2002年5月11日

「太陽にほえろ!」第77話「50億円のゲーム」

脚本は小川英と武末勝.監督は児玉進.主役はボス.

高級マンションの一室で若者達が密談していた. 連中は資料集めなどの事前準備をかなり行なったらしい. リーダー格の男に連中は決断を迫っていた.リーダーによると成功率は90%. 儲けは…
リーダー「50億円.」
グラスを持っていた男の手からグラスが落ちた.トランプをしていた女の手から, カードが落ちた.
リーダー「は,は,は,は.おたおたするなよ.たかが1億円の50倍だぜ.」

ある日の朝.宿直開けのゴリさんが新聞を読んでいるところへ, ジーパンがやってきた.ジーパンが,もう起きているのか,と聞くと
ゴリさん「腹へってなあ.寝てらんねえんだよ.当直は辛いよ. しかしひどいなあ.」
ジーパン「何がですか?」
ゴリさん「水爆だよ.またも核実験強行だってさ.」
と高尚なことを言ったかと思うと
ゴリさん「そうかと思えば海も川も汚染されて, そのうち魚が食えなくなっちゃうだろうって.夢も希望もないね.」
ジーパン「全く,ゴリさん,食い物の心配しかしないんだから.」
ゴリさんは真顔で言った.
ゴリさん「当然だよ,お前.食い物が一番大事なんだから.」
ちなみに当時は冷戦真っ只中で公害問題も深刻だった.

その頃,日本原子力研究センターのライトバンが濃縮ウランを運んでいた. その後ろに黒いワーゲンがぴたりとついていた. ライトバンは道路工事の標識の前に差し掛かった. 工事中なので回り道しろと言う.ライトバンは標識に従って横道に入った. 黒いワーゲンも横道に入った.だが,標識の位置は意図的にずらされていた. ライトバンは細い一本道に入った.すると女が倒れているのが見えた. 女を助け起こそうとライトバンが止まり, 日本原子力研究センターの職員が降りた途端, 職員達は麻酔薬を染み込ませたハンカチを口と鼻にかぶせられ, 眠らされてしまった.それを見て女も起き上がった.

早速七曲署に報せが入った.ライトバンごと濃縮ウランが盗まれたのだ. 日本原子力研究センターの職員は早く手配してくれ, と赤電話からゴリさんに言ったが,遅かった. ライトバンはガソリンスタンドに入ると,そっくりそのまま保冷車に収められ, どこかへと運ばれてしまったからだ.保冷車にはあの黒のワーゲンも一緒だった.

日本原子力センターの所長が七曲署に来ていた. 所長はライトバンの行方がなぜ判らないのかとボスに訊いていた.
ボス「通行禁止の標識で誘い込み,薬をかがせた手口から見ても, かなりこれは計画的です.奪った車をそのまま走らせるような, へまなことはしないでしょう.」
所長「しかし…」
ボス「所長さん,それよりも輸送法自体が少々無防備すぎるように, 我々には思えるのですが.」
所長「無防備すぎる? 冗談言っちゃ困りますな.我々は法規通りに…」
ボス「つまりその法律にも盗難予防の心得は書いていないと言うわけですか.」
所長「そ,その通り,そんな事が書いてある筈がない. 大体馬鹿げてますからな,濃縮ウランを盗むなんて.」
山さん「馬鹿げて? 何故です.」
所長「一文にもならんからですよ. あんなもん盗んだって買い手なんてある筈がない. ウランと言うだけで原子爆弾でも盗んだつもりでいるなら,実に滑稽な話でね. 要するに無用の長物です.これが馬鹿げてなくてなんですか.」
と言った途端,電話のベルが鳴った.早速ボスが受話器を取った.
ボス「はい,一係.」
男「濃縮ウランの盗難を扱っているのはこちらですか?」
ボスはとぼけてこう言った.
ボス「ほう,濃縮ウラン.誰からそんなこと聞いたんですか?」
山さんが別の受話器を取り,長さんが録音を開始.
男「は,は,は,は,は,は.聞かなくたって知ってるさ. やったのは俺達なんだからな.」
ボスは所長にイヤホンを渡した.
ボス「つまらん悪戯は困るなあ.場合によっちゃ罪になるぞ.」
男「良く聞け.用件は一度しか言わない.」
ボス「用件?」
男「濃縮ウランの売値は50億円.びた一文負からない.」
これを聞いた所長の顔色が変わった.
ボス「売値が50億? 一体何の話かね?」
ボスは平然とした口調で言ったが,ボスも含め,一同の顔に緊張が走った.
男「勿論,払うのはあんたじゃない.日本国政府だ. 濃縮ウランを酸性のある種の溶液に溶かして水源地にぶち込めばどうなる. よく研究するんだなあ.」
所長は震えが止まらなかった.
ボス「どうなるのか教えてくれないか.そんなこと考えたこともないんでねえ.」
男「は,は,は,は,は,は.聞きたきゃ原研のお偉方に聞くことだ. その辺にいるんだろう.じゃあ,金の支払方法はまた連絡する.」
電話は切れてしまった.ボスは受話器を置き,所長はイヤホンを取った.
ボス「どうなるんですか?」
所長は先程とは口調が違い,沈痛な面持ちで答えた.
所長「濃縮ウランは水には溶けない.ある種の溶液になら溶ける. そんな毒物が水源地に放り込まれたら,そしてそれが水道の水に混入したら…」
所長は先を言う事が出来なかった.

早速対策会議が開かれた.技官(高原駿雄)が説明した. 濃縮ウランは強力な放射性元素なので, 体内に入れば即死はしないまでも放射能障害が起きる. 濃縮ウランは天然ウラン235の割合を人工的に増やした物. 天然ウラン235が1キロでマッチ箱約3つぐらいの大きさ. たったこれだけで石炭3千トン分の熱を発生させる事が出来る. 盗まれた濃縮ウランの量は4キロ.つまり石炭1万2千トン分.
西山署長「これはいわば警察への挑戦だ.国家への反逆ですよ. こんな連中を図に乗らせたら,警察の権威は地に落ちます.したがって, 早期解決を果たすために,敢えて本件の公開捜査に踏み切りたいと思いますが.」
署長らしい発言だ.ボスが待ったをかけた.
ボス「私は公開捜査に反対です.」
西山に理由を尋ねられたボスは技官に訊いた
ボス「犯人達が濃縮ウランを貯水池に投げ込む場合, 彼ら自身に危険はありませんか?」
技官「もちろん,危険です.誰よりも彼ら自身が放射能を浴びるわけですから.」
ボス「あ,それからもう一つ,実際に濃縮ウランが投げ込まれたとして, 発見と同時にその貯水池の使用を中止した場合, 実害はほとんどないんじゃないですか?」
技官「ええ.何しろ莫大な水の量ですから実際にその水を二, 三日飲んだとしても,まあ人体に対する影響は, 軽微なものといっていいでしょう.」
ボスの狙いはここにあった.
役人「相手は放射能だよ,君.第一,そんなことになったら, 一種のパニック状態になって,何が起こるか想像もつかん.」
ボスのもう一つの狙いはここにもあった.
ボス「仰る通りです.そしておそらくそれが,そのパニックそのものが, 犯人の狙いなんです.」
別の役人「ウランを投げ込むと言うのは単なる脅しであって, 実行することはありえないというのかね?」
ボス「いやあ,ないとは言えません.しかしその実害よりも, そのことへの社会不安の方がはるかに強大だと思います. それが犯人の狙いだとすれば,ここで事件の公表をすることは, 犯人の罠にみすみすはまる事になります.」
西山「藤堂君,いやに大上段の物言いだが, それは未公開のままで犯人検挙の成算があるということだな? 捜査については俺に任せろと言うことだな?」
ボス「そうです.」

ボスは一係室で会議の結果を話した.ジーパンが訊いた.成算の中身を. シンコも訊いた.だが
ボス「あれはただのはったりだ.」
久美ちゃん「そんなあ.ボスの推理聞こうと思ってたのに.」
結構,この人,でしゃばりだ.それは兎に角,ボスには一つだけ見通しがあった.
ボス「こういうスタンドプレーの知能犯には盲点がある. 地味で目立たない部分で必ずボロを出すもんだ.そしてそれを見つけ出すのが…」
その時,電話が鳴った.
ボス「ほうら,おいでなすったぞ.」
準備万端整えた後でボスは受話器を取った.
男「いやに手間取ったなあ.逆探知や録音なんぞいくらしたって無駄だぜ.」
ボス「楽しそうだな.面白いか,こんなことして.」
男「余計なお喋りはしてる暇はない.ところで50億円支払ってもらう前に, あんた方をテストする.」
ボス「テスト?」
男「警察はよく騙すからなあ.本当に俺達の言う通り動くかどうかのテストだ. まず使用済みの一万円札で一億円,今日中に揃えてもらいたい.」
ボス「揃えてどうするんだ?」
男「揃えた現金は大型ボストンバッグに詰めて待機しろ.明日の明方四時に, 支払う場所を教える.」
電話は切れてしまった.

午前四時.本庁から底に発信機を備えたボストンバッグが届けられた. 電話がかかってきた.
男「金の用意はできたろうなあ.」
ボス「ああ,できた.で,場所は?」
男「新宿花園神社前の歩道橋に午前五時ぴったりに来い.」
ボス「新宿花園神社前の歩道橋だな?」
ボスは山さんと殿下に目くばせした.山さんと殿下は出て行った.
男「現金を持ってくるのはお宅のデカ二人だ.あとは誰も来るな.いいな. 俺達を怒らすとどうなるか,よーく考えるんだな.」
電話は切れてしまった.ボスはゴリさんとジーパンに金の運び役を命じた. ゴリさんとジーパンは札束…ではなくて新聞紙をボストンバッグに詰めた.

そして午前五時.近くのビルの屋上から長さんが覗いたが, あの黒のワーゲンが駐まってるだけだった.ゴリさんとジーパンは, 歩道橋から黒のワーゲンに乗り込んだ. すると新聞の活字を切り抜いて作った指示書が助手席に貼り付けられていた.
ゴリさん「エンジンを掛け無線機のスイッチをいれろ.」
ジーパン「ふざけやがって.」
ゴリさん「かっかしてちゃ勝負にならんぞ.」
ゴリさんとジーパンはワーゲンに乗り込んだ.運転するのはゴリさん. 助手席にジーパンが座った.ジーパンが無線機のスイッチを入れた途端
男「警察だけあって時間には正確だなあ. まず首都高速の入口に向かって走ってくれ.」
ジーパン「それからどうするんだ.」
男「言われた通りにしろ.」
ジーパン「ちきしょう,ふざけやがって.」
こうして花園神社付近に張りこんでいた警官達は置いてけ堀に. だが車が一台発進した.
山さん「やはり車です.無線の指示があったようです.現在, 外苑方向へ向かっています.」
車を運転していたのは殿下.ちなみにこの頃は首都高への入口は, 新宿にはなかったらしい.山さん達は黒のワーゲンを尾行した. ワーゲンは首都高に入った.
ジーパン「本部どうぞ.こちら柴田です.」
ボス「ああ,藤堂だ.」
ジーパン「今首都高速の外苑入口を入りました.」
だが
男「は,は,は,は,は.手持ちの無線機でこっそり連絡を取ろうなんて, けちな了見は起こさないでもらいたいな. そっちの無線も俺達は全て聞いてるんだ.後ろの尾行車の声もなあ. は,は,は,は,は.尾行なんて汚い真似はすぐやめろ. 無線だけじゃない.俺達はちゃんとあるところから見てるんだからな. 嘘をついてもすぐ判るぞ.あ,それから車の中の刑事さん, そっちの無線を切ってくれ.切れ! 切らなきゃ今日のテストは中止だ.」
ジーパン「判ったよ.切りゃいいんだろ.」
仕方なくジーパンは無線を切り,ボスは尾行の中止を山さんに指示した. 山さんの車は首都高を一端降りた.だが発信機で車の位置は判る. このまま行けば東名高速に入る.そして山さん達は出発した.だが
山さん「そこで止めてくれ.」
殿下「え?」
山さん「ちょっと買いたい物がある.」
そう言って山さんは車を降りた.山さんの行先は山岳用品店. 一方,ジーパンに男から指示があった.助手席の下に置いてあった袋に, ボストンバッグの中身を全て入れろと言うのだ.これにより, 発信機はあまり意味をなさなくなった.次に男は,東名に入り, 時速100キロで走れと指示.山さん達も東名高速に入った. ちなみに山さんが買った物はロープだった.さて男は車を左に寄せろと指示. 男は「厚木2Km」と書かれた標識が見えたら教えろと指示.ジーパンが,見えた, というと,男は左側の窓を大きく開けて速さを半分にしろと指示. そして男は相模川の橋にかかったと同時に走ったままで袋を投げ捨てろと指示.
ジーパン「何!」
男「言われた通りにしろ.水道の水が放射能で汚染されてもいいのか!」
ジーパン「くっそう.」
ゴリさんはジーパンに指示通りにしろと指示.そして袋を投げ捨てた直後に, ゴリさんは車を止めた.外へ出るジーパン.山さんも着いた.
山さん「ジーパン,ロープだ.」
ジーパンのテーマが流れる中,ジーパンはロープを柵にゆわき, ロープを使って相模川の堤防の上に降りた.袋を拾う男.男を追うジーパン. だが男は車に乗り込んでしまった.ジーパンは車に飛びついたが, 落ちてしまった.悔しがったジーパンは砂を車に向けて投げつけるのであった.

捜査会議でボスは,事件はアマチュアの犯行だ,と主張していた.
ボス「子供のように未成熟だと言っていい程の連中です.」
西山は信じようとしなかったが,根拠を尋ねた.
ボス「彼らの行動,発言,全てが根拠です.」
西山「全てが?」
ボス「彼らの行動一つ一つを考えてみてください. 分別のあるまともな人間のやる事じゃないし,と言って, プロの犯罪者のやる事でもない.またやくざのはったりでもない. つまりこれはゲームなんですよ.」
役人は,ゲームとは,と尋ねた.
ボス「ええ.机上の計算で組み立てた物をいきなり実行に移す. それがこの犯罪の特徴です.つまり現実と幻想の区別がついていない. 彼らはまるで取引の過程を楽しんでいるかのように見えるのはそのためです.」
西山「しかしそれは君の私見に過ぎん.いくらそんな仮説を論じていても, 事件は解決せんよ.」
ボス「仰る通りです.ですからうちの捜査員全員は, 既にその仮説に基づいた捜査に掛かっています.」
西山「何? 藤堂君,わしがいつそれを許可したね.」
役人が西山をとりなし,ボスに捜査方針を訊いた.
ボス「焦点は若者.特に学生に絞ることが基本方針です. ま,その上で一隊(山さんとゴリさん)は濃縮ウラン情報ルートを徹底的に探り, 別の一隊(長さん)は盗難車に残された無線の入手経路, さらに別の一隊(シンコ,殿下,ジーパン)は犯行現場から周辺へ向けて, 自動車関係の店を虱潰しに当たる.これは, 犯人の中に車を回収しうる技術と場所を持った者がいると思われるからです.」

その頃,毎朝新聞社や東西新聞社や城南新聞社などに, 犯人から事件がたれこまれていた.さらに示威好意として本山貯水池に, 赤いペンキが投げ込まれた.たちまち新聞は大きく報道. 警察は事件の存在を隠しきれなくなった. さらにさくら銀行(当時はさくら銀行は存在しなかった)富士見支店支店長に, 男から電話があった. 田中一郎名義の口座に日銀から50億円振り込むように手配せよ,と男は要求した.

捜査会議が開かれた.政府高官(藤田進)が現れ,50億円を振り込む事に決定した, と通達した.ボスが異論を唱えた.
ボス「恐喝営利誘拐の事件で犯人側の最大の弱点は金を受け取る為に, どうしても姿を現さなきゃならないと言う事です.金額が膨大になれば成程, その危険は増大します.」
高官「ところが今度の犯人は銀行振込という新手に出た. 確かにそれだけを見れば狡猾な手口だ.しかし…」
ボス「狡猾なだけではありません.もし犯人の要求を呑んだら, 犯人はもう二度と我々の前には姿を現さないでしょう.つまり, 犯人の手から濃縮ウランを取り戻す手段を永久に失うかもしれません. 人命尊重の立前から言っても,むしろそれは一層危険な事ではないでしょうか.」
高官は肯いた.だが
高官「まあ,待ちなさい.銀行に金を振り込むとどうしてそういう事になるかね? 犯人が金を引き出しに来る筈だ」
ボス「ところが,彼らは姿を現さずに金を引き出す事ができるんです.」
西山は高官の方を見た.
ボス「さくら銀行には全国キャッシュサービスという, 自動支払いのシステムがあります.」
ここで「このシステムを犯罪に利用することは実際には不可能です.」 と言う字幕が表示された.この頃はキャッシュカードが出立ての頃だったので, このような字幕を入れたのだろう.閑話休題.
ボス「カードさえ差し込めば24時間いつでもキャッシュを引き出す事ができます. そうですか?」
支店長「え! ええ.田中一郎の口座にもそのカードが出されています.」
西山「しかし,コンピュータに警報装置をつければ…」
ボス「犯人の口座番号を呼び出されてすぐに出動したとしても, 機動力の鈍い地方都市では,おそらく間に合いません.」
役人「だがねえ,キャッシュサービスは20万円限度だろう. 何百回もそうやって引き出していれば必ず網に掛かるはずだ.
時代を感じさせる台詞だ.
ボス「その通りです.しかし彼らは決してそんな事はしないでしょう. 小金は随時引き出してもほとんどの金はそっくりそのまま残すはずです.」
西山「そっくりそのまま.」
役人「つまり銀行に寝かせたまま時効の成立を待つというのか.」
ボス「そうです.それが本当の彼らの狙いです.強盗に恐喝罪を加えても, 十年以上の懲役.したがって控訴時効は七年です. その間の銀行利子だけでも一年間に約三億. 七年経てば50億円は70数億円に増えている. それがそっくり誰はばからず彼らの手に入ります.これが彼らの目的です. 濃縮ウラン強奪もテストと称する一億円の要求も全てその布石だったのです. おそらく彼らは一億円が新聞紙の束だった事は予想していたでしょう. だから貯水池にペンキを投げ込んで新聞にすっぱ抜き, 社会不安をかきたてた上で銀行を恐喝すれば簡単に50億円が手に入る. 彼らの描いた,これが筋書きです.」
高官「君の意見は判った.」
だが
高官「しかし50億円は今日中に田中一郎名義の口座に振り込まれる. 政府首脳との協議で決定したことだ.」
ボス「いや,しかし…」
高官「君に一つだけ聞きたい.ここで彼らの要求を拒否して, 誰の生命も脅かされない,傷つけられないと言う絶対の保障が君にできるかね?」
ボスは答えられなかった.

ボスは一係の面々をレストランに呼び出した.捜査本部が本庁に移ったのだ. 憤る七曲署の面々.だがボスは開き直り,自分達は自分達なりの捜査をする, と宣言.それを受け,山さん達は捜査の結果を報告した. 田中一郎の方の収穫はなかった.さくら銀行に口座を作りに行ったのは一ヶ月前. だがどんな男だったのかを覚えている行員はいなかった. だが車の方からは有力な手がかりが得られた. 世田谷通りから少し入った所にあるガソリンスタンドに, 20歳と19歳の学生がアルバイトに来ていた.犯行の前日から四日間, 主人が旅行に出ていて二人が店を切り盛りしていた. さらにその中の一人は原研センターのアルバイトもしていた. 三ヶ月前にセンターを辞めていたが, 濃縮ウラン輸送はだいぶ前に予定が組まれているので, その学生にもつかめたはずだ.そのスタンドの近所からの聞き込みでは, 犯行の日に大型の保冷車がガソリンスタンドを出入りしていた. 保冷車ならライトバンがすっぽり入る. 都内のレンタカーで保冷車を扱っているのは三軒ある. そのうちの一件で事件の日に例の学生が保冷車を借りていた.名前は森川三郎. 立派なマンションに住んでいた.父親は福島の町医者で大学は一流の秀才タイプ. 仕送りもたっぷりあるはずなのに原研とガソリンスタンドでアルバイトをした. マンションの住人の話では時々仲間の学生が集まってくるが,呑んで騒ぐでなし, 麻雀するでなし,いたっておとなしい様子だと言う.
ボス「いやあ,よくやった.どうやら本ボシだなあ.」
山さん「ええ.ボス,まだ逮捕状の請求は無理ですか?」
ボス「ああ.しかしこれだけネタがあれば,こっちもゲームが出来る. 当たるか外れるか,一つ王手と行ってみるか.」

ボスは知り合いの新聞社の社会部デスク(草薙幸二郎)を居酒屋に呼び出した. 下手をすれば馘が危ない.だが成功すれば第一報をデスクに渡す. デスクはその話に乗った.ボスは乾杯した.

さて森川達は新聞を見てほくそ笑んでいた.そしてあと7年間放って置けばいい, とほざいていた.ウランはみつかりっこないし, 例のライトバンは横浜に置きっ放し. 見つかったところで何の証拠も残していない.完全だ.だが, 一人が持って来た新聞を見て森川達は慌てた.
女「五十億円は凍結見込,犯罪者に勝利なし.」
それだけではなかった.
森川「濃縮ウランの所在つかむ.七曲署藤堂警部補強気の発言.嘘だ. そんな筈はない.」
男「森川.」
女「嘘とは思えないわ.藤堂って名前まで発表してるもの.」
これがきっかけで皆疑心暗鬼に陥った.保冷車から足が着いたのかも,と考え, 森川達はウランを別の場所に移す事を決意した.
森川「くっそう,ここまで来てパーにされてたまるか. ウランを押さえられるくらいなら,本当に貯水池に放り込んでやる.」
ほとんどパーになっているとも知らず,森川はそうほざいた.

発進した森川達の車を七曲署の面々が尾行した.車をとっかえひっかえ, 尾行は続けられた.山さん,殿下,ジーパン,ゴリさんの順. ゴリさんはダンプに乗り,鉢巻まで締めていたので, 何処から見てもトラック野郎にしか見えなかった. しかも一度抜いてまた抜かせると言った念の入り様.そのため, 森川達は尾行を振り切る事が出来なかった.怪しい車だ,と思っても, 皆途中で止まってしまうからだ. 森川達は濃縮ウランを埋めた禁猟区の山林に入り, 濃縮ウランを掘り出した.
森川「そうれ見ろ.宝物はご安泰だ.新聞なんて出鱈目さあ.」
だが
ボス「いや,出鱈目じゃないぞ.」
ゴリさん,ジーパン,ボス,山さん,長さん達が登場した.
ボス「森川三郎,お前の負けだ.ゲームは所詮ゲームだ. もう一度ゆっくり考えてみるんだなあ,人生って物を. 考える時間はたっぷりある.」

こうして記者会見が開かれた.西山とボスを見ながら, ジーパンは考え込んでいた.あのまま成功したとしたらどうなるだろうか. だが山さんと長さんとゴリさんと殿下はジーパンを見てニヤニヤしていた. 例え成功したとしても,待ち構えていた税務署員が税金の督促状を渡す, 所得税が75%,重加算税と延滞税が加えられ, 合計77億7500万円払う羽目になるので,要するに大赤字になると言う訳.
ジーパン「ええ! じゃあ儲かるのはやっぱり税務署だけですか.」
それをボスから聞かされていたので,山さん達はニヤニヤしていたのだった.

次回,ジーパンと山さんが冷酷な殺し屋に挑みます.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp