入れたなんて.」
だが山さんはこう言った.
山さん「逆だよ,ボン.ボスはスコッチが立ち直ったからこそ, この人事を受け入れたんだ.スコッチはどこへ行っても刑事としてやっていける. そう判断したんだよ,ボスは.」

スコッチは七曲署を出て行った.ボスは屋上で思い出していた.
ボスの声「高沢刑事は懲戒免職になったよ.」
スコッチの声「しかし死んだ人間は戻りません.」
ボスの声「で,山田署の方はどうする? 嫌なら行かなくていいぞ.」
スコッチの声「いえ,行きます.」
ボスの声「そうか.」
スコッチの声「どこの署に行こうと刑事である事に変わりはありません.」
ボスの声「わかった.元気でな.」
スコッチの声「はい.」
沈痛な面持ちの七曲署の面々.旅立つスコッチの顔には笑みが浮かんでいた. スコッチは人間としてのあたたかみを取り戻したのだ.
ボス「スコッチ.さよなら.」

次回はボンが警察犬のジュンと一緒に活躍.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp