2002年3月27日

「がんばれ! レッドビッキーズ」第41話「よみがえるサウスポー」

脚本は鷺山京子.監督は畠山豊彦.

今日もレッドビッキーズは練習していた.ジュリの調子も良かった. だがカリカリが放った強烈なピッチャーライナーが顔面に当たりそうになり, 咄嗟にジュリはグローブで顔を庇った. 病院から出てきたジュリの顔に怪我はなかった.心配するナッツに
ジュリ「平気,平気.何ともないわ.」
と答えたが…

それからのジュリはノーコンになってしまった. 顔に怪我を負わなかったが心に怪我を負ってしまったのだ. つまり,無意識のうちにピッチャーライナーの恐怖がよみがえり, ミットに目が行かなくなっていたのだ.練習終了後,ジュリはピアノを弾いた. ジュリのお母さん(高山真樹)は野球なんかやめてしまえば良いのにと言っていた.
ジュリ「そうはいかないわ.でも野球って難しい.」

その頃,他のナインもジュリのことを心配していた. 太郎はマイペースで素振りをしていた.ナッツはジュリのことを心配. ブラザーはカリカリがピッチャーライナーを打つから行けないんだ, と言った.
太郎「バッターはがんがん打たにゃ.」
次郎「打たにゃ.」
太郎「うんと運動して打ってやらにゃ.」
ノミさんはピッチャーライナーの恐怖について語った. 彼はピッチャーライナーを足に当てたことがあり,とても痛かったという.
ノミさん「しばらく俺,恐かったよ.何となくね.」
ジュリ「でもジュリの場合,顔だもん.女の子としてはやっぱりショックよ.」
ジュク「そのショックが一時的なものならいいですが, それが元で野球が嫌になったりしないでしょうか?」
カリカリ「そんなことになったら大変だぜ.おい,俺達で何とかしてやろうよ.」

そこでナッツがジュリを呼び出してきた.ジュク,カリカリ,ブラザー, そしてノミさんはピッチャーライナーを克服するための練習をしようと勧めた. まずキャッチャーマスクを顔につけ,ゴムボールを投げてみようというのだ. そしてゴムボールで大丈夫になったら軟球に戻して練習しようというのだ.
ナッツ「いい考えでしょう.きっとうまく行くわよ.」
だが
ジュリ「よしてよ.」
ジュリはそっぽを向いてこう言った.
ジュリ「子供じゃあるまいし,ゴムボールだなんて.」
ジュク「でもボールに対する恐怖心をなくす為には…」
ジュリ「恐怖心? そんなものないわよ!」
ノミさん「恥かしいことじゃないよ.初めは誰でも恐いのが当り前なんだ.」
ジュリ「恐くなんかないって言ったでしょう.」
カリカリ「じゃあ,どうしてストライクを投げないんだ. 気持ちが逃げてるからだろう.」
ジュリ「ちょっとフォームを崩してるだけよ.」
ジュリは振り返って皆に言った.
ジュリ「気持ちはうれしいけど,はっきり言って余計なお節介よ!」
そう言ってジュリは帰ってしまった.
ジュリ「僕達のやり方が悪かったかもしれません. ジュリのプライドを傷つけたんですね.」

次の練習の時.ナッツは打席に入ろうとしたブラザーに耳打ちした. ブラザーはジュリの球をことごとく空振りしたが, 実はジュリに自信をつけさせるためにわざとボール球を空振りしていたのだ. これを令子もジュリも見抜いていた.
ジュク「もういいですよ.空振りしたぐらいじゃ駄目なんですよ.」
令子「ジュクの言う通りよ. どうやらジュリは本物のスランプに陥ってしまったらしいわ.」
練習終了後もブラザー達はブラザーの特訓と称してジュリに球を投げさせた. だがジュリのノーコンは相変わらずだった.遂にジュリはこう言った.
ジュリ「あんな球を振るんじゃ,野球をやめた方が良いわね.」
カリカリ「おい,そんな言い方ってあるかよ.」
ジュリ「別に.事実を言っただけよ.」
カリカリ「じゃあ,どうしてストライクを投げないんだ. いくら名バッターだからって,あんなクソボールが打てるか!」
ジュクはカリカリをなだめた.だが
ジュリ「もうたくさんよ.ブラザーの特訓なんて口実でしょう. あたしに投げさせるのが目的なんだわ.」
ブラザーはそうじゃないと否定したが
ナッツ「いえ,ジュリの言う通りだわ.」
ナッツはジュリに皆の思いを一生懸命説明した.
ナッツ「あなたがスランプで苦しんでるのがわかるのよ. だからみんなで力になってあげたいと思って…」
だがこの言葉はジュリの心を固くとざしてしまうだけだった.
ジュリ「もういいわよ.」
ジュリは駆け出してしまった.そして道端に立ち止まって泣いてしまった. そして振り返ってこう言い放った.
ジュリ「野球,野球って何夢中になってるの? こんなことまでして何だって言うの.野球なんかただの遊びじゃない!」
この言葉を聞いたナインは皆ジュリに反発した.
カリカリ「おい,そんなつもりでやってたのかよ.」
ジュク「僕らにとって野球は全てです. そんないい加減な気持ちの人はいません.」
ジュリ「私は違うわ.野球なんて止めたっていいのよ.ピアノをまた始めるわ. テニスだってやれるのよ.」
ジュリはこう言い放って去って行った.皆怒り狂った. 一人ナッツだけがジュリの気持ちを理解した.
ナッツ「いいえ,本気で言ってるんじゃないわ.ジュリだって辛いのよ.」
だが
ジュク「それにしても言って良い事と悪い事があります.」
カリカリ「無駄だったよ.」

次の練習の時.ジュリの球を受けようとする者は誰もいなかった. 令子は帰りにジュクから話を聞いた.
ジュク「許せません. 本当ならジュリにレッドビッキーズを止めてもらいたいくらいです.」
令子「君達の気持ちはわかるわ. でもジュリだって本気でそう言ったとは思えない. だって小さい頃から習っていたピアノを止めてまで, 野球に打ち込もうとしていたんですもの.」
ジュク「僕達は,下手糞,やめちまえ,とみんなに言われて, それでも野球を続けてきたんです.それなのに野球を遊びだなんて言われたら…」
令子は気がついた.
令子「そうよ.ジュリにはそれが欠けているんだわ.」
ジュク「え?」
令子「みんなはどん底から這い上がってここまでやってきたわ. でもジュリは違う.入団してすぐリリーフエース. 今迄野球の楽しさは知ってても,その苦しさを知らなかったのよ.」

次の練習の時.何と令子はジュリを投手から外すことを決めた.皆驚いた. オーナーは無茶だと反対した.しかもジュリのポジションとは
令子「ジュリの新しいポジションとは球拾い兼雑用係よ.」
ジュリはショックを受けた.
令子「ストライクの入らないピッチャーに用はないわ. 別なことで役に立ってもらわなくちゃ.」
コーチ「もちろん投げられるようになったら,すぐピッチャーにカムバックだ.」
なおもオーナーは無茶だと反対したが
令子「以上よ.練習始め.」
練習中,ジュリは後方で哀しそうな顔をして立っていた. 皆が練習を終えて帰る最中,ジュリはベースやボールを片付けていた.

練習を終えたジュリは家に帰り,ピアノを弾いていた. するとお父さんの北原(小美野欣二)が帰ってきた. 北原はピアノの音が乱れているのを聞き,ジュリの心の迷いに気付いた. 雑用係に回され腐ったジュリを見て北原はピアノに鍵を掛けてしまった.
北原「少しぐらいきついからって,もうくじけてしまうのか.」
ジュリ「パパ.」
北原「レッドビッキーズはお前が選んだ道だ.途中で止めることは許さんぞ.」
ジュリは泣いて部屋から出て行った.

北原は令子の家を訪れ,こう言った.
北原「私は詳しい事情は知りませんし,また聞こうとも思いません. 全てお任せします.」
恵子「でも北原さん,令子はまだ子供ですし…」
北原「いやあ,江咲さんが信頼を置いているお嬢さんだ.ご厄介でしょうが, なまじ親が口を出さない方が良いでしょう.」
ちなみに北原と幸一郎は同じ会社に勤めている.
令子「できるだけの事はやります.」
北原「頼みます.」
そう言って北原は席を立った.そして玄関で
北原「ジュリは決して弱い娘じゃないんです.ただ失敗に慣れていないんです.」
令子「わかっていますわ.」
北原と令子の思いは同じだったのだ.
北原「ではよろしく.失礼します.」
北原が帰った後
恵子「お父さんがあなたを信頼してるんですって.」
令子「案外親馬鹿なのね.」
恵子「令ちゃん,しっかりしてよ.」
令子「あら,女の子の野球は反対じゃなかったの?」
恵子「そうよ.でも今度はお父さんの信頼が掛かっていますからね.」
令子は笑って肯いた.

CMが終わり,次の練習終了後,令子はこう宣言した. 次からは30分早く来て皆のスパイクを磨けと言うのだ. 流石にナイン達も反対したが,令子の意思は固かった.
令子「ジュリは雑用係よ.スパイクぐらい洗う事当り前だわ.」
皆令子に詰め寄ったが
コーチ「監督の言うとおりだ.与えられた仕事なんだからな.」
ジュリは泣きそうな顔をしていた.
令子「口惜しかったら投げてみることね.」

とは言うものの,コーチも令子の方針に懸念を抱いていた.
令子「でもこれしか方法はないわ.あたしはジュリを信じてるわ. 辛さを跳ね返す力をあの娘は持っていると思うの.」
コーチ「だといいが,それまで我慢できるかなあ.」
令子「ジュリは恵まれすぎていたのよ. 音楽もスポーツにも人並み以上に才能を与えられていて, 今迄やることなすことうまく行っていたのよ.」
コーチ「はじめての厳しい試練というわけか.」
令子「ジュリならこの試練も乗り越えられるわ. そのためにあたしが悪役になることぐらい,なんでもないことよ.」

ジュリはスパイクを摩いていた.そしてコンドラで土をならしていたが, 虚しい気分になり,コンドラを放り投げて走り去ってしまった. 家に帰ったジュリはピアノの鍵が開けてある事に気がついた. ジュリはピアノを弾こうとしたが弾くことができず,ピアノに突っ伏して泣いた.
ジュリ「どうして,どうしてあたしだけがこんな目にあわなきゃ行けないの?」
令子の声「投げられないのは誰のせいなの? 誰でもないわ.ジュリ, あなた自身のせいよ.」
北原の声「お前が選んだ道だ.途中で止めることは許さん.」
令子の声「口惜しかったら投げてみることね.」
ジュリ「あたしだって投げたい.それができないから苦しんでるのに.」
ジュリは泣くのであった.

ナインは雑用係のジュリに同情するようになっていた. だが表立って手伝う事は令子に禁止されていた.
令子「ジュリ,昨日,トンボが投げ出してあったわ. 罰としてバケツに一杯小石を拾うこと.いいわね.」
そして令子は他のメンバーに言った.
令子「さあみんな,何やってるの? 一緒に帰りましょう.」
ナイン達の声は元気がなかった.ジュリは一人でみんなを見送った. 一生懸命グランドの小石を拾うジュリ.一人で小石を拾うジュリ. そこへナッツ,カリカリ,ブラザー,ノミさん,ジュクが帰ってきた.
ジュリ「ナッツ.みんな.」
カリカリ「監督を撒いてきたんだ.あんまりだよ,こんなやり方.」
ブラザー「酷すぎるよ.ジュリが何か悪い事でもしたってわけでもないのにさ.」
ナッツ「あんなに優しい監督なのにどうしてあなただけに厳しいのかしら.」
ノミさん「まるで何か恨みあるみたいだ.」
ジュクの意見は一味違っていた.
ジュク「まさか,そんな.監督には監督の考えがあるんですよ. それより早くやってしまいましょう.」
ジュク達はジュリを手伝い,小石を拾ってやった.
令子の声「口惜しかったら投げてみることね.」
ジュリはみんなに懇願した.
ジュリ「お願い,お願い.あたしを助けて.監督を見返してやりたいの. ストライクの速球をミットに叩きつけたいの.」
ジュクの両肩を持つジュリの目から涙がこぼれていた.
ジュリ「お願い.」

次の日から,河原でジュリの特訓が始まった. そこはノミさんがノーコンを克服する特訓をした河原だ. キャッチャーのマスクをつけ,ジュリは一生懸命ゴムボールを投げた. 初めはノーコンだったジュリもストライクを投げられるようになった. ジュリは自分からマスクを外した. 投げていくうちにジュリはストライクを投げられるようになった. そして球を軟球に変えて見る事になった.一瞬,ジュリは躊躇したが
ナッツ「大丈夫よ.やれるわ.」
皆の言葉に励まされ,ジュリは練習を開始した.

次の練習の時,令子はジュリに投げてみないかと誘ってみた. ノミさんもジュクも明日か明後日にしてほしいと頼んだが
ジュリ「いいえ.投げます.」
令子「三球.ただしストライクだけよ.」
ジュリはマウンドに立った.
ジュリの声「投げてみせる.速球のストライク.」
ジュリは二球続けてど真ん中に投げた.遂にコーチが宣言した.
コーチ「よーし,今度は打つぞ.」
コーチの打球はピッチャーライナーだった. ジュリは顔面に飛んだ打球をグローブで見事捕る事ができた. ジュリはピッチャーライナーの恐怖から脱することができたのだ. 喜ぶナイン達.ジュリは言った.
ジュリ「皆のお蔭です.皆のお蔭です.」
令子「ジュリ,よく頑張ったわね.ピンクのサウスポー.」
ジュリ「監督.」
喜ぶナイン.令子の目も潤んでいた.

次回は石黒コーチに縁談が…

「太陽にほえろ!」第232話「新しき友」

脚本は桃井章.監督は澤田幸弘.主役はボン.

ボンは子供の頃からの親友のお葬式から東京に帰ってきた. ボスはボンを気遣い,休暇をとってもいいと言った. ボンは一人でいると気が滅入るからと宿直にそのまま出ると言った. 皆,ボンを気遣って宿直を代わってやると言ったり, 休んだ方がいいと言った.それをボンは断った.そこへ電話が. 新宿中央公園で殺人事件が起こったというのだ. 気丈に出て行ったボンを見てアッコが心配した. ボスは「時が解決してくれるさ.」とアッコに答えた.

被害者の身元は持っていた社員証から判明した. 名前は根本修で駅前のスーパーマーケットに勤めていた. 年齢は24歳.金も取られていないので,喧嘩の末,後頭部を打ったらしい. 死亡推定時刻はその日の朝6時頃.ゴリさんがアドレス帳を発見. 状況からみて犯人の物と見て間違いないだろう.

スーパーの店長の話では根本には目立った友人はなく, 性格はおとなしく優しい性格だったという. となると根本に恨みを抱かれるわけがないように思われた. 犯行は早朝だった為に目撃者はいなかった. 手掛かりは遺留品のアドレス帳だけだった. 指紋が一つ検出されたが前科者に該当する人間はいなかった. ゴリさんは,アドレス帳に書かれている人間が犯人と何らかの関係がある, と考えた.ボンは,持ち主の名前が書いてあるわけではないし, 特別変わった筆跡でもなさそうだし, アドレス帳に書かれている人間に見せても持ち主がわからないだろう, と言ったが
山さん「そりゃそうだ.だが人間の交友関係にはだぶりがあるだろう.」
つまり,クラスメイトとか職場の同僚とか,兎に角, アドレス帳に書かれている人間がお互い知っている場合がある筈だ. お互いがどういう事情で知り合ったかがわかれば, アドレス帳の持ち主も自然に浮かび上がるに違いない. そこでボスは山さんとゴリさんとボンに, アドレス帳に書かれている人間を当たる事を命じ, 他の者には引き続き聞き込みを続けるように指示した.

その頃,ラジカセでボクシングの実況中継を録音したテープを聞きながら, アパートの部屋でシャドーボクシングをしている若者(森川正太)がいた. 部屋には輪島功一やガッツ石松などボクサーのポスターが貼られていた. ちなみに実況中継はガッツ石松が世界チャンピオンを勝ち取った試合の物. 一生懸命シャドーボクシングをしていた若者は, シャドーボクシングに夢中で,ボンの叩くノックの音にも気付かなかった. 仕方なくボンはドアを開けてみた.やっと若者はボンの来訪に気がついた. 若者の名前は竹中律夫と言った.竹中はアドレス帳を見たが, 心当たりが全くない様子だった.持ち主にも,載っている人間にも.
竹中「警察じゃあ,そのアドレス帳の持ち主を犯人だと断定したんですか?」
ボン「いや,そうはっきりとはな.」
竹中「あ,あ,そうですか.僕の知り合いが殺人を犯す訳ないもん. みんないい奴ばっかりだから.ね.」
ボンは笑うのであった.

ボスにゴリさんと山さんとボンが報告した. 電話番号が出鱈目な森次かずひこ以外の全ての人間に当たってみたのだが, 何とアドレス帳に載っていた人間はお互いに面識がなかった. アドレス帳の持ち主はアドレス帳に載っている人物と, 別々の場所で知り合ったのだろうか. 学生もいれば歳取った工員や主婦もいるなどばらばらだった. 普通の人間なら職場とか学生時代の友人とか, ある程度交際範囲が限定されるはずなのだが. 山さんはアドレス帳に200人もの名前が載っている事を気にしていた. 普通の人間なら多くても知り合いはせいぜい100人程度だろう. ラ行の名前などあまりないのに4人も載っていた. そこへスコッチから電話が.5日前にエルバというスナックで, 根本と喧嘩をした人物がいると言うのだ. 安西きよしという学生が喧嘩の相手だった. 必死にバイクで逃げる安西をスコッチは車で追跡した. ボスは殿下を応援に行かせた. 安西はバイクを駆使してスコッチを撒こうとしたが, 先回りした殿下に前に出られスコッチとのはさみうちになった. 安西が犯人かと思われたが…

安西はアリバイを主張していた. 新宿のスナックを夜中の3時に出て中央高速を飛ばして小淵沢まで行き, 家に帰ったのが7時頃だというのだ. スナックの従業員の証言と家の人間の証言は安西の供述と一致した. だがいつも走り慣れたコースなのでアリバイにはならないだろう. そこへ殿下がやってきた. 安西の指紋も筆跡もアドレス帳の物とは一致しなかったのだ. スコッチは事件とは無関係の者がアドレス帳を落とした可能性もあると考えたが, ボスは安西の釈放を決意した.ただし安西にはスコッチの尾行が着いていた.

なおもボンはアドレス帳に載っていた人間を当たってみたが, 皆,アドレス帳に載っている人間に知り合いはいないと答えるばかり. だがボンはあることに気がついた. 腕時計の懸賞に当たった人物が何人も載っていたのだ. ところがそれ以外の共通点はなかった.山さんはこう考えた.
山さん「それだけのことかもしれん.ボス, このアドレス帳にある名前は持ち主が勝手に書いたものだとは考えられませんか. 何のためかわかりません.理由もなく書いたのか, あるいはセールスマンが後でダイレクトメールを送る為に書いたのか.」
つまりアドレス帳に載っている大多数の人間は, 持ち主を知らないのかもしれない.

ボンが街を歩いていると竹中が声を掛けて来た. 竹中は手帳の持ち主が見つかったかどうか聞いた. そして見つからなかったと知ると,刑事の仕事も大変なんだなあ,と呟いた. 彼は牛乳配達の途中だった.竹中はボンに余り物の牛乳をおすそ分けし, 自分に出来ることがあったら何だってやる,と言って去って行った. それを見てボンは思った.
ボンの声「あいつならやってくれるかもしれない.」
ボンは竹中に声を掛け,アドレス帳に載っている人間一人一人に会ってくれ, と頼んだ.最初は渋った竹中だったが,ボンの熱意, そして美味しそうに牛乳を飲むボンの姿を見て, 顔を見るだけならいいと竹中は承諾してくれた.

スコッチが安西のマークを続けていた頃,ボンのテーマの変調曲が流れる中, ボンと竹中はアドレス帳に載っていた人間の顔を見ていく作業を続けていた. 一方,殿下はエルバのママのまさ子に安西のことを尋ねていた. ママは安西のことを知らなかった.安西と根本がまさ子が自分に気があると思い, 喧嘩をしたというのにだ.殿下はそのことをボスに報告した. まさ子の話し方はまるで自分に気があるように錯覚させる魔力があった. まさ子に悪気はなかったのだろうが, 来る客来る客みんなにまさ子は恋人のように接していた. 根本修も客の一人で内気で陰気な性格だったので, すっかりのぼせ上がってしまったのだろう.その時,山さんから無線が入った. アドレス帳の中に一人だけ出鱈目な電話番号が載っていた人物がいた. その男森次かずひこの素性を山さんが突き止めたのだ. 年齢は28歳.アドレス帳に載っている通り,東都製鉄に勤めていた. 電話番号は出鱈目だが,本人に間違いないと思われた. 生憎,本人が出張中だったので翌日にならないと判らない.
山さん「あ,ボンの方,どうですか?」
ボス「いや,まだ連絡がないとこみると駄目なんだろう. だがまあ,あいつの事だ.若い奴とうまくやってるはずだ.」

ボスの言う通り,ボンのテーマの変調曲が流れる中, ボンと竹中はアドレス帳に載っている人間を見ていくという作業を続けていた. だが成果は得られなかった.その夜.
竹中「クリスマスか.」
ボン「そうか.今日はクリスマスイブだっけ.」
竹中「田口さんは何かお祝いしないんですか?」
ボン「お祝い? うーん,そういえば, 去年のクリスマスは大阪にいる親友が僕の部屋に来て朝まで呑んで騒いだっけ. けど今年は…」
竹中「ん?」
ボン「いや,なんでもない.ああ,腹が減ったなあ.おでんでも食おうか.」
竹中「おでん?」
ボン「ああ.」
竹中「クリスマスにおでんか.なんかおかしいですね.」
ボンと竹中は屋台に入った.ボンは署に戻らなければ行けないから, と言って酒は飲まなかった.だがボンと竹中は一緒におでんを食べていた.

署に戻ってきたスコッチは安西は白だとボスに報告した. 何と例の事件が起こった日の朝6時に, 安西は中央高速の河口湖インター付近で轢き逃げ事故を起こしており, 別の警察署に捕まってしまったのだ.スコッチや殿下から必死に逃げていたのも, 轢き逃げ事故の件があった為.これで捜査は振り出しに戻ってしまった.

一方,竹中は酔っ払っていい気分になり,勝負しようと言い出した. しかたなくボンは竹中とボクシングを始めた. 竹中はやけに陽気で嬉しそうだった.その時, ボンのパンチが竹中に決まってしまった. ボンは竹中を彼のアパートへ連れ帰った.竹中を寝かせた後, ボンは部屋に貼ってあったボクサーのポスターを見た.

署に戻り,シャドーボクシングしていたボンにボスが声をかけた.
ボス「何やってんだ.」
捜査の方の収穫は何もなかったが
ボン「ボス,人間って淋しくなるとわざと陽気になるもんですかね.」
ボス「なんだ,突然.」
ボン「ああ,ふと,そう思ったもんですから.」

翌朝.ボンは竹中の部屋にやってきた.ボンの仕事を手伝ってくれたお礼に, 竹中の仕事を手伝ってやろうというのだ.竹中は大喜び. ボンは竹中と一緒に牛乳を配達した.そして仕事が終わり, 神社の境内で竹中とボンは一緒に牛乳を飲んだ.

その頃,山さんとゴリさんは目をつけた会社員森次にあのアドレス帳を見せた. 森次はアドレス帳に載っていた人間に心当たりはなかった. 山さんとゴリさんは帰ろうとした.だが
森次「いえ,お役に立つかどうか判らないんですが, その出鱈目な電話番号のことでちょっと.」
ゴリさん「心当たりがあるんですか?」
森次「ええ.実は私,ボクシングが好きで良く見に行くんですが, 一週間ほど前にボクシング会場で隣りにいた男にしつこく話し掛けられて, 電話番号を聞かれたもんですから,自分の名前を教えたんですけど, 電話番号は出鱈目を教えたんです.それがそこに書いてあるナンバーです.」
山さんとゴリさんは思わぬことを聞き,驚いていた.
森次「名前は忘れましたが,何でも牛乳配達をしているもんですから.」
山さん「牛乳配達?」
ゴリさん「山さん.」
山さんもゴリさんも竹中のことを思い出していた.
森次「いや,しつこく友達になろうと迫られましたもんで,気持ち悪くて, つい.」
山さん「その男,顔を見れば判りますか?」
森次「ええ.見れば判ると思います.確か矢追町の…」

ボンと竹中は牛乳配達店に戻ってきた. それを山さんとゴリさんは森次に見せた.
森次「あの男です.間違いありません.」
ボンが取った牛乳瓶をゴリさんが取って行った.それを竹中も見ていた. アドレス帳の指紋は竹中の指紋と一致した…

ボスはボンに意見を求めた.
ボン「ありえないとはいえません.彼はひどく人懐っこい性格なんです. なのに,いつも独りぼっちで部屋の中でシャドーボクシングをしながら, 見えない相手と喋ってるんです.だから,ほんのちょっとでも知り合うと, すぐに友達になろうとして…でも焦れば焦るほど友達なんか出来る訳ありません. そんな彼がせめて自分のアドレス帳をいっぱいにしようと, 自分の名前まで書いた可能性は充分有り得ます.」
そこへ殿下が戻ってきた. エルバのまさこも竹中を見かけたことがあると言うのだ. 根本が誤解して竹中に絡んだ可能性は十分ありうる. ボスは竹中律夫を任意で同行することを決意した. ボンは自分に行かせてくれと懇願した.ボスは承諾した.

ジーパンのテーマの変調曲が流れる中,ボンは竹中の部屋へ行った. だが竹中は部屋にいなかった.ボンは窓を開けてみた. すると竹中が一人でシャドーボクシングをしているのが見えた. ボンは外へ出て竹中の前に現れた.
竹中「田口さん.」
ボン「僕を相手だと思って,かかってこい.かかってこい.さあ.」
竹中はボンの手のひらにパンチを繰り出した.
ボン「なんだ,その屁放腰は.おい.打て.もっと打て.脇をしめろ. もっと速く.回れ.どうした.相手を見ろ.脇をしめて.左だ,左だ. もっと打て.弱い,弱い.もっと強く.どうした.それで終わりか.来い. 何だ,その腰は.もっと左だ.左へ回れ.どうした.強く打て.ファイト. ファイト.おい.どうした.」
竹中は疲れて倒れ込んでしまった.ボンのテーマの変調曲が流れる中, 竹中をボンは殴った.
ボン「やめろ.シャドーボクシングなんか,もうやめるんだ.」
二人は睨みあった.
竹中「田口さん.」
ボン「やめろよ.シャドーボクシングは.」
竹中「俺,俺さあ,あの日, エルバのまさ子のことで根本修にしつこく絡まれたんです. 俺嫌だから,逃げようとして振り払ったはずみに…」
修はコンクリートに頭を打ち,死んでしまったのだ. そのとき,あのアドレス帳を竹中は落としてしまったのだ.

七曲署で竹中は泣きながら自白した.
竹中「俺,殺す気なんかなかったんです.喧嘩を売られて,揉み合ってる内に, あの人,コンクリートに頭ぶつけて.俺,殺すつもりなんかなかったんです. 信用してください,田口さん.信用してください.」
ボンも長さんも泣く竹中を見て心を打たれた.長さんはボスにその事を報告. 執行猶予は無理かもしれないが旨く行けば一,二年で出られるかもしれない. 送検される竹中をボンは見送った.
竹中「田口さん.」
ボン「がんばれよ.じゃあ.」
竹中は去って行った.ボンは黙って見送った.そして黙って拳を握った.
ボス「友達か.」
ボン「ボス.」
ボス「どうだ,新しい友達ができた感想は?」
ボン「はあ,まあ.」
ボス「何だ,随分頼りねえ友達だな.元気出せ.おーし,一発もんでやるか.」
ボスはボンとボクシングをしあうのであった.

さて予告編では久し振りにテキサスのテーマが流れました. 殿下が主役の娯楽編です.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp