2002年5月4日

「太陽にほえろ!」第76話「おふくろ」

脚本は鎌田俊夫.監督は児玉進.主役はジーパン.

ある日の朝.ジーパンは寝坊してたきに叩き起こされた. ジーパンは昨日発熱していたたきを心配した. それでもたきは仕事に出ると言い張った.まだ熱があるのにだ. 白衣の天使だというたきをジーパンはからかった. そして今日もジーパンは独りで朝食を食べる羽目になった. たきは,嫁さんもらって食べさせてもらうんだよ,とか, 戸締りちゃんとして出かけるんだよ,と言って出て行った.
ジーパン「わかったよ! いってらっしゃーい.」
この時のやり取りは非常に面白いのだが, いちいち書くときりがないので止めておく.

出勤してきたジーパンに久美ちゃんが訊いた.
久美ちゃん「お母さんの具合は?」
ジーパン「ああ,もう大丈夫よ.」
続けてシンコが訊いた.
シンコ「どう,お母さんの具合?」
ジーパン「ああ.大丈夫じゃないんだけどさ,勤め出ちゃったんだよ.」
シンコ「ああ,そう.」
そこへ久美ちゃんが割って入った.
久美ちゃん「あら,あたしには大丈夫だって言ったじゃない.」
ジーパン「ああ,そうか.」
そこへボスが出勤してきた.
ボス「おい,ジーパン.おふくろさんの具合どうだ?」
ジーパン「ええ,もう全然大丈夫ですよ.」
ボス「そうか.大事にしろよ.」
ジーパン「してます.」
そこへ電話が.派出所の警官が殴られて拳銃を奪われたというのだ. ボスはジーパンを連れて出て行った.

ボスとジーパンは拳銃強奪現場で被害者の警官から話を訊いた. 女が,アパートの近くに変な男がいるから見てくれ,とここまで連れて来たのだ. そこで警官は背後から頭を殴られたというのだ. 早速女のモンタージュ写真が作られた.ゴリさんは,計画的な犯行だ,と言い, それを受けて山さんは,計画的なら何か目的がある筈だ,と言った. 拳銃には弾は5発残っていた.ボスは拳銃が使われないうちに犯人をみつけろ, と指示した.

さてここはたきの勤める城北病院.たきがゴミを出していると, いきなり階段から男(小原秀明)が降りてきた.男はたきに向けて拳銃を構えた.
たき「何するのさ?」
答えの代わりに弾が射たれた.

ジーパンのテーマの変調曲が流れる中,報せを聞き, ジーパンは走って城北病院へ向かった.一足先にボスが来ていた.
ジーパン「母さん.」
ボス「大丈夫だ,ジーパン.」
ジーパンは気が気でなかった.
ボス「落ち着け,ジーパン.落ち着くんだ.」
手術室からたきが出て来た.
ジーパン「母さん.母さん.母さん,誰がやったんだ.母さん,死ぬな.」
ボス「ジーパン.」
ジーパン「母さん,死ぬ.俺はどうすればいいんだよ.」
病室へ運ばれるたきを見ながらボスはジーパンを押さえた.
ボス「いいか,ジーパン.今,おふくろさんに一番大切なのは安静だ. わかったな.」
長さんの聞き込みによると,撃たれる直前に男の声で電話があったらしい. 男は,柴田たきはいるか,と訊いたと言う.どうやら顔見知りではなさそうだ. ゴリさんは弾が盗まれた拳銃の物であることを報告.それを聞き, ジーパンは犯行現場へ行った.そして血を手にとって,何事か決意し, 怒りに任せて木箱をチョップしたり,蹴飛ばしたりした. ボスはそれを黙って見守るのであった.

その夜.アパートで.たきを撃った男に女が,これからどうする,と訊いていた. 男は最後までやると答えた.
男「あいつらを皆殺しにしてやる.和子.」
和子「何?」
男「兄ちゃんと別れろ.」
和子は驚いた.男は和子の兄だったのだ.人殺しは自分ひとりでいい, と言う兄に,和子は兄と一緒にやると言った.男は,和子にはもうやる事がない, と翻意させようとしたが,和子の決意は固かった.
和子「兄ちゃんが死ぬなら,あたしも死ぬ.一緒に母ちゃんのところへ行く.」
男はこう言った.
男「和子,お前は母ちゃんの分まで生きろ.」
そして出て行った.和子は兄を追いかけた.だが撒かれてしまった. 小田急の特急の警笛と「兄ちゃん」と言う叫びだけが男には聞こえていた.

翌日.ボスとジーパンはたきを尋問した.たきは犯人に心当たりがなかった.
ボス「病院でもお母さんが人に恨まれる方じゃないって言ってますしね.」
ジーパンが捕まえた容疑者やその家族が逆恨みして襲う事が考えられたが, 今のところ,その線からは何も収穫がなかった.
ジーパン「どういう奴だった,母さん.」
たき「そうねえ,歳は二十歳ぐらいだったかねえ.」
ジーパン「で,背丈なんかは判る?」
たき「普通だねえ.」
ジーパン「じゃあ,髪は?」
たき「髪?」
ジーパン「長さとか.」
たき「そうねえ…」
ジーパン「思い出してくれよ,母さん.俺がさあ,きっと仇とるからさあ.」
ボスは黙ってみていた.
たき「髪ねえ.」
ジーパン「じゃあ,着ていた物は?」
たき「さあ.」
ジーパン「背広? それじゃあ,ジャンバー? それじゃあ, (自分の服に手をやり)こういうの?」
たき「さあ,どうだったかねえ.」
ジーパン「思い出してくれよ.母さんの記憶しか手がかりはないんだよ. 母さん,本当に見た事もない顔なのかい.母さん,思い出してくれよ.」
ボスは思わず下を見た.

その夜.あの時の男は若い女がアパートに入ろうとするところへ銃を突きつけ, 一緒に中に入った.翌朝.ボスは電話を受けていた.電話がおわった後, その女が拳銃で撃たれて死んだ事をゴリさんから聞き, ボスは驚いた.場所は坂井町のアパートだ. ジーパンはゴリさんと一緒に行こうとしたが
ボス「ジーパン,お前はシンコと一緒に桜町の派出所へ行け. 若い女を泥棒だと言って突き出した奴がいる.もめてるそうだ. 行って見て来い.」
ジーパン「しかし…」
ボス「命令だ,ジーパン.ゴリ,行くぞ.」
ボスはゴリさんを連れてアパートへ行ってしまった.

道すがら,ジーパンはシンコに文句を言った.何でこんな仕事を自分がやるのか, と.これだって立派な仕事だとシンコから言われ,ジーパンはむしゃくしゃした. さてアパートでは,11時に隣人が銃声を聞いた事をゴリさんが聞き込んでいた. ボスはゴリさんに言った.
ボス「なあ,ゴリさん.このガイシャの名前がシガタたきって言うんだ.」
拳銃も同じ物.つまり,ジーパンの母柴田たきは人違いで撃たれた可能性がある. そこへ長さんがやってきた.シガタたきは病院を転々としており, 城北病院にもいたが半年前に辞めていた.

その頃,桜町の派出所では.突き出されていた女は和子だった. だがジーパンとシンコは,その事に未だ気づいていない. 和子を突き出した男はこう言った.和子は1年前に自分の喫茶店で働いていた. 和子が辞めた日に,レジから十万円がなくなったというのだ. 和子は知らないと言い張った.怒る男をジーパンがなだめた.
ジーパン「(和子に)あんた,名前は?」
男「松村和子です.うちで勤めてる時はそう言ってました.」
和子「違います.あたし,そんな名前じゃありません.」
シンコは和子を見てある事に気がついた.そしてジーパンの腕を叩いた.
シンコ「似てると思わない? この娘,モンタージュと. 髪型はちょっと違うけど.」
それを聞いたジーパンはモンタージュ写真と和子を見比べた. 和子は髪をゆわいてポニーテールにしていた.ジーパンは髪を解いてみた. するとモンタージュ写真通りになった.
ジーパン「(警官に)連れて行きますよ.(和子に)ちょっと署まで来てもらおう.」
抵抗する和子を強引にジーパンは連れ出した.
シンコ「ねえ,そんなに乱暴しちゃだめよ.他人の空似って事もあるんだから.」
ジーパン「うるさいんだよ,お前!」

和子は黙秘を貫いた.怒るジーパンをボスは取調室から連れ出した.
ボス「ジーパン,俺達はな,お前のおふくろさんの仇を討つために, 捜査をしてるんじゃないんだ.お前のお袋だろうと,見ず知らずの人間だろうと, 命の重さは俺達にとっては同じだ.お前の気持ちは判るが, 冷静な心をもてない刑事は捜査の邪魔になるばかりだ.」
ボスは自分が取調室の中に入り,ジーパンを締め出してしまった.

それからの時間はジーパンにとっては長く感じられた. 和子は山さんの取調べにも屈せず,黙秘を貫いていた.手がかりは何もない. 松村和子と言うのも偽名らしい.その時,ジーパンがシンコに言った.
ジーパン「ちょっとこっち来て.」
シンコ「どうするの?」
ジーパン「所轄内のバッグの修理屋を全部当たってみるんだ.」
ジーパンは和子が持っていたハンドバッグに目をつけていた. 革は相当くたびれているのに金具だけが新しかったからだ.
ジーパン「行ってもいいですか,ボス.」
ボス「よーし,行って来い.」

ジーパンのテーマが流れる中,ジーパンは捜査を続けた. そしてジーパンは和子のアパートで見た.女の位牌と花が供えられているのを. そして次の事が判明した.和子の本名は町田和子.柴田たきが撃たれた日, 和子が兄を追って泣き叫びながら走るのを近所の人が目撃していた. 近所でも兄妹の仲は良いと評判だった.父親は十年前に漁船の遭難事故で死亡. それから母子三人で転々としてあちこちで働いていたようだったが, その間の無理がたたったのか,母親は病気になり,一年前に手術を受けたらしい. 和子が喫茶店の金を持ち逃げしたのが本当だとしたら, おそらく母親の手術費用が目当ての犯行だったのだろう. だが母親は半年ほど前に死亡.ボスは山さんに,シガタたきが勤めていた病院と, 母親の町田佳代が手術を受けた病院を調べるよう指示した.

その頃,ある会社のエレベータに和子の兄が現れていた. そして彼は白衣を着た男を拳銃で撃ち殺した.お前達が母さんを殺したんだ, と何度も何度も言いながら.犯行の行なわれたビルから, ボスと山さんが出たところへジーパンがやってきた. 町田佳代が手術を受けた病院とシガタたきが勤めていた病院が判ったのだ. 山下病院だ.ジーパンはそこへ行こうとボスと山さんに言った.
山さん「俺達もこれからそこへ行くところだ.」
撃ち殺された男も半年前まで山下病院に勤めていたからだ.

山下病院の院長(武藤英司)は町田と言う女は知らないと言った. カルテを調べた結果,町田佳代のカルテが出て来た.当時58歳. 食道下部狭窄筋の手術を受けていた.その半年後に町田佳代は死んだのだ. 山さんは手術ミスが原因ではないかと単刀直入に訊いた. 院長はその意見を否定した.
ボス「手術をなさったのは?」
院長「私だ.」
ボス「他には?」
院長「えー,看護婦のシガタたき君と,その頃, 私の所にいた滝川諭吉君が手伝っている.」
山さん「二人とも殺されました.同じ拳銃で.」
それを聞いた院長は驚いた.
ボス「犯人はおそらく患者の息子だと思われます.」
院長「息子?」
ボス「未だ弾は二発残ってるんです.犯人が次に狙ってくるのは, あなたです.」
院長は理由を尋ねた.そして手術ミスをする筈がないと言い張った. ボスは兎に角刑事を張りこませると院長に言った.

取調室で.
ボス「君の兄さんの最後の狙いは院長の山下さんだね?」
山さん「いいかげんに話してくれんかね.君が話してくれたら, 一人の人間が殺されずに済んだんだ.」
ジーパンは町田佳代の位牌を手に持っていた.
ボス「お兄さんも罪を重ねずに済む.」
ジーパンは位牌を机の上に置いた.
ジーパン「人を殺しておふくろさんが喜ぶとでも思ってるのか.」
山さん「院長は手術は成功したと言っている.」
ジーパン「おふくろさんが死んだからって,医者を逆恨みしちゃいけないよ.」
遂に和子は口を開いた.
和子「逆恨みなんかしていません.」
ボス「ほう.じゃあ,なぜ兄さんは,手術に携わった人達を. もう話してくれたっていいだろう.例え君が話してくれなくても, 同じ事なんだよ,もう.」
和子「お母さんは死んだわ.手術して半年ぐらいして, お腹が痛いって言い出したかと思うと,痛い, 痛いって暴れるように死んでしまった.あたし,兄ちゃんと一緒に焼場へ行った. 二人だけでお母ちゃん,見送った.呆気ないくらいに速く,お母ちゃん, 灰になってしまったわ.ずっと一緒だったのに,ずーっと一緒だったのに, お母ちゃん,あっという間に灰になってしまった.」
この言葉は皆,とくにジーパンの胸を打った.
和子「お骨を拾おうとしてみたの.そうしたら,そうしたら, お母ちゃんのお骨と一緒に鉗子が焼けないで残っていたのよ.」
ジーパン「鉗子!?」
山さん「手術用の12,3センチぐらいある道具だよ.」
和子「手術の時にお母ちゃんのお腹の中に忘れてしまったのよ.」
ジーパン「まさか,そんな.」
和子「嘘じゃない.嘘じゃないわ.」
ボス「そんなものが入ってたとしたら,手術後も痛んだろうな.」
和子「きっと痛んだのよ.でもお母ちゃん,何も言わなかった. あたし達が手術の費用払うのに一生懸命になってたって事,知ってたから. あたし達にそれ以上心配掛けまいとして,じっと我慢してたんです. そんなお母ちゃんだったんです.そんなお母ちゃんだった.あたし達, あっちこっちへ行ったんです.でも,どこでも取り合ってくれなかった. 実証する決め手がないから,訴えても駄目だろうって.お母ちゃんのお腹の中に, 鉗子がある時なら兎も角,灰になってしまった後じゃあ,どうしようもないって. だって,死ななきゃ判らなかったんじゃない.灰にならなきゃ, 判らなかったんじゃないの.あたし達,諦めようとしたんです.仕方ないから. でもお母ちゃん,お父ちゃんが死んでから, 貧乏してても学校へは行かないと駄目だって, あたし達を学校へやるために,一生懸命働いてくれたんです. そのお母さんが死んだのに,殺されたのに,何もしてあげられないなんて, あんまり,あんまりです.」
和子は涙を流しながらそう言った.
和子「その時,お兄ちゃんが殺そうって言い出したんです. お母ちゃんの手術に関係した人間を.」
ジーパンは理由を知りながらも訊いた.
ジーパン「どうして止めなかったんだよ,その時.」
和子「あたしだって殺してやりたかったからよ.みんな, 殺してやりたかったからよ.」
和子は泣いた.ボスも山さんも無言だった.ジーパンも泣いてしまった.

ジーパンは鉗子を山下に見せた.
ジーパン「こんな物が母親の体の中に入っていたんですよ. これが内臓を突いて母親は痛みで苦しみながら死んでいった.」
山下「知らん.そんな物はあいつらの作り話だ.」
山さん「作り話で人を殺すまで思い詰めますかねえ,院長先生. あの兄妹があなたに会いに来た時, あなたがせめてまともに話を聞いてあげてくれたら, あの二人は人殺しまでは思い詰めなかったんだ.」
山下「生きている間に言って来てくれたらそれだけの処置は出来た筈なんだ. あんな物が入っていたら腹が傷んだ筈だ. それなのに今までどうして黙っていたんだ.」
ジーパンは言った.
ジーパン「金がなかったんですよ.手術をする金がなかったんですよ. だから母親はじっと痛みを我慢するしかなかったんです.」
山下は黙り込んでしまった.
山さん「院長先生,病院の鉗子の数ってのは一定の筈ですがねえ. 手術後にそれに気づかなかったんですなあ.それとも, 鉗子の数など数えてもみなかったんですかな?」
山下「君達はねえ,一体この私を守りに来たのか,それとも責めに来たのかね?」
ジーパンは答えた.
ジーパン「守りに来たんですよ.それが我々の仕事ですからね.」

その頃,たきは花を持ってきたシンコに礼を言っていた.さらに
たき「純にもやっとガールフレンドができたんですねえ.」
シンコ「え?」
たき「あの子,いつも何だか怒ってるようなごつい顔をしているでしょう. だから全然ガールフレンドが出来なかったんですよ.」
シンコは顔が真っ赤になってしまった.
シンコ「あ,いやだ.あたし,ガールフレンドとして来た訳じゃありません. あのう,同僚の刑事として来ただけです.そんな.変な事言わないで下さい.」

日曜日もジーパンは山下病院の前で見張っていた. 山下の息子が外へ出ようとしたので, ジーパンはどこへ行くのかと訊いた.そして刑事が着いて行くといった. 山下の息子は,いつまでこんなことになるのか,と嘆いていた.
ジーパン「何様だと思ってるんだ,馬鹿.」
仕方がないので山下の息子は部屋の中でレコードを大音量で聞いた. それを妹に注意されるとこうほざいた.
山下の息子「親父のこと逆恨みして殺そうだなんて馬鹿だよ.人を殺しゃあ, 自分が人殺しで捕まるだけじゃないかよ.考え浅いよな.」
呆れた妹は部屋の外へ出てしまった.山下の息子は音量を上げた. そして窓からベランダに出て,そこから外へ降り,自動車で出てしまった.
ジーパン「どら息子.」

その晩.山下の息子信夫は家に帰って来なかった.山下の妻は, 信夫は殺されるんでしょうか,とボスに訊いた.
ボス「そういう可能性もあるから,外に出さないようにお頼みしてあったんです. ただ犯人の拳銃には弾は二発しか残っていないんです.院長を狙うとすれば, 無闇には弾は使わんでしょう.」
夜遅くなっても信夫は帰って来なかった.そして朝になった.電話が鳴った. 山下は電話に出た.電話は町田からの物.10時に東雲海岸に山下独りで来い, と言うのだ.山下と引き換えに信夫を返すと言う. 埋立地なので刑事を張りつけるのは難しい.頭を悩ませるボス達. 車を降りた途端に撃たれたら防ぎ様がない,と山さんは言った.
山下「防ぎ様がない? あんた達は我々を守る為にやって来たんじゃないですか. 何人もよってたかって,たった一人の犯人に手も足も出ないんですか.」
ボス「いや,今方法を考えてるとこです.」
山下「そんな悠長な事を言っている場合じゃないでしょう.」
ゴリさんが厭味を言った.
ゴリさん「あなたの息子さんがもう少しうちで我慢してくれてたら, こんな事にはならなかったんですがねえ.」
山下「息子を出してしまったのは,あんた達じゃないですか. 大勢で見張っていながら信夫を捕まえられなかったのは, あんた達じゃないですか.」
ジーパン「あなたが自分の息子さんと同じくらい患者の命を大切にしてくれたら, こんな事にはならなかった筈です!」
ボス「やめろ,ジーパン.」
ジーパン「ボス,行かして下さい,俺に.」
ボス「は?」

結局,ジーパンは車のトランクの中に入る事にした.ジーパンは山下に, 車から降りたら小屋に向かう振りをしてすぐに逃げろと言った. 相手は拳銃の素人だ.動く標的を二発で仕留められる筈がない. 町田が二発目を撃つ前にジーパンが撃つ.それしか山下父子を助ける方法はない. ジーパンはそう力説した.山さんは一発で仕留めなければ自分が危ない, と言った.ゴリさんは,お袋の仇が討ちたいのか,と言った.
ジーパン「そんな事じゃありません.」
ボスはジーパンを信じる事にした.そして作戦は決行された. 山下の車の跡をゴリさん達の車がつけた.そして埋立地に入ると, ゴリさん達の車は止まった.町田に見つかる恐れがあったからだ. 山下の車が小屋の前に着いた.ジーパンは拳銃を抜いた. 山下は車から降りた.山下は息子の名を呼んだ.信夫はその声に応えた. 町田はまっすぐ近づけ,と言った.山下は小屋に近づいた. 町田は拳銃を構えた.途端に山下が傍へ走った.町田は慌てた. その隙を突き,ジーパンは町田を射殺する事に成功した.だが, ジーパンはこの時何を思ったのだろうか? ジーパンのテーマの変調曲に乗せ, ジーパンは拳銃を握りながら町田の死体に近づいた. ジーパンの顔は真っ青だった.町田の死体の前で, ジーパンは拳銃を持つ手を降ろした.山下が信夫を助け出す間も, ジーパンは町田の死体の前に立ち尽くしていた.そこへボスがやってきた.
ボス「さあ,行くか,ジーパン.」
ジーパンは無言だった.
ボス「仕方がねえんだよ.肩狙うとか足撃つとか, そんな余裕のある場合じゃなかった.」
ジーパン「俺には,あいつの気持ちは良く判るんです. 確かにおふくろが撃たれた時,撃った奴は殺したいほど憎かった. しかし,あいつだって同じだったんです.同じように憎かったんです. たった一人のおふくろを殺した奴を.」
ジーパンとボスはずっと海を見つめていた.

取調室でシンコは和子に言った.町田が死んで捕まったことを.
和子「あいつは死んだの?」
シンコは何も言えなかった.泣く和子をシンコはずっと見ていた.

長さんは,もはや山下を業務過失致死罪で起訴できない,とボスに報告.
長さん「ただ,あれだけの事件を起こしたんですから, 病院も苦しくはなるでしょうけどね.」
ボス「うん.」
長さん「そうでもならなきゃ浮かばれませんよ,ね.」

さてジーパンはたきに言っていた.
ジーパン「俺,母さん,好きだよ.」
たき「え? なんだい,藪から棒に.」
ジーパン「あん時さあ,熱があるのに,人の命預かる仕事だから, 我侭言えないって出かけてったろう.そんな母さんがさあ, 俺,好きなんだよ.好きよ.」
たき「いい歳して男がおふくろが好きだ,好きだって気持ち悪いんだよ.」
結局これが元でジーパンとたきはまた喧嘩を始めてしまった. それを見ながら,ボスはお見舞いの花を置いて帰るのであった.

次回,強力な放射性物質を盗んだ連中がゲーム感覚で完全犯罪を企みます.

「2002年5月」へ 「テレビ鑑賞記」へ 「私の好きなテレビ番組」へ 「touheiのホームページ」へ戻る.


東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp