2002年2月7日

「必殺仕業人」第26話「あんたこの心眼をどう思う」

脚本は中村勝行.監督は松野宏軌.

夏の夜の遊郭のお座敷でお歌と剣之介が芸を見せていた. 呉服問屋の井筒屋の若旦那良太郎は気前良く金を払ってやった. 良太郎は帰っていく剣之介達を見て気楽でいいねえ,と羨ましそうだった. 良太郎は船で遊ぶと言ってお座敷を後にした. 一方,剣之介とお歌は屋台で呑んでいい気分.その帰り. 橋からお歌と剣之介は良太郎が船を出そうとするのを見た.
お歌「何してんだろう.さっさと帰ればいいのに.」
剣之介「帰りたくねえんだよ.」
剣之介は他人の事はどうでもいい,と言ってお歌を連れて去って行った. その直後,良太郎は棹さばきを誤り,船から川へ落ちてしまった. 今回はここでタイトル表示.

翌日.主水が浜田徳三郎(垂水悟郎)と言う同心に声を掛けた. 浜田は何か考え込んでいた.筆頭同心の牧野が心臓を悪くしており, 近々引退する予定だったからだ.後任には浜田の名前も上がっていた. だが他の候補者も露骨に上役や与力に働きかけていた.
浜田「出世と言うものは何かと物入なもんだな.」
さて牢屋敷では銀次が涼しそうに寝ていた.娑婆に比べりゃ極楽だ, という銀次を主水は放免し,入れ替わりに別の囚人を牢に入れた.
主水「娑婆に比べれば極楽だ.」
主水は囚人から袖の下を貰っていた.銀次は旦那も猾いなとぼやくのであった.

その頃,お盆も近いのでせんとりつが仏壇を掃除していた.その時, りつが仏壇を壊してしまった.千勢が,仏師の六兵ヱに直してもらってはどうか, と言うとせんもりつもそれは名案と言った. そこへ六兵ヱ(吉田義男)がやってきた.せんとりつは驚いた.
六兵ヱ「私は何となくこちらに御用があるんじゃないかと…」
りつ「まさか,そんな.」
六兵ヱ「いえ,本当です.勘と言おうか,なぜか頭にピーンと来ましてね.」
りつ「ピーンと?」
六兵ヱ「あ.時々こういう事があるんですよ.」
大笑いする六兵ヱをせんとりつは物珍しそうに見るのであった.

さて井筒屋では若旦那の良太郎が一昨日から行方不明になっていたと大騒ぎ. 浜田が相談に乗っていると手代の佐吉(小林芳宏)が脅迫状を, 井筒屋の主人清左ヱ門(永田光男)に渡した. その日の晩の五つに金を東橋西詰まで百両持って来いと言うのだ. 金が目当ての拐しかもしれない.浜田は代わりに自分が行くと井筒屋に言った.

さて六兵ヱが長屋に帰ってくると無くし物を探してくれと言う職人(吉田良全)と, 猫を探してくれと言う女が待っていた. 以前も近所の人の巾着や櫛のありかを六兵ヱがぴたりと当てたからだ. 機嫌を悪くした六兵ヱは二人を追い返してしまった. 自分の力が物珍しく使われることが我慢できなかったからだ. そして六兵ヱは一心不乱に仏像を彫るのであった.

さて浜田は岡引の久造(石山雄大)を連れて東橋を見張っていた. すると橋の近くの小屋の明かりが灯っているのが見えた. 浜田は小屋に一人で乗り込んだ.小屋の中には剣之介とお歌がいた. 浜田は井筒屋の若旦那をさらったのはお前だろうと剣之介とお歌に尋ねた. その時,久造が叫び声をあげるのが聞こえた.怪しい人物がいるというのだ. それを聞いた浜田は外へ出て行った.久造と浜田は逃げる男を取り押さえた. 脅迫状を投げ込んだのはその男源七の仕業だったが, 源七は井筒屋の若旦那の行方を知らなかった. 若旦那が行方不明になったと聞いて騙りを働こうと思っただけだったのだ. そのとき,浜田は姦計を思いついた.もう一度源七に脅迫状を書かせるのだ. ただし身代金は二百両.これは良い儲けになる.

翌日.六兵ヱは仏を彫っていた.娘のおぬい(佳那晃子)は買物へ行くといった. おぬいは井筒屋の手代の佐吉と付き合っていた. おぬいは,六兵ヱは何でも見通しているくせに,と言った.

さて浜田は井筒屋に下手人が現れなかったと言った. そして身代金を払うしかない,金を渡す役目は久造に任せる,と浜田は言った. 井筒屋はその案に賛同した.

さて佐吉は井筒屋の近くでおぬいに会った. 佐吉は六兵ヱのところへ行こうと思っていたところだったのだ. そして佐吉は六兵ヱに良太郎の行方を探し当ててもらうよう頼んだ. だが六兵ヱは断った.自分の力を見世物や尋ね人探しに使われるのが, 嫌だったのだ.仕方無く佐吉は帰ろうとしたが
六兵ヱ「待ちな.若旦那は死んでいる.」
さらに六兵ヱは若旦那の死体のある場所まで見当をつけていた.

浜田の企み通り,脅迫状が届いた.だが佐吉がやって来て,若旦那が死んでいる, と言った.浜田と久造は信じようとしなかったが
佐吉「六兵ヱさんの勘です.あの人には物を見通す不思議な力があるんです.」
井筒屋がこの目で確かめたいと主張したため,浜田達は, 佐吉の地図のところへ行ってみる事にした.六兵ヱの勘の通り, 良太郎は死んでいた.金もそのまま残っていた.悲しむ井筒屋. 当てが外れて久造は怒り狂った.浜田は源七の始末を久造に命じた. そして源七は久造に始末された.

六兵ヱは仏を彫りながら,嫌なことを見通してしまい,彫る手を止めてしまった. 心配するおぬいに心配ないと六兵ヱは答えた.一方, 浜田は六兵ヱの存在を危険に思っていた.まさかという久造に
浜田「奴は何もかも見通している.何もかも.」

その晩.中村家に六兵ヱが仏像を届けに来た.せんとりつは大喜び.そして
六兵ヱ「あのう,中村様は.」
まだ主水は帰ってきていなかった.慌てて六兵ヱは中村家を後にした. そして牢屋敷の前で
主水「なんだい,六兵ヱか.」
六兵ヱ「中村様.お願いいたします.助けてください.」
主水「なんでえ,出抜に.」
六兵ヱ「私は,こ,殺されます.」
主水「殺される? 誰に?」
六兵ヱ「わかりません.でも確かに私の命を狙ってる者がいるんです.」
主水は笑ってしまった.
主水「おめえ,ゆんべの夢見でも悪かったんじゃねえのか.」
だが六兵ヱは真剣だった.
六兵ヱ「本当なんです.信じてください.」
主水「わかった,わかった.」
六兵ヱ「やっぱり,こんな話,信じてもらえないんでしょうね.」
主水「おめえ,仕事のし過ぎでちょいと疲れてるんだ. こういう時は早く帰って寝る事だな.」
主水は六兵ヱの言う事を信じようとしなかった. だが六兵ヱはとんでもないことを言い出した.
六兵ヱ「そんな.中村様.私には見えるんです.他人の見えない物が. 中村様のしておられる事も.」
主水の顔に緊張が走った.六兵ヱは黙って立ち去ったが, 六兵ヱを見送る主水の表情は険しかった.さて六兵ヱは緊張しながら帰った. 怪しい気配を感じたからだ.家に帰った六兵ヱを見て,おぬいはどうしたのか, と聞いた.六兵ヱは殺されると言った.お役人に,と出ようとするおぬいを, 六兵ヱは必死に止めた.

翌日.主水は六兵ヱの話を捨三に話した. 捨三は六兵ヱが主水の正体を見抜いたと考えたが, 主水は信じようとしなかった.いや,信じるのが嫌そうだった. 捨三は念のため「四六時中」六兵ヱを見張ることにした. 六兵ヱは長屋に閉じこもったきり,仏像も彫ろうとしなかった. 心配するおぬいに六兵ヱは済まないと言っていた.

その晩.捨三は洗濯物を届けた後,六兵ヱの住む長屋へ急行した. その頃,六兵ヱはおぬいと一緒に夕食を食べていた.
六兵ヱ「だーれも信じちゃくれねえが, おめえにだけはわかってもらいたいんだ.」
おぬい「おとっつぁん.」
六兵ヱ「俺に万一のことがあったら,牢屋同心の中村様にこの金を.」
おぬいは六兵ヱが疲れている物だと思い,医者を呼びに外へ出てしまった. 入れ替わりに浜田が乗り込み,六兵ヱを刺し殺した. 六兵ヱの勘が当たってしまったのだ.捨三が駆けつけた時は六兵ヱは死んでいた.

久造は浜田にこれで安心だと言った.浜田はしたたかに呑み, あのことは忘れるんだぞ,と久造に酒を飲ませた.それを捨三が見ていた.

牢屋敷から出た主水におぬいが声を掛けた.
おぬい「おとっつぁんが,これを.」
おぬいは主水に銭を渡した.
主水「何だ,この銭は.」
おぬい「もしものことがあったら,中村様にこれを渡してくれって.」
主水「六兵ヱがどうかしたのかい?」
おぬい「殺されました.」
主水は驚いた.
主水「なんだって.」
泣いて立ち去るおぬいを主水は黙って見送った.

捨三の洗濯屋にやいと屋を除く全員が集合した.
主水「つまりは,この銭で恨み晴らしてくれってことなんだろう.」
こう言って主水は金を置いた.
捨三「やっぱり旦那の正体は六兵ヱに見抜かれてたんですよ.」
主水「信じられねえ.俺にはどうしても信じられねえ.」
捨三「井筒屋の若旦那の死体を探し当てたりねえ,ただもんじゃなかったんだ.」
それを聞いた剣之介は驚いて聞いた.
剣之介「井筒屋の若旦那,死んだのか?」
捨三「大川に浮かんでよ.」
主水「おめえ,知ってるのか?」
剣之介「いやあ,ついこのあいだ会ったことがある. なあ,八丁堀,どうして浜田って役人が六兵ヱに手を掛けたんだよ.」
主水「わからねえ.俺にはどうしてもそこんとこが解せねえんだ.」
捨三「兎に角,浜田,下引の久造とつるんで何か悪事を働いたってことは, 間違いないんだ.それを六兵ヱに見抜かれて…」
剣之介「捨三,浜田が六兵ヱ殺しの下手人だってことは間違いねえだろうなあ.」
捨三「勿論.あっしはこの目でちゃんと見たんだ.」
それを聞いた主水は決断した.
主水「よし.浜田は俺がやる.久造はおめえが頼むぜ.」
剣之介は肯いた.

やいと屋を除く三人が仕事に取り掛かった.剣之介はお歌を連れて出かけた. お歌は久造にぶつかって十手を落とさせ,拾って逃げた. 久造はお歌を追いかけた.誘きよせられてるとも知らずにだ. そして剣之介にやられ,川へ落ちて死んだ.

主水は浜田の家へ行った.捨三の調べによると今,浜田一人しかいない. 主水はどうどうと浜田の家へ上がりこんだ. 二人はしばらく酒を呑みながら談笑した.
主水「あ,それから例の筆頭同心の人選,その後,どうなったんですか.」
浜田「ああ,あれか.あれはもう俺には関係ない.」
主水「うん.金策に失敗したからですな.」
浜田「中村,お主,何が言いたい.」
主水「浜田さん.六兵ヱが恨んでますよ.あんたに殺される前に, 六兵ヱはあたしにもう何もかも喋っちまったんだ.」
浜田「ほう.六兵ヱは自害したんではなかったのか?」
そう言いながら,浜田は大刀に手をやった.
主水「あなたが殺したのを見た奴がいるんですよ.」
浜田は刀を抜いて襲い掛かったが主水の敵ではなかった.そして
主水「見事な自害だ.」
自害に見せかけられて殺されてしまった.

翌朝.主水が飯を食べていると,せんとりつが浜田が自害した話をした. 筆頭同心の話が流れたからとの噂だ.せんとりつは見送る時,こう言った.
せん「婿殿.お気をつけて.」
りつ「焦らずに地道に働いていれば,いずれあなたにだって.」
せん「そうですとも.何も出世だけが男の生きがいではございません.」
主水「何をおっしゃいますか.あたしは出世だけが生きがいですからなあ. 出世のためなら命をも惜しみません.」
それを聞き,せんとりつは戦慄した.外へ出てから
主水「わかんねえだろうなあ.」

牢屋敷に,また銀次が出戻ってきた. 銀次は主水が考えていることは何でもわかる,と言った. 主水はとびきり上等の牢屋へ入れてやるから袖の下出せと答えた. 主水が考えていたことは銀次からどれだけ銭が取れるかということだったのだ. これには銀次は脱帽するより他なかった.

「2002年2月」へ 「テレビ鑑賞記」へ 「私の好きなテレビ番組」へ 「touheiのホームページ」へ戻る.


東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp