2002年6月12日

「太陽にほえろ!」第243話「その血を返せ」

脚本は柏倉敏之と小川英.監督は小澤啓一.主役はボス.

外国から男がアルミケースを持って帰国した. 男は東京モノレールに乗って新宿へ出た所で頭を殴られ, アルミケースを奪われてしまった.

早速七曲署捜査第一係に通報が入った.捜査が続けられたが,凶器は見つからず, 目撃者もいなかった.とりあえず所持していたパスポートから身元が判明した. 望月隆という七曲中央病院の医局員.ロサンゼルスから帰国したばかり. 手術直前に医師に「血液を奪られた」と言って倒れてしまったと言う.

七曲中央病院に駆けつけたボスは院長(森下哲夫)から, 盗まれた血液の血液型が RH ヌルという特殊な物である事を聞かされた. 世界に5人しかいない.望月はアメリカで血液を採血して来たのだ. 手術は明後日の午後三時.患者の父親(柳生博)はボスに,血液を取り返してくれ, と懇願した.ボスは患者の橘ひろしという坊やを見舞った.ひろしは, 心臓病が治ったら野球のチームを作る,と言うのであった.

七曲署でボスは皆にこの事を報告した.憤るゴリさんや殿下. ボンは,怨恨の線だ,と憤ったが,その線からの収穫はないだろう, とボスが言った.本庁からボスは似たような事件の資料を取り寄せていた. 都内で三件も血液を盗む事件が起きていた. いずれの事件も羽田から出てきた外国帰りの医師を襲っていた. 犯人は男一人でしかもどの場合もタオルやマフラーなどで顔を隠していた. いずれの事件も犯人は顔を見られていたが,どの事件も犯人の顔が違っていた. 一度目はあごひげ,二度目はサングラスにひげなし, 三度目は鼻の下のちょびひげ.
殿下「そうか.つけひげで顔を変えたんだ.」
背丈はどの事件も一致していた.ゴリさんもボスも今度の事件は, 前の三件と同一犯だと考えた.手術まであと42時間.時間がない. 下手をすると犯人が血液を処分する可能性もある. そこへ長さんが戻ってきた.似たような事件の前科者リストを持ってきたのだ. とりあえず,その前科者などを当たってみることにしたが… 山さんは今度の事件の被害者,ゴリさんは三件の事件の被害者, 残りのメンバーは前科者を当たることになった.

必死の捜査にも関わらず,手がかりはつかめなかった. ゴリさんは三件の事件の被害者から顔の特徴を聞き出してみたが, 顔を絞りきることはできなかった. だが「髪は長目だがいつもセットされている」という共通点は得られた. 前科者には全てアリバイがあった.ゴリさんは知能犯の犯行ではないかと考えた. ボスは,この事件の犯人は前科者ではない,と考えた.憤る殿下とボン. ゴリさんはつけひげの方から割り出す方法もあると言った.
スコッチ「おそらく今日一日の猶予もないでしょう. 犯人がそんなに長い間血液を捨てないという保証は何一つない.」
ボス「捨てさせない方法がただ一つだけある. その血液がどんなに貴重なものであるか,ホシに報せるんだ. テレビ,ラジオを通じてな.」
山さんと長さんは肯いた.
スコッチ「しかし,それは, 犯人にわざわざ血液の価値を教えてやるようなもんだ. 切り札を向こうに渡す事になりますよ.」
殿下「犯人が何か条件をつけてくるって言うのか?」
ゴリさんはスコッチの言葉に肯いていた.
スコッチ「こっちの弱みにつけこんで強請ってくるでしょう.」
ゴリさん「火中の栗を拾うためだ.それぐらいの覚悟は必要だよ.」
スコッチ「一つ間違ったら新しい犯罪を呼び起こす事になりますよ.」
ゴリさん「それじゃあなあ…」
ボス「スコッチ.」
ゴリさんは黙った.
ボス「例えどんなに泥をかぶろうと,少年の命には変えられん. それが俺の結論だ.ただしそれを強制する気はない. スコッチに限らず,違うと思う者は遠慮なく言ってくれ.」
ゴリさん「ボス,ここで違うと思うくらいなら, みんな一晩中駆けずり回りはしませんよ.」
長さん「そう.それは水臭いですよ,ボス.」
ボス「スコッチ,お前はどうだ.」
スコッチ「みんながそこまで肚を決めてるなら,異論はありません.」
それを聞いてボスはみんなをねぎらって出て行った.早速ニュースを流すためだ. ボスは休むように言って出て行ったのだが,皆,外へ出て行った.

竹内アナウンサーがテレビでこのニュースを報じた. ニュースが流れる最中,一係の面々は街を歩き回って捜査を続けた. そのニュースを見てアッコもボスも沈痛な面持ちになった. そこへ電話がかかってきた.犯人からか?
ボス「はい,一係.」
橘「橘です.」
それを聞き,ボスは録音をやめた.
橘「テレビ,見ました.見てる内に希望が沸いて来ました. 犯人が何か言ってくるかもしれません.もし犯人がお金を要求してきたら, 拒否しないで下さい.お願いします.」
ボスは肯いた.
橘「どんなことをしても,私はお金を作ります. お金で済むことなら,お金で済むことなら,どんな事をしてでも私が,私が. お願いします.」
ボス「わかりました.何かあったら連絡しますから,待っていて下さい.」
電話を切るとゴリさんから無線が入った.付け髭の線からは収穫はなかった. ボスは徹底的に調べろとゴリさんに命じた.

山さんが戻って来た頃,電話が掛かってきた.
ボス「はい,一係.」
男「血を探してるのはあんたかい.」
ボス「そうだ.君は.」
山さんは逆探知を行なわせた.ここで男が映った.男は女と一緒に, 公衆電話ボックスの中にいた.
男「テレビのニュース,聞いたよ.血は俺が持ってる.」
ボス「君には必要ないもんだ.返してもらおう.」
男「そのつもりで電話したんだ.」
ボス「いい心だ.」
男「ただし,条件がある.」
ボス「ほう.何だ.」
男「二千万出してもらおう…と言ったら.」
ボス「二千万?」
男「どうなんだ.払うのか払わねえのか答えろ.」
ボス「そんな現金の用意はない.」
男「なんだと!」
ボス「それより自首した方が利巧だと思わんか? たかが二千万の金で一笑を棒に振る気か?」
男「うるせえ.がたがた言うなら,血はどぶへ叩き込むぞ!」
男はあごひげを生やしていた.
ボス「まあ落ち着けよ.こっちは話し合いには応じると言ってるんだ.」
男「だったら,黙って二千万円払えよ.それ以上払えとは言わねえよ.」
ボス「わかった.何とかして揃えよう.」
男「すぐ用意しろ.全部古い札だ.」
ボス「で,渡す場所は?」
男「また後で連絡する.」
ボス「あ,待て.金は何に入れればいい.」
男「革鞄なら何でもいい.ただし,その革鞄におかしな仕掛けなんかするなよ. いいな.子供を助けたかったら言う通りにしろ.」
そう言って男は電話を切った.逆探知はできなかった.

一係の面々はテープを聞いた.二十代の後半くらいの男だろう. 案外気が小さい男かもしれないが,特別変なところもない. 山さんは一番厄介な相手かもしれない,と憂慮した.ボスは肯いた. なぜかというと
長さん「つまり,前科もない, そこら辺に幾らでもいる若者の犯行ってとこですか.」
ボスは一つだけチャンスがあると言った.金を渡す時だ.

西山署長は二千万円を用意することを渋った.ボスは必死に西山を説得した.

午後二時.電話が掛かってきた.
ボス「はい,一係です.」
男「金の用意はできたか?」
ボス「できた.」
男「よし.刑事一人に革鞄を.革鞄には目印に取手に手錠をぶら下げろ. 時間は午後三時.場所は矢追一丁目の洋服店の前だ.」
ボス「血液はその時に返すんだな.」
男「いや,後だ.サツが手を出さないと判ったら, 隠してある場所をそのうち公にしよう.」
ボス「そんな時間的余裕はない.交換じゃなきゃ駄目だ.」
男「嫌なら取引は中止してもいいんだぜ.俺は血を捨ててしまうぞ.」
皆に緊張が走った.
男「どうする?」
ボス「いいだろう.」
男「よーし.血が欲しかったら俺を逮捕しようだなんて余計な事は考えるな. 張り込みや尾行もごめんだぜ.」
ボス「判ってる.」
電話は切れてしまった.ボンは憤ってこう言った.
ボン「ボス,どうしても犯人をその場で逮捕してはだめなんですか.」
ボス「血液を取り返すのが先だ.」
ボン「でも逮捕して締め上げれば,隠してる場所を吐かせる事だって…」
ボス「いかん.血液を握ってるのは奴だ.それを忘れるな.」
ボン「ボス…」
ボス「口惜しいのはみんな同じだ.最後に勝てばいい.」

早速指定された場所にボンがやってきた.ボンは革鞄に手錠をつけていた. ボンの周りを七曲署の面々が遠巻きに見張っていた. 犯人の乗った緑色のワゴンがボンに気づき,前を通ったが,皆, 犯人の車だとは気づかなかった.3時半になった. 山さんと長さんは喫茶店の中からボンを見張っていた.だが犯人は現れなかった. と山さんがボスに報告している,その時,男の人がボンに, 七曲署の人に電話が掛かってきていると伝えた.
男「金は持ってきたな.」
ボン「勿論だ.どうして取りに来ない?」
男「これからすぐに車に乗って高速に入れ.」
ボン「何?」
男「初台ランプを入って高井戸ランプから環状8号線へ出ろ.出たら,左折だ.」
ボン「高速の中に入ってどうするんだ.それならまっすぐ甲州街道へ…」
男「血を返してもらいたかったら言う通りにしろ.」
ボン「よし,わかった.」
ボンはメモをしながら言った.
ボン「初台ランプを入って,高井戸から出るんだな.」
男「いいか.お前の動きは監視してる.尾行なんかさせると取引は中止だぞ. 急げ.」
ボンはメモを電話を取り次いだ人に渡した.

早速ボンが車に乗った.ゴリさん,スコッチ,殿下,長さんも車に乗った. 山さんはメモの内容をボスに報告. ボスは山さんに高井戸ランプへ行くように命じた.さらにボスはこう命じた.
ボス「(ゴリさんに)そのままボンの車を抜いて高速に入れ.」
ゴリさん「了解.」
ボス「ボン,お前はゴリの車にぴったり着いて走るんだ. 殿下はそのボンの車の後に着け.いいか. 先頭の車がのろくて追い抜けない形をとるんだ.それから,スコッチ. お前は高速の下の甲州街道を行け.上の車は35キロ, 下のスコッチの車は40キロで走れ.信号ストップを計算すると, 大体それで高井戸ランプで一緒になるはずだ.ホシが現れたら尾行の一手だ. いいな.尾行を気づかれるな.血を取り戻すまでは, 絶対にホシに手を出すんじゃないぞ.」
だが無線は全て盗聴されていた.
男「ふん.サツの野郎.そんな手で俺が捕まるとでも思ってるのか.」
男は幡ケ谷か笹塚の辺りでワゴンを発進させた. スコッチの車の前に例の男が乗った緑色のワゴンが張り付いた. ゴリさん達は犯人らしい車は見当たらないと無線で報告. その様子をしっかり女が見ていた.それを聞いて男は無線で言った.
男「高速道路のデカ,よーく聞け.」
ボス達に衝撃が走った.
男「金の革鞄を持って,そのまま走り寄って右の窓を開けろ.」
当時のスポンサーである三菱電機製の無線機が大映しになった.
ゴリさんの声「くっそう.奴等,無線を.」
男「お前らの裏切りは何もかもわかってるんだぞ. 言う通りにしないと絶対に血は戻らないと思え.」
ボスの顔は怒りに燃えていた.仕方なくボンの車が右に寄った.
男「止まるなよ.三台ともそのまま走るんだ.革鞄を持って前方を見ろ. 高圧線の鉄塔が道路を挟んで左右に見えるだろう. 高圧線の真下を通る時に革鞄を柵の外へ思いっきり放れ.言う通りにしろ. 子供が死んでもいいのか.」
意を決してボンは革鞄を放り投げた.男が革鞄を拾った. だが男はスコッチに革鞄を拾うところを見られ,さらに写真撮影されていた. スコッチは男のワゴンを追いかけた. そしてワゴンが京王線の傍に駐まっているのを発見. だが中には誰もいなかった上に革鞄の中身は空っぽだった.

車は盗難車だった.スコッチが写真を撮影したが, 手がぶれているから顔まで写っているかどうかわからない. そこへ電話がかかってきた.それは七曲中央病院の院長からの物. 患者の容態が急変したので手術を明日の朝までに行なわなくてはならないのだ. ボスの顔に緊張が走った.時刻は午後6時.
院長「見込みはどうなんでしょう?」
ボス「大丈夫です.すぐ手術できるように準備しておいてください.」
院長「藤堂さん.」
ボス「は?」
院長「私はあなたを信じています.」
電話は切れた.一係室に重い空気がたちこめた. 病室では苦しむ患者のひろしに父の橘は一生懸命呼びかけていた.

犯人の二人は札束を前にして大喜び.女は血を返さなくちゃと言ったが, 男は,血を返したら足が着く,俺達には関係ない,と嘯いていた.

ボンのテーマが流れる中,一係の面々の必死の捜査が続いていた. なぜか彼らは理髪店や美容院を回っていた.そして午後8時になり, 西山署長が一係室にやってきてボスを難詰していた.尾行も失敗. 金をとられただけ.これでは無駄だと言う西山.
ボス「いえ,無駄ではありません.ホシの顔を見る事に成功しました.」
だが西山は犯人がひげをつけていた事と前科もない事を盾に難詰.
ボス「私はホシがどこにでもいる若者である事に賭けました.」
西山は怪訝な顔.そこへ長さんがやってきた.容疑者が割れたのだ. 新井ひでお29歳.元商社の営業マンだ.現住所まで判っていた.驚く西山. ボスは山さんに全員召集を命じた.
西山「藤堂君,これは一体どうやって犯人を割り出した?」
ボス「これです.」
それはスコッチが撮影した写真だった.
西山「しかしねえ,こんな付け髭の写真が何かになったのかね.」
ボス「付け髭じゃないんです.」
西山は驚いてボスの方を見た.
ボス「ホシがプロでも特殊な犯罪者でもないと思った時, このひげは本物だと睨んだのです.もし擬装の為のひげだったら, 何もマフラーで顔を隠すことはないでしょう.」
それでも西山は腑に落ちない様子だ.
ボス「ホシはただ遊び半分に色んな形のひげを伸ばしていただけなんです. しかも,頭はちゃんと手入れをしてました.ですからこの写真で, 理髪店を懸命に当たらせたんです.」
西山は狐につままれたような顔をしていた.ゴリさんから電話が掛かってきた. ボスは容疑者が割れた事を伝えた.

一同,犯人のアパートの前に集結.新井達は逃げようとしたが, 既に周りは取り囲まれていた.新井達をボンが取り押さえている最中, 山さんは冷蔵庫の中から血液を取り返した.

こうして手術が行なわれた.ボスは手術室の前でずっと待機していた. 手術が終わった.
院長「終わりました.手術は成功です.」
ボス「良かった.」
院長「藤堂さん,あなたのお蔭です.」
ボス「とんでもない.」
院長はボスにお茶を勧めたが
ボス「ありがとうございます.でもこの次にします.連中が待ってるんですよ. 事件が解決できたのも奴等の力です.じゃ.」
こう言って去って行った.

七曲署では山さんを除き,皆眠っていた.ボスは黙って屋上へ上がり, 街を眺めながらタバコを手に持つのであった.

次回は遂にスコッチが七曲署を去って行きます. 人間としての温かみを取り戻して.ゲストは夏純子さん.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp