2002年5月29日

「太陽にほえろ!」第241話「脅迫」

脚本は小川英と杉村のぼる.監督は竹林進.主役は山さん.

昼休み.ゴリさんとボンが将棋をしていた.ボンが「待った」と言うと, 山さんが「待った将棋はそろそろ卒業してくれんかね. そいつが始まると事件が始まるからね.」と冗談を言った. 待ったはゴリさんの十八番ですよと言うボン. そこへ鑑識課主任の松本治平がやってきた.彼はあと半月で停年だと言う. さらに
松本「山さん,実は聞いてもらいたいことがあるのだが, 帰りに角のじゅらくまで来てくれんか.」
山さん「は.じゃあ,7時頃に.」
松本「頼む.じゃ.」
松本が出て行くのを見て殿下や長さんは,寂しそうだな,と言った. だが山さんは別の印象を持っていた.

その晩,山さんがじゅらくへ行ってみると松本は帰った後だった. 急用ができたと言う.翌朝.松本は死体で発見された.場所は公園の池の近く. 死亡推定時刻は9時頃.死因は不明だが,溺死に間違いはなさそうだ. 自殺と考えるのが自然だろう.鑑識課員の話では, 松本はノイローゼ気味だったと言う.いつも独りで考え込み, 理由を聞いても答えてくれなかった.鑑識課全員心配していたと言う.
山さん「確か主任には結婚した娘さんがいたなあ.報せたのか.」
鑑識課員「いえ,まだです.」

山さんは松本の娘のところへ行った.山さんが松本の娘と挨拶している時, アパートの前の公園から声が聞こえた.
松本の孫娘「ママ,このおじさんになおしてもらったの.」
いつも孫娘が世話になっていると言う.彼は松本の娘の隣人. そして山さんは松本の娘に,松本が死んだ事を話した. 松本の娘には心当たりがなかった.松本は最近元気がなかったが, 松本の娘は定年が近づいた為だと思っていた.

ボスは念の為に松本の死体を解剖させていた. 解剖の結果,溺死には違いないが,飲んだ水の量が少ない事がわかった. 自殺や事故ならもっと水を飲んでいるはずだ. 首の付け根の紫斑は鬱血の為.もっとも,飲んだ水は池の水だった.
山さん「何かの理由で主任は池に溺れながら水を飲まなかった. しかも何かで首の付け根を圧迫されていた.そうなるな.」
ボンはその意見を不審に思った.溺れながら水を飲まない事がありうるのか?
山さん「自然の状態では確かに考えられん.だが松本さんは鑑識のベテランだ.」
ボンも気がついた.つまり
殿下「他殺の証拠を残すために主任は…」
山さん「おそらく犯人は自然の自殺に見せかけるために, あらかじめ池の水をバケツか何かに用意し,そこへ主任の顔を押し込んだ. 殺されると知った主任にできる事は, 水を飲まずに自然死でない事を示す事しかなかったんだ.」
ボスは他殺の線で調べることを決断した.

七曲署の面々が必死に捜査を続けていた.それを一人の男がじっと見ていた. じゅらくでの聞き込みで,松本のところに男がやってきて, 話し込んでから外へ出た事がわかった.だが店の者は人相を覚えていなかった. 悔しがるボン.じゅらくを出た時, ボンは山さんが使っている情報屋の有田(石橋蓮司)と出遇った. 有田は黙ってバケツを蹴飛ばしていた. 一緒にいたスコッチは有田の事を知らなかった. ボンは自分でよかったら話を聞くと言った.だが有田はなかなか話そうとせず, バケツを蹴飛ばすだけ.やっと話したと思ったら
有田「(山さんに)至急会いてえって伝えてくれ.」
と伝えてくれと話した.

ボンと別れた後, 有田は七曲署の捜査をじっと見ていた男(上野山功一)に跡をつけられた. そして男は有田に声を掛けた.
男「話がしてえんだ.二人だけでな.」

山さんはゲームセンターで有田と会った.山さんがお金を出すと
有田「鑑識主任をばらしたのは安井ってチンピラだよ.」
ボン「何?」
山さん「確かか.」
有田「まちげえねえ.ノミ屋仲間から聞いたんだ.安井が一ヶ月前, 西口公園でカツアゲしようとして通りかかった主任に見つかった. そんとき,こっぴどく説教されたのを恨んでばらしたんだ. 奴の住所は4丁目あけぼの荘3号室.速く行って捕まえな.」
有田の情報を信用し,ボンは行こうといったが, 山さんは安井の口調に引っかかる物を感じていた. だが兎に角行ってみることにした.安井は慌てて引っ越した後. だがじゅらくのマッチが発見された.ボンは犯人に安井に間違いないと考えた.
有田の声「鑑識主任をばらしたのは安井ってチンピラだよ.」

安井こと安井おさむ18歳に前科はなかったが,4年前恐喝で補導され, 少年院にいた事があった.ボスは安井治を追うように言った. だが山さんには引っかかることがあった.そのため, 皆が出て行ったのに独り残っていた.ボスはどうかしたのかと訊いた.
山さん「いえ,有田の様子が気になりまして. 無口のあいつにしては喋りすぎなんです.」
ボス「どういうことだ?」
山さん「わかりません.もう一度有田に当たってみます.」

有田はいつも働いているバーに来ていなかった.無断で休むのはしょっちゅうだ, と同僚は気にしていなかった.山さんは有田のいそうな所を探し回ったが, 有田を見つけ出すことはできなかった.
山さんの声「有田,どうしたんだ.なぜお前は安井の事を知っていたんだ. どこにいるんだ,有田.」

その頃,有田は松本の孫娘を物陰から見ていた.そして松本の娘の隣人が, 松本の孫娘に声を掛けるのを見ていた.

ゴリさん達は安井の居場所を突き止め逮捕した.安井はあっさりと白状した. 安井は殺意はなかったと供述した.だが
山さん「殺す気はなかった.バケツに池の水を用意してか.」
安井「バケツ? そんなことしません.池の淵に押し倒して, 水に顔を突っ込ませたんだ.これでもか,これでもか,と.そしたら, 急に静かになって.本当です.本当に殺す気はなかったんです. 信じてください.本当です.」
さらにボンは取調室の外から安井の顔をじゅらくの店員に見せたが, 良くわからないと言っていた.出てきた山さんはボンに言った.
山さん「筋は通ってる.通り過ぎてるんだね,少しね.」
ボン「は?」
山さん「動機からその日の行動,殺した後の行動,理路整然としている. だがな,人間,はじめて人を殺してそんなに落ち着いていられるものかな.」
ボン「山さん.でも,殺してないなら,なぜ自供したんです?」
山さんはしばらく考えた後,言った.
山さん「有田だ.」 ボン「は?」
山さん「お前達に声を掛けた時,何て言ったんだ.」
ボン「何てって,えーと,確か,山さんに至急会いたい,そう伝えてくれって.」
山さん「それだけか?」
ボン「ええ.ああ,例の調子で,まるで口を利かないんですよ. ポリバケツを蹴っ飛ばしたりして.」
山さん「ボン,その時の有田はいつも通りの有田だったか?」
ボン「ええ.そう言えば,後で山さんと一緒に会った時の有田…」
ボンは有田に饒舌だった事を思い出した.
ボン「でも何故でしょう.よっぽど虫の居所が悪かったのかなあ.」
山さん「その間に何かあったのかもしれん. あの無口で頑固な有田を有田らしくなくしてしまう,強烈な何かが.」

山さん,ボン,スコッチは安井を犯行現場に連れてきた. 安井は松本の頭を押し,松本の頭を池につけたと言う. そのとおりに安井はボンの頭を押してみた.だが
山さん「安井,主任の首の付け根には鬱血の痕があった. そのやり方ではそんな痕はできんな.」
はっとする安井だったが,細かいことは忘れたと誤魔化した. そのとき,山さんは浮浪者(丹古母鬼馬二)がじっと見ている事に気がついた. 山さんはボンに浮浪者を捕まえさせた.浮浪者は情報を提供すれば, タバコがもらえると思って,じっと見ていたという. さらに浮浪者は事件の事を良く知っていると言う. 何と浮浪者は死体を捨てるところを見ていたという. 寝場所を探していた時,裏門に車が止まっていたのが見えた. そして男が死体を車を引っ張り出し,捨てるのを見たと言う. だが浮浪者は男の顔も,車のナンバーも型も覚えていなかった. ただ車の色が暗いことしか覚えていなかった.
ボン「お前,本当に見たのか!」
浮浪者「本当に,やめてくださいよ.」
山さんはボンをたしなめた.
浮浪者「何にもわかんなくてどうもすいませんねえ. でもこないだのお兄さんはこれだけでタバコをくれたもんだからね.」
山さんはピンときて有田の写真を見せた.
浮浪者「ああ,そうです.このお兄さんです.」
山さんは礼を言った.ボンは気づいた.
ボン「山さん,はじめに有田が山さんを探したのは…」
そう.有田が本当に話したかったのはこの事だったのだ.
山さん「おそらくな.だが俺が会った時,奴が話したのは安井の事だけだ. 何かがあった.その間に間違いなく何かがあったんだ.」
山さんは有田の写真をじっと見ていた.

有田は松本の娘と孫娘のみきの跡を追っていた.

山さんはこう推理した.
ボス「つまりこうか.安井は真犯人の何者かに何らかの手段で強制され, 犯人の役をやらされている.その真犯人が安井逮捕を演出する為に, 有田に偽の情報をたれこました.」
ゴリさん達は有田が偽情報を流した点を不審に思っていた. ガセネタを流す事があっても有田は根がいい奴だからだ.
山さん「あいつは確かにいい奴だ.だがな,そういう有田でも, 俺を騙すしかないほどの何かがあったんじゃないか.そんな気がする. 口にしたくない事を早く吐き出そうとするみたいに,あいつは喋った. いや,もしかするとあいつは,そういう喋り方で, 言えない何かを俺に伝えようとしたとしたのかもしれない.」
スコッチ「その推理が正しいとすると始めっから洗い直す必要がありますね, ボス.」
ボスは安井の送検をぎりぎりまで引き伸ばし,次の三点を調べる事にした. 松本の過去,特に鑑識記録を探る事,安井が真犯人かどうかを探る事, そして有田の行方を探す事.

ゴリさんとスコッチは安井を調べ,ボンと長さんは松本の娘に会っていた. そのとき,ボンは有田を見かけた.慌ててボンは追いかけたが, 逃げられてしまった.そしてボンは,有田がこんなところに現れるわけがない, と思ってしまった.山さんは必死に有田の行方を探していた.
山さんの声「どこにいるんだ,有田.何かがあったとすれば,あいつの事だ, 訊いても話す筈がない.」
松本の声「山さん,実はちょっと聞いてもらいたい事があるんだ.」
山さんの声「何を言いたかったんだ.そしてその晩,殺された. 犯罪に絡んだ何かを握っていたのか,主任は.有田と主任.結びつかない.」

その晩.松本の娘のアパートの前で有田はあの時の男と遭遇. 有田は男にしこたま殴られた.男は二度とあそこに近づくな, と言い残して去った.だが男のした事は薮蛇だった. 近所の人の通報で山さんとボンが駆けつけたからだ. 山さんが有田に呼びかけると有田は叫び声を挙げて角材を折り, バイクで逃げてしまった.
山さん「思った通りだ.奴は確かに脅されている.」
山さんは, ボンが昼間松本のアパートの前で有田を見かけた事を思い出した.
ボン「じゃあ,あいつはずっとあのアパートの近くに.しかし,何でまた.」
山さんは気がついた.
山さん「子供だ.そうだ,子供だ.」

松本の娘の隣人は中山晴男という男だった. 12年前に内縁の妻を殺して西署に捕まり,一年程前に出所していた. そして中山は松本の娘と同じアパートに入居した. 真犯人は何か喋れば娘を殺すと松本を脅した.そして同じ手段で有田も脅した. 有田も子供には弱かった.ボンは,松本の孫と有田とは何の関係もない, と不審に思った.
山さん「例え見ず知らずの子供でも,あの可愛らしい姿を見せられて, 言う通りにしないといつでも殺すと言われたら…しかし, 実際には中山は何にもしていないから逮捕はおろか取調べ一つ出来ない. 主任が何も打ち明けられなかったのも,もっともなんです.」
ボス「それでも主任は停年を目前にして思い切って山さんに打ち明けようとした. 敵はそれを察知して殺した.」
ゴリさんは怒り狂った.
山さん「問題は主任を脅した目的です. 主任がその何者かの要求に屈したとは思いたくないんだがな.」
ボスは新事実を挙げた.
ボス「実はな,山さん,それは一つだけある.」
ボスは二係が手がけた,川上商事金塊密輸事件の調書を引き出しから出した. それを受けて殿下が話した. 半年前に川上商事で三億円相当の密輸金塊が摘発された. 臭いと言われながら主犯は結局専務どまり. 社長の原は何も知らなかったと言う事でけりが着いた. だが二係の聞き込みでは主犯は原に間違いがなかった. 金塊が社長室に持ち込まれた形跡もあった. ところが鑑識課に回された金塊からは原の指紋は出なかった. 金塊の調査は松本独りで行なわれていた.しかも誰にも手を触れさせなかった. 孫の命を盾にされれば,証拠堙滅に協力させられたのも無理はない. その時,鑑識課員が入っていた.山さんは松本の服に付着していた泥を, 念のために調べさせていたのだ.そして泥からはコーヒー豆の破片が発見された. 川上商事の主な仕事はコーヒー豆の輸入だった. 慌てて飛び出そうとするゴリさんとボンをボスは止めた. 下手に手を出せば松本の孫の命が危ない.沈黙が流れた.山さんは決断した.
山さん「ボス,この脅迫は時間に限度のある人質事件とは違います. 娘さん夫婦の隣に笑顔の中山がいる限り続くんです.危険は承知で, しかし,どこかで肚を決めて確かめない限り,我々には何にもできません. 中山に会って来ます.」
ボスはその意見を採用した.

出動する七曲署の面々.それを見届け,有田もバイクで山さん達を追いかけた. 山さんもそれに気がついていたが,敢えて無視を決め込んだ. アパートの前の公園に着くと,中山は松本の孫娘と遊んでいた. ボンはさりげなく松本の孫娘を連れ出し,山さんは中山と対峙した. その時の会話から山さんは知った.
山さんの声「この男は何も知らん.」
そこで山さんは中山から次のことを聞き出した.中山は原を知らない事. 中山が刑務所で二見という男からあのアパートを紹介してもらった事. 二見が何をしているかはわからないが,勤め先も紹介してもらった事. 二見と会うといつもコーヒーの匂いがした事.山さんは中山と別れ, ボンと合流した.そしてボンに言った.
山さん「大丈夫.中山は何もしない.トリックだ. ただ中山を同じアパートに住まわせた.それだけで二見は主任を脅していたんだ. おそらく有田もな.脅した奴は二見.おそらく川上商事の人間だ.」

ボスに応援を頼み,素早く川上商事に山さんとボンが乗り込んだ.
山さん「原さん,お聞きしたい事があります.署にご足労願います.」
原は何のことだととぼけたが
山さん「金塊密輸と松本主任殺害事件の重要参考人です..」
原は有田を脅した男こと二見をなじった.
原「二見,どういうことだ.話が違うじゃないか.」
山さん「二見,お前も一緒に来てもらおう.」
そこへ有田が乗り込んできた.有田は二見を思いっきり殴りつけた. 山さんは有田を止めながら言った.
山さん「有田,有田,有田,やめろ.有田,お前の気持ちはわかる. だから,もうよせ.よすんだ.」
有田は振り返って山さんを見た.スコッチとゴリさんがやってきた.
山さん「有田が証人だ.原と二見を逮捕しろ.」

山さん「安井も吐いたよ.惚れた女に原からもらった金を渡していた. 刑務所から出たら結婚するって約束でなあ.まあ,今度だけは大目に見てやるが, いいか,二度と俺にガセを食わせるなよ.」
有田は舌打ちし,金を返そうとしたが,山さんは受け取らなかった. そして有田は門を蹴飛ばして帰った.有田を山さん,ボスは見送っていた.
ボス「元に戻ったようだな.」
山さん「ええ.まあ,元に戻ったからと言って, あんまりまともな人間とは言えませんがねえ.」
ボス「ああ,しかしそりゃあ,うちの連中も似たり寄ったりじゃないか. 山さんも含めてさ.」
山さんは口をあんぐりさせるのだった.

次回はスコッチ主役編.ゲストは篠ひろ子.

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